グスタの頼み
「ああ、君か。デレク」
言葉を返したグスタに、デレクは話しかける。
「グスタ、彼らがまえに話していた勇者たちだ。君から話を聞きたいらしい」
「わかった。みなさん、よくきてくれました。わたしはグスタ、レグールの町の住人です」
グスタという男は、頭も手も足も包帯でぐるぐる巻きにされ、見るからに痛々しい。五日ほどまえに、盗賊に襲われたという。
武が顔をしかめる。
「ひでえケガだな」
「ケガに関しては、もう峠を越えました。それよりも……」
身体のケガよりも、大事なことがあるというのか?
真悟たちは、グスタの話に耳をかたむける。
「ラントスの王子に献上する短剣が、盗賊に奪われてしまったのです」
グスタが、事のあらましを最初からお伝えしましょうと、まずは自分とラントスの王子との関係から語りはじめる。
リザーレの街から北へ進めば、この国ラディストスの首都ラントスがある。
レグールの町は、ラントスの東に位置している。
レグールには多くの鍛冶職人が存在し、さまざまな武器や防具などを作っている。グスタもそういう職人の一人で、彼はこの国の王子から短剣を作るように頼まれていた。
その短剣はどちらかというと、実用的な切れ味よりも、見てくれの装飾に力を入れていた。これを王子に献上することにより、レグールの町は、国から大きな援助を受けることができるのである。
「短剣が完成し、首都ラントスへ向かう途中で、わたしは盗賊どもに襲われたのです」
五日まえの出来事だ。ラントスへ出発したのは、グスタをふくむ五人だった。
盗賊は十人ぐらいの人数で襲いかかり、グスタたちは応戦したものの、多勢に無勢であった。
短剣は奪われ、みんなは傷つき倒れてしまった。
それからどれほどの時間が経ったか、みんなが倒れているところへ、槍をもった見知らぬ戦士が通りかかる。戦士は、道行く人をつかまえて「救護隊を呼ぶように」と、伝えてくれたらしい。
「そうして、わたしたちはこの病院に入院して、ほかの四人はいまも集中治療室で手当てを受けています」
美希がグスタにたずねた。
「槍の戦士はどうしたの?」
グスタの顔に陰りがさす。
「わたしから事情を聞いた戦士は『短剣は、必ず取り返す』といって、盗賊を追って行きました」
盗賊どもの根城は、レグールの北にある森の奥にあると、以前から噂されている。
「槍をもった戦士は、たった一人でその森に向かったようなのです」
武が目を見開いて問いただした。
「一人でか?」
「はい。盗賊の根城には、少なくとも二十人はいると思われるのですが」
心もとない話だ。
「そんなところに一人で飛び込んで行くのは、あまりにも無謀だと思います」
話を聞くみんなも同じように思っている。
グスタにすれば、もはや頼りになるのは、目の前にいる真悟たちしかいない。
「どうか、盗賊の根城に向かった戦士と協力して、短剣を取りもどしてくれませんか」
戦いに行った戦士には、自分のために無茶をさせて危険な目にあわせたくない。グスタは、そう思っている。
デレクも頭をさげる。
「わたしからも、お願いする。グスタの頼みを聞いてやってくれ」
みんなは断る気など、さらさらない。美希がみんなを代表して返事をする。
「わかったわ。わたしたちにまかせて」
グスタの顔に笑みがこぼれる。
「ありがとう。無力なわたしに代わって君たちが力を貸してくれるなら、あの戦士も……ん?」
不意に、グスタは真悟のそばにいる女の子の存在に気づいた。
「き、君は!」
グスタは目を丸くしながら、驚きの声をあげる。
「あのとき、槍の戦士といっしょにいた女の子だよね。なぜここに?」
「気にしないで。わたしはみんなを、あの人のところへ連れて行くために、ここにいるんだから」
真悟たちは、まさかアリッサとグスタが、面識のある関係だったとは思ってもみなかった。
戦士の方は盗賊を追って行ったが、この少女は救護隊がくるまで、グスタたちといっしょにいたのだった。
真悟がアリッサにたずねる。
「アリッサ、グスタさんのことを知っているの?」
「もうひとりのわたしが、槍の戦士といっしょにいたのよ」
「もうひとりのアリッサ?」
「まあ、いってみれば、わたしの分身ね」
武が感嘆する。
「すげーな。分身の術でも使えるのか?」
「システム的に、ちょっとね」
アリッサは、みんなに催促する。
「はやく盗賊の根城に急ぎましょう」
真悟たちは、グスタとデレクから「よろしく頼む」といわれ、病院をあとにするのだった。




