フールの真相
「これは……」
城を見上げれば至るところから魔物が出入りしているのが分かり、まさに巣窟そのものであった。
殆どの兵が出撃したためか守りの手薄な城は完全に落ちてしまったようにも見え、虚しくも散っていった兵達が魔物の餌と成り果てている。
「城の入口で冒険者達が戦っているようだ。俺も加勢しなくては!」
国は違えどエルシドは勇者だ。
楽観視できない状況を改善すべく、すぐさま戦闘に加わった。
「ほら、私たちも早く行きましょ」
「あ、ああ、分かった!」
カズヨに手を引かれてラーズグロム達も入口へと向かう。
パッと見で20人ほどの冒険者が互いに背を向けつつひたすら倒し続けており、その周辺には無数の魔物が死骸となって転がっているのが目に止まる。
この現状を見れば、いかに激しい戦闘を繰り広げているかが分かるというものだ。
そして今、新たな戦力が一陣の風の如く吹き荒れようとしていた。
「帝都を脅かす魔物め、勇者エルシドが成敗してくれる!」
ザシュザシュ! ズバズバズバ――ドズン!
次々と斬っては踏んでを繰り返し、華麗に宙を舞うエルシド。
あのアンジェラの愛弟子なだけあり、迫り来る爪や炎を上手く避けつつ斬りつけていた。
「す、凄いよあの人! 単身で魔物の群れに突っ込むなんて!」
「しかも厄介な飛行型を優先的に倒してくれている。これならもう少し粘れそうだ」
「伊達に勇者を名乗ってねぇってか? なら俺らも負けてられねぇな!」
エルシドが加勢したことにより、冒険者達の士気も上がる。
もうしばらくは任せておけるだろう。
「ラーズグロム殿、ここは任せてさきに進んでください! このエルシド――貴殿が戻られるまで、入口を確保致しましょう!」
「分かりました、ここはお任せします!」
エルシドを含む冒険者達の健闘を祈りつつ、城内へと入り込む一行。
魔物だらけの通路を強引に押し通り、まずは玉座を目指すことに。
「待った、カズヨ。通路が!」
「そ、そんな……塞がれている?」
ラーズグロムが足を止めると、続けてカズヨも立ち止まる。
見れば通路の途中で崩落を起こしており、このままでは進めない。
当然ながら掘り起こす隙もなく迂回するしかない――と思われたが……
「見てラーグ、ここに一人ずつなら通れるスペースが空いてるわ!」
「うん、迷ってる隙はないし、ここから――」
「グォォォォォォ!」
空いた穴から向こうへ抜けようとした矢先、背後から魔物の雄叫びが轟く。
しかも見た目から察するに1体2体という少数ではない。桁が二つも違うほどの魔物が迫っていたのだ。
「チッ、やるしかないか!」
やむ無く迎え撃とうとするラーズグロムであったが、それにライザが待ったをかける。
「お待ちなさい。ここで足止めされるよりは、先に進んだほうがいいでしょう」
「いや、でもそれだと――」
「危険だと言いたいのだろう? だからこそ我々が引き受けると言いたいのだ」
ライザに続き、リオンも進言を行う。
今は少しでも早く原因を突き止める必要があり、ここに全員が留まるのは得策ではない。
「心配なさらずとも死にはしません」
「寧ろ背後を気にせず戦えるなら好都合だ」
既に臨戦態勢に入っていた二人が魔物を蹴散らしにかかる。
崩落した瓦礫を背に一方的に撃退しているのを見るに心配はいらないだろう。
「すまない二人とも、ここは任せる!」
足止めをかって出た二人に背を向けると、隙間から這い出て通路の先へと急ぐ。
尚も迫り来る魔物の大半はカズヨが蹴散らしていると、不意にラーズグロムが口を開いた。
「カズヨは凄いよ。人間でありながらそんなに強いんだから」
「どうしたのいったい?」
「いや、数年前のダンスパーティーのイメージがいまだに残っていてさ、あの時は――」
