デルモッソスの森
翌日──ラントスの西の上空に、真悟たちがのっている飛行船が浮遊している。
下を見おろせば、デルモッソスの森がひろがっている。真悟たちは頭の中でマップ機能を使って、飛行船を着陸させる広場を探し、そこに向かっていた。
武が指をさしながら声をあげる。
「あったぞ、あそこだ」
みんなは飛行船を着陸させて降り立つと、まわりを見渡す。特になにもない。
広場を隅々まで探ってみたが、魔よけの石と呼ばれる宝石は、ひとつも見つからなかった。
地図を確認すると、ここと同じような広場が他に三つある。真悟たちは、その広場をすべてまわってみることにした。
だが、どこにも宝石は見あたらない。
武が唐突に口をひらいた。
「やっぱり、情報が間違っているんじゃねえか?」
真悟がもう一度、地図をチェックする。四つの広場は、正方形をかたち作るように点在している。
頼りになるのは美希だと思い、彼女に声をかけた。
「美希先輩」
「なに?」
「いま、地図を見ているんですが」
それを聞いた美希も同じように地図を確認する。
「広場が正方形にならんでますよね」
「それがどうかしたの、真悟」
「情報が正しいとすれば」
真悟は美希の方をふり向いた。
「この配置に、意味があると思うんです」
真悟の言葉に、美希は頭をはたらかせる。
「真悟」
「はい」
「シンプルに考えると、対角線の交わったところが怪しいと思うんだけど」
美希の考えに、真悟も同感だ。みんなは、四つの広場の対角線が交わる場所に、足を進めて行く。
そこにたどり着くと、高さ1メートルぐらいの白くて細い台座があり、台座の上部には、車のハンドルのようなものが地面と水平に設置されている。
台座のまわりは、侵入者からの目をあざむくかのように、高い木々がそびえ立っている。
真悟が感嘆の声をあげた。
「やりましたよ、美希先輩!」
桃子も感心する。
「さすがだな、美希」
美希は両手を腰にあてて、どや顔になる。
「まあね」
武が、台座のハンドルを時計回りにまわしてみる。180度まわしたところで、ハンドルは限界に達する。
遠くで、ズズズンと振動がするのを感じた。
真悟がみんなに告げる。
「広場の方へ、行ってみましょう」
広場に向かうと、真ん中あたりに白い台座があらわれていた。上部にあるのはハンドルではなく、パレットのようなものがあり、そこに宝石が置かれている。
直径5センチはある、真っ赤なルビーだ。
真悟たちは、他の広場もまわってみる。やはり同じように台座があり、青いサファイア、緑のエメラルド、黄色いガーネットを手に入れる。
すべての宝石を亜空間ポケットに収容すると、美希がいった。
「じゃあ、ルクシャーの港に帰るわよ」
みんなは飛行船にのり込むと、最短距離でルクシャーをめざすのだった。
ルクシャーに到着した真悟たちは、造船所に足を進ませ、ガルダと顔をあわせる。
現在、船は予定よりはやく作業が進み、ほぼ完成した状態にあった。
武が笑顔でガルダに話す。
「四つの宝石を取ってきたぜ」
マリナが亜空間ポケットから魔よけの石をすべて取り出し、ガルダに見せた。
「おお、これだっ。間違いない!」
ガルダは、従業員たちに指示を出す。
「みんな、あとひと息だ。最後の仕上げだ、気を抜くなよ!」
魔よけの石が、船の舳先にひし形に配置されるように取り付けられた。
ガルダは、真悟たちの方をふり向いて伝える。
「明日までに、海へ出る準備を整えるからね。明日の朝、出港するから、そのときにきてくれ」
みんなは、ガルダのいうことを了解するのだった。
明朝、造船所に行ってガルダに会い、船にのり込んだ真悟たちは、ガルダの指揮のもとにルクシャーの港を出港する。
桃子が、ガルダにたずねた。
「ダミューバの島は、どんな島なんだ?」
「人は住んでいない。だが、魔物がいる」
「あんたたちは、なんの目的で島に行くんだ?」
「薬だよ」
予想外の返事に、ちょっと驚いた。
「モズモル症候群という病気を知ってるかい?」
「いや、知らない」
モズモル症候群は、ふつうに生活している状態から、なんの前ぶれもなく急に幻覚にとらわれる。そのあとは、強烈な睡魔に襲われて眠りにつく。
毎日毎日ひたすらそれを繰り返す、この世界独特の病気である。ただ、患者数は少なく、この世界でも稀な病といえる。
患者が幻覚を見ているとき、本人は、例えば現実にはない橋をわたろうとする。これが崖の上だったりすると、非常に危険極まりないのは、考えるまでもない。
武が眉をよせる。
「やっかいな病気だな」
「わたしの親戚が、その病を患っているんだ」
遺伝が関係しているらしい。ガルダが武に問いかける。
「あんたたち、ポラーネの泉を知ってるか?」
「ああ、知ってるよ」
「あそこから北に行くとサナトリウムがあって、患者はみんなそこに収容されている。十人ほどだけどね」
マリナが、不意に思ったことを訊いてみる。
「リザーレの大きな病院には行かないのですか?」
ガルダは、その目に悲しさを滲ませながらいった。
「病院に行っても治らないんだ。治せないといった方がいいな。だから、サナトリウムで療養するしかないんだ」
真悟がたずねた。
「薬というのは?」
「モズモル症候群を治す薬は、島の洞窟のなかにある花から作られるんだ。わたしは、その花を取りに行くのさ」
ここまでガルダの話を聞いていた美希は、真悟に問いかける。
「真悟、幻のお宝って、その花のことじゃないの?」
真悟は神妙な顔をする。
「なんともいえませんが……でも」
なにを優先すべきかは、すでにわかっている。
「まずは、モズモル症候群の薬のもととなる花を、取りに行きましょう」
美希は、真悟の言葉にうなずくのだった。




