再燃! 勇者VS勇者
時は遡り、ヴォルテールの娘――キルレインがラーズグロムの元へとやって来た昼間の時間帯。
前線ではヴォルテール公爵を追い詰めんと激しい攻勢に出ていた。
「フン!」
ズバン!
「「「ぐわぁぁぁ!」」」
自分の背丈ほどあるハルバードを豪快に振り回すエボルガント元帥。
その一振りで周囲の兵をなぎ払うと、味方の兵も突撃していく。
「ぬるいぬるい――ぬる過ぎるぞ、腰抜けどもがぁ! その程度でこの暴風を止められるとでも思うたかぁぁぁ!」
「くぅ……撤退、撤退だぁ!」
気迫に圧された敵兵が尻込みをしつつ、徐々に撤退を開始した。
「逃げるか卑怯者め! 貴様らの背中を思い出すたび、笑い飛ばしてくれようぞ!」
ハルバードを地面に突き刺し、仁王立ちで敵兵の背中を眺める。
エボルガントが相手をしていたのはヴォルテール公爵の本隊で、山道に仕掛けられていた罠を強引に突破して本隊に突撃したのだ。
向こうもまさか強行突破で来るとは思っておらず、慌てて応戦するも勢いに呑まれたところで逃げ出したのであった。
「なんだ、ヴォルテールを取り逃がしたのか? お前らしくもない」
「……ヴァレリーか。昔と今は違うわぃ。あの時はまだ若かった――それだけだ」
エボルガントは決して取り逃がしたわけではない。
これ以上追撃すると後続と離れ過ぎてしまうので、自重しただけである。
40年以上も前になるが、当時のエボルガントは帝国軍の奥深くへと侵入し孤立してしまうという出来事があったのだ。
つまりヴァレリーが呟いたのは、当時を皮肉った内容である。
「フッ、冗談だ。険しい山を越えたばかりだし、ここらで後続部隊が来るのを待つのが得策だろう」
太陽が西へと傾きつつある青空を眺めたヴァレリーが、今日はここに留まると告げる。
ここまで来るのに落石や木陰からの奇襲に度々合ってきたのもあり、兵達を休ませるとうう選択肢を取ったのだ。
ただし罠の殆どはアンジェラとエルシドが一方的に片付けたので、被害は微弱で済んでいるのだが。
「よろしいのですか? 何でしたら俺が追撃して参りますが」
「おっと、エルシド殿か。なぁに、それには及ばんよ。すでに儂の小隊に追跡させているのでな。いずれ潜伏先の知らせが届くだろう」
いつの間にか横にいたエルシドに驚きながらも、ヴァレリーは焦る様子もなく答える。
ヴォルテールは聖プリムラ教の支援者でもあるので、最初から逃すつもりなど毛頭ない。
……と、ここで何気なくエボルガントが尋ねてくる。
「そういえば、プラーガ帝国では聖プリムラ教という邪教が存在するのだったな。今はどうなっているのだ?」
「ヴォルテールの屋敷の地下に教団施設があったのだがな、ラーズグロム様から焼き討ちしたと聞いておるぞ。教祖ロドニーはいまだ発見されてないが、恐らくは焼け死んだのだろう」
「そうであったか。ならば憂いの一つは無くなったのだな」
事実帝都では聖プリムラ教は壊滅したと伝えられており、それを聞いた人々の表情は明るい。
もっとも、ザファーク自身はロドニーが生きてる可能性も考慮してはいるが、再び出現する前に貴族達の多くを取り込み、隙を無くそうと画策している。
「む? この感じ……強者の気配じゃな」
「「「強者?」」」
エルシド同様いつの間にかそこにいたアンジェラが、不適な笑みを浮かべて呟く。
直後、遠くから兵達の慌てふためく声が轟いた。
「中々の力量じゃ。エルシドよ、お主と同等の実力を有してるかもしれぬぞ?」
「お、俺と……ですか? ――まさか!」
エルシドが師匠(エルシド談)であるアンジェラに言われ、一人の人間を思い出す。
今のエルシドはプラーガ帝国の勇者に匹敵するほどの実力だと自認しており、それと同等だと言うのなら勇者しか思いつかない。
「由良川とかいう女勇者ですか!」
「いや、初めて感知する生命体じゃし、詳細までは分からんな。なんなら近付いて――」
「俺が対処します!」
アンジェラの台詞を待たずして、エルシドは飛び出していった。
勇者が暴れると多数の被害が出てしまうので、ここはやはり対抗できる自分が相手をすべきだと思ったのだ。
「プラーガ帝国の勇者か……。残念だが、我々の手に負える相手ではないな」
「うむ。ここは同じ勇者であるエルシド殿にお任せしよう」
