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ローデス  作者: 左門正利
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リザーレの街

 キノッコ村を拠点とすると、確かにリザーレの方がレトロットよりも近い。


 リザーレにたどり着いた真悟たちは、街の活気に驚いた。店という店が立ちならび、多くの買い物客でにぎわっている。

 とにかく、人が多い。この世界も真悟たちの世界と同じく、髪の色や目の色、肌の色がちがう、さまざまな人種の人たちがいる。


 真悟が呆気にとられた顔をして、思っていることを声に出した。


「都会ですね」


 美希が真面目な顔つきになる。


「みんなバラバラにならずに、いっしょの方がいいわね」


 離ればなれになると、やっかいなことになりそうだ。学級委員長の肩書きは、ダテじゃない。


「買い物は、優先すべきものから買っていきましょう」


 頼りになるお姉さんだ。みんなは美希の考えに同意する。

 しかし美希は、ゲームのことはよくわからない。そんな彼女が、真悟の方をふり向いた。


「いま、わたしたちにいちばん大事な買い物って、なんだと思う?」

「まあ、やはり服は替えた方がいいですね。それから」


 この機会に、手に入れたい物がある。


「スキルバーがほしいですね。まず、値段がどのくらいか見てみたいです」


 SPが回復するスキルバーは、簡単に手にはいるとは思えないアイテムだ。それだけに、資金に余裕があるいまのうちに、できるだけ多く蓄えておきたいと真悟は思う。


「わかったわ。じゃあ、その店に行きましょう」


 みんなは、スキルバーを売っている店を探しはじめる。

 データの地図を使って、その店を探しあてた真悟たちだが、売っているスキルバーの値段を見たとたんに目を丸くする。


 美希が叫んだ。


「た、高っ!」


 真悟が思っていたよりも、はるかに高い価格に、彼らは愕然となる。


 ──こ、こんなに高かったのか?


 真悟の顔が青くなる。いちばん安いスキルバーは、いまマリナがあずかっているバナナ味だ。それを三本買えば、真悟たちの所持金は底をついてしまう。

 割引券など、たいして役に立たない。


 SPが全快するキャビア味はあまりに高価で、まったく手がとどかない。

 みんなは、スキルバーがいかに貴重なアイテムかを思い知らされる。


 美希が、困惑した顔を真悟に向ける。


「ねえ、どうする?」


 スキルバー三本で他の買い物をあきらめるのは、どう考えても愚かだ。


「今回は、やめておきましょう」


 真悟は、そういうしかなかった。


 みんなは、まず服を買うことを決める。服といっても、みんなの着る服は防御をかねている。

 たとえば、真悟やマリナであれば、魔法攻撃に対して耐性のある防御服となるのだ。


 ただ、自分のレベルより高いレベルの武具は、装備することができないシステムになっている。

 レベル10の彼らは、自分のレベルに合った装備を売っている店を、探さなければならない。


 マリナが「15・モード」という大きな看板を掲げた店を指さした。


「久松くん、あれがそうじゃない?」

「うん、行ってみようか」


 真悟たち一行がその店に入ると、予想以上に広い店内にびっくりする。

 店の名前からして、レベル15までのキャラを対象とした装備を売っているような気がした。


 さすがはマリナ、ビンゴだった。店のなかは、職種別にコーナーがふり分けられている。


 武が、武闘家専用のコーナーへ勇んでゆく。


「ほう、なかなか良さそうな空手着があるじゃねえか」

「へい、まいど!」


 店の主人はNPC、ノン・プレイヤー・キャラクターだ。


 武闘家の服は、どれも赤色を基調としている。

 武は、自分のレベルに合った空手着を試着してみる。すると、防御ステータスのレベルがアップする。


「よし、これを買うぜ。値段はいくらだ?」

「兄さん、おおきに!」


 店主が精算しようとすると、マリナが「待ってください」と呼び止めた。


「割引券があるので、これを」

「おお、マリナちゃん、忘れてたよ」


 武と同じように全員が新しい服に着替えると、おのおの防御力がアップする。


 美希が、とても嬉しそうにしている。今回も、ビキニタイプでミニスカートだ。

 それを見たアリッサが、首をひねっている。そんなアリッサの姿が、真悟の視界の隅にはいった。


 ──アリッサ?


