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襲撃作戦始動!

「っへへぇ、待ちに待った武術大会だ。どんな闘いが見れるか楽しみだぜ!」

「おぅよ、まさかこの国で武術大会が見れる日がくるとはな」

「んなことより観戦席がヤベェよ、このままじゃ座れねぇぜ!」


 闇ギルド【アスラン】のアジトで潜伏して一週間。

 ついに武術大会当日を迎え、闘技場前は参加者と観客で溢れかえっていた。

 予想を遥かに超えた長蛇の列に、運営側からの悲鳴が聴こえてきそうな雰囲気すらある。

 そんな中、ラーズグロムら一行も見た目を偽装して列に並び、入場できるのを待っている状態だ。


「それにしても凄い数だよね~。このままだとマジで座れないんじゃない?」

「でしゅね。立ち見になる可能性は高いと思うでしゅ」


 熱気がムンムンする中、ジュリアがパタパタと手で扇ぎつつも諦め半分な顔で闘技場入口を眺める。

 メッツも続いて目を凝らすと、警備兵が並んでいる人数をカウントしながら何かを話しており、いつ入場を打ち切ろうかと考えているようにも見えた。


「ジュリア、本来の目的を忘れてはいませんか?」

「そうだよジュリアちゃん。邪魔な二人を亡き者にするんだから、観戦してるどころじゃないと思うけれど……」

「忘れてはいないけど……っていうか、レシルがさらっと怖いことを……」


 ライザとレシルから呆れた顔を向けられたジュリア。

 そもそも襲撃に加わるわけではないのでアジトで待っていてもよかったのだが、それを頑なに拒否してついてきたのだ。

 そうなるとメッツとレシルもジュリアが心配だからと、結局は全員で向かうことに。

 ちなみにフールはラーズグロムの懐に隠れている。


「あ、怖いと言えばさ、あのキチガイ野郎は襲って来なかったね? てっきりこの一週間のうちに沸いてくるかと思ったけれど」


 ジュリアの言うキチガイ野郎とは、ずばりエンダーロックのことである。

 【アスラン】の構成員であるペドロから生きていると聞かされた時は驚愕(きょうがく)したが、予想に反して一行の前には現れなかった。


「どこかで野垂れ死んでくれればいいのですが、あのしぶとさならトドメを刺さない限り生き続けるでしょうね」

「ああ。だけど一度死んでいるようなものだから、奴も警戒して機を(うかが)ってるんだと思う」


 もしも再び現れたなら、今度こそ肉片も残さずに火葬してやると一行は心に誓う。


「むむ? 入口付近が騒がしいのぅ?」

「あ、ホントだ。乱闘騒ぎとか起こってるんじゃない?」


 アンジェラの台詞で入口に目を凝らすと、警備員と観客とで揉み合いが起こっていた。

 それがドンドン波紋のように広がっていき、罵声と怒号が入り雑じった騒音があちこちから沸き上がる。

 原因を探るため、目を閉じたレシルが耳を澄ませると……


 ヒョコヒョコ


「うん、分かった。観客席がいっぱいになったから、入場を打ち切ったんだって」

「「「マジで!?(かよ!?)」」」


 ジュリアのみならず、付近の男達も打ち切りというフレーズに強く反応する。


「おい嬢ちゃん、マジで警備員はそう言ってやがったのか!?」

「う、うん。あたしは耳がいいからハッキリと聴こえたけど……」

「くっそ~、ふざけやがって!」

「こんな生殺しみたいな事が許されるかよ!」


 周囲の男達は激怒し、一斉に入口へと押し寄せていく。

 もはや完全に列は無くなり、スタンピードのような群衆が警備員を取り囲んで袋叩きにし始めた。


「なんか悲惨なことになっちゃってる……」

「いや、レシル(アンタ)が原因なんだけどね。――つ~かさ、そんなことよりジュリア達はどうなんの? 中に入れないんじゃ計画はパーでしょ?」


 バドラーゼとザファークを襲撃するなら闘技場に入る必要がある。

 それが出来ないのなら計画は遂行できず、一行は頭を悩ます羽目に。


「はぁ……仕方ない。武術大会は3日間行われるんだし、明日か明後日に――」

「お~やおやおや、皆々様。こんな道のど真ん中に(たたず)んで、何かお困りですかな?」

「ん? 貴方は……」


 一行が振り返ると、瓶底メガネの商人風の男が揉み手をしながらすり寄って来たところだった。

 いかにも怪しいと言わんばかりに口の端を吊り上げており、このタイミングで声をかけてきたのも観戦席を高く売り付けようと企んでいるに違いない。

 ……まぁ、早い話がダフ屋である。

 