チャキ……
「……ラーグ、それは言わないでって前にも言ったわよね?」
「いやいや、バカにしてるんじゃないんだ。とりあえず武器を向けないでくれ」
銃口とともに殺気を向けられ、慌てて宥めに入る。
本人の言う通り決してバカにしたわけではなく、当時のカズヨと今のカズヨとで比較にならないほど強くなっているのを羨ましく思ったのだ。
「突然見知らぬ地に召喚されたカズヨが、今はこんなに頼もしく感じる。誕生日のダンスパーティーの時はまだまだ不器用な感じがしたのに、今じゃ別人のようだよ」
「……悪かったわね不器用で。でも言いたい事は分かるわ、あの時よりはかなり動けるようになってるから。まぁ、これもボスに出会えたからなんだけど」
ボスと言うには妙に低年齢な少女がカズヨの脳裏に浮かび上がる。
かのダンジョンマスターなくして今のカズヨは存在しなかっただろう。
「……で、なんで今になってそんな話を? まさかダンスは私より紀子の方が上手かったとか言いたいわけ?」
「だからそんなんじゃないって。確かにあの満持紀子って女性は派手な衣装で目立ってたけれど、彼女は妙に媚びてくるところがあったし、あまり好きにはなれなかったな」
当時ラーズグロムの誕生日パーティーには、カズヨを含む6人の勇者が参加させられており、彼らはいずれも異世界から召喚された勇者達であった。
その中に一際目立つ衣装を着こなしてたのが、満持紀子という少女である。
しかし彼女はカズヨ達を裏切りアレクシス王国へと亡命したため、カズヨ以外の男子は処刑され、もう一人の女子はプラーガ帝国から送り込まれた工作員により口封じの意味で殺されている。
唯一カズヨは奴隷として売られた先で、ボルチェ達闇ギルドに出会い、こうして生きているのだが。
ちなみに満持紀子は、アレクシス王国内でカズヨに殺されている。
「もう紀子の話は止めましょ。気分が悪くなるわ」
「嫌な事を思い出させてすまない。僕はただ、カズヨみたいな護衛が居てくれたら心強いって思ったのさ。だから単刀直入に言うよ、プラーガ帝国に戻ってくるつもりはないかい?」
「え?」
唐突な誘いにより、驚きの表情でラーズグロムを見つめる。
つまり、プラーガ帝国の勇者として元の鞘に収まる気はないかと言いたいのだ。
しかし、カズヨが顔を振ったのは縦ではなく横であった。
「……それはできないわ。個人的にはラーグは嫌いじゃないけれど、プラーガ帝国そのものには良い印象はないから。それに私は今の環境が気に入ってるし、今さら鞍替えする気はないわよ」
「はぁ……やっぱりそうか」
ラーズグロムも断られるだろうと分かっていたらしくダメ元で勧誘したようで、特に気にした様子もなく顔を上げる。
「だけどプラーガ帝国は変えてみせるよ。絶対に」
「うん。直接は力になれないと思うけど、影ながら応援してるわ」
気付けば謁見の間の扉がすぐそこであり、気持ちを切り換えて扉を開け放つ――が……
「クソッ、ここには居ないか!」
玉座にザファークは居らず、あるのは死体となった兵士達のみだ。
「どうするのラーグ!?」
「仕方ない。ザファークの書斎にいってみよう。もしかしたらそこに――」
「いや、恐らくそこにもいないぞ?」
「――え?」
声を上げたのはフールだ。
何故か分かるのかと疑問に思っていると、衝撃の事実を告げるのであった。
「最初は気のせいかと思ったのだが、どうやら間違いないらしい」
「フール、いったい何の――」
「この城の一部がダンジョン化しているようだ」
「――え、ダ、ダンジョンだって!?」
「そこにある玉座の裏側が入口になっているようだ」
なんと、フールの口からダンジョンであると告げられ、しかも目の前にダンジョンの入口があるのだと言う。
