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ローデス  作者: 左門正利
13/60

予想外の展開

 真悟が美希に伝える。


「美希先輩、もう一度、あの猪を眠らせてくれませんか」

「え~」


 美希が、またしてもイヤそうな顔をする。


「わたし、あの猪をサマーソルトキックでやっつけたいんだけど」

「眠らせてからの方が、安全ですよ」

「それもそう……って、それ、さっきもいったじゃないっ」

「あの猪が目を覚ますと、またあっという間に迫ってきて、吹っ飛ばされるかもしれませんよ」


 実際にそういう攻撃を味わった美希自身の記憶が、彼女の顔をひきつらせる。


 猪頭のモンスターは防御が硬く、体力もある。武がスキル攻撃を使いながら戦っているにもかかわらず、体力を半分ほど削るのがやっとだ。


 さらに、なみはずれた攻撃力もそなえている。やはり、眠らせている間にダメージを与え続ける以外に、勝てる要素はなさそうだ。


 ──ここで判断をあやまるわけにはいかない


 ひとつ間違えば、一気に窮地に追い込まれるだろう。


「もっとも頼りになる美希先輩なら、みんなのためにベストな判断ができると思うんですが」

「ま、まあね」


 なんとかして美希を説得させようと、真悟も必死だ。


「敵を眠らせるスキルは、ぼくらのリーダーにふさわしいスキルですからね」


 美希の心が「リーダー」という言葉に動かされる。


「わ、わかってるわよ、猪を眠らせればいいんでしょ」


 真悟と美希が話している間に、猪頭のモンスターが完全に目を覚ました。


 美希が、幻術スキルを発動する体勢にはいる。


「いくわよ。あんたはもう一度、眠りなさいっ」


 結局、真悟の言葉にのせられた美希は、猪頭のモンスターを相手に、リプリーのスキルを再発動する。


 すると、モンスターは「ぐう……」と、ふたたび眠りにおちるのだった。

 真悟はホッとする。


 ──うまくいった


 そう思いながら、クモのモンスターにファイヤーボールを命中させて、トドメをさす。


 背中ごしに、武の声が聞こえる。


「こっちも片づいたぜ」


 骸骨のモンスターもやっつけたいま、のこる敵は眠っている猪頭の怪物だけだ。

 武が真悟のそばに駆けよってくるなり、口をひらいた。


「この猪野郎は、どう攻めればいいんだ?」

「とにかく、眠っている間に……」


 話の途中で、美希がマリナに話しかけている声が耳にはいる。


「マリナ、スキルバーを一本ちょうだい」


 その言葉に、真悟は焦った。攻撃力の低い踊り子では、敵に大きなダメージを与えることは期待できない。

 スキルバーのむだ使いになりかねない。


 やっと最初のミッションに出くわした真悟たちにとって、スキルバーはそんなにやすやすと手にはいるアイテムだとは思えない。

 できるなら、そういう貴重なアイテムを使うことなく、敵を倒したいのだが……。


「あの、美希先輩、スキルバーはちょっと」

「わたし、もらうからね。絶対にもらうからね、スキルバー。武には、あげたんでしょ?」

「確かに、そうですが」


 美希がここでスキルバーを使うと、のこりは一本となる。

 スキルバーは、一本のものを二つや三つに分けることができないアイテムだ。


 SP回復アイテムは、とても貴重なアイテムである。ひとつはストックをのこしておきたい。

 いざというときにSPが回復できずに、スキル攻撃が使えない状態になると、パーティー全滅の恐れがある。


 困った顔をしている真悟に、美希は当然のようにいった。


「あと一本はマリナにあげれば、それでいいじゃない」


 真悟が唖然となる。


 ──ぼくには?


