帝都の異変
「クソッ、まさか帝都が……。兄上はいったい何を考えている!」
敵本隊を撃破し勝利の余韻に浸る間もなく、トルネードホースに跨がり帝都へと急ぐ。
「落ち着けラーズグロム。人の上に立つものは常に冷静な判断力を求められる」
「フール様の言う通りです。皇帝ならば凛とあるべきでしょう」
「すまない……」
フールに続き並走するライザからも宥められ、額に滲んだ汗を拭う。
反対側にはエルシドとリオンも並走しているが、皆同様に表情は険しい。
当然これには訳があり、敵本隊を撃破した後に現れた、黒装束の馴染み顔であるカズヨからもたらされた情報が原因だ。
「まさか帝都で魔物が沸くとは……」
たった今エルシドが呟いた通り、もたらされた情報とは帝都で魔物が大量発生してるという内容なのだ。
「だがどうして魔物が? まさか外部から侵入されたとでもいうのか?」
「まさか。帝都の外壁は高く、簡単に侵入されるような事はないよ」
リオンの推測を真っ向から否定する。
飛行型の魔物にしても上空に張られている結界により侵入を防いでいるため、よほど高ランクの魔物でもない限り心配はない。
「この感じ……もしや!」
「……フール?」
何らかの反応を感じ取ったのか、フールが全身の毛を逆立てた。
が、すぐに頭を振って否定する。
「……いや、何でもない、気のせいだ。それよりもうすぐ帝都だ。気を抜くなよ?」
「あ、ああ……」
普段なら軽く追求してただろうが、今は非常時というのもあり特に気に止める事はしない。
「ラーズグロム殿、あれを!」
「あれは!」
エルシドが指した先では、帝都の上空を無数の魔物が飛び回っていた。
種類も様々のようで、まるでスタンピードを連想させられる。
ならば地上はどうなのか――これは想像するのも難しくない。
「クッ!」
いてもたってもいられず、ラーズグロムは更に速度を上げて門を目指す。
やがて見えてきたのは、開かれた門から次々と脱出してくる国民達であった。
「貴族様、中に入っちゃいけねぇ! 帝都は魔物だらけでさぁ!」
「そうです! あたしらは助かったけども中は地獄です!」
ラーズグロムの身形を見て、国民達が止めに入る。名のある貴族と思われたのだろう。
「どうして魔物が? まさか外から侵入されたわけではないでしょう?」
「それがあっしらにも分からないんですが、魔物の群を見た奴が言うには、城の中から出てきたと……」
「し、城から!?」
「もも、勿論そう見えただけで、城から出てきたって断言はできませんぜぇ」
「…………」
いや、恐らくは城から出てきたのだろうと確信した。
タイミング的にザファークが関わっているのはほぼ確実――ならば、奴が居座る城で何かが起こったと考えるのが妥当である。
(やはり城に乗り込んで、直接確認するしかなさそうだ。けれどこのまま城下を放置するわけにもいかない!)
指をくわえて静観するつもりは毛頭ない。いずれは皇帝となるだ、自分が帝都を守らなくてどうするのかと。
「落ち着いてくれ。それでも僕は行かなければならないんだ」
「し、しかし……」
「僕はラーズグロム。皇位は僕が継承する。帝都は僕が守るんだ!」
「ラ、ラーズグロム様!?」
避難中の国民が目を見開いて驚く。
まさか目の前に権力争いをしている一人がいるとは思わなかったのだろう。
「で、ですがラーズグロム様。少数で挑んでも殺されるだけです」
「そうですよ、軍隊が戻って来るまで避難されてた方が……」
ラーズグロム達のみが先行してやってきたため、率いてた部隊は遥か後方にあった。
(この状況でフールに召喚してもらうと余計に混乱させてしまう。やはり僕らだけでやるしか……)
部隊の到着は待ってられない――そう思った矢先、やや離れた位置から見覚えのある者達が馬を走らせてるのが見えた。
「ラーズグロム殿ぉ、ここは我らに任せてもらうぞぃ!」
「その声は……ダルバか!?」
「おうともよ! メガロディウスの奴がお主に加勢しろというのでな!」
「わたくしナレーツもいますよ。魔物の掃討なら任せてもらいましょう」
彼らはメガロディウスが従えている【再開の剣】という傭兵団の幹部であり、後ろにはずらりと団員達が続いていた。
「そぅそぅ、ここはレミュー達にまっかせて~♪ ほらアルネーダもスマイルスマイル♪」
「うるさいよ、アホ女!」
……女幹部二人に一抹の不安を覚えるが、傭兵家業をやっているくらいだ、危なくなったら退くだろう。
「ありがとう。では改めて――キミ達【再開の剣】に帝都の防衛を依頼する!」
「おうよ! ――行くぞ皆の者ぉぉぉ!」
「「「おおっ!」」」
再開の剣が掃討に取りかかる。
それでも魔物が多すぎるのだが、軍が到着するまで持ちこたえてくれればいい。
「僕らも急ごう。城に行けば何か分かるはずだ」
再開の剣に続いて帝都に入ると、真っ直ぐに城を目指す。
内部は思った通り魔物の巣窟と化しており、恐らく住民の殆どは脱出してるか家屋に籠っているのだろう。
しかし、逃げ遅れた者達の無惨な姿もあり、ラーズグロムは激しい怒りに包まれる。
「キシャーーーッ!」
「邪魔だ!」
ズシャッ!
