港町ルクシャー
ルクシャーは漁師の町だ。多くの舟が港につながれている。ほとんどが中型以下の舟である。
美希が真悟に問いかける。
「これから、どうしよう。のせてってくれる船を探す?」
「とりあえず、町の人たちに話を聞きましょう」
なんにせよ、幻のお宝があるという島に関する情報がほしい。
真悟たちは港にいる人たちに話しかけてみるものの、あまり有意義な情報は手に入らない。
大衆食堂の店に入り、いろいろな人に話を聞いているうちに、一人の青年が興味を示した。真悟たちより年上で、二十代半ばの男だ。
「あんたたち、ダミューバの島に行く気かい?」
フランというその男がいった。武が彼に答える。
「島の名前はわからないが、俺たちはそこに用があるんだ」
「物好きだな」
「ヤバイとこなのか?」
「まあな。島に近づく者は、誰もいないよ」
そういったあとで、フランはふと思い出した。
「いや、ひとり……だけじゃなくて、仲間もいたな」
美希が問いただす。
「その人、どこにいるの?」
「造船所で船を造っているはずだ」
真悟たちは、さっそく造船所に足を進める。これから会う人物は、ガルダという名前だと聞いた。
造船所では、ヘルメットをかぶった作業員たちが、二十人乗りの船を造っている。たどり着いたみんなはガルダを探そうと、そこで働いている人たちに訊いてみる。
「ああ、ガルダの大将なら、あそこにいるよ」
訊かれた彼が、指をさす。がっちりした体格の人間がこちらに背中を向け、両手を腰にあてて、作業の進行状況を見ている。
真悟たちは、ガルダであろう人物まで近づくと、真悟がおそるおそる声をかけた。
「あの、ガルダさんですか?」
その声に、ガルダがふり向いた。みんなは、呆気にとられて目を丸くする。
──お、女?
てっきり男かと思ったところが、体格の良すぎる女大将だった。
彼女はけげんな顔をして、口をひらいた。
「なんだい、あんたたち」
美希が答える。
「島まで行きたいんだけど、船を……」
「いま忙しいんだ、じゃましないでくれ。さあ、帰った、帰った」
ろくに話を聞こうとしないガルダの態度に、美希はムッとする。
従業員の一人が、小さな箱を大事そうにもちながら、ガルダのそばまでやってくる。そして彼は、箱のふたを開ける。
「この石でしょうか?」
箱の中には、赤いルビーのような石が入っていた。指輪の宝石より、ひとまわり大きい。
ガルダが眉をよせながらいった。
「ちがう。もっと大きな石だ」
その様子を見ていた桃子が、ひとり言をつぶやいた。
「ラントスの王子の短剣についていた宝石に、似ているな」
桃子のつぶやきが耳にはいったガルダと従業員は、驚愕した顔になり、桃子の方をふり向いた。
従業員の男が、声を震わせる。
「ま、まさか……伝説の勇者?」
桃子は大げさだなと思いながら、彼に応えるようにいうのだった。
「わたしたちは、グスタという人に頼まれて、ラントスの王子に短剣をとどけに……」
いい終わらないうちに、ガルダが桃子の両肩をガシッとつかんだ。
「あんたたちに、頼みがある!」
さっきまで自分たちを邪険にあつかっていたガルダの、この変わりように、みんなは目が点になるほど驚いて唖然となる。
彼女は、鬼気迫る形相で言葉を続ける。
「魔よけの石を探しに行ってくれないか」
美希が、きょとんとした顔をする。
「魔よけの石?」
ガルダはうなずいた。
「そうだ。それがないと、船が完成しても海には出られない。魔物に襲われるからな」
空からだと危ないというので海を渡って行こうとしたのだが、海も危ないのか?
みんなが困惑していると、ガルダがくわしく説明する。
「安全に海へ出るには、特別な場所にある宝石が必要なんだ。そこにあるルビー、サファイア、エメラルド、ガーネットがそうだ」
彼女の説明によると、漁師たちが仕事をするのは、魔物がいない南の海だ。
しかし、ダミューバ島のある西の海は、魔物が出現する危険な区域なのである。島に近づくほど、危険度は高くなる。
だが、魔よけの石を四つ集め、それを舳先に掲げれば、魔物に襲われることはないという。
ところが、いまは宝石が一つもない状態なのだ。
「前回、船を出したときに、島への着岸に失敗してね。あろうことか、宝石が四つとも海に落ちて、失くしてしまったんだ」
結局、なにもできないまま、命からがらまいもどってきたという。
船は魔物の襲撃で大破し、いま新しい船を造っている最中なのだ。
武が、ガルダに歩みよる。
「わかった。俺たちが、すべての宝石を探してこよう。で、どこにあるんだ?」
ガルダは、ホッと表情をゆるませると、武の問いに答えた。
「首都ラントスの西に、デルモッソスと呼ばれる森がある。そこにあるらしい」
美希が目を細める。
「あるらしいって、なんで推測なの?」
ガルダの顔が、渋い表情になる。そういう顔つきになってしまう体験が、彼女にはあるのだ。
「何度か探しに行ったんだが……全然、見つからなくてね」
肝心の情報が信頼できるものなのかどうか、疑問に思えてくる。
「でも、魔よけの石に関する情報は、それだけなんだ」
桃子がガルダに訊いてみる。
「あなたが失くすまえにもっていた宝石は、どうやって手に入れたんだ?」
ガルダから、納得できる答えが返ってきた。
「あれは代々、わが家に伝わる家宝というべきものでね。数百年も昔に、先祖がザノーアの民を助けたことがあって、そのお礼としてもらったらしい」
なんにせよ、宝石を見つけるためには、デルモッソスの森まで行かなければならないようだ。
ガルダはいった。
「船は、あと二日で完成し、島へ行く準備も完了する予定だ。あんたたちも行くなら、のせてってあげるよ」
日が暮れるなか、みんなは明日の朝から宝石を探しに行くことを決めると、町の宿に泊まるのだった。




