続・ラーズグロムVSニースレイ
ドドドドドシュ!
ガーディアンが変形した槍と剣が身体中に突き刺さり、おびただしい量の血が流れる。
「グ……ギャ……」
そして何もすることなくゴブリンは倒れた。
ギリギリであったが、ガーディアンが到達する前にフールの召喚が間に合ったのである。
「助かったよフール。問題は次の対処法だけれども……」
ゴブリンが盾となることで凌いだものの、危機が去ったわけではない。
ゴブリンから離れたガーディアンの矛先がラーズグロムへと向いているのだ、これを対処できるのなら逃げたりはしない。
「フフフフフフ! どうやら勝負あったようね」
「ニースレイ……」
ガーディアンの後ろから武骨な翼を生やしたニースレイが現れる。
恐らく2体のガーディアンを翼へと変形させたのだろう。
「便利でしょう? アンタの魔物を召喚する能力を聞いた時は凄く嫉妬しちゃったけれど、今となってはどうでもいい事だわ」
翼を解体したかと思うと今度は弓へと姿を変え、それをソッと手に取った。
「フフ、男連中が狩りをするのって、まさにこんな感じなのねぇ。もっとも――」
更にもう1体を矢に変形させ弓につがえると、それをラーズグロムへと向け……
「――獲物はアンタだけどね!」
放たれた矢がラーズグロムへと向かう。
そもそもニースレイの意志が宿っているので、狙いは逸れようがない。
このままラーズグロムを射抜くのか!
ズドォォォォォォン!
「「!?」」
――が、突然天井が崩落し、瓦礫が両者を隔ててしまう。
矢となったガーディアンがタイミングよく生き埋めとなり、まさに幸運に恵まれたと言えよう。
そしてポッカリと穴が空いた天井から、頼もしい味方が顔を覗かせた。
「ラーグ! 大丈夫だった!?」
「へ? カ、カズヨ!?」
「よかったぁ、何とか間に合ったみたいね」
なんと、現れたのはカズヨであった。
ラーズグロムが無事なのを確認し、目の前に降り立つ。
「いったいどうやっ――」
「話は後、今は逃げるのが先でしょ!」
説明を求めようとしたラーズグロムの襟首を掴み、再び天井へと舞い戻った。
すると直後!
ドガッシャーーーン!
「なな、なんなのあれ! いったいラーグは何と戦ってたっていうの!?」
ガーディアンを見たカズヨが顔を引きつらせる。
崩れ去った瓦礫の奥から巨大なハンマーが出現したのだ。
さすがにこれらを、ニースレイが使役しているガーディアンだとは思わなかっただろう。
「あのハイドラーの錬金した薬を飲んだらしい。詳しくは逃げながら話す!」
カズヨに先導される形で、あちこちが燃え盛っている通路を走る。
ガーディアンといい施設の炎上といい、つくづくハイドラーは優秀だと言えよう。
それこそお礼として一発ぶん殴りたい気持ちにさせられるくらいには。
「意思で連動してるガーディアンか……私達だけだと対処が難しいわ」
詳細を聞かされたカズヨが頭を振る。
武術の心得がないニースレイが相手とはいえ、決して侮ることはできない。
チョワイツ王国では秘薬を飲んだレモードルツと戦っているのだ、あれを基準として考えるのなら二人だけで挑むのは無謀だろう。
「ノアーミー達は?」
「別の仕事をしてるわ。とある街の治安維持が本来の仕事だから」
「そうか……」
「でも安心して。代わりのメンバーがもうすぐ来るはずだから」
どうにか勝機が見えてきた。
増援と合流するまで逃げ切れば、反撃に転じることもできるだろう。
「しかしここはどこなんだ? 窓が一切ないところを見ると、地下なのは分かるんだが」
「名前は忘れたけど、公爵のお屋敷にある地下よ。聖プリムラ教を利用して国を乗っ取ろうとしてたんだと思う」
どうやら皇族の血縁に近い公爵家の当主が反逆を企てていたらしく、長きに渡って隙を窺っていたようだ。
今回のお家騒動で行動を起こそうとしたらしいが、教祖のロドニーはシンボルとしてラーズグロムを望んでおり、当主との折り合いがつかずに放置されてたのだとか。
結局はラーズグロムの目に触れ、当主の反逆罪は揺るがないものとなりそうだが。
「止まれ、カズヨ!」
「っ!」
ドガガガァーーードズン!
「な!?」
フールの警告により急停止した直後、カズヨの目の前を掠めて巨大なハルバードが天井を突き抜けていく!
下の階からガーディアンが狙ってきたのである。
「――ワァァァーーー!?」
「ヒィィィィィィ!」
そこへ運悪く上の階にいた信者達が無惨にも落下していく。
信者がいたのなら地上へ出れると思い、ラーズグロムは天井を覗き込む。
「ここから地上に出れないかな?」
「それはダメ! さっきのガーディアンが戻って来たら避けられないわ!」
「わ、分かった」
言われてみればその通りだと考え直し、空いた天井を避けて再び走り出す。
その後ろから天に昇ったガーディアンが戻って来ると、背後から突っ込んで来る。
予想以上の速度だ!
