閑話:燃え行くプリムラ教
ラーズグロムの知らない裏側の動きです。
「ウッ!」
「大丈夫ですか、ロドニー様!?」
「す、すまぬ、フルスト……」
下腹部から若干の血を滴らせたロドニーが、フルストに支えられながらも地下施設の奥にある隠し通路をヨロヨロと進む。
これまでロドニー以外は誰も立ち入らなかったため、当然手入れはされていない。
ヒビ割れた石造りの通路の先をランプで照らせば天井から滴る水滴が所々に見られ、周辺からはカビの臭いが二人の鼻を刺激する。
唯一マシだと言えるのは、魔物がいない事だと言えよう。
「くっ、無理な移動で傷口が開いたか」
「お待ち下さい、すぐにポーションを用意致します」
これ以上無理はできないと悟り、やむ無く壁にもたれ掛かる。
その間フルストはポーションを取りだし、ロドニーへと振りかけた。
「まさか我が教団がこのような最後を迎えることになろうとは……」
彼の言葉通り、聖プリムラ教の地下施設は大規模な火災により焼け落ちてしまったのだ。
そこでロドニーは隠し通路を使っての脱出を図ったのだが、詳しい経緯を語るには彼が怪我を負う前の時間まで遡る必要がある。
「む……妙に騒がしいが、何かあったか?」
礼拝堂で祈りを捧げていた教祖ロドニーが、遠くから聴こえる信者達の声に眉を潜める。
地下に設けられたこの施設では【走らず、騒がず、争わず】の三原則を唱えており、走り回ったり叫んだり喧嘩したりは処罰の対象となるのだ。
「やぁやぁご機嫌麗しゅう♪」
「貴様……ハイドラーか?」
いつにも増してハイテンションのハイドラーが礼拝堂へと駆け込んでくる。
騒がしい振る舞いにロドニーの顔が険しくなるが、今は現状の把握が大事だ――が!
「先ほどから騒がしいが、いったい――」
グサッ!
「ガハッ!?」
ロドニーの問いに対し、ハイドラーはナイフで答えた。
辛うじて急所は外れているものの、時間が経てば危険であるのは一目で分かる。
「貴様……ゴフッ、血迷うたか!?」
「いやいやいや、血迷ってなんかいませんぜ? なんせオイラは一等星様に忠誠を誓った使徒ですからなぁ!」
「一等星……ま、まさか貴様!」
ここでロドニーが気付いた。
錬金術が得意なハイドラーは、ラーズグロムを洗脳するための秘薬を所持しているのを。
その彼が一等星に忠誠を誓っている理由――それは、ラーズグロムによって薬を飲まされた以外にあり得ない。
「まぁまぁまぁ、そんなこんなでロドニーさん。貴方はこれにてさようなら~♪」
トドメを刺そうと楽し気にナイフを握りしめるハイドラー。
ロドニーが死ねば聖プリムラ教は崩壊する!
「その身を焦がせ――マットフレイムキャノン!」
ドゴォッ!
「グゴォォォ!?」
ナイフを振り上げたハイドラーに炎の砲弾が直撃!
全身を壁に打ちつけて炎上し始める。
顔半分が潰れており、この様子だと生きてはいないだろう。
「ロドニー様、ご無事ですか!?」
「その声は……フルストか!?」
「はい。今手当てを行います!」
危機的状況で馳せ参じたのは宣教師のフルスト。
間一髪のタイミングで現れ、重傷を負ったロドニーにポーションを振りかけ傷を癒した。
「ハイドラーがしくじったのだ。洗脳の秘薬を一等星に飲まされたらしい」
「なるほど、そういう事でしたか」
やむ無くハイドラーを殺した――いや、寧ろ生理的に受け付けないハイドラーを嬉々として殺したフルストが経緯を理解した。
「地上を見てきましたが、公爵の屋敷には火の手が上がっておりました。我々との関係が露呈するのも時間の問題かと」
「――で、あろうな。そうなればこの施設を使うことはできん……」
世間からは邪教という認識を持たれているので、ここが教団本部だと知られれば取り壊されるのは確実。
新たな活動拠点を確保する必要がある。
「この様子だと生き残った信者もそう多くは居るまい。残念だが我々は――」
「まだです、まだ諦める時ではありません!」
フルストが声を張り上げる。
「……フルスト?」
「我々にはアレが残されているではありませんか」
アレと言われて一瞬考え込むロドニーであったが、すぐに何を指すのか理解する。
「アレか。まさかこのような形で最終兵器を使うことになろうとは……」
二人が言うアレとは、まさしく最終兵器と呼ぶに相応しい古代兵器であった。
これは教団幹部しか知らない事実で、機があればそれを用いて宮廷を襲撃するのも視野に入れていたのだ。
もっとも、これまでにロドニー以外で実物を見た者は存在しないのだが。
