勇者の真髄
「こい、由良川! 本物の勇者というものを教えてやろう!」
「ハ、調子に乗ってられるのも今のうちさ。チートを授かったあたしが負けるはずないんだ、身の程ってやつを教えてやるよ!」
距離をとり、睨みあっていた二人が激突する。
宙に浮いた由良川が掌から石の塊を打ち出すと、対するエルシドは降り注ぐソレを巧みに回避していく。
しかし、無詠唱の上に魔力が豊富な由良川に隙ができるはずもなく、エルシドは石の塊を避け続けるのみ。
「ほらほら、さっきまでの威勢はどこいったのさ? 本物の勇者ってやつを教えてくれるんじゃなかったのかい!?」
「…………」
由良川の挑発にエルシドは無言を貫く。
魔法を避けている現状で余裕がないのもあるが、挑発に乗ってしまえば相手のペースになってしまう。
実力が拮抗してるのならば、少しでも相手が有利になる傾向は避けなければならない。
「ハ、つまんない奴だねぇ。その程度で勇者を名乗るなんざ拍子抜けだよ」
「だがその程度の奴を相手に負傷したのも事実だけれどね」
意識返しで逆に挑発しかえすエルシド。
その台詞が飛び出た瞬間、由良川の眉がピクリと動いた。
「……なめんなよ、現地人風情が。あたしが本気だったらお前相手に怪我するなんざあり得ないんだよ、この劣化勇者が!」
「その劣化勇者とやらは、本気を出す前に負傷したキミの事では?」
「チッ、ムカつくわお前!」
事実を指摘され、徐々に顔を赤く染め上げていく由良川。
格下だと思い込み、初見のエルシド相手に負傷したのは消し去りたい過去である。
「ちょっとくらい遊んでやろうと思ったけど気が変わった。さっさとケリつけてやる!」
「!?」
まどろっこしい真似はやめだとばかりに、空いてる手を別の方向へと向ける。
何をする気かとエルシドが注視する中、由良川は口の端を吊り上げ……
「お前は回避できても他の雑魚兵は違うからなぁ? 精々そこで踊ってな!」
「まさか!」
埒が明かない現状を打破するために由良川がとった行動は、遠巻きに見ている兵士を標的に加える事だった。
そのような動きになっているとは知る由もない兵達に、由良川の放つ隕石が迫る。
「クソッ!」
意を決してエルシドが突っ込んでいく。
もちろん由良川に対してではなく、隕石を叩き落としにだ。
しかし、ソレこそが由良川の本当の狙いであった。
「バカが、そのままくたばりな――ロックキャノン!」
ズドン!
隕石よりも速い岩の砲弾がエルシド目掛けて飛んでいく。
しかし、エルシドは隕石を叩き落としている最中であり、とても回避しきれない!
ゴッ!
「ぐっ!」
「エルシド殿ぉ!」
自身が護られたのを理解したであろう兵士が、岩の直撃により飛ばされていくエルシドに向けて叫ぶ。
隕石を落とすのには成功したが、岩の回避には間に合わなかったのだ。
「くぅ……さすがに強いか。以前の俺だったら死んでいただろうな……」
数百メートルは飛ばされた後、落下のタイミングでフラつきながらも着地した。
由良川の放ったロックキャノンは並の魔法士よりも威力が高く、エルシドでなければ即死だったかもしれない。
「死に損ないがぁ! 今度こそブッ殺してやるよ!」
「っ!」
追撃のために由良川が急降下してくる。
今なら一気に畳み掛けれると思ったのだろう。
一方のエルシドは地上でそれを迎え撃つ!
ガギギギギギ!