 アリッサの様子が気になった真悟は、彼女に声をかける。


「アリッサ、どうかしたの?」

「うん。美希ちゃんのあの服は、開発段階でボツになったはずだけど」

「え、なんで?」

「あなたたちの世界では、ゲームの攻略本があるでしょ」

「うん」

「その攻略本に載せるキャラクターのイラストが、問題になったみたいでね」


 アリッサの話を聞くと、いまの美希の格好だと、エッチの度が過ぎるために不採用になったらしい。

 ゆえに、上半身のビキニはタンクトップに、ミニスカートはズボンに変更することになったという。


「じゃあ、なんで美希先輩が着ている服が、店で売っているの?」


 アリッサが、玉ねぎを生でかじったような渋い顔をする。


「考えられるのは……」


 アリッサが胸のまえで腕を組んだ。


「美希ちゃんの強烈な想いが、ああいう服を強引に復活させた、ていうことかな」


 真悟とアリッサの会話を聞いていた武は、眉間にシワをよせるなり、右手の人差し指をビシッと美希に向けるのだった。


「誰よりもおめえの方が、そういう格好を気にいってるんじゃねえか!」

「う、うるさいわねっ」


 顔を赤くしながら、あたふたしている美希は、あわてたようにいった。


「ほ、ほら、みんなほかに、なにか買う物があるんじゃないの?」


 いろいろと、ごまかしているように聞こえないでもない。が、この際、服だけでなく武器も新しいものに買い替えたいのは確かだ。


 この「15・モード」の店内には、武器も売っているのだが、めぼしい武器は見当たらない。


 真悟が進言する。


「他の店に行きますか」


 武が「おまえにまかせるよ」といい、美希とマリナがうなずいた。


 そうして探しあてた武器専門店で、みんなが自分に見合う武器を物色する。


 結局、武は真拳グローブ、真悟とマリナは新たな杖、美希は短剣を買うことにした。

 これで、所持金はあとわずかとなった。


 すでに杖を買ったマリナが、店の人に呼び止められる。


「お嬢さん、おひとつどうだい?」


 その店員は、アイスピックのような武器をならべていた。

 毒針である。のこり少ない所持金だが、毒針を買うぐらいの余裕はある。


 マリナは、自分がその毒針を使うような状況は、まずないと思った。だが、毒針が敵の急所にさされば、一度の攻撃だけで敵を倒せるのだ。


 毒針という武器は、何度も繰り返して使用できる武器ではない。一度きりしか使用できない、使い捨てアイテムだ。


 マリナがどうしようかと悩んでいると、真悟がマリナの迷いを吹っ切るように、よこから声をかける。


「雪本は、もっていた方がいいかもね」


 マリナは、真悟のそのひと言で毒針を買うことを決心すると、みんなの了解を得て、少なくなった資金で毒針を手に入れるのだった。


 みんなが店を出たとき、武が急に足をとめて腕を組み、なにかを思い出そうとする。


「ええと、この街でほかに、なにかやることがあったような……」


 武のつぶやきを聞いたマリナが、優しく答える。


「パナンさんから、助けようとしてくれた有志たちにお礼をしてくれと、頼まれています」

「ああ、そうだった。病院へ行くんだったな」


 真悟たちは、ふたたび頭の中にデータを呼びこみ、地図を機能させる。


 レトロットの有志が入院している病院は、すぐに見つかった。その場所まで行くと、まわりの建物にくらべて、ひときわ大きな白い建物が目についた。


 それは、真悟たちの世界でもちょっと見られないほど大きかった。


 これが自分たちの目的とする病院なのだと、考えなくてもわかるような建物だ。


 十階建ての病院を見上げる武が、誰にいうでもなくつぶやいた。


「なかなか、でかいな」


 美希の言葉が、あとを追う。


「街の規模が、わかるというものね」


 実際に、そのとおりだ。真悟たちは、この先レベルが上がるにつれて装備を整えるために、毎日にぎわうこの大きな街へ、何度も足をはこぶことになる。


 とにかく、病院のなかへ入った真悟たちは、受付でレトロットの有志たちの病室を教えてもらい、そこまで進んで行く。


 彼らが入院している部屋のドアは、開けっ放しになっている。そこには六つのベッドがあり、すべてのベッドが負傷した有志たちに占領されていた。


 有志の一人が、病室に入ってきた真悟たちに気づく。


「おお、あんたたち!」


 その声に、ベッドで寝ていたみんなが真悟たちの方へ顔を向ける。


「わざわざ見舞いにきてくれたのかい?」


 美希がそれに答える。


「パナンおじいちゃんから『助けにきてくれて、ありがとう』と、伝えてくれっていわれたのよ」


 なにはともあれ、ベッドで休んでいたみんなは、真悟たちが立ちよってくれたことを喜んだ。


 デレクという中年の有志が、思い出したように声をあげる。


「ああ、そうだ。あんたたちに、俺の知人のことで頼みがあるんだ」


 その瞳から、かなり深刻な問題が起きていることが察知できる。


「力になってくれないか」


 そういうふうに頼まれると、断る気はまったく起きない武である。


「くわしい話を聞かせてくれないか?」

「わかった。俺の知人はグスタというんだが、彼から直接、話を聞いてくれ」


 ベッドの上で真悟たちと話をしていたデレクは、ベッドから降りて松葉杖を手にすると、真悟たちのそばまでくる。


「グスタが入院しているのは、二つ向こうの部屋だ。ついてきてくれ」


 真悟たちは、松葉杖を使って病室を移動する彼のあとに続く。


 目的の病室にたどり着くと、真悟たちを案内する彼は、奥のベッドに寝ている患者に向かって声をかける。


「グスタ、起きてるか? 」


 働き盛りの年齢に思える男が上半身を起こし、こちらに顔を向けた。




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