起死回生
ひとりで敵に立ち向かう武は、己自身を奮いたたせる。
──俺がみんなを守る!
しかし、状況が悪すぎる。敵は、幻術使いに攻撃魔術士そして回復魔術士と、すべてそろっている。
一体だけでも倒したいのだが、スキル攻撃を使っても相手の体力を奪いきることができず、回復の隙を与えてしまう。
美希の顔が、憂いに染まる。
──モンスターの幻術スキルをなんとかしなきゃ……わたしと真悟のスキル攻撃が、味方にはね返ってこないように……ん、味方?
美希は考えを一転し、自分の使えるスキルを頭の中で一覧する。
──これだ!
そして、いま見つけたばかりのスキルを発動するのだった。
「バルマンド」
美希の衣装が、上から下まで黒っぽい服に変化する。ロシアの人びとが寒い冬に着る服装で、彼女はコサックダンスを踊りだす。
見た目より、はるかに難しいこのダンスを、美希はコロブチカの曲にあわせて軽やかに踊る。
美希は運動オンチだと聞いている真悟は、彼女の鮮やかなダンスに目が丸くなる。
このダンスのスキルは、味方の攻撃力が倍になるエンチャントスキルだ。一人だけにしか付与できないが、それは武にかけられる。
美希が、武に向かって声をあげる。
「いまよ、武っ」
「よっしゃ!」
武がスキル攻撃に移る。狙うのは、左にいる小柄な幻術使いだ。
すばやく接近すると低くしゃがみ、すかさず右アッパーを食らわせる。モンスターは空中高く飛んでいき、武もジャンプする。
武は両手を上にあげると、ガシッとその手を組んで、敵を叩き落とすようにふり降ろした。
このハンマーパンチを食らった幻術使いは、ドバンッと地に落ちてバウンドする。
そこへ武は急降下しながら、両足でトドメの一撃をくわえるのだった。
威力が倍となったスキル攻撃、竜王コンボの破壊力は絶大だった。幻術使いは一気に体力を奪われ、跡形もなく消失する。
回復魔術士があわてたように回復スキルを発動するが、もう遅い。
美希が、エンチャントスキルを連発する。
「プロストローグ」
スキルの名称をとなえた美希の姿が、田舎の祭りで見かけるような白装束に袴という衣装に変わる。
頭にハチマキを巻き、手に刀をもつ彼女は、太鼓のリズムにあわせて神楽を踊る。
これは、ある地方で少年が演じる神楽だ。その動きはキビキビとしており、メリハリがあって力強い。
このスキルは、攻撃するときにクリティカルを誘発するスキルである。すなわち、会心の一撃が出やすくなるのだ。それが武に付与される。
「武、やっちゃいなさいっ」
「おう!」
再度、武がスキル攻撃で攻める。こんどは回復魔術士に的をしぼり、一気にたたみかけた。
左右の肘での連続攻撃が、流れるようにモンスターにヒットする。
まず右から、次に下から顎へ、そして身体を回転させながら、えぐるようにボディへ突きさす。
左からフックのように一撃を食らわしたあと、さらに上から打ちおろし、最後は胸のあたりを狙ってトドメをさす。
多くの打撃が会心の一撃となり、モンスターはトドメをさされるまえに、こと切れていた。
のこる敵は、攻撃魔術士だけである。だが、真悟は気をひきしめる。
美希も武も、SPに余裕がない。さらに、真悟もふくめて体力も回復しきれていないのだ。
そこへ、モンスターの強烈な魔法が襲いかかる。スキル攻撃に匹敵するその魔法で、みんなの体力は半分を優に下まわった。
ここで、マリナが目を覚ました。それを見た真悟が、彼女に叫んだ。
「雪本、みんなを回復してっ、はやく!」
眠っている間になにがあったのか全然わからないマリナは、頭の中でデータをチェックすると顔をひきつらせ、あわてて全体回復魔法を施した。
真悟の表情がゆるむ。
──もう、大丈夫だ
余裕のできた真悟は、モンスターに雷の魔法攻撃を放った。頭上から雷の一撃が、敵に炸裂する。
武の物理攻撃も、確実にダメージを与える。
バトルの主導権が完全にこちらに移り、敵を追いつめてゆく。
最後は、武の攻撃が会心の一撃となってクリティカルヒットし、モンスターを全滅させたのだった。
戦いが終わる直前に目を覚ました桃子が、ひとり言をつぶやくようにいった。
「わたしは、まったく役に立たなかったな……無念っ」
悔しそうに眉を歪める彼女を、真悟が慰める。
「まあ、仕方ないです。そういうときもありますよ。今回の相手は、強敵でした」
美希が額の汗をぬぐう。
「ひとつの判断ミスが、みんなを窮地に追い込むのよね。教訓になったわ」
真悟が、美希と武を見ながら話す。
「先輩たち、みごとなコンビネーションでしたね」
実際、二人の相性は、かなり良いと思った。武は、どうということはないという感じで、真悟に言葉を返す。
「まあ、腐れ縁だからな」
戦闘フィールドからもとにもどった彼らに、ガルダたちが駆けよってくる。
「ありがとうっ。これで、いっぱい花をとって薬が作れる!」
ガルダたちは多くの花を採取する。そしてみんなは洞窟を出ると、接岸している船にのり込んだ。
全員が乗船したのを確認すると、ガルダが大きな声をあげる。
「さあ、みんな、帰るよ!」
ガルダのひと声で、船はルクシャーに向かうのだった。
マリナが、ガルダにたずねる。
「薬は、どこで作るのですか?」
「リザーレの病院で作るんだ。それを、サナトリウムまでもって行く。これで、すべての患者が助かるよ」
ガルダが笑顔を見せる。
「あんたたちのおかげだ。本当にありがとう」
港に帰るまで、みんなは船員たちと、にぎやかな時間を過ごすのだった。