 猪頭の怪物には、物理攻撃があまり効かない。有効なのは魔法攻撃ではないかと思う真悟は、スキルバーは自分にこそ必要だと考える。


 しかし、それを美希に話すと、美希とケンカになりそうだ。


 ──まいったな


 真悟の思考が、そこで立ち止まる。真悟とて、SPに余裕があるわけではない。ファイヤーボールをあと二回発動すれば、真悟のSPは空になる。


 美希の攻撃力が低いことは、武にもわかる。武は、真悟に耳打ちするようにささやいた。


「それでいいのか、真悟?」


 いや、良くない。真悟にすれば、数ある選択肢のなかから、最悪の結果になることを選ぶようなものだ。


 美希のわがままが真悟を悩ませているうちに、美希はマリナからスキルバーをもらってかじりついた。あっという間に食べ終えて、美希のSPが一気に回復する。


「よーし!」


 サマーソルトキックしか頭にないSP満タンの美希が、モンスターに向かって駆け出して行く。


 真悟の顔に、嘆くような想いが浮かびあがる。


 ──もう、あの人は放っておこう


 あきらめたように、そう思う真悟だった。

 だが美希の、この行動が、真悟にとって予想外の展開をひきおこす。


 真悟と武は、猪頭のモンスターに突っこんでゆく美希を確認すると、サマーソルトキックの二次災害を防ぐため顔を下に向ける。

 ふたたび鼻血を吹き出すようなことがあれば、進歩のない馬鹿だと思われかねない。


 美希がモンスターの手前で身体をかがませる。そして「やあっ」というかけ声とともに、ジャンプしながら敵を蹴りあげる。


 ズバッという炸裂音がひびき、モンスターはほとんどの体力を瞬時に奪いさられた。

 真悟と武が頭の中でモンスターのデータを確認すると、モンスターの体力はレッドゾーンに突入し、瀕死の状態となる。


 彼らは、二人して驚嘆する。


「うおおっ、マジか美希!」

「美希先輩、すごい!」


 二人は思わず顔をあげる。目をみはるほどの威力を発揮したサマーソルトキックは、着地態勢にはいった美希の、目をみはるほどの下半身をあらわにさせる。


 武が美希から目をそらすべく、あわててうつむいた。


「ぐっ、やべえ」


 鼻血がタラ~ッと垂れてくるのがわかり、左手で鼻をおさえる。


 一方、真悟はブバッと勢いよく鼻血を吹き出すと後ろへのけぞり、そのまま背中から倒れそうになった。

 真悟の近くにいたマリナが、倒れかけた真悟の背中をどうにか支える。


「久松くん、しっかりして」

「ご、ごめん」


 マリナは、やっぱり進歩のなかった二人の馬鹿を、文句もいわずに回復魔法で健気けなげ治癒ちゆする。

 大人から見れば「良い奥さんになれるよ」と、いってあげたくなるようなシチュエーションではある。


 元気になった武が、マリナに笑顔を見せた。


「ありがとう、マリナちゃん!」


 武はマリナに礼をいうと、モンスターに向かって突進して行く。


「せりゃあっ」


 すでにSPがなくなり必殺技のスキルが使えない武は、通常攻撃しかできないのが残念だ。


 かろうじて生きている猪頭のモンスターは、まだ眠りから覚めない。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。


「今度は、ぼくだ」


 真悟はそういうと、杖からファイヤーボールを発射する。それが命中し、ここでモンスターは目を覚ました。

 だが、モンスターが攻撃するより先に、真悟がファイヤーボールを連発する。


 ドガーンという派手な爆発音がひびく。立ちのぼる煙のなかに、仁王立ちするモンスターの影が見える。


 真悟の額から汗が流れる。


 ──ダメだったのか?


 これでトドメをさせなければ、もうあとがない。

 どうすれば良いかと焦っていると、猪頭のモンスターは前のめりにズズーンと倒れ、分子レベルで分解するように消えてゆくのだった。


 そこには宝箱がのこされ、みんなのHPとSPが自動的に回復する。


 武が感嘆の声をあげる。


「やったぜ!」


 武が宝箱まで近よってふたを開けると、宝箱の中にはたくさんの金貨が入っていた。

 それは、この世界でのみ使用できる通貨である。だいたいは、モンスターとの戦闘で勝利したときに獲得できるものだ。


 今回のように宝箱の中に入っている場合は、金額が桁違いであり、大量の金貨が獲得できるのだ。


 通貨の単位は「ダット」と呼ばれ、データでは「D」と表示される。

 真悟は、さっそく頭の中でデータをチェックする。


「あ、取得したお金の金額が、一気に増えてますね」


 みんなが宝箱のまわりをぐるっと取り囲むように集まると、美希が代表して全員に伝える。


「じゃあ、これ、亜空間ポケットに収容するわね」


 亜空間ポケットとは、どんな場所にいてもアイテムを収容できる、亜空間の倉庫のようなものだ。みんなは、はじまりの村を出発するまえに、アリッサから説明を受けている。


 美希は宝箱のふたを閉じると、その上から右手の掌をかざした。

 すると、宝箱の下に魔法陣があらわれ、宝箱が魔法陣のなかに沈むように吸い込まれてゆく。


「これでよし、と」


 美希が処置を終えると、まわりの景色が瞬時に一回転する。

 みんなが戦闘フィールドの亜空間からもとの場所にもどると、アリッサが真悟の後ろから、ひょっこりと顔を出した。


「サマーソルトキックが強烈だったわね」


 美希は両手を腰にあてて、どや顔になる。


「わたしにかかれば、こんなもんよ」


 思わず、笑みがこぼれる。サマーソルトキックのスキルは、実に爽快な気分にさせてくれるものらしい。


 美希はニコニコしながら、真悟の方をふり向いた。


「これで終わりよね。次は、どこへ行けばいいの?」

「ムーレンさんの孫のムーファンを、ぶじに連れて帰らなければ」

「あ、そっか」

「美希先輩、ひょっとして完璧に忘れさっていたんじゃ……」

「さ、さあ、ムーファンを連れて帰るわよ、みんな!」


 やるべきことを完璧に忘れさっていた美希は、それをごまかすように大きな声を出しながら、パナンじいさんの家に向かうのだった。



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