新たな仲間
本来、アリッサがミッションに加わって、みんなと行動をともにすることはない。
シナリオに狂いが生じるような異常事態が発生する以外に、アリッサがミッションに割り込んでくることはないのだ。
今回の場合、そのままにしておくと、システム全体にまで影響しかねない状態にあったのは確かだった。
北へ進むアリッサたちは、ラディストスとバンデーバの境界に近づいて行く。
バンデーバは、さまざまなモンスターたちがたむろし、モンスター同士が争いあう危険な世界区域だ。モンスターはときおり、ラディストスやもうひとつの世界区域であるザノーアに出没する。
一方、ラディストスやザノーアからバンデーバに向かう者は、めったにいない。
アリッサがみんなに告げる。
「もうすぐよ」
目的地まで、あとわずかに迫る。アリッサが道案内するので思ったほど時間はかからず、ぶじに目的地にたどり着くことができた。
そこでは、武よりひとまわり体格の大きいモンスターと、話に聞いていた槍の戦士が戦っていた。
戦士は真悟たちの方に背中を向けているので、顔が見えない。
意気ごむ武が声をあげる。
「あいつが俺たちの仲間か。ん、あいつ……?」
妙に違和感を覚える。それは真悟も同じだった。
「ん……んん?」
真悟たちに後ろ姿を見せている槍の戦士は、黒い髪を背中までのばしている。鍛えあげて洗練されたような身体は、腰周りの大きさにくらべてウエストがひきしまっていた。
真悟と武が目をパチパチさせながら、驚いた声を出す。
「ま、まさか」
「女か!」
別に不思議なことではない。真悟の遊ぶゲームでいえば、主人公のキャラの性別を、男ではなく女とするようなものだ。
それでも真悟は、自分の目の前でモンスターと戦っているのが女だということが、ちょっと信じられない。
真悟が、びっくりした顔をアリッサに向ける。
「アリッサ、あの戦士の人って」
「わたし、男だとはいってないわよ」
確かに、そのとおりだ。思いがけない現実に直面したみんなが、呆然としているなかで、アリッサがそんな彼らを正気にもどすかのように声を出した。
「もう一歩、足をふみ出せば、戦闘フィールドに移行するわよ」
アリッサの言葉に、ハッと目が覚めた顔をするみんなは、おのおのその足をふみ出して戦闘フィールドに移行する。
頭の中にデータを呼びだす。モンスターの体力は、三分の一ほど削られている。
一方、槍の戦士は、すでに体力の三分の二以上を奪われている。
美希の顔が、ひきつってくる。
「こ、これ、危ないんじゃないの?」
すかさず、武がモンスターに向かって走りだした。
「加勢するぜ!」
槍の戦士が相手をしているモンスターは、狼の頭をした熊のようなモンスターだ。
見るからにパワーがありそうに思える。その一撃を食らうと、美希やマリナは一気に体力をもっていかれそうだ。
だが、女戦士の槍さばきも、みごとである。モンスターの左肩から袈裟斬りに槍をふるい、返す刃で胴体を薙ぐ。
その槍を上段に構えたと思えば、槍は弧をえがくようにして敵の足を斬る。
マリナが目をみはる。
──あの動きは?
どこかで見たことのある動作が、マリナの記憶を呼び起こそうとする。
女戦士は善戦しているが、モンスターの体力は思うように減らない。モンスターが吠えると同時に、強烈な右フックが戦士に襲いかかる。
彼女がそれを槍でなんとか防いだ、そのときだった。彼女の背後から、武がモンスターに狙いをさだめて、飛び蹴りを放つ。
「おりゃあっ」
ドガッと、豪快な蹴りがモンスターの顔面にヒットする。女戦士は驚いた顔をして、自分の右側に着地する武の方をふり向いた。
武はかまわず、修得したばかりのエルボーアッパー・スピンキックのスキルを発動する。
スキル攻撃の威力は絶大だ。右肘打ちから左アッパー、さらに右足での後ろ回し蹴りがヒットした瞬間に、モンスターの体力がのこりわずかとなる。
彼らの背後から、真悟の声がひびいてくる。
「ふせてください!」
武と戦士の二人は、その声で身体をしゃがませる。直後に、真悟のスキル攻撃ファイヤーボールが、モンスターに炸裂する。
モンスターは、あっという間に体力がゼロになり、分子レベルで分解すると、宝箱をのこして消滅するのだった。
槍の戦士より数歩前に出ている武は、彼女の方をふり向いた。
「おまえが、俺たちの仲間か」
戦士は確かに女だった。盗賊どもを全滅させるほど強いので、胸はペッタンコだと思ったところが、全然ちがった。
胸のサイズに合わせた鎧が、現実に存在するかどうかはわからないが、そのサイズがピッタリなら巨乳といってよい。
因みに、美希もマリナも胸は大きく、貧乳キャラはひとりもいない。
黒い前髪を顔の前でそろえてカットしている彼女は、やはりブサイクではなかった。
切れ長の黒い目が、意志の強さを感じさせる。細い眉が、その目によく似合っている。
白い肌が、強さのなかにも美しさをひき立てている。
真悟たちが二人の方へ近よってくる。しかし、戦士の次のひと言が、真悟たちの足を止めた。
「わたしに仲間は必要ない」
冷たくひびくその言葉に、マリナは恐さを感じた。戦士は背中を向けて顔が見えないため、よけいに恐い。
そこへ、アリッサが足を進ませ、真悟だけがいっしょについて行く。
アリッサが、戦士の後ろから声をかけた。
「相変わらずね」
アリッサの声に、戦士がふり返る。真悟がはじめて見る彼女は、なかなかの美人だ。
真悟は思った。
──重装備だな
武にくらべると、彼女の装備は頑丈で重そうだ。胴体をおおう鎧はもちろん、武にはない肩当てが目立つ。
さらに、両腕には籠手をはめている。
腰から下に目を移せば、丈夫そうな前掛けが膝下までとどき、後ろも同じような感じで彼女の下半身を隠している。材質は布ではなく、なにかの皮だろうか。
──足にも防具があるのか?