「またか!」
「落ち着け! 早めに逸らそうとすれば軌道を修正してくる。俺のカウントゼロに合わせて横に飛べ!」
ガーディアンとの距離を計ったフールがカウントダウンを開始した。
「3……2……1……」
ロングソード形体のガーディアンが後ろから迫る。
巨大化しているため狭い通路ではギリギリで避けなければならず、息を飲んでカウントに集中した。
「0!」
「「ハァッ!」」
ゴォォォ……ドズゥゥゥン!
左右に分かれたところをガーディアンが通過し、突き当たりまで突っ込んでいく。
遥か前方に大穴が空いているのを確認し、カズヨが別ルートへ誘導する。
「くぅ……出口はまだなのか!? せめて屋外に出ないことにはまともに戦えない!」
「そうは言っても仕方ないじゃない。あの妙なガーディアンのせいで最短ルートから逸れちゃったんだもの!」
「二人共落ち着け。気持ちは分かるが冷静さを保つのだ」
本来ならとっくに脱出できてるはずなのだが、ガーディアンの追撃により回り道を余儀なくされたのだ。
その後も剣やら槍やらが散発的に飛んできては、回避という流れを繰り返す二人と一匹。
ラーズグロムが息を切らしてきたところで、ようやく地上への階段を発見。
そのまま地上へと脱出した――しかし!
「やっと脱出――ゴホッゴホッ!」
「いけない、煙を吸っちゃダメ!」
地上へと戻れば通路が煙で充満している状態であった。
屋敷全体が大火災へと発展してると思われ、カズヨは瞬時に口元を押さえる。
「このままじゃ酸欠になるわ、そこの窓から外に!」
「サンケツ?」
「とにかく外に出て!」
ガッシャーーーン!
言われた通りに近くの窓を叩き割り、外へとダイブする。
彼らが出た場所は広い裏庭のようで、何とか煙から逃れたようだ。
「……ハァハァ、助かったよカズヨ。さ、さすがに今回は……ハァハァ、生きた心地が……しない……」
「お疲れ様――って言いたいところだけど、まだ終わってはいないわ」
「その通り。また下からガーディアン迫ってきてるぞ?」
ゴゴゴゴゴ……
「――の、ようだね……」
フールの忠告通りに嫌な震動が地面を揺らす。
もはや言うまでもなくガーディアンが地面をブチ破ってくるのだと予想がつき、心底うんざりした表情のラーズグロムがカズヨに支えられつつ飛び退いた。
ドッゴォォォォォォン!
その期待に応えるように巨大な剣と槍が地面を抉って出現し、青空へと羽ばたいていく。
更に地面からは翼を生やしたニースレイも現れ、上空から二人を見下ろした。
「よくここまで逃げおおせたわねぇ。誉めて差し上げたいところだけれど、逃げ切れないってことも理解したはずよ?」
これはハッタリでも何でもなく、実際にそうなのだと思い知らされてた。
あのガーディアンは、障害物をもろともせずにターゲットを抹殺するのだと。
「確かに理解はした。僕一人なら絶対に勝てない相手だってことがね」
「あら、諦めがいいじゃない。まさか今さら命乞いをするつもり?」
余裕の笑みを浮かべるニースレイの問いに、ラーズグロムは黙って首を振る。
振った方向はもちろん左右にだ。
「命乞いはしない。それにもう、お前の勝ちは有り得ない」
「……はぁ?」
勝ち目はないと言われたニースレイが眉を潜める。
どう見ても今の状況はラーズグロムが追い詰められており、どこを見てそのような言葉が飛び出したのかと。
「おかしいと思わないのかい? 散々僕を襲ってきたガーディアンが、さっきから姿を見せないことに」
「……!?」
言われてみればとニースレイが取り乱す。
確かにガーディアンにはラーズグロムを殺せと命じていたはずだ。
意志疎通が可能なガーディアンだからこそ愚直に従うはずなのだが……。
「わ、わたくしの……わたくしのガーディアンはどこに……ハッ!?」
上空を見上げてようやく気が付いた。
一本の巨大な剣が魔族の男により魔法で拘束され、他二本の巨大な槍がダークエルフの少女によって氷付けにされていることに。
「ヘッ、中々便利そうな能力だが、自立した意志がなきゃ不意打ちは余裕だぜ!」
「……同じく。こちらに注意が向いてなかったから楽勝だった」
魔族の男はオリベル、そしてダークエルフの少女はヤミーという名で、カズヨの強力な仲間達だ。
実は地上に脱出したのとほぼ同時に彼らは駆け付けていたのだが、不意打ちを行うためインカムで指示していたのだ。
「ぐぬぬぬ、小賢しい真似を!」
悔しさで袖を噛むニースレイ。
しかし、彼女の悲劇はこれだけでは終わらない。
駆け付けたのはカズヨの仲間達だけではないのだ。
「フッ、隙だらけですね」
ザクザクザクザクザクッ!
「ギャァァァァァァッ!」
死角に回り込んでいたライザが爪を飛ばして首に突き刺したのだ。
完全に不意を突かれたニースレイは力なく地上へと落下し、背中に生えていた翼も消滅した。
ガーディアンの消滅は所有者の死を意味しており、どうやら落下と同時に首が折れて死亡したのだと思われる。
「皇位は僕が継承する。恨むなら野心に取り付かれた自分を恨むんだな」
ニースレイの亡骸を視界におさめたラーズグロムが、静かに目を閉じて呟くのであった。
これにて第4章は終了ですが、閑話と登場人物の紹介を挟んで最終章となります。




