砂漠の街ゴルドーザ
数分後──真悟が、どうにか目を覚ました。
マリナのときもそうだったが、HPがレッドゾーンまで減り続けた際に気を失うと、体力が回復しても、すぐには目を覚まさない。
アリッサの顔に、安堵の色が浮かぶ。
「危なかったわね。あと一秒遅ければ、終わってたわ」
実際は、一秒たらずだった。
仰向けになっている真悟に、美希があきれたようにいった。
「あんたはいいかげんに、女の下半身に慣れなさい」
武の眉間に、シワがきざまれる。
「その言い方、すんげー卑猥に聞こえるぞ」
真悟はゆっくりと上半身を起こすと、アリッサの方を向いていった。
「アリッサ」
「なあに?」
真悟は、この幼い少女に怒りをぶちまける。
「仲間に殺されそうになるゲームって、どこにあるんだよっ!」
別に美希たちが悪いわけではないのだが、真悟にすれば彼女たちに殺されかけたと思うのは、無理もないことかもしれない。
武が、そういう真悟をいさめる。
「落ち着け、真悟」
だが、真悟の怒りはおさまらない。今度は美希たちに向かって叫んだ。
「あんたたち、女でしょ! なんでパンツ、はいてないの? 女じゃないのか!」
美希が言葉を返す。
「あんた、わたしが男に見えるの?」
続いて、桃子が答える。
「女子高に、女子はいない」
清楚なイメージからかけ離れた大久万女子学園の現実は、人に話せたものではない。
桃子はさらに「オッサンなら、いるけどな」といおうとしたが、それは止めておいた。
マリナが、哀れなまなざしを真悟に向ける。
「久松くん、わたしが男に見えるほど、目が悪くなったの?」
彼女たちの言葉に憤りを覚える真悟は、声をはりあげる。
「女だったら女らしく、もっと恥じらいというものをもたなきゃ……」
なんで真悟にそういうことをいわれなければならないのかと、ムッとした彼女たちは、真悟にいい返すのだった。
「あんたは、わたしのお父さんかっ」
「父上ではあるまいにっ」
「久松くん、わたしのお父様じゃないんだからっ」
彼女たちの父親ではない真悟は、沈黙を余儀なくされる。
不毛な争いをいさめるかのように、ヒューッとぬるい風が吹いた。
武は、かわいそうな目で真悟を見ながら、思うのだった。
──口では、女には勝てねえんだよ。真悟……
なにはともあれ、冒険終了の危機をかろうじてのり越えた真悟たちは、砂漠の街ゴルドーザに歩を進める。
ゴルドーザは都会的な街である。資源が豊富で、各種イベントが日を変え場所を変えて開催される。ザノーアほどではないが、なかなかにぎやかである。
砂漠の真ん中にこんな街があるとは思ってもみなかった真悟たちは、驚くあまり、しばらくは声も出なかった。
街の人びとの服装を見ると、上から下まで真っ白だ。この世界はどこへ行っても温度が一定で、不快感を覚えることはないのだが、砂漠の民は長袖の白い服を着る。
あっちこっちとまわりながら出会う人たちに声をかけるうちに、知りたい情報が手に入った。
「夜になると、グランドドームでイリュージョン・フェスティバルがあるんだ」
フランの話していたことは、ガセではなく本当だったと確信する。
グランドドームは、全天候型の陸上競技場といってよい。みんなは、それがどこにあるかを調べると、夜になるのを待つのだった。
夜になると、みんなはグランドドームに足をはこぶ。雨も風もないイベント日よりだ。
真悟たちが到着すると、すでに多くの人たちがドームに集まっていた。ドームの天井は解放されている。
客席に座ってしばらくすると、競技場の中央あたりが光り出し、ザノーアからの幻影師団が姿を見せる。総勢、十五人である。
彼らの登場に、観衆から拍手が巻きおこる。
幻影師団のイリュージョンが、盛大に観客たちを魅了する。
最初から豪快だった。色とりどりの花火が、夜の空に咲きみだれる。火薬を使うわけではないので、煙でだんだんと雲って見えにくくなるということがない。
それが終わったかと思うと、ドームいっぱいにチラチラと雪が降り、子供たちはもちろん、客席の誰もが喜んだ。
白く輝く雪の美しさに、マリナが思わず声をもらす。
「きれい……」
何頭もの巨大なクジラがあらわれ、空を泳ぐ。その優雅な姿に、みんなは目を奪われる。
ナイアガラの滝を思わせるような大瀑布が出現し、どとうの迫力に観客たちは圧倒される。
猛獣が出てきたかと思うと、師団のメンバーたちが猛獣の背中にのり、競技場を駆けまわる。
そして空に大きな鳥がやってくると、彼らは猛獣から鳥にのりかえ、空を自由に飛びまわるのだった。
本当に、夢を見ているようだ。彼らのイリュージョンは、まだ続く。
突然、巨大な怪獣が雄叫びをあげながら、姿をあらわす。観客たちはあわてたが、これも師団の創るイリュージョンだ。
すぐに、ギリシャ神話のアテナのような女神があらわれ、怪獣と女神の戦いがはじまる。
激闘の末、女神が怪獣を倒したとき、観客たちから大きな拍手が送られるのだった。
武が感嘆の声をあげる。
「すげーな」
美希も興奮している。
「わたしたちの世界では、絶対に見られないわね。本当にすごい!」
ザノーアからの幻影師団は、観客のみんなに大きな夢と感動を与えたのち、莫大な拍手に見送られながら光のなかに包まれ、ドームから消え去るのだった。
グランドドームから退場した真悟たちに、ひとりの少女が近づいてくる。
「どうぞ」
彼女はそういって、真悟に一枚の紙を手渡した。ホテルのチラシのようだ。
美希が顔をよせて、のぞきこむ。
「どれどれ……『新築オープン、ルナサンドホテル──ただいま格安セール実施中!』だって」
真悟が、みんなの顔を見渡した。
「今日はここに泊まりますか?」
桃子が首をたてにふる。
「そういう流れのようだから、それでいいだろう」
彼らは、ルナサンドホテルに足を進めて行く。
新たなミッションがここからはじまるのを知っているのは、アリッサだけである。