彼女の足には、脛をガードすべく脛当てを装着している。
足先を見れば、武と同じく学校の上履きじみた靴を履いている。
かなり重量感のある装備だが、彼女自身はまったく重さを感じていない。現実的には戦闘で邪魔になりそうな肩当ても、全然気にしていない。
女性キャラであるせいか、背の高さは武や真悟よりも低く設定されているようだ。
まあ、ゲームならではの設定として、そのようにキャラが作られているのだろう。そうだとわかっていても、巨乳の美人戦士を目の当たりにした真悟は、ドキドキする。
全体的に緑色の装備で身をかためる彼女が、アリッサを見おろす。
「独りでいいと、いったのに」
「そういうわけには、いかないわ。あなた、ほとんど体力を回復しようとしないじゃない」
この二人は、真悟たちの知らないところで、本当に会っていた。
戦士は踵をかえすと、宝箱の方へ歩みよる。
「とにかく、わたしは目的を果たす」
彼女は宝箱を開けて、中を確認する。取り返すべき短剣が、そこに入っていた。
彼女はそれを亜空間ポケットに収容する。その直後、みんなは戦闘フィールドから、もとの場所に立ちかえる。
アリッサが彼女を見上げる。
「リザーレの病院へ行くんでしょ?」
「そうだ」
「それなら、みんなといっしょに……」
「必要ない」
なぜだかわからないが、彼女は頑なに真悟たちを拒む。
彼女の態度に美希がムッとし、思わず声に出した。
「なにが気に入らないのかしらないけど、みんなで行けばいいじゃない」
マリナが、おそるおそる訊いてみる。
「リザーレの病院がどこにあるのか、わかるのですか?」
戦士はまだ「仲間」だと認証されていないため、彼女には地図のデータが使えない。
鋭い目をしている戦士は、マリナに答えた。
「病院がどこにあるかは、街の人に聞けばわかる」
正論ではあるのだが、彼女の態度はしっくりこない。
とりつく島もないような彼女を、本当に仲間にすることができるのか。真悟の頭に不安がよぎる。
彼女は、うんざりした様子でいった。
「もう、わたしにかかわらないでくれ」
戦士はみんなにそう告げると、真悟たちに背を向けて去って行こうとする。
──あれ?
真悟があわてて彼女に声をかける。
「あの」
聞く耳をもたない彼女は、そのまま前に向かって進んで行く。だが、真悟は話した方が良いと思い、言葉を続けるのだった。
「そっちはリザーレの街とは逆方向なので、どんどん離れていきますよ」
戦士の足が、ピタッと止まる。そのまま数秒の静寂が、まわりの空気を支配する。
異様な沈黙を破ったのは、武だった。
「おまえ、方向オンチだろ」
戦士が顔を赤くして、ふり返った。
「う、うるさいっ」
武に続いて、真悟がよけいなことをいう。
「まあ、女の人はそういう人が多いみたいだから、あまり気にしなくていいですよ」
「だ、だまれ!」
彼女の顔が、さらに湯気が出そうなほど真っ赤になる。
「と、とにかくわたしは、独りでいい。仲間など……」
そのときだった。いきなり、ゴオッと予期せぬ突風が吹きあれる。
戦士の前掛けが舞い上がり、下着を身につけていないスッポンポンの下半身が、あらわになる。
武が鼻血を垂らしながら、つぶやいた。
「だから……なんでパンツ、はいてないんだよ……」
そして、武のそばにいる真悟は、ガクッと両膝を落として左手を地につき、血がドバドバと吹き出る鼻を右手で必死に押さえるのだった。