エボルガントとヴァレリーの両名もエルシドに託すことにしたようで、彼の背中を眺めつつ心の中でエールを送る。
特にエボルガントは、西園寺との戦闘で勇者との実力差を思い知らされた経緯があった。
「なぁに、妾がついておれば大丈夫。大船に乗ったつもりで待っておるがいい」
「アンジェラ殿――っと、もう行ってしまわれたか……」
エルシドよりも強いとの噂が上がっているアンジェラも、彼の後を追う。
巻き添えを食うと危険だと感じたためヴァレリーが止めようとしたが、すでに背中が遠くに見えていた。
「心配はいらぬのではないか? ああ見えてもエルシド殿よりも強いらしいからな」
「むぅ……しかしな……」
「某もそれを聞いた時は己の耳を疑ったがな。お主が案ずるのもやむを得んか」
実際のところ、端から見てアンジェラはどう見えているのか……一言で済ませば娼婦という単語だったりするのだが、戦場に現れた美女となれば指揮官が呼んだ娼婦なのだと一般兵は思っただろう。
ところがである。
そんな美女であるアンジェラが、エルシドを鍛えた師匠だとは誰も思わない事だろう。
現に老将二人は、互いに【コイツが娼婦を呼んだのか、この色ボケ爺め】と思っていたくらいにして。
なのでエルシドから真実を告げられ、先ほどの敵兵よりも困惑したのは仕方のないことである。
「ま、吉報を待つとしようぞ」
「うむ、そうだな」
強者の相手はエルシドとアンジェラに託すのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ドゴォォォォォォン!
「「「ギャァァァァァァ!」」」
地面を大きく抉る爆発が起こり、多数の兵士が四方へとフッ飛ぶ。
その真上には、竜騎士の紋章を印したマントを靡かせ浮遊する一人の女の姿があった。
「アッハハハハハ! 雑魚は雑魚らしく、あたしのサンドバッグになりな!」
特大の爆発魔法を放ったその女を見た兵は、ある一人の名を叫ぶ。
「くそっ、勇者だ――奴は勇者由良川だ!」
「ア、アイツが……勇者由良川!」
「そそ、そんな奴相手に勝てるのか!?」
「やるしかねぇだろ、勇者だろうが何だろうがよ!」
「とにかく、奴を撃ち落とせ!」
敵の正体は、現プラーガ帝国において最後となった由良川という女勇者だ。
彼女は魔法士としての能力がズバ抜けており、遠距離からの一方的な攻撃魔法は非常に厄介だと言えよう。
「お前ら雑魚じゃ相手にならねぇ。さっさとあのいけ好かない勇者を呼んできな!」
ズドォォォォォォン!
「「「ヒギャーーーッ!」」」
「ダ、ダメだ、ただの弓矢なんかじゃ歯が立たない!」
「くっそぉ……」
更に同等の爆発魔法を放ち、新たに兵士がフッ飛んだ。
何とか撃ち落とさんと奮戦するも、やはり一般兵には荷が重い。
「そこまでだ!」
威勢よく声を張り上げた青年が由良川の前に現れる。
よく見れば以前に辛酸を舐めさせられた相手――勇者エルシドであり、由良川の瞳が好戦的にギラつく。
「っ! ハッ、ようやくお出ましか、いけ好かねぇ劣化勇者」
「その言葉――そっくりキミにお返しするよ。苦し紛れの挑発は逆効果だと気付くべきだね」
「クッ――このっ!」
ダンダンダンダン!
挑発したつもりがされる形になり、由良川はエルシドに向けて無詠唱の魔法を発動させる!
小型の岩が炎上しながら飛んでいく様は、まさに隕石そのもの。
絶え間なく降り注ぐそれは回避し続けるのは困難だ。
しかし……
「よっ、ほっ、はっ――と」
「んな!?」
エルシドは全てを回避し、掠りもしない。
驚いた由良川は思わず手を止めてしまい、それをエルシドは見逃さなかった。
「隙ありぃ!」
「チッ!」
ガツンッ!
振り抜かれた剣が由良川を斬り裂くことはなく、肩に触れたままの状態で止まっていた。
「……硬質化か」
「ハン、そんな安直なやつじゃない。あたしの持つギフトは自身付与、魔法を自分に付与できるんだよ!」
由良川が行ったのは障壁を自身に付与することで、二重に障壁を展開したのだ。
これにより本来の障壁は突破されたものの、全身に付与された障壁により斬撃を防いだのである。
「この前は油断したけど今度はそうはいかないよ! キッチリと借りを返してやるから覚悟しな!」
「いいだろう。その勝負、受けてたとう!」




