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一等星と三等星

「こ、ここはいったい……」


 怪しげなダフ屋によって強制転移させられると、薄暗くて狭い個室のような場所に出た。

 目の前の棚には蝋燭(ろうそく)が一本だけ灯されており、その棚の真ん中にある仕切りを見るに、まるで教会の懺悔室のようなのを連想させられる。


「隙を見せるなラーズグロム。仕切りの向こうにダフ屋の反応がある」

「分かった」


 懐にいるフールから小声で注意を促され、ラーズグロムはいつでも斬りかかれるよう剣に手をかける。

 すると、こちらの様子が見えてるかのように、仕切りの向こう側からダフ屋の声が聴こえてきた。


「ありゃりゃこりゃりゃとそんなに警戒されちゃって、いかがなすったラーグさん?」

「貴様……やはり僕の正体を!」


 予想はしてたが、やはりラーズグロムだと知ってて接触してきたようだ。


「いったい何者だ? 何の目的で――」

「ハハハノハっと。お忘れですかいラーグさん? そもそも出会いはチョワイツの城の中でっせ?」

「……チョワイツ王国で?」


 他国の城で会ったと言われ、頭の片隅に追いやっていた記憶を引っ張りだす。

 するとどうだろう。

 ラーズグロムはこのふざけた言動に覚えがあった。

 確か城でレモードルツが暴れた時、このような男がいたような気が……




「――あっ、貴様は!」


 そして言動が似ている人物を一人思い出した。

 城の兵士に変装してラーズグロムに近付いた一人の中年男、聖プリムラ教の宣教師――ハイドラーを!


「多分恐らくそれで正解。貴方の心の拠り所――ハイドラーでござぁい♪」


 予想通りの台詞を本人からもらう。

 こうして拉致してきたということは、いまだラーズグロムをシンボルにするという企ては続いているということだ。


「何度も言うが、僕は貴様らの輪には入らない。シンボルが欲しいなら、架空の女神でも崇拝してるがいい」

「女神女神よ女神様っと。そうなりゃ姉が女神だぜぃ? オイラとしちゃ一等星のラーグさんに死なれたくないんだがな~」

「っ!」


 姉と言われればニースレイしかいない。

 つまりこのままだと彼女がシンボルとなり、ラーズグロムを排除しに動くと脅しているのだ。


「ちなみにニースレイは三等星。導き出される解答は、()()()()をめぐる骨肉の争い~♪」

「教皇……だと?」


 教皇と言われて顔をしかめるが、考えてみれば道理であった。

 彼ら聖プリムラ教が日の目を見るには弾圧下に置かれた現状から脱する必要があり、足元を固めるには国教として認めさせなければならない。

 その最短ルートとなるのが皇族がシンボルとなり皇位を継承するというものである。


「なるほどな、だから僕やニースレイを迎え入れようとしてたってわけか」

「さっすが我らの一等星! ほいほい正しくそのとぉり♪」


 ここでラーズグロムは思案する。


(兄二人への襲撃が成功すれば次はニースレイを仕留める必要がある。せっかく内部に入り込んだんだ、いざとなればフールに支援してもらうとして、今のうちにコイツらを叩いておくのが得策か)


 元はフールの強行で罠に掛かったのだ、危機を脱する手段は整えてあるだろう。

 ならばそれを前提で組織を潰しに動いてやろうと決めた。


「ニースレイはどこにいる?」

「慌てなさんなラーグ殿、すぐに会わせて差し上げまさぁ。もっとも――」


 プシューーーッ!


「っ! これは!」


 ハイドラーが言葉を切ると同時に天井から煙が噴出された。

 毒が含まれていると思い咄嗟(とっさ)に口を手で塞ぐと、再び奴の声が聴こえてくる。


「貴方には我々の操り人形になってもらいますがねぇ。……ってなわけで、今はゆっくりとお休みなすって下さいなっと♪」

「ク……ソゥ……」


 強制的に眠らせた後に何かを施すつもりなのだろう。

 徐々にラーズグロムは意識を失っていき……


 ギギィィィ


「ヒヒヒノヒっと♪ それでは諸君、眠り姫ならぬ眠り皇帝をご丁寧に運び出して下さいなっと♪」


 横の扉が開かれ他の信者と共にハイドラーが入室してくるなり、せっせとラーズグロムを運び出す。

 そして別の小部屋へと運び込むとベッドに寝かせ、懐から怪しげな薬瓶を取り出した。


「さぁてさてさて、ここに取り出したるは使役の秘薬。こいつを飲ませりゃあら不思議、後は使用者の思い通りって訳でんねん♪」


 薬瓶には飲ませた相手を意のままに操る効果があり、これでラーズグロムを操ってしまおうという魂胆である。

 ニースレイに対しても同じ薬を用いており、効果はそちらで実証済みだ。


「さささのさっと、一気にグイっと――」

「――貴様が飲むといい」

「ゴムッ!?」


 寝ていたはずのラーズグロムが突然起き上がり、ハイドラーの手にした薬瓶をそのまま口へと突っ込んだ。

 実はフールに施された処置により、一定時間ラーズグロムへの害は遮断されている。

 そのため眠らされたフリをしたまま運ばれてきたのだった。


「ゲホッゲホッ! ののの、喉ごしスッキリ結構なお手前で――ゲホッゲホッ!」


 唖然とする信者をよそに、むせたハイドラーがラーズグロムへ(こうべ)を垂れた。


「おお、最愛なる一等星様。何とぞわたくしめにご命令を!」

「……どういうつもりだ?」


 態度が急変したハイドラーを不審物を見るかのように見下ろす。

 愚かにも自分が用いた薬がラーズグロムによって口内へと流し込まれたため、薬の効果が持続するうちはラーズグロムの操り人形と化してしまったのだ。


「よく分からんが、今日をもって聖プリムラ教は解体する。この施設を焼き払い、二度と使用できないようにしろ」

「ははぁ!」


 命令を聞いたハイドラーは、すぐさま実行に移す。


 ガシャーン! ガシャガシャーン!


