表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローデス  作者: 左門正利
49/60

不快な結末

 今回の戦闘フィールドは地下室ではなく、ひたすら暗闇がひろがる亜空間だ。いつものように、みんなの姿はハッキリと認識できる。


 ザノーアの盗人は、それほど身体は大きくない。マリナや美希と同じくらいだ。


 チョッキのような上着と、ダボダボのズボンを身にまとっている格好は、映画の「アラジン」を彷彿ほうふつとさせる。

 靴の先は男の耳と同様に、尖って上を向いている。


 戦闘がはじまるなり、真悟たちは度肝どぎもを抜かれた。男の身体が二体に分身する。

 まったく同じ敵が二人してならび、武と桃子はどっちから攻めれば良いのか躊躇する。


 真悟が全体攻撃魔法で攻める。そのファイヤー・ショットの魔法攻撃を、盗人はガードする。


 武も桃子も全体攻撃のスキルをそなえてはいるのだが、単体攻撃にくらべると威力は低い。


 桃子が、武の方に顔を向ける。


「武、左の敵から攻めていこう」

「わかった」


 言葉どおり、二人は左にいる敵から攻めるが、攻撃を避けられてダメージを与えられない。


 盗人の身体がさらに分身して、四体になる。武の頭は混乱する。


「くそっ、どいつから攻めればいいんだ?」


 武が悩んでいる間に、美希が攻撃力が倍になるエンチャントスキルを武にかける。

 武は、とりあえず右端にいる敵にスキル攻撃を放った。しかし、前回同様に武の攻撃はかわされ、さらに左端の敵を狙った桃子の攻撃も、あえなく避けられた。


 次の瞬間、真悟は、この盗人がただのこそ泥ではないことを思い知らされる。

 四体の盗人は、美希に狙いを定めて攻撃を集中させる。


「きゃっ」


 瞬く間に、美希の体力が一気に減ってゆく。

 運の良さが突出している美希だが、さすがに四体もの集中攻撃は避けきれない。


 真悟は戦慄を覚えた。敵は、これまで戦ってきたモンスターとちがい、戦い方を知っている。


 ──まずい


 やっかいなスキルを使う美希を、真っ先に片づけようとする盗人は、かなり頭のキレる敵である。

 思えば、厳しい管理状態にあったといわれる賢者の秘宝を、もののみごとに奪い去るほどの腕前だ。頭が悪いはずがない。


 真悟は美希に大きな声で伝える。


「美希先輩、防御して!」


 真悟の声に、美希は防御に専念する。というより、防御に専念せざるをえなかった。

 マリナが美希の体力を回復させてはいるものの、盗人の集中攻撃は激しく、気をゆるめると体力は即座にレッドゾーンまで減少しかねない。


 武と桃子の攻撃はなかなかヒットせず、真悟の魔法攻撃は敵全体をとらえてはいるが、ガードされると与えるダメージは格段に落ちる。

 ザノーアの民族は、魔法には強いのだ。


 盗人が美希を集中攻撃し、美希は防御以外なにもできず、マリナは美希の回復に専念する。真悟の全体攻撃は盗人にガードされ、武と桃子の攻撃は避けられる。

 このパターンが繰り返される。


 桃子は戦っているうちに、ある疑問が浮かんでくる。


 ──攻撃が当たらなすぎる


 さらに、もうひとつ。


 ──なぜ真悟の攻撃は、避けずに防御するんだ?


 最初は、魔法攻撃だから防御していると思った。だがひょっとして、この敵はすべてが実体ではなく、本体以外は幻ではないか?


 幻というより、実際に攻撃力があることを考えると、幻術であやつるマリオネットのようなものかもしれない。そうであれば、マリオネットを操って美希を攻撃し、こちらの単体攻撃は避けるようにしているのかもしれない。


 いずれにせよ、本体を叩かない限りダメージは与えられないだろう。


 ──しかし、全体攻撃なら……必ず本体にヒットするので避けられない、ということか?


