より道
キノッコ村からレトロットの町に帰った真悟たちは、ムーファンをムーレンさんの家に、ぶじに送りとどけた。
「おばあちゃん!」
「おお、ムーファン」
二人の再会を、真悟たちは喜んだ。
ムーファンは、パナンじいさんからの伝言をムーレンさんに伝える。
「おばあちゃん、おじいちゃんがね……」
ムーレンさんは、うなずきながら「そうじゃのう」といって、なにかを探しはじめた。
「あった、あった」
ムーレンさんが見つけたのは、卒業証書でも入れるような円筒形をしたものだ。
それを取り出すなり、真悟たちの方へもってゆく。
「あんたたちへのお礼に、これをあげよう」
ムーレンさんはそういって、みんなの前に古びた筒を差し出した。
美希が、その円筒形のものをムーレンさんから受けとった。軽いのだが頑丈な感じがして、よほど大事なものが入っているみたいだ。
全体的に黒く、象形文字のようなものが金色で螺旋状にきざまれている。妙にカビ臭くて、おせじにも綺麗だとはいいがたい。
「おばあちゃん、これはなあに?」
たずねる美希に、ムーレンさんは穏やかな微笑みをかえす。
「開けてみなされ」
美希が筒のふたをひき抜くと、中には紙が入っている。なんだろうと思いながら、その紙を取り出してひろげてみると
「あ!」
一同が声をあげる。それは、この世界をあらわした地図だった。
アリッサがみんなに笑顔を向ける。
「それが、ミッションコンプリートの報酬よ」
この世界で冒険するにあたって、地図は極めて重要なアイテムである。アリッサが、それに手をのばす。
「ちょっと貸して」
アリッサはそういうと、美希から地図を受けとった。
なにをするかと思えば、手にした地図を筒の中に入れて、アリッサ自身が亜空間ポケットに転送する。
「みんな、頭の中でデータを出してみて」
みんながアリッサのいうとおりにすると、そのデータに「地図」という新たな項目が追加されている。
これで、真悟たちはどこにいても、自分のデータから己の居場所を確認することができるようになった。
真悟は、地図の縮小機能を使って、世界の全体図をチェックする。
この世界の大陸は、だいたい逆三角形の形をしている。
アリッサの話によれば、大陸は東部、西部そして南部の、三つの世界区域に分けられる。
東部は、モンスターの住処となっている「バンデーバ」。
西部は、人間でもモンスターでもない異種人種の暮らす「ザノーア」。
そして南部「ラディストス」には、ふつうの人々が生活している。
いま、真悟たちがいるレトロットは、南部のラディストスにある。ラディストスは、ひとつの国といってもよい。
地図の拡大機能を使えば、ラディストスにある街や村をチェックできる。けっこう細かいところまで見れるので、なかなか便利だ。
みんなの格好を見ていたムーレンさんが、思ったことを伝える。
「その服は、新しいものに替えた方が良いでしょう。リザーレへ行きなされ」
リザーレという聞き覚えのあるひびきに、武がみんなの顔をうかがう。
「どこかで聞いたよな?」
美希が「もう忘れたの?」という顔をする。
「キノッコ村の近くの小屋よ。あんたがそこで聞いたんじゃない」
「あ、そうだった」
「まあ、確かに新しい服に替えた方が、いいかもね」
武の空手着はボロボロで、真悟の服もあちこちが焦げて穴があいている。
美希のビキニタイプは汚れて輝きがなく、マリナの白い服はシワシワのヨレヨレだ。
真悟がアリッサに問いかける。
「アリッサ、リザーレって、どんな街なの?」
「そこまでは教えられないの。ごめんなさい」
「ああ、わかったよ」
行ってからのお楽しみ、というわけだ。
アリッサは、あくまでこの世界のシステムに関する案内役なのだ。それ以外の、冒険のヒントにつながるようなことは、訊かれても答えられない。
真悟はみんなに告げる。
「次の目的地は、リザーレですね」
さっそく行こうということで、真悟たちはリザーレの街に向かって出発するのだった。
レトロットの町を出ると、すぐさまデータの項目にある地図を呼び出して確認する。
リザーレの街は、キノッコ村の北西に位置している。真悟たちはキノッコ村を経由して、リザーレをめざすことになる。
みんなはキノッコ村に行き着く途中で、レトロットの有志たちが手当てをしていた小屋に、もう一度立ちよってみる。
さすがに誰もいなかった。だが、小さなタンスの上に四枚の紙切れがあるのを、マリナが見つける。
「これ、なんでしょうか?」
それを見ると「割引券」と書いてある。
美希が一枚を手にとり、裏側を見た。