「さぁ燃えろ燃えろぉ、ラーズグロム様の障害となる我が組織は解体されてしまえぇい!」


 アイテムボックスでも持っているのか次々と薬瓶を取り出しては部屋中にブチまけ、すぐに炎となり燃え広がった。


「ハ、ハイドラー様、お戯れを!」

「お止めくださいハイドラー様!」


 ハッとなった信者が止めようとするが、ハイドラーは止まらない。


「さぁてさてさて、ハイドラーの実力はこんなものじゃありませんぜぇ!」


 既に消火できないくらいに勢いを増した炎に満足したのか、ハイドラーはそのまま部屋を飛び出していった。


「先の処置により魔力の消耗は激しいが、これなら元は取れそうだ。今のうちにニースレイと教祖を探すぞ」

「分かった!」

 

 慌てふためく信者をよそに、ラーズグロムもその場を後にする。

 ニースレイと教祖を討てば帝国の憂いが一つ消えることになるのだ。 



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「おおい、誰かこっちの消火を手伝ってくれぇ、とても手が足りないんだ!」

「無茶言わないで! こっちもそれどころじゃないのよ!」

「ここはもうダメだ、火の手が強すぎる!」


(ハイドラーのお陰で誰も僕を気にかけてる余裕はない。今なら堂々と動けるな)


 教団信者が右往左往する中、ラーズグロムは彼らを避けてニースレイと教祖の捜索に乗り出していた。

 今後の事を考えればニースレイだけでも仕留めておきたいところである。


「おい、そこのアンタ。この先にニースレイ様がいらっしゃるんだ、救出するのに手を貸してくれ!」

「それは本当か!?」

「ああ、こっちだ!」


 まさに棚からぼた餅の如く、信者によって居場所が判明した。

 当然ながら救出に同意したするフリをし、信者の後についていく。


「ニースレイ様ぁ、ご無事で――ギャッ!?」


 他の小部屋とは違いやや豪華な扉を開け放った信者を、用済みとばかりに背後から斬りすてる。

 部屋の中を覗き込むと、そこには憎き姉――ニースレイが優雅に紅茶を(たしな)んでいた。


「あら、誰かと思えば生き恥を晒し続けているラーズグロムじゃないの」


 憎たらしいほどに気品のある声が部屋に響く。

 落ち着き払って椅子に腰を下ろしている姿からは優雅さを感じられ、まるで火の手が延びようとしている現状も意に介してないかのようだ。


「どっちが生き恥だニースレイ。僕を罠にかけるのに加担した挙げ句、自らが罵っていた邪教にその身を落とすとは……」

「あら、随分とご機嫌ナナメね? それに実の姉を呼び捨てにするなんて、英雄気取りのアンタには再教育が必要かしら」


 いまだ呑気に茶をすするニースレイを雑に呼び捨てた。

 自分を蹴落としにかかった姉は既に敵でしかない。

 冒険者パーティ【ニューペガサス】は、ニースレイから依頼されたと生け捕りにした男が自白したのだ、今さら取り繕う必要がどこにあるというのか。


「フン、何が再教育だ。そもそもお前は()()()()()()()()()だろう?」

「……ふ~ん? よく気付いたわね」


 ニースレイが僅かに目を細める。

 正確にはフールが気付いた事実であったが、彼女は洗脳を施されてはおらず自我を保っていたのだ。


「ま、その通りよ。だってわたくしを彼らの象徴して迎え入れて崇拝してくれるって言うんですもの、断る理由なんかないじゃない? それに――」


 扇子で自身を扇ぎつつ立ち上がると、勝ち誇ったようにニースレイは続ける。


「信者達を使えばバドラーゼやザファークだって始末できるのよ、こんな美味しい話を拒否するアンタの方が理解できないわ」


 聖プリムラ教にはフルストやハイドラーという厄介な宣教師がいる。

 なるほど、彼らを上手く利用すればいずれは兄二人を暗殺してしまうかもしれない――そうラーズグロムは思った。


「既に計画は進行中よ。呑気に武術大会を観戦してるバカ共を始末するため、フルストに動いてもらったからのだから」

「フルストだと!?」

「あら、知ってるのね? だったら分かるでしょ、あの女の強さが。もうじき闘技場が大変なことになるわよ、アーッハッハッハッ!」


(不味い! 闘技場にはリオン達がいるんだ、下手をすると巻き込まれる!)


 ここでラーズグロムは悩む。

 強力な助っ人であるアンジェラがいても、フルストの相手は危険かもしれない。


「心配はいらん。リオンには俺の魔力を分け与えたのだ、一度くらいなら転移魔法を使える。いざとなれば逃げおおせるだろう」


 フールが懐からボソリと(つぶや)いたことによりそれは解消される。

 ならばとニースレイに向き直り、静かに剣を抜いて構えた。


「覚悟しろニースレイ。僕はお前を討って皇帝に成り上がる!」


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