このような経緯があり、ロドニーとフルストの両名は隠し通路の先にある最終兵器を元へと急ぐのであった。
「アレを――古代兵器を見つけたのは正に幸運であった。上手くいけばプラーガ帝国のみならず、世界を手にする事さえできるのではと考えたものだ」
「それほどの代物なのですか? その古代兵器というのは……」
「うむ。古い文献を必死に読み漁りようやくたどり着いたのが、1000年前に異世界から侵略してきたと言われている謎の勢力が使っていた兵器であることは間違いない」
この世界は、かつて異世界からの侵略を受けたと言い伝えられている。
これが事実か否かは定かではないが、当時の記録にあった兵器とロドニーが発見した兵器は非常によく似ていた――いや、まったく同じものだったのだ。
「古代兵器一つで国が落ちたという記録も残っておる。そのため他の誰かに奪われてはならぬと思い、ここへ隠したのだ」
「…………」
発見後すぐに秘匿しようと考えたロドニーは、多くの奴隷を購入すると秘密裏に洞窟を作らせ奥へと運ばせた。
情報漏洩を防ぐために奴隷は皆殺しにし、この隠し場所を知るのはロドニーただ一人となったのである。
「着いたぞ。そこに有るのが古代兵器――プリムギアだ!」
「これが……」
ロドニーがランプで照らした先をフルストも見上げる。
そこには全長10メートルは有るかと思われる巨大なゴーレムが鎮座していた。
手や足にしても人一人なら簡単に押し潰せるほどの大きさで、文献によれば様々な武装が備わっているらしい。
ちなみにプリムギアという名はロドニーが名付けた。
「鉄はおろか、ミスリルでもオリハルコンでもない、まったく不明な未知の素材が使用されているようだ。これを破壊するのは不可能と言っても過言ではなかろう」
プリムギアの足を撫でながら語るロドニーはどこか誇らしげだ。
一方のフルストも食い入るように見上げ、ロドニーの台詞が耳に入ってなさげである。
「しかしどうやって動かすのでしょう? 我々が動かせないようでは――」
「なぁに、その点はまったく問題ない」
「――え?」
論より証拠とばかりにプリムギアへ手を触れる。
すると……
グィーーーン……
「プリムギアが!?」
フルストが驚くのも無理はない。
ロドニーが触れただけで、プリムギアが腕を動かしたのだ。
「このように所有者が念じるだけで動かすことが可能なのだ」
「所有者が?」
「そうだ。このプリムギアは多くの魔力を流し込んだ者を所有者と認識するらしい」
当然のことながら、すでにプリムギアにはロドニーが魔力を込めているため、彼を所有者として認識してるのである。
「どうだ、素晴らしい兵器であろう?」
「ええ、大変素晴らしい兵器ですわ! これなら帝国を手中に収めることもできましょう!」
「うむうむ!」
「ですので――」
不意にフルストが真顔になり、ロドニーへと振り向いた。
「アンタはもう用済みよ」
ボゥッ!
「ぐがぁぁぁ!?」
何を思ったか突然フルストが発火魔法を放ち、ロドニーを火だるまにした。
「ぐぉぉぉ――フルスト、何を!?」
地面を転げ回りつつ訴える。
だがフルストは冷めた表情でロドニーを見下ろしており、言動を含めて先ほどまでとはまるで別人だ。
「何って……私は最初からこの兵器が目的だったんだもの、好きでアンタみたいなジジイに付き合ってたわけじゃないのよ」
「なっ!?」
フルストが聖プリムラ教に加わっていた理由が明らかになる。
少なくともロドニーは彼女を信頼していたので、予想外に裏切られた形だ。
「噂を耳にした時からどうしても欲しかったのよねぇ。あ、そうそう、大量の魔力を注入すれば所有者になれるんだったわね」
さっそくプリムギアに手を触れ、魔力を注ぎ込んでいく。
フルストの魔力は並の魔法士を大きく上回っているので、すぐに書き換えることができるだろう。
「がぁぁぁ! フ、フルストォォォ!」
「ったくうるさいわねぇ……。一等星だの三等星だの、アンタの下らないお遊びに付き合ってあげたんだから、感謝して死になさい」
もがき苦しむロドニーを他所に、淡々と魔力を注入していく。
すると10分も経たないうちにロドニーを上回る魔力を注入したようで、プリムギアとのリンクが感じられるようになった。
「フフフフフ、ようやく手に入ったわ。この兵器は私の役に立ってもらうから、アンタは精々あの世から眺めてるのね――って、聞いてないか」
振り向けばそこにロドニーの姿はなく、あるのは燃えカスに成り果てたかつてのロドニーであった。