「シギャァァァ……」
路地裏から這い出てきた巨大グモを怒りに任せて両断すると、その後ろから続いた巨大カマキリにも斬りかかる。
「ザファークめ、これが人徳を重んじる者のやり方だというのか!」
ズバッ!
「シャァァァ……」
「こんな……こんな……こんな魔物だらけの帝都にして、犠牲者を大勢出して何が目的だ!」
ズバッズバッズバッズバッ!
「落ち着きなさいラーズグロム! その魔物はもう死んで――」
「分かっている! だが、このような結末は望んではいなかったんだ……」
ライザに止められ腕をダラリと垂れ下げる。
まさか権力争いの末に、全く無関係な者達が被害に合うとは思ってもみなかったのだ。
こんな事なら秘密裏に行動すべきだったと後悔せざるをえない。
「もっと違うやり方なら――」
「危ない――避けろラーズグロム!」
「――え?」
リオンの怒号で顔を上げると、1体のワイバーンがラーズグロム目掛けて急降下しており、すでに目の前まで迫っていた。
怒りに任せてた結果、注意力が低下していたため気付かなかったのだ。
「キェェェェェェ!」
「しまっ――」
――と思うも既に手遅れ。
ワイバーンがラーズグロムを食らおうと口を大きく開け……
ドシュッ! ドシュドシュッ!
「ギョェェェェェェ……」
「……あ、あれ?」
襲ってきたはずのワイバーンが血を吐きながら地に落ちる。
何故? ――と隣に目を向ければ、不思議な武器を手にしたカズヨが先端をワイバーンへと向けていた。
「油断しちゃダメ! 高ランクの魔物もいるんだから、気を抜かないで!」
「す、すまないカズヨ……」
「それより城に行くんでしょ? いくつかの冒険者パーティにも協力してもらい、城から溢れてくるのを防いでもらってるわ」
詳しい事情を走りながら告げられる。
先に帝都へ舞い戻ったカズヨはすぐさま冒険者ギルドに向かい、混乱終息に向けて協力を仰いだのだ。
その結果、協力を取りつけることに成功したパーティが、先行して城に向かってくれたのである。
「やはりこの魔物は城から出ていると?」
「ええ。うちのメンバーの中だとハットとカンマが鼻が効くんだけど、おもいっきり城から臭うらしいわ。だから城が発生源だとすぐに分かったの」
「…………」
どうやら城で間違いないらしい。
すぐにでも城に直行したいところであったが、冒険者ギルドを通り過ぎるか否かというところで朧気ながらも見たことのあるような顔触れが、周囲の魔物を撃退しているのが目に止まる。
すると顔触れの一人である青年がこちらに気付き、チラリと顔を向けてきた。
「――あ、貴方はラーズグロム殿! ご無事でなによりです――っと!」
振り向き様にゴブリンにトドメを刺すと、ラーズグロムを見て一礼する。
いったい誰なのかと記憶を探っていると、本人は苦笑いしつつ答えを告げてきた。
「僕です僕、冒険者パーティ【ポータルキャニオン】のウィリーですよ」
「ああ、あの時の!」
名前を聞いて思い出した。
チョワイツ王国のヤデランという街で、脱出するのに協力してくれた冒険者パーティだ。
「ギルドの地下に住民達を避難させてますので、残念ながら僕らは離れられません。ですが他のパーティが城に向かいましたので、彼らと協力して騒動の終息を!」
「分かりました。ウィリーさん達もご無事で!」
互いに健闘を祈ると、すぐにラーズグロムは走り出す。
果たして城で何が起こったのか……。
補足です。
本編では触れてませんが、カズヨがワイバーンにブッ放したのはショットガンです。