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!」
由良川の拳を剣で受け止めるも威力が有りすぎるのか地滑りのように押されていき、足場の平原に大きな二本線が出来上がる。
「どうよ? 今のあたしはロックキャノンを纏ってんだ、簡単には防げねぇよ」
「チィッ!」
さすがに防ぎ切れないと判断し、一旦大きく距離をとる。
由良川の本気も決して口先だけではないのだと、再認識させられた形だ。
そんなエルシドに、間を置かずして由良川が迫る。
「おい、逃がさねぇって言ったろ? お前は逆鱗に触れたんだ、半殺しの上になぶり殺しにして肉片で墓を作ってやるよぉ!」
「クッ!」
マズイ! ――と思ったエルシドが再び剣を構える。
が、それを見た由良川はニヤリと口の端を吊り上げ……
「あんま小細工は好きじゃないけど、悪く思うなよ? ――サンドストーム!」
「ぐわぁっ!」
迎え撃とうとしたエルシドを砂嵐が包み込み、由良川を直視してる余裕はなくなった。
「死ねぇぇぇ!」
先ほどと同じようにロックキャノンを纏って突っ込んでくるが、今のエルシドは構えを解いている。
まともに直撃すれば今度こそ助からないだろう。
そんなエルシドに、無情にも由良川が迫る!
ピタッ!
由良川の拳がエルシドの顔面スレスレで止まる――いや、何者かによって止められていた。
「――え?」
この状況に一番驚いているのは由良川であり、自身の腕を掴んでいる存在を見て目を白黒させた。
突然現れたのもそうだが、何よりもロックキャノンを纏っているはずの腕を片手で掴んでいるのだ、今触れれば確実に弾き飛んでいくところを涼しげな顔をしていれば、理解が追いつかないのも頷ける。
「せっかく育った愛弟子を殺されては面白くないのでな、阻止させてもらったぞ?」
「師匠!」
拳を止めた人物――アンジェラを見て、エルシドは目を輝かせる。
助けられた事も当然嬉しいのだが、由良川の拳を簡単に止めているのを見せつけられれば、それでこそ決して超えられぬ壁――アンジェラであると改めて理解できるというものだ。
ちなみにエルシドが師匠と仰ぐ理由は、アンジェラの元で瀕死になりつつも猛特訓を行った経緯が関係している。
反対に由良川はというと、ようやく現状を理解し始めたようで、ギギギとアンジェラに向けて顔を動かした。
「……で? 今度はお前が相手になるってのか?」
「バカ言うでない。せっかくエルシドの修行相手になりそうだと言うに、妾が相手しては長くは持たぬぞ?」
「へぇ……大した自信だな」
……等と感想を洩らすが、内心では酷く狼狽えていた。
勇者である自分の攻撃をあっさり止める者がいるなど悪夢に等しい。
「お主の相手は引き続きエルシドじゃ。よいな、エルシド?」
「勿論です! コイツは俺が倒してみせます!」
「うむ、心して挑むがよい。危うくなったら止めてやろう」
殺し合いをしているはずが、何故か修行でもしてるかのような雰囲気がもたらされる。
主にアンジェラのせいで……。
「ほれ、続けてよいぞ」
「……オメェ、いい加減――」
アンジェラが腕を離すと、透かさず由良川が拳を振り抜く。
但し、標的をアンジェラに変えて。
勇者である自分に絶対の自信があるゆえ、先ほどからの上から目線は耐え難いものがあったのだ。
ドッ!
しかし、その拳が届くことはなかった。
代わりに脇腹へと食い込むアンジェラの拳。
一瞬理解ができなかった由良川がその事実を認識したとたん、激痛とともに腹の中から何かがこみ上げてきた。
「……ぐえぇぇぇ」
「おっと、すまんすまん。つい反射的にやってしもうたわぃ」
台詞とは裏腹にまったく悪びれた様子のないアンジェラを、急激に女子力を低下させたような顔をした由良川が睨み付ける。
「テ……テメェ、よくも……」
「そう怒るでない。お主の相手はエルシドじゃ。それに踞ってる隙はなさそうじゃぞ?」
「……何?」
アンジェラの指す方に顔を向けると、臨戦態勢のエルシドが親指を逆さにして挑発しているところであった。
「野っ郎ーーーっ!」
見事挑発に乗った由良川が突撃する。
よほど頭にきたのか、魔法を放とうとはせず直接殴りに向かっていく。
対するエルシドは一つ一つの拳を冷静に捌いていき、隙ができれば攻勢に転じるスタイルを取っていた。
常人にはとても追いきれない動きに、遠くから眺めている兵達にはどうする事もできない。
「うむうむ。やはり戦いというならば、このくらいの迫力がなくてはな」
二人のデッドヒートを満足げに眺めるアンジェラ。
この戦いは、日没を迎えてりアンジェラの腹が鳴るまで続けられたという。