「なぜ城がダンジョンに? まさかザファークはダンジョンマスターになっていると?」
「いや、その可能性はない。ここにあるダンジョンコアが俺を呼んでいるのだ、恐らくダンマスは不在のまま……」
またしても衝撃の事実が飛び出す。
フール自身がダンジョンコアに誘われつつあるのだという。
「呼ばれてるって、どうしてフールが……」
「それは俺にも分からん。だがダンジョンコアに接触すれば分かるかもしれん。早くダンジョンに入るのだ!」
「フール!?」
これまで冷静であったフールがラーズグロムの頭から飛び降りると、玉座の裏側をガリガリと引っ掻きだす。
「落ち着けフール、らしくないぞ?」
「す、すまぬ……。だがダンジョンコアが本能に呼び掛けてくるのだ。早く来いと叫んでるかのように」
普段冷静なフールをかき乱すくらいだ。
放置するのは悪手だと判断し、玉座を倒して床に空いた穴――つまりダンジョンの中へと入り込む。
恐らくはこの先にザファークもいるのだと信じて。
「内部は複雑で相当広い。だが俺にはダンジョンコアの場所が分かる」
「分かった、誘導を頼む!」
「うむ、任せるがいい!」
フールに従い、古代遺跡のようなヒビ割れた石レンガの上を走り行く二人。
所々に掛けられたランプだけが光源のため、時おり暗がりから現れる魔物に注意しつつ先へと急ぐ。
内部構造は相当複雑なようで、階段を下ったと思えばすぐに登り階段が出てきたりと、初見の侵入者は道に迷うことは間違いない。
「待て、ラーズグロム!」
「どうした!?」
「すぐそこのフロアに魔物がたむろっている。ダンジョンコアまでたどり着くには、そこを通る必要がある!」
フールが言うには、すぐ先の開けた場所で数千という単位で蠢いているらしい。
「だったら魔物で対抗すれば――」
「ダメだ。ダンジョンコアと共鳴しているせいか召喚ができん。自力で切り抜けるしか方法はない!」
ならば仕方ないと、ラーズグロムは剣を強く握りしめる。
一点突破すればなんとか行けるかもしれないと考え踏み出そうとする――が、そんなラーズグロムを制する手が出現し……
「ここは我々に任せてもらおう」
「え……ボルチェ!」
なんと、振り向けばカズヨの仲間達が勢揃いしていた。
「ようは我々で魔物の相手をしてればいいのだろう? その隙に先へ進むといい」
「すまない、助かる!」
ボルチェ達が先に突っ込むと、手にした武器を乱射する。
大小様々な魔物がボルチェ達に殺到する外側を、ラーズグロムとカズヨは進んでいった。
ズドドドドドドドドドッ!
「オラオラァ! ガトリングの威力を思いしれやぁ! ボスから支給された武器を使う機会なんざ、そうそうないんだからな!」
「はしゃしでるんじゃないよハット。何千という魔物がいるんだから、死角をとられないように注意しな!」
「わ~ってるよ!」
ノアーミーに忠告されつつも、一瞬のうちに100体近くを肉片に変えた。
しかし魔物はまだまだ残っている。
「多少派手にやっても構わん。徹底的に蹴散らしてやれ。あのエルシドという勇者が来るまでな」
「ボルチェ、なんでエルシドなん?」
「俺達の手柄を奴に押し付けるためだ。今回の戦いで少々目立っちまったからな――と!」
ズドォォォォォォン!
デールの質問に答えながらも手榴弾を投げ込み、これも100体近くを葬るに至った。
「お、おいボルチェ、なんだか魔物が増えてねぇか?」
「……私もそう思う。倒しても倒してもきりがない」
「残念ながらその通りのようだ」
オリベルとヤミーの指摘にボルチェが頷く。
減った数だけ増えてるのか、元から増え続けてるのか不明だが、あまり減っている印象はない。
ならばやる事は一つだ。
「出てこなくなるまで叩く――それだけだ!」




