亜空間トンネル
アリッサは、みんながキャンディを口にするのを、じっと見ている。
全員が食べ終わると、ひとりで納得するように「うん」とうなずいて、彼らに出発を促した。
「準備はできたわね。じゃあ、行くわよ」
アリッサはそういうが、すでにピラミッドは消え失せている。
真悟は、自分が思う疑問をアリッサに投げた。
「アリッサ、敵がどこにいるのか、わかるのかい」
「敵の居場所はわからないけど、武ちゃんがどこにいるかなら、把握できるわ」
「ピラミッドはもうなくなっているけど、どうやって行くの?」
「わたしにまかせて」
アリッサはそういうと、真悟に背中を向けて右手を前に出す。 アリッサの手から光が放たれ、魔法陣が出現する。
「ここから、武ちゃんのところへ行けるわ」
この魔法陣は、別の亜空間へつながるトンネルの役目をするのだ。
アリッサが魔法陣のなかへ入ろうとしたとき、美希が大事なことを思い出した。
「ちょっと待って。この子たちは、どうするの」
焦るあまり、ウーパとルーパのことをすっかり忘れていた。
「いけない、わたしったら」
アリッサが、かわいい舌をペロリと出す。 この姉妹を、これ以上巻き込む必要はどこにもない。
「あなたたちは、ザノーアに帰った方がいいわね」
アリッサの言葉に、トレトナ族の姉妹は意外な反応をみせる。ウーパとルーパは首をよこにふり、口をそろえていうのだった。
「わたしたちも、いっしょに行きます」
みんなが唖然となった。 この先、どんな危険が待ちかまえているか想像もつかない。
できれば、二人がぶじであるいまのうちに、ザノーアに帰った方が良いとみんなは思っている。ザノーアにいる彼女たちの仲間も、心配しているのではないか。
真悟たちが困惑していると、アリッサがため息をついて、ボソッとつぶやいた。
「ああ、そうだった」
真悟がアリッサの方をふり向く。
「なにが、そうだったの?」
「トレトナ族は、とても義理がたい民族なのよ」
少女たちにすれば、武に助けられたお礼もいえないままで、ザノーアに帰ることはできないのだ。
この状況でどうすべきか、アリッサが判断をくだす。
「仕方ないわね。あの子たちも連れて行きましょう」
桃子の複雑な心情が、その顔にあらわれる。
「本当に、それで良いのか?」
「彼女たちをここへのこしておく方が、よっぽど危険だわ」
確かに、そうだろう。 だが、いっしょに連れて行っても危険であることに変わりはない。
美希がみんなの心配を背負った感じで、ウーパとルーパに問いかける。
「どうしても、あなたたちの国に帰ることはできないの?」
「できません。わたしたちも連れて行ってください」
この姉妹に、ザノーアへ帰るという選択肢は、まったくないようだ。
どうやら敵との再戦は、ザノーアからの使者を守りながら戦うことになりそうだ。
実際に戦闘状態になると、かなり厳しい戦いを迫られることが予想される。だが、この場所でいつまでも悩み続けてはいられない。
困惑していた真悟も、覚悟を決める。
「わかった、アリッサ。みんなでいっしょに行こう」
「彼女たちを、しっかり守ってよ」
「う、うん」
覚悟を決めたわりには、頼りない返事をする真悟である。
敵と戦うのは、実質、自分と桃子の二人だけだ。反面、守るべき人数が多いため、やはり不安は隠せない。
美希が憤懣やるかたない想いを、武にぶつける。
──のんきに、敵に捕まってんじゃないわよ。あのバカっ
美希が眉をよせている間に、アリッサが亜空間トンネルの入口をひらいた。
「じゃあ、行くわよ」
まず最初に、アリッサが亜空間トンネルへ入って行く。
それから桃子がズイッと前に出る。
「次は、わたしが行こう」
桃子のあとに美希、マリナと入り、ウーパとルーパが彼女たちに続く。
最後に真悟が後ろをチラッとふり返り、敵の存在がないことを確認すると、亜空間トンネルへ足をふみ入れる。
ここへきたときとちがって、次にめざす亜空間の世界までは、かなりの距離があるようだ。
身体が進行方向に向かって飛んでいる。暗闇のなか、どれほどの速度で飛行しているのかわからないが、自分が目的地に向かって進んでいることは実感できる。
不意に、闇の向こうでパリパリッと、弱いスパークが発生するのを、みんなは目にする。
出口があらわれるのかと思いきや、そうではなかった。
そこに出てきたのは、映画のスクリーンに映し出されたような、みんなの姿だった。
突然の出来事に、真悟たちは驚いた。あらわれたみんなのなかに、武もいる。その武が、なにか話している。
「じゃ、行ってくる」
妙に見覚えのある光景だと思いながら見ていると、武はベッドのような台座に向かって歩いて行く。
武のあとから美希と桃子、それに真悟がよこ一例にならんで続く。
前方にある台座に、女の子が寝ている。
ルーパだ。
見覚えがあると思った。 これは、武がルーパを救い出すシーンだ。
それがいま、巻きもどしたビデオを再生するかのように、真悟たちの前で繰りひろげられている。
亜空間では、こういうこともあるらしい。
真悟は思う。自分たちが戦闘フィールドで戦っているとき、その外にいるアリッサは、こんな感じで自分たちの戦いを見ているのだろうか。
ルーパは、自分を救ってくれた武をはじめて見る。
──あの人が……
武は台座に寝ているルーパを抱きあげると、微笑みながらルーパにささやいた。
「君のお姉さんが、君を待ってる」
温かさを感じる優しい声だ。ルーパの目に涙が浮かび、こぼれ落ちる。
武が安心して、もどろうとした直後、事態は急変する。 いまの真悟たちにとっては、あまり思い出したくもない忌々しい記憶だ。
過去の自分たちが、敵との戦闘を再現する。
武の背後から襲いかかる敵。
必死でルーパを受けとる美希。
俊敏な動きで、武を助けようとする桃子。
その桃子の行動をよんでいたかのように、敵は彼女をも取り込もうとする。
真悟のウィンドカッターが、敵の動きを阻止する。
闇の奥にひっぱられる武を、桃子と真悟が追いかける。追いつきそうになったとき、武との距離が一気にひらいた。
桃子は、ここで足を止めたのだ。そのときの自分を見ていた桃子は、ギリッと歯ぎしりをする。
──あのとき、わたしがあきらめなければ……
ここから、真悟の猛追がはじまる。
遠距離魔法がことごとく敵に命中し、敵の動きが止まる。
ふたたび駆け出した桃子が、武を射程にとらえた。
だが、武を救うはずだった桃子のひと振りは、虚しく空を斬る。
武は敵とともに闇に消え去り、真悟たちは、とりのこされた。
いま、再度目にする真悟の戦う姿に、マリナの胸が高鳴ってくる。
その真悟は、怒りと悔しさが心の中で渦巻いていた。
──次は、絶対に逃がさない!
亜空間を飛行していたみんなは、不意に速度を感じなくなる。一瞬、無重力の感覚に身体がつつまれると、足から着地したのを実感する。
まわりは、相変わらずみんなの姿だけはハッキリ見えるという、変な闇におおわれている。
アリッサが、みんなの方をふり向いていった。
「着いたわよ」




