懸念
リザーレに到着した真悟たちは、宿に泊まって体力を回復させる。
買いたい物は特になく、目的地のドーフへ向かってまっすぐ進んで行った。
ドーフに到着すると、異変が起きていた。巨大なモンスターが暴れているのだ。気球大会どころではない騒ぎだ。
みんなは、すぐさま戦闘フィールドに移行し、戦う体制をととのえる。
ゴリラを直立させたようなモンスターはかなり大きく、頑丈そうな鎧をまとっている。
武がいつものように、右手の拳を左手の掌にパシッと打ちつけ、気合いを入れた声をひびかせる。
「よっしゃ、いくぜ!」
瞬く間に、敵との戦いがはじまる。空手の技を連発する武、なぎなたの技で槍をふるう桃子。
真悟も魔法で応戦するが、なかなか敵の体力が減らない。
真悟は、妙に違和感を覚える。
──えらく硬いな
敵の防御が、あまりにも硬すぎる。こちらの通常攻撃はあっさりと弾かれ、スキル攻撃は頑丈な鎧にはばまれて、思うようにダメージを与えられない。
うってかわって敵の攻撃は強力で、マリナや美希は防御していても、体力の半分近くが奪われる。
美希の幻術スキルもまったく通用せず、敵のレベルが自分たちより異様に高すぎて、ゲームの制作者たちの設定ミスとしか思えない。
みんなはSPがなくなったので、さっそく王様からもらったスキルバーで補充する。ふたたびSPがなくなるまで攻め続けたが、相手の体力はまだまだ余裕がある。
これでは、せっかく手に入れたスキルバーが、この戦いで一つのこらず使いきってしまうことになりそうだ。
問題は、それでも勝てそうにないことだ。何度も何度もスキル攻撃をまじえて戦っているのだが、てんで歯が立たない。
真悟たちの戦う様子を見ていたマリナは、心の中でつぶやいた。
──らちがあかないわ
そう思うマリナは、ゆっくりと足を前に進める。
異様に硬い敵を相手に、どう攻めるかを考えていた真悟は、マリナを見た瞬間に思考が止まる。
──雪本?
マリナは、どんどんモンスターの方へ近づいて行く。
真悟が彼女に向かって叫んだ。
「雪本、危ないっ。もどるんだ!」
その声に反応したのは、マリナではなく武と桃子だった。
二人は、自分たちのすぐ後ろまできているマリナを見て、目を丸くする。
桃子が怒った声で「マリナ、なにをしているっ」と言葉に出そうとしたときだった。彼らの隙をつくように、モンスターの攻撃が襲いかかる。
ドガガッと、桃子と武はモンスターにぶっ飛ばされた。
「うわあっ」
「しまった!」
マリナがポツンとモンスターの前に立っている。
美希が急いで敵を眠らせようとするが、やはりこのゴリラのモンスターには通じない。
真悟は焦った。
「雪本、もどれっ、もどるんだ!」
マリナはモンスターを見上げ、左手にもっている杖を頭上にふりかざす。彼女の右手には、リザーレの街で買った毒針がにぎられている。
マリナがモンスターに向かって、杖をふりおろした。
コンッ
まったくの無傷である。ゴリラのモンスターは、マリナを馬鹿にしたように胸をはりながら高笑いする。
そのとき、鎧の隙間から生身の腹部が顔を出しているのを、マリナは見逃さなかった。
マリナは、唯一の弱点と思われるこの部分に狙いをさだめて、毒針を突きさした。
「えいっ」
プスッ
「グゲッ」
毒針をさされたモンスターは、あとずさるようによろめいて、うめき声をもらす。
「ガ……ギ……グ……」
そして、「ゴアアーッ」という雄叫びを発したあとに、仰向けにズズンと倒れるのだった。モンスターは分子レベルで分解し、消え去ったあとには宝箱が置かれていた。
何度も何度も攻撃を繰り返し、疲れはてたようにボロボロになった武が、ぼそっとつぶやいた。
「一撃かよ……」
美希が宝箱を開ける。その中には、鍵が入っていた。
「なんの鍵?」
美希が不思議なものを見る目で鍵をながめているあいだに、みんなは戦闘フィールドからもとの場所にもどる。
真悟たちの背後から、ショックをうけたような声が伝わってくる。
「そんな……」
声の主は、アリッサだった。彼女は愕然とした様子で立ちつくしている。
いつもとちがう彼女の様子に、真悟がちょっと心配になって言葉をかける。
「アリッサ、どうかしたの?」
アリッサは、自分に声をかけた真悟の方を見ずに、美希がもっている鍵を指さした。
「その鍵は、お屋敷の鍵にちがいないわ」
美希が眉をよせる。
「お屋敷?」
アリッサの青い目には、不吉な予感が映っている。
「物語をもっと先へ進んでいかないと見つけられない、お屋敷よ。その鍵は、こんなところで手に入れられるアイテムじゃないわ」
彼女の言葉がなにを意味するかを察した真悟は、血の気を失った顔をアリッサに向けて、信じられないという想いを口に出した。
「ア、アリッサ、まさか」
彼女は深刻な表情で、みんなに伝えるのだった。
「まだ終わってないわ」
武をさらった敵は、アリッサのアンテナに引っかかることなく、まだこの世界のどこかにいるのだ。