「『リザーレのすべてのお店で使用できます・共通割引券』だって。なんともいえないタイミングね」
割引券をゲットした真悟たちは、次にキノッコ村へ足をふみ入れる。
美希が真悟に声をかけた。
「あのおじいさんの所へ、行ってみる?」
真悟は、考えるまでもないという顔で美希に答えた。
「ええ、行ってみましょう」
以前に立ちよった場所をふたたび訪れたときは、もう一度、同じように話を聞くのがRPGの基本である。
みんなは真悟のひと言で、パナンじいさんの家に足を進めることにした。
そうして家の前までくると、美希が扉をノックする。
前回とはちがい、扉はなんの警戒もなく開かれた。美希たちの前に姿を見せたパナンじいさんは、感嘆の声をあげる。
「おお、あんたたちか。ようきなすった」
喜ぶパナンじいさんは、みんなを部屋のなかに招き入れる。外見からは不釣り合いなほど、部屋のなかは広かった。
真悟たちは、人数分の椅子が用意されているテーブルに案内される。
そこで座って待っているあいだに、家主がお茶を入れる準備にかかる。
マリナが、みんなの分のお茶を入れるのは大変だろうと、老人を手伝いに行く。
「お嬢ちゃんは、優しいのう」
武は、そういうパナンじいさんの言葉にうなずくと、となりに座っている美希をまじまじと見た。
「おまえとは大ちがい……」
バコッ
武の言葉にムッとした美希のパンチが、武の顔面にヒットする。
お茶がみんなに行きわたると、パナンじいさんも椅子に座り、口をひらいた。
「ムーファンも帰って、ひとりぼっちで寂しかったんじゃよ」
彼は、しみじみとそう語るのだった。年寄りの独り暮らしは、本当に寂しいらしい。
真悟たちのいきなりの訪問とはいえ、パナンじいさんは話し相手がきてくれて、うれしそうだ。
ふと、美希が聞くべきことに気づき、老人にたずねた。
「おじいちゃん、リザーレって、どんな街なの?」
「リザーレは、いろんなお店がいっぱいならぶ大きな街じゃ」
リザーレへ買い物に行けば、たいていの物はそろっているという。
服はもちろん、武器や薬なども売っていて、毎日多くの人でにぎわっている街だ。
「そうか、おまえさんたちは、リザーレへ買い物に行くのじゃな」
パナンじいさんはそういうと、なにか思い出したような顔をして、みんなを見渡した。
「おまえさんたち、リザーレに着いたら病院へよってくれんか」
武がけげんな顔をする。
「病院?」
「ムーファンを助けるためにレトロットからきた人たちが、ケガをして入院しとると聞いてな」
つまり、そのケガをした有志たちに、自分に代わってお礼を伝えてくれということだ。
「ああ、そういうことか。わかったよ、じいさん」
武がひき受ける返事をしたあと、マリナがパナンじいさんにたずねる。
「この村は、どんな村なんですか?」
「特になにもない、静かな村じゃよ。ああ、ちょっと東へ行けば、ポラーネの泉がある」
その泉の水は、異種民族のトレトナ族にとっては特効薬に値する貴重な水なのだと、彼は話す。
聞くべき話をひととおり聞いた真悟たちは、パナンじいさんの家をあとにして、ポラーネの泉へ行くことにした。
話に聞いたとおり、東に歩を進めると小さな泉があった。
武が真悟に問いかける。
「なあ、トレトナ族って、どういうヤツらなんだ?」
「いや、ぼくにも……アリッサ、説明できる?」
真悟は、武に訊かれた疑問をアリッサにふった。
「トレトナ族は、ザノーアの国に住んでいる民族ね」
ザノーア、つまり大陸の西部を占める世界区域だ。
トレトナ族は、ふだんはそこに住んでいる民族である。
「冒険に絡んでくることは、特にないわね」
そういうことらしい。
泉のすぐそばにある水飲み場で、水を口にふくんだ美希が歓喜の声をあげる。
「おいし~い!」
そんなに甘い味ではないのだが、その水は、飲んだ者の体力を回復させる成分がある。全身に行きわたる回復エネルギーが、身体に「おいしい」と感じさせるのだろう。
真悟たちも飲んでみる。確かに、からだ全体でおいしいと感じる不思議な味がする。
体力だけでなくスキルポイントまでも回復する、回復の泉の水だ。
「ん?」
真悟は、水飲み場に筒のようなものが一本あるのに気づいた。
水筒である。どうやら、お持ち帰り用のアイテムらしい。一本しかないのが残念だ。
真悟は水筒に水を入れると、それは自分がもっているよりマリナがもっていた方が良いと思い、彼女にあずけた。
全員が心も体もリフレッシュしたところで、美希が元気な声をあげる。
「それじゃあ、リザーレの街に行くわよ」
真悟たちは、次なるミッションが待っているリザーレに向けて、歩を進めるのだった。




