あらわれた敵
みんなはアリッサの方に目をやると、なにもいわずにアリッサが話すのを待った。アリッサは、ひきつるような顔をして口をひらいた。
「そのドアは、カモフラージュのために作られたものだから、絶対に開かないはずよ」
敵が真悟たちをその部屋に誘っているのは、明らかだ。
武が顔をこわばらせて、自分の意思を言葉に出した。
「片をつけに行こうじゃねえか」
武はドアのノブをぐいっと引くなり、部屋のなかに入って行った。アリッサが止める間もなく、みんなが次々と部屋に足をふみ入れる。
全員が焦っている。はやく敵を倒したい気持ちはわかるが、なにも考えずに敵の待ちうけている場所へ突っこんで行くのは、あまりにも無茶だ。
仕方なく、アリッサも部屋に入る。その直後、ドアが音もなく閉まる。
あたりは暗闇だが、みんなの姿だけはハッキリと認識できる。やはりここは、敵が用意した亜空間だ。
だが、戦うべき相手の姿が見あたらない。
不意に、アリッサの背後から声がひびいた。
「良かった」
みんなは素早くふり返り、真悟はすぐさまアリッサの前に出る。武と桃子が、真悟にならぶように前にくる。
彼らは戦闘態勢をとりながら、相手を見すえる。
妙にみすぼらしい中年の男が、真悟たちより10メートルほど離れたところで、弱々しく立っている。
「君たちを待っていたんだ」
襲いかかってくる気配はない。みんなは、害のなさそうな彼を見て思った。
──行方不明になった、村の人か?
しかし、モダンな感じの服装からして、ゲームのキャラとはちがうような印象を受ける。
ここで、いままで機能しなかったアリッサのアンテナが、その性能をいかんなく発揮する。
──この人は……
美希が男に問いかける。
「あなたは、誰?」
「わたしは……」
次の瞬間、真悟たちに戦慄が走る。男が両手をひろげると、彼の背後からいくつもの見覚えのある触手が、ニョキニョキとあらわれたのだ。
この男は、間違いなく片をつけなければならない相手だった。
武が男に向かって吠えた。
「出やがったな!」
怒りで顔が真っ赤になる。
「よくもマリナちゃんを傷つけたなっ。てめえは絶対にゆるさねえ!」
武は、自分がさらわれたことよりも、マリナに重症を負わせたことに腹を立てている。
怒りにまかせて攻撃しようとした武を、アリッサの声が止まらせた。
「まって」
アリッサはそういうと、男の方へトコトコと歩いてゆく。
美希があわててアリッサに言葉をかける。
「アリッサちゃん、危ないわよっ」
アリッサは、美希にふり向いていった。
「だいじょうぶ」
彼女のなかで、ようやく謎が解けたのだ。アリッサは男と対面すると、彼と話をする。
「あなたは、三十年前に起きたビル火災の被害者じゃないの?」
男は驚嘆し、目を丸くしてアリッサの言葉に応えた。
「き、君は、あの火事を知っているのか?」
この人物は、確かにバグの原因ではあるのだが、ゲームのクリエイターたちとは無関係だ。
だが、彼らのあいだには、やはり共通点があったのだ。同じビル火災の被害者という共通点が。
アリッサは、訊くべきことを男に話す。
「どうして、みんなを巻き込もうとするの?」
「助けてほしいんだ。自分ひとりでは、どうにもならない。どうにも……ならないんだ……」
武が、こめかみに青筋をたてながら叫んだ。
「ふざけんな!」
男の方へ歩きながら、怒りをぶちまける。
「助けてほしいだと? てめえは、俺の仲間になにをしたと思ってるんだ!」
男は、もうしわけなさそうに答える。
「焦っていたんだ。君たちを、なんとしてでもいっしょに連れて行こうとしたんだが」
その顔に、後悔の色が浮かぶ。
「傷つけるはずじゃなかった。ああいうやり方は、間違いだった」
武にすれば、言い訳にしか聞こえない。アリッサは、いまにも殴りかかろうとする武をいさめ、男から話の続きを聞き出そうとする。
「みんなを引き込んで、なにがしたかったの?」
「わたしは」
男の目に、涙が浮かぶ。彼には、自分の命よりも大切な存在があったのだ。
「わたしは、あの火災でともに命を失った息子に、会いたいだけなんだ」
彼の目から、涙がこぼれ落ちた。




