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ローデス  作者: 左門正利
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結ばれた絆

 学校は授業が終わり、なぎなた部のみんなが練習に励んでいるときだった。

 そこへ、学生服を着た桃子がひょっこり姿をあらわす。


 主将の嘉野と目が合った。


「廿橋?」


 嘉野が、あわてたように桃子の方へ近よって行く。なぎなた部の一年生から、朝は学校へきていたが、すぐに先生たちに帰されたといっていたので、ちょっと気になっていた。


 他の部員たちも嘉野に続き、みんなが桃子のまわりに集まってくる。

 彼女たちは、桃子の腫れぼったい顔を見て驚いた。


 嘉野が、思わずたずねる。


「どうしたんだ、廿橋?」


 桃子は答えた。


「母上から、おまえが迷惑をかけた先輩たちに謝ってきなさいといわれました」


 嘉野は、桃子に顔がそこまで腫れあがっている理由を訊いたつもりだったが、返ってきた桃子の言葉に、なにが起きたのかすぐに理解できた。


 背筋が凍るような感覚を、みんなが味わう。桃子の実力に嫉妬し、彼女を憎む先輩も少なからずいたのだが、いまの桃子を見るとさすがに気の毒に思う。


 桃子はその場で両ひざを折り、床に手をついて先輩たちに頭をさげた。


「すみませんでした」


 そんな桃子に、嘉野が声をかける。


「顔をあげろ、廿橋」


 怒った声ではなく、優しい声だ。いろいろと罵倒されるのを覚悟していた桃子だった。

 しかし、嘉野の顔を見ると、そういう雰囲気はまったく感じられない。


「まあ、個人戦に出られなかったのは、確かに残念だが」


 嘉野はそういったあと、桃子に軽く微笑むのだった。


「おまえが周比華の連中に、ひと泡ふかせてやったのは嬉しかったぞ」


 桃子の先輩たちにとって、周比華女学院の評判はかなり悪いようで、彼女たちはせきを切ったように、周比華の選手たちをボロクソに叩きまくるのだった。


「あいつら、えらそうなんだよね」

「いつも、他の学校を見下してるもんね」

「全国大会では、本当に一回戦で負けるくせにね」


 話しているうちに、あそこの学校は偏差値が低いとか、制服がダサいなど、どうでもよい話が出てくる。

 はては、周比華女学院の生徒とつきあっている彼氏は、頭が悪そうだなどと、なぎなたには全然関係のない話で盛りあがるのだった。


 いま、この場に顧問の先生がいないから良いようなものの、こんな話が先生の耳に入れば、どれほど怒られることか。

 しかし先輩たちは、そんなことなど、まったく気にもしていない。


 桃子は、そういうみんなの話を唖然となって聞いているのだった。


 桃子よりも先輩たちの方が、よほど腹にすえかねたものがあったのだろう。

 彼女たちは、実力に勝る周比華の選手たちに、なすすべがなかった。さげすむ目で見られようがなにをいわれようが、弱者である彼女たちは、じっと堪えるしかなかったのだ。


「そういうことだ、廿橋」


 みんなと周比華女学院の悪口をいいあっていた嘉野が、桃子の方に顔を向ける。


「まあ、この先、自分たちは試合に出れるかどうかはわからないが」


 次の大会に出場できなければ、三年生はそのまま引退である。

 しかし、嘉野は笑顔でいいきった。


「わたしたちのことは、もう気にするな」


 嘉野の優しさが、桃子の胸に痛いほどに突きささる。

 いままで、どれほど辛くて厳しい稽古でも泣くことがなかった桃子の目に、涙があふれる。



 桃子の話をここまで聞いていたマリナが、涙ぐむ。

 マリナにつられて、武も目をうるませる。


「いい話じゃねえか……ぐすっ」


 目をふせる桃子に当時の心境がよみがえり、胸が痛む。


「あのとき、わたしは自分がなにをやってしまったのか、はじめてわかったんだ」


 その後、大久万女子学園なぎなた部はどうなったかというと、まず連盟がいろいろと調べるにあたり、周比華女学院にも非があることを突きとめる。


