ザノーアからの依頼
ルナサンドホテルにたどり着いた真悟たちは、三階の部屋で眠りについた。
もちろん、部屋は男女別々である。
翌朝、美希が真悟と武を起こしにくる。
「朝よ、起きなさい」
目を覚ました真悟と武は、エレベーターの前で美希たちと合流する。
エレベーターで一階に降りたとき、桃子が違和感を覚える。彼女はそれを口に出した。
「なにか変だな……あれ? フロントが、ない?」
みんなが呆然となっていると、ロビーの椅子に座っていた女性が立ち上がる。
彼女は、ゆっくりと真悟たちの方へ歩みよってくる。なかなかの美人だ。
みんなの前まできた彼女は、お客に対する従業員のように頭をさげた。
「お待ちしておりました」
緑色の目をした彼女は人間の姿をしているが、人間ではない。こうして会うのははじめてだが、どこかで見た覚えがある。
マリナは、すぐに思い出した。
「あ、あなたは……」
美人の彼女は、自己紹介をする。
「わたしは、ザノーア幻影師団の師団長、パルモともうします」
驚嘆する想いが、みんなの顔にあらわれる。まさか、ザノーアの幻影師団長とこんな出会いをするとは、夢にも思っていなかった。
幻影師団長であるパルモは、実はザノーア諜報部隊の隊長という本来の肩書きがある。
「実は、みなさんにお願いがあるのです」
そういう彼女に、美希がたずねた。
「お願いって、なに?」
予期せぬ答えが返ってくる。
「みなさんに、ザノーアまできてほしいのです」
驚きの連続で、みんなは絶句したまま声も出ない。言葉を続けるのは、パルモだけだ。
「ぜひ、ザノーアの王女エルレア姫に会っていただけませんか」
断る理由はない。だが、なにかの罠である恐れも捨てきれない。
美希が真悟に、ぼそっと相談する。
「真悟、どう思う?」
「大丈夫だと思います」
どのみち、パルモの願いを断ると、冒険は前に進まないだろう。
武がパルモに訊いてみる。
「どうやって、ザノーアに行けばいいんだ?」
パルモは「おまかせください」というと、「こちらへ」と真悟たちをホテルの従業員専用のドアまで誘った。
パルモは、そのドアを開ける。とたんに、光が目に入る。ずっと奥の方から投げかけられた光に、吸い込まれそうな気がした。
パルモは微笑を浮かべる。
「ご安心を。亜空間トンネルです」
ここからザノーアへ行けるようだ。
「わたしに、ついてきてください」
パルモはそういうと、亜空間トンネルに入った。みんなも彼女のあとを追うように入り、光のトンネルを飛翔する。
ザノーアには、数秒で到着した。見渡すかぎり、緑ゆたかな草原がひろがっている。
パルモが右手の掌を前に出す。すると、金色に輝く魔法陣があらわれた。
「こちらです」
パルモは魔法陣のなかに身体をあずけ、真悟たちも次々と彼女のあとに続いた。
わずか一歩で魔法陣の外に出る。そこは、ザノーアの城のなかにある王女の部屋であった。
床が四角ではなく、円となっているのが非常にめずらしい。学校の教室より広く感じる。
その部屋の、低い階段を上がったところに置かれた大きな椅子に、この国の王女エルレアが座っている。
頭にのせたティアラをはじめ、ネックレスや指輪、ブレスレットなどの装飾品が、彼女の美しさをひき立てている。
王女は椅子から立ち上がると、真悟たちに礼を述べた。
「みなさん、よくきてくれました」
彼女の耳の先が、よこに跳ねるように尖っているほかは、ふつうの人間と変わらない。
水色のドレスが、モデルのような体型によく似合っている。
コバルトブルーの目でみんなを見る王女は、金色の長い髪を揺らしながら、低い階段をおりる。
彼女はみんなの前までくると、ふたたび口をひらいた。
「あなたたちに、お願いがあるのです」
王女の話を聞いてみると、ザノーアとモンスター居住区域であるバンデーバとの境界で、築かれていた結界が破られたという。
魔術師団を総動員してふたたび結界を造ったものの、以前の結界にくらべると、その強度は安心できるほど強くはない。
すなわち、モンスターどもが、いつバンデーバから境界を越えて、ザノーアに押しよせてくるかわからない状態なのだ。
それを聞いた武が、うんうんと首をたてにふると、まかせろという感じでいった。
「じゃあ俺たちは、モンスターがザノーアに出現すれば、その敵を倒せばいいんだな」
「いえ、そうではありません」
王女の予想外の言葉に、真悟たちは唖然となる。ではいったい、なんのために自分たちを呼んだのか?
王女は、それを説明する。
「結界が破られたのは『賢者の秘宝』を盗まれたからです」
ザノーアにも人間の世界と同じように、盗みをはたらく輩がいるらしい。
「あなたたちへのお願いは、賢者の秘宝を奪った者から、それを取り返してほしいのです」
マリナが王女に質問する。
「その賢者の秘宝は、いまどこにあるのか、わかるのですか?」
「それは……」
王女の返事に、真悟たちは目を丸くするのだった。
「ラディストスにあることが、わかっています」
以外だった。みんなが思う。
──なんで、ラディストス?
王女が説明を続ける。
「先に派遣したパルモたちに密かに探らせたところ、賢者の秘宝から滲み出るエネルギーの痕跡が、ラディストスで確認されました。しかし、わたしたちザノーアの民は、ラディストスで派手に行動することはできません」
もし、ラディストスで盗人やモンスターと戦闘になった場合、ラディストスの人間たちを巻き込みかねない。
そうなると、ラディストスとの友好関係が崩れる恐れがある。
桃子はうなずいた。
「なるほど。それで、わたしたちに賢者の秘宝を取り返してほしいわけか」
「そうです」
「ラディストスといっても、広いからなあ。できるだけ具体的な場所を知りたいのだが、わかるだろうか?」
王女がくわしく話す。
「ポラーネの泉がある場合から北へ進んだところへ、建物があります。どうやら、その建物の地下が怪しいということです」
桃子が目を見開いて、みんなの顔を見まわした。話には聞いているが、まだ立ちよっていない場所が、ひとつある。
「サナトリウムか!」




