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ローデス  作者: 左門正利
35/60

あらわれた敵

 みんなはアリッサの方に目をやると、なにもいわずにアリッサが話すのを待った。アリッサは、ひきつるような顔をして口をひらいた。


「そのドアは、カモフラージュのために作られたものだから、絶対に開かないはずよ」


 敵が真悟たちをその部屋に誘っているのは、明らかだ。

 武が顔をこわばらせて、自分の意思を言葉に出した。


「片をつけに行こうじゃねえか」


 武はドアのノブをぐいっと引くなり、部屋のなかに入って行った。アリッサが止める間もなく、みんなが次々と部屋に足をふみ入れる。

 全員が焦っている。はやく敵を倒したい気持ちはわかるが、なにも考えずに敵の待ちうけている場所へ突っこんで行くのは、あまりにも無茶だ。


 仕方なく、アリッサも部屋に入る。その直後、ドアが音もなく閉まる。

 あたりは暗闇だが、みんなの姿だけはハッキリと認識できる。やはりここは、敵が用意した亜空間だ。

 だが、戦うべき相手の姿が見あたらない。


 不意に、アリッサの背後から声がひびいた。


「良かった」


 みんなは素早くふり返り、真悟はすぐさまアリッサの前に出る。武と桃子が、真悟にならぶように前にくる。

 彼らは戦闘態勢をとりながら、相手を見すえる。


 妙にみすぼらしい中年の男が、真悟たちより10メートルほど離れたところで、弱々しく立っている。


「君たちを待っていたんだ」


 襲いかかってくる気配はない。みんなは、害のなさそうな彼を見て思った。


 ──行方不明になった、村の人か?


 しかし、モダンな感じの服装からして、ゲームのキャラとはちがうような印象を受ける。

 ここで、いままで機能しなかったアリッサのアンテナが、その性能をいかんなく発揮する。


 ──この人は……


 美希が男に問いかける。


「あなたは、誰?」

「わたしは……」


 次の瞬間、真悟たちに戦慄が走る。男が両手をひろげると、彼の背後からいくつもの見覚えのある触手が、ニョキニョキとあらわれたのだ。

 この男は、間違いなく片をつけなければならない相手だった。


 武が男に向かって吠えた。


「出やがったな!」


 怒りで顔が真っ赤になる。


「よくもマリナちゃんを傷つけたなっ。てめえは絶対にゆるさねえ!」


 武は、自分がさらわれたことよりも、マリナに重症を負わせたことに腹を立てている。

 怒りにまかせて攻撃しようとした武を、アリッサの声が止まらせた。


「まって」


 アリッサはそういうと、男の方へトコトコと歩いてゆく。

 美希があわててアリッサに言葉をかける。


「アリッサちゃん、危ないわよっ」


 アリッサは、美希にふり向いていった。


「だいじょうぶ」


 彼女のなかで、ようやく謎が解けたのだ。アリッサは男と対面すると、彼と話をする。


「あなたは、三十年前に起きたビル火災の被害者じゃないの?」


 男は驚嘆し、目を丸くしてアリッサの言葉に応えた。


「き、君は、あの火事を知っているのか?」


 この人物は、確かにバグの原因ではあるのだが、ゲームのクリエイターたちとは無関係だ。

 だが、彼らのあいだには、やはり共通点があったのだ。同じビル火災の被害者という共通点が。


 アリッサは、訊くべきことを男に話す。


「どうして、みんなを巻き込もうとするの?」

「助けてほしいんだ。自分ひとりでは、どうにもならない。どうにも……ならないんだ……」


 武が、こめかみに青筋をたてながら叫んだ。


「ふざけんな!」


 男の方へ歩きながら、怒りをぶちまける。


「助けてほしいだと? てめえは、俺の仲間になにをしたと思ってるんだ!」


 男は、もうしわけなさそうに答える。


「焦っていたんだ。君たちを、なんとしてでもいっしょに連れて行こうとしたんだが」


 その顔に、後悔の色が浮かぶ。


「傷つけるはずじゃなかった。ああいうやり方は、間違いだった」


 武にすれば、言い訳にしか聞こえない。アリッサは、いまにも殴りかかろうとする武をいさめ、男から話の続きを聞き出そうとする。


「みんなを引き込んで、なにがしたかったの?」

「わたしは」


 男の目に、涙が浮かぶ。彼には、自分の命よりも大切な存在があったのだ。


「わたしは、あの火災でともに命を失った息子に、会いたいだけなんだ」


 彼の目から、涙がこぼれ落ちた。




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