「ほほいのほいほい、興味を示した貴方には~、これをあげましょお約束♪」

「こ、これって――」


 ダフ屋が差し出してきた紙切れは正しく観戦チケットであった。

 しかも7枚キッチリ用意してあるのも嫌らしさを感じる。


「――で、いったい何枚の金貨を要求するんだい?」


 やむを得ずチケットを購入すると決めたラーズグロムは、ため息をつきながらダフ屋に視線を移した。

 チケットそのものは銀貨5枚であったが、ダフ屋の相場でいえば10倍から20倍あたりだろうが……


「ノンノンノン。オイラの仕事を手伝ってくれるなら、お代はタダでござんすよ?」

「「……え?」」


 二人揃って間の抜けた声を出す。

 しかし内心は別で、ラーズグロムは不信感から眉を潜めると、ジュリアは感極まったように目を輝かせていた。


「それで? 妾達に何をさせようというのじゃ?」

「なになになぁに、決して難しいことじゃありまへん。ちょいと届け物をしてくだされば、それだけで無問題でさぁ」


 ……おかしい。

 たったそれだけで観戦チケットが手に入るなら、対価としてならあまりにも釣り合わないというものだ。

 先ほどからレシルが頻繁に袖を引いてるのもあり、このダフ屋からも嫌な臭いが漂ってきてるのだろう。


「すまないが、この話は――」

「交渉成立です。詳しい内容を伺いましょうか」

「――って、ライザ!?」


 やはり断ろうかと考えたところで、ライザが割り込み了承の意を示す。

 ラーズグロムに目配せをしたところを見るに、恐らくはフールによる指示があったのだろう。


「OKOK、オールオーケー。手伝いは数人で結構ですんで、オイラに付いてきてくんなまし。――あ、男手がいるんでそこの旦那は付いてきてほしいでさぁ」

「……僕がかい?」


 ダフ屋がラーズグロムを指名してくる。

 返答を悩んで目を泳がせると、リオンが助け船を出してきた。


「ならば二手に別れればいい。私とレシル、それからアンジェラが先に闘技場で待っていよう。他は後から合流すれば問題ない」


 やはりフールの指示なのかテキパキと割り振っていき、先の三人とは一度わかれることになった。




「……で、どういう事なんだい? 僕としては明日か明後日でもよかったんだけれど」

「勿論理由はあります」


 ダフ屋に聴こえないように、小声でライザとやり取りをする。

 フールからの念話によると、このダフ屋は間違いなく何らかの組織に関わっているだろうとの事だった。


「コソコソと裏で動かれるくらいなら、こちらから出向いてやればよいと(おお)せです。ふざけた真似をした連中を内部から潰してやればよい……と」


 話している今も闘技場からは遠ざかり、徐々に人気(ひとけ)のない郊外へと変わろうとしているところだ。

 こんな場所に商売っ気があるかと聞かれれば、真っ先にないと答えるだろう。

 やがて誰も入り込まないであろう裏道から行き止まりまでやって来ると、ダフ屋が振り向き様にラーズグロムの腕へと手を伸ばし……


 ガシッ!


「っ!」

「さぁてさてさて、ここが終点決着点。それでは皆様さようならっと♪」


 シュン!


「……やはり罠でしたか」


 一瞬にしてダフ屋とラーズグロムが目の前から消え去る。

 恐らくは最初からラーズグロムを連れ去る算段だったのだろう。


「ちょ、そんな落ち着いてて大丈夫!?」

「そうでしゅ、早く捜さないと手遅れに!」


 騒ぎ出す二人をよそに、なぜかライザは冷静さを保っていた。

 それというのもフールの指示により敢えて罠に掛かっていったので、この現状は想定内なのである。


「落ち着きなさい二人共。ラーズグロムの場所なら分かります」

「そうは言っても場所が分からな――どゆこと?」

「でしゅ?」


 首を傾げる二人にライザが種明かしをする。

 今この場にいない自身の主の名を上げて。


「フール様も一緒に転移したので、場所なら特定できてます。さぁ行きますよ二人共」

「って、ちょっと待ってってば!」

「でしゅ!」


 ラーズグロムが転移したであろう場所へとライザ達が急行する。

 一方でリオン達三人も襲撃のために闘技場へと潜り込んだが、果たして作戦の行方は……。


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