 だから、防御している。彼女は、そう考えた。


「武!」


 桃子の声に、武がふり向く。


「武、全体攻撃で攻めてみよう」

「わかった」


 二人は、全体攻撃で敵を攻める。すると、敵は全員、ガードに徹した。

 思ったとおりだ。桃子は、自分の考えが正しいという確信を深める。


 真悟は真悟で、戦いのパターンをどうやって崩すかを考えていた。ちょうど、いまの桃子たちの攻撃で、そのパターンが崩れかかっているところだ。


 真悟はすかさず、みんなに指示を送る。


「雪本、回復じゃなくて、バリアを張って!」

「はいっ」


 マリナは、すぐにバリアのスキルを発動する。


「美希先輩、桃子先輩にエンチャントスキルを」

「了解」


 武でなく桃子にエンチャントスキルをかけるのは、桃子の方が全体攻撃の威力が高いからだ。


「武先輩と桃子先輩は、さっきのように全体攻撃をお願いしますっ」

「おう!」

「わかった、まかせろ」


 先に動くのは、盗人の方だ。美希から狙いをそらさない。

 だが、盗人の攻撃は、マリナのバリアで弾かれる。


 予想外の展開に動揺している盗人に、真悟の魔法攻撃ブリザード・パラベラムが命中する。

 盗人が苦痛の声をもらした。


「ぐあっ、しまった!」


 敵四体が、寒さで凍りつくように動けなくなる。


 そこへ、武のスキル攻撃が敵をとらえる。静かに気合いをためていた武は、右正拳を地面に叩きつけた。


「ハアッ」


 地をう衝撃波が四体の敵に向かって走り、敵は爆発を食らったように吹っ飛んだ。


 最後は桃子だ。美希のエンチャントスキルにより、彼女の攻撃力が倍増する。

 槍を袈裟斬りに八の字にふりまわしたあと、頭上でくるくると回転させると、槍を上段から叩き割るようにふり降ろした。

 四体の敵の頭上に、いかずちの刃がズバッと炸裂する。


「ぐおおおっ」


 シューッという音とともに、三体の敵が霧のように消えてゆく。やはり本体以外の敵は、魔法で作りあげたエネルギー体のマリオネットだったのだ。

 盗人は仰向けに倒れ、もはや虫の息である。このまま放っておいても、その命は間もなく終わりを迎えるだろう。


 武が盗人を見おろしながらいった。


「賢者の秘宝は、返してもらうぞ」


 さらに言葉を続ける。


「こんなもの盗んで、ザノーアのみんなに恨みでもあるのかよ」


 盗人が声をしぼり出す。


「俺が、恨みがあるのは……国王だっ」


 みんなが唖然となる。ザノーアに国王がいるとは思わなかった。てっきり、王女エルレア姫が、ザノーアの国をべているものだと思っていた。


 もっとくわしい話を聞きたい美希は、マリナに頼んだ。


「マリナ、こいつを回復して話せるようにしてくれる?」


 マリナが盗人を回復させる。だが、話せる時間は、そう長くはない。


 美希が問いただす。


「ザノーアに、国王っているの?」

「そいつが、俺の家族を殺したんだ!」


 思わぬ話に声も出ないみんなは、盗人の次の言葉を待った。


「俺の家族だけじゃない。多くの民が、あいつの犠牲となったんだ。俺は、あいつだけはゆるさないっ」

「…………」

「バンデーバとの結界を解けば、モンスターが侵入してくる。そうなると、国王が出てくると思った。だが、あいつは……逃げて……」


 一概いちがいには、信じられない話だ。


「いま、やっと国王を……見つけた……あいつだけは……」


 盗人の命が、終わりに近づいてゆく。薄れてゆく意識のなかで盗人が想うのは、すでに命をたれた自分の家族だった。


「父さん、母さん……リゼラ……」


 リゼラとは、妹の名前である。盗人は一粒の涙を流したあと、分子レベルで分解し、跡形もなく消え去るのだった。


 みんなは、戦闘フィールドからもとの場所、地下室にもどる。

 盗人が嘘を話していたとは思えなかった。みんなの心が重くなる。


 武が、苦い想いを顔にあらわす。


「全然、しっくりこねえな」


 戦いには勝った。賢者の秘宝も取り返した。

 しかし、この後味の悪さは、いかんともしがたい真悟たちであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