見つかった異常
真悟たちは城を出る際、王様の家臣であるカラムから、ザノーアの使者がここへくるまでの手順を聞いた。
ザノーアの使者は、まずラディストスとザノーアを隔てる山に向かう。魔法で山を越えると平野部に降り立ち、そこから歩いてラディストスとの境界をめざして、山の麓に向かって行く。
そこに常駐しているラディストスの兵隊に挨拶をし、兵隊は使者がきたことを城に連絡する。
使者は、兵隊が用意している馬車にのって城まで送られる。城の門番に使者である身分を証したのち、王様のもとへ案内されるのだ。
帰りは、この逆の順序となる。今回の使者は、山の麓の兵隊と顔を合わせ、別れの挨拶をしたところまでは、ぶじであった。
異変が起きたのは、山のなかに入ってからだ。派遣された捜索隊も、山のなかで行方不明になっている。
ラントスの街を出た真悟たちは、ラディストスとザノーアを隔てる険しい山の麓をめざす。
山のなかに入っては行くが、山を越えることはない。越えるまでが問題なのだ。
使者が魔法を使ってこちら側に降り立った場所は、ザノーアに帰るときに、ふたたび立ちよる場所でもある。
だが、数ある平野部のなかで、使者がどこに降り立つのか、そこまではわからない。
王様から派遣された捜索隊は、おおよその見当をつけて使者を探していたと思われる。広場のような平野部がところどころ点在し、綺麗な花が咲いていたりする。
真悟たちは、とりあえずその平野部を調べてみようと考える。
山の麓にたどり着いた真悟たちは、一旦その足を止めて、みんなで円をつくるように向きあう。
頭の中で地図のデータを呼び出し、拡大する。広場のような平野部がどこにあるかを確認するのだ。その場所は、地図では、あちこちに白っぽく表示されている。
平野部まで獣道が続いているが、途中で何度も枝分かれしている。
美希が両手を腰にあてると、口をひらいた。
「地図で確認すれば、迷うことはないわね」
彼女は、みんなの顔を見ながら指示するようにいった。
「じゃあ、片っ端から調べるわよ。まずは、ここから一番近いところからね」
一行はモンスターを警戒しながら、獣道を慎重に進んで行く。バグの原因が、ゲームのシナリオには関係ないモンスターだとすると、そのモンスターは戦闘フィールドに移行しないまま襲ってくるかもしれない。
最初の平野部にたどり着いた真悟たちは、あたりを見渡す。捜索隊もここに足を運んでいたようで、それらしい形跡が認められる。
だが、それ以外は芝生のような草ぐさがひろがっているだけで、なにもない。
さらに北に進む。その平野部も、同じような感じだった。
真悟は地図のデータを呼び出す。この広場から右と左、双方に白っぽい部分が点在している。
「次は、どっちに行きますか?」
右に行くと、バンデーバの国からやってくるモンスターと、はちあわせするかもしれない。使者も捜索隊も、モンスターに襲われた公算が高いように、みんなには思われる。
それなら、と桃子が提案する。
「右に行けばどうだ?」
桃子の意見に、武も同感だ。真悟とマリナは、決まったことにしたがうつもりでいて、アリッサはなにもいわない。
だが、美希は右へ行くのに疑問を感じる。
「ザノーアの使者は、わざわざ危険なルートを選ぼうとするかしら?」
もっと安全な選択を心がけると思うのだ。桃子が美希の考えに感心する。
「確かに、そうだな」
みんなは、左へ行くことに決めて足を進ませるのだった。
次の平野部まで、あと半分というところまできたとき、先頭を歩いていた桃子が急に足を止める。すぐ後ろを歩いていた美希が、桃子の背中にぶつかりそうになった。
列の最後にいた武が、声をかける。
「どうした?」
桃子はなにもいわず、右に視線を移す。桃子がじっと見る先には、なにがあるとも思えない。しかし、彼女はそこから目を離そうとはしない。
──変だ……
桃子の感性が、異変を告げている。彼女の身体から、ピリッとした雰囲気が漂う。
みんなが静かに桃子を見守っていると、彼女は右手にもっている槍を、自分が見つめる方向へゆっくりと突きだした。
すると──
「!」
みんなは驚き、息をのんだ。槍の先が、空間のある位置で切りとられたかのように消えてゆく。
真悟たちは、自分の目を疑った。槍をひっこめると、消えていた刃の部分があらわれる。
まるで、異次元トンネルの入口に槍を突っこんだ感じである。
一番びっくりしたのは、アリッサだ。
「ど、どうして?」
みんなの案内役であり、この世界のシステム監視役でもある彼女は、いま自分が目にした事実にショックをうける。
この場所は、みんなが見たように明らかに異常を呈している。しかし、アリッサのなかでは、いまもシステムの異常は感知されていないのだ。
──どういうこと?
理解不能の現実が、アリッサを混乱させる。
そんなアリッサをよそに、真悟たちはこれからどうするかの決断に迫る。といっても、すでに答えは出ているようなものだ。
武が胸のまえで腕を組んで、みんなの顔を見ながらいった。
「異次元トンネルか。じゃあ、入ってみるか」
アリッサは武の言葉にハッとし、顔を上げてなにかを話そうとする。
そのとき、アリッサよりも真悟が先に口をひらいた。
「アリッサ、ほかの場所を調べても、行方不明になった人たちは見つからないと思う」
おそらく、真悟のいうとおりにちがいない。
もっとも怪しい場所は、アリッサが異常として感知できないこの場所だ。それ以外にあるとは思えない。
だが、どれほどの危険が待ち受けているかわからない。
アリッサは、しばらく沈思黙考する。今回、いままでにない強力なメンバーが集まってきた。これほどのメンバーで冒険をするのは、たぶんもう二度とないだろう。
──冒険を最後までクリアできる、最後のチャンスかも……
真悟たちには、これ以上、得体のしれないことに深入りさせたくないのが、アリッサの本音である。
しかし、冒険の主人公はアリッサではなく、彼らなのだ。
「わかったわ」
決心したアリッサは、みんなに伝える。
「なにが起きるかわからないから、十分に気をつけて。わたしが先頭に立つから、いい?」
真悟たちはうなずいて、気をひきしめる。
アリッサは異次元トンネルの入口と思える場所に近づくと、ゆっくりと右手をのばす。アリッサの手が、ある位置で吸い込まれるように音もたてずに消えてゆく。
──わたしは……
アリッサの頭の中で、様々な思考がめまぐるしく交差する。
なぜ、この異常な状況を、自分は感知できないのか。この異次元トンネルの先は、どこにつながっているのか。
自分たちを待っているのは、なにか。招かれざる侵入者は、いったい何者なのか。
真悟たちが危機に瀕したとき、戦う手段をもたない自分は、みんなを救うことができるのか。
アリッサを悩ませる想いが、彼女のなかで駆けめぐる。しかし、アリッサは立ち止まるより、前に進むことを選んだ。
アリッサは様々な想いを胸に、その小さな身体を、未知なる世界へ飛び込ませるのだった。