 桃子たちは、あの大会では先鋒しか試合をすることがかなわず、個人戦は全員が出場不可という重い処分を、すでに受けている。

 そうした事実をもとに、連盟はなぎなた部に対して、的確だと思える判断をくだした。


「次回に行われる大会には、大久万女子学園なぎなた部の出場を許可する」


 なぎなた部のみんなは喜んだ。桃子は心底、ホッとした。

 自分のせいで、先輩たちが大会に出場できずにそのまま引退となれば、悔やんでも悔やみきれない。


 ──もう、みんなに迷惑はかけられない


 出場停止は免れたが、桃子は自分の意思で、一年間すべての試合に出場することを自粛する。それが、桃子が一年ものあいだ、大会に姿をあらわさなかった理由である。


 桃子は、ひとつため息をつくと、真悟たちに告げる。


「わたしは、こういう人間なんだ」


 その瞳には、悲しさがあふれている。


「ひとりよがりな自分といっしょにいると、みんなに迷惑がかかる。わたしは、独りでいた方が……」


 桃子が話している途中で、美希があきれたような声を出した。


「あんた、バカねえ」


 いきなり人を馬鹿よばわりする美希に、真悟はハラハラする。

 そんな真悟にはおかまいなしに、美希は言葉を続けるのだった。


「そんなこと、全然気にしなくていいのよ。しょせん、ゲームの世界だし」


 武がうなずく。


「おう、美希のいうとおりだぞ」


 そういう武の顔を、美希がじっと見る。


「武なんか、空手の大会でいつも大事なところで反則負けになって、みんなに迷惑かけてるし」


 武が言葉をつまらせる。


「ま、まあ、否定はしねえけど」


 武が出場する空手の大会は、顔面への打撃が禁止されている。

 それなのに、武は毎回、大事なところで相手の顔面にモロに突きを入れて吹っ飛ばし、反則負けになるのだ。


 中学生のときから、ずっとそうだった。

 県大会の決勝戦までは大活躍する武である。しかし、決勝戦では必ず顔面攻撃で相手を病院送りにしてしまい、全国大会への切符をことごとく逃しているのだ。


 美希の声に、力が入る。


「わたしたちは、みんながみんな、迷惑をかけながら生きてるようなものでしょう」


 桃子は美希の言葉に、じっと耳をかたむける。


「でも、その代わりに、困ってる人がいたら助けてあげればいいじゃない」

「………」

「あんた、実際にそうしてるんじゃないの?」


 なぎなた部においては、確かにそうだ。大久万女子学園なぎなた部は、桃子のおかげで着実に強くなった。

 大会では、せいぜい二回戦に進むのがやっとだったなぎなた部は、桃子が入部してからは、県大会ベスト4まで勝ち進むほどに成長した。


 強くなりたいと願う仲間たちに、桃子は実演をまじえて個々に助言を与え、みんなの想いに応えてきた。


 この異世界で、独りでやっていこうと思っていた桃子の心が、ユラッと揺らぐ。


 そこへ、美希の想いが、より添ってくる。


「あんたが仲間になってくれると、助かるんだけどねえ。真悟は、こんなんだし」


 胸のまえで腕を組んでいる武が、首をたてにふった。


「うん。おまえが仲間になれば、俺も戦いやすくなるんだがな。真悟は、こんなんだし」


 さらに、マリナが続く。


「桃子さんには、わたしたちといっしょにいてほしいです。お願いします。久松くんは、こんなんだし」


 散々な、いわれようの真悟である。


 ──ちょっと、ひどすぎるんじゃないの!


 それを口に出す勇気がない真悟は、心の中で叫ぶことしかできない。実際、裸の女が敵としてあらわれた場合、真悟は戦うまえから終わっているといってよい。


 桃子は、みんなの苦労を察したかのように心を決めるのだった。


「わかった。おまえたちと行動をともにしよう。よろしく頼む」


 こうして、桃子がみんなの仲間に加わることになった。

 アリッサが、やれやれという顔をして、ため息をつく。


 なにか腑に落ちない真悟だが、桃子が仲間になり、みんなも喜んでいるので「ま、いいか」と気にしないことにしたのだった。



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