衝撃の事実
エンダーロックとの戦いを終えた一行は、ファミートへ戻ると無事アンジェラと合流を果たした。
一行が街を出たのも影響したが、アンジェラが上手く被害を食い止め住民からは感謝されることに。
お陰で宿泊代はタダとなったが、街を出る時まで住民に見送られるという目立ちたくない一行にとっては有り難くない状況を生み出してしまい、足早に帝都を目指す羽目となった。
「ところでラーズグロムや、帝都には正面から入り込むのかや?」
「ハハッ、まさか。そんなことをしたら門番にバレて追い回されるだけだよ」
アンジェラの問いかけに対し、肩を竦めて苦笑いをする。
特に帝都は検問が厳しく、国外からの入場は長時間待たせて審査をするくらいなのだ。
噂では鑑定スキルを持っている者が検問に携わっているらしく、それが本当なら偽装したところで簡単にバレてしまうだろう。
「ではどうするのじゃ?」
「時期に分かるよ。帝都に入るには協力者が必要だからね」
「ふむ、協力者か。それは今、妾達が向かっている場所と関係があるのかや?」
「勿論だよ」
一行が歩いているのは帝都から見て東にある沼地で、抜かるんだ足場と視界を妨げる岩が点在している場所だ。
岩山が日を遮る箇所もあり、暗がりからの魔物の奇襲も想定しなくてはならない。
もっとも――
「ギシャーーーッ!」
「ムン!」
ドグチャッ!
「フン、他愛もない。妾を倒すつもりなら始まりの竜でも連れてくるのじゃな!」
そこらの魔物ではまるで相手にならず、沼に住まうラットリザードが顔を出した瞬間にアンジェラの蹴りにより四散したのだ。
一応はDランクの魔物であるが彼女にとっては雑魚でしかなく、例え不意打ちが成功しても傷を負うことはなかっただろう。
「そのなんちゃらドラゴンってヤバそうなやつは実在するの? あ、いや、実在しなくていいんだけれど……」
「すでに伝説という扱いになってしもうたが実在はしておるぞ? 今はどこにおるやら見当もつかぬが。なんなら探しに――」
「い、いえいえ、結構です」
探しにいくという物騒なフレーズが聴こえた気がするので、ジュリアは手をパタパタと振って強引に話を打ち切った。
「ム? ラーズグロムよ、どうやら迎えが来たようだぞ?」
「うん、予想通りだ」
雑談を交わしながら進んでいると、フールがとある反応を感知する。
それは帝都からの脱出に協力してくれた闇ギルドの構成員のものであった。
「むむ? その迎えとやらは、あの岩陰の下にいる人間達のことか?」
「うん、多分その通――って、まさか、アンジェラにも感知できるスキルが!?」
「うむ。妾には探知波動という生命体を探知するスキルがあるのでな。中々便利であろう?」
確かに便利ではある。
しかしこの場合、先の問いかけに対して――
「……そ、そうだね」
――としか言えないのも仕方のないことだ。
そして答え合わせをするように小さい岩がズズズと動き、下から青年が顔を覗かせる。
「よう、しばらく振りだな」
「はい。その節はお世話になりました。無事に戻って参りましたが、正面からは入れないと思われ――」
「分かってるって。寧ろバカ正直に門を潜ろうとしなくて助かったぜ」
以前と同様に軽口をたたくのは、闇ギルド【アスラン】の構成員――ペドロであった。
彼の両脇にも何となく見覚えのある男達が居り、彼らも同じ構成員だったはずだ。
「ま、つもる話も有るだろうが、歩きながら話そうぜ」
ペドロによって手際よく地下へと招かれると、新たに増えたメンバーを紹介しつつ、帝都に向けて歩き出す。
脱出の際にたどった薄暗くジメジメとした通路が、どことなく懐かしさを感じさせる。
「先ほどからキョロキョロとしてどうしたのです、ラーズグロム?」
「あ……いや、何とか戻って来れたなと思ってね。あの時は助かりたい一心で、後先考えずに逃げていたから……」
懐かしんでいると、ライザから怪訝な表情をされてしまった。
「まったく。よくもまぁ行き当たりバッタリで生きてこれたものだ。まぁ俺としてもやり甲斐があって退屈はしなかったがな」
「その行き当たりバッタリにジュリアは巻き込まれたのね……。こうなったら絶対に皇位を継承して側室にしてよね?」
「……考えておくよ」
フールの台詞にジュリアが被せてくる。
被害者っぽく語っているが、彼女の場合は自業自得だ。
それでもラーズグロムは責任を感じてるのか、額に手をあてジュリアの待遇を考えているようだが。
「おいおい、思い出話に花を咲かせるのは全てが上手くいった後にしてくれよ? 一週間後には皇帝候補の二人を襲撃するんだろ?」
ペドロに言われて一行は表情を引き締める。
武術大会においては、観戦に訪れるバドラーゼとザファークを同時に討つまたとない機会だ。
更に都合がいいことに、ニースレイは邪教である聖プリムラ教へと身を落としているので、実質的に兄二人を討てば皇位を継いで堂々と討伐できるだろう。
「今から一週間後か……。これまで大々的な大会は殆どなかったし、参加者は多そうだ」
「おぅ、ラーズグロム様の言う通りだ。犯罪者や捕虜の兵士をなぶり殺しにするショータイムは今まであったが、本格的な武術大会は亡きムンゾヴァイスが皇位を継いでからは行われなかったからな」
冷酷無比な独裁政治となれば、それを解消するための娯楽を庶民に提供する必要がある。
他国においては武闘会の開催は年に数回は行われるのが殆どだが、プラーガ帝国では行われていない。
代わりに犯罪者や捕虜を見せしめも込めてなぶり殺しにするという、言わばガス抜きは定期的に開催されてきたが。
「どうして武術大会は行われてこなかったでしゅか? 他国なら優勝者に騎士爵を与えて迎え入れるって感じのは多いはずでしゅが」
「それは父上が――ムンゾヴァイスが武術大会に猛者が集まるのを懸念したからだよ」
メッツの疑問にラーズグロムが答える。
武術大会となれば国中から腕自慢が集まるのが当たり前だ。
しかしそうなると、血気盛んな猛者共によって治安が乱されるのは想像できるというもの。
そのため警備を厳重にすべく予め騎士団を配備する必要も出てくるのだが、ここが最大の問題であった。
「大会出場者の中に間者が紛れていた――なんて事が過去にあって、出場者を煽って暴動を起こされたんだ」
暴れる猛者達を鎮圧するのは騎士団だけでは荷が重かったのだ。
当時の皇帝は慌てて軍を投入したが、騎士団と出場者に多くの犠牲を出す羽目に。
更にそのタイミングを狙い、複数の領主が反旗を翻すという忌々しい歴史が存在するのである。
「だから武術大会は二度と開催されないと思ってたんだけれど……」
「敢えて開催したということは、その危険を排除する自信がある――と言うのだな?」
「……多分ね」
ラーズグロムの台詞をフールが引き継ぐ。
今回の武術大会は対チョワイツ王国への備えの一環であり、再び暴動が起これば本末転倒だ。
それを防ぐ手立てを用意してあると考えるのが妥当である。
「そいつに関しては既に情報を集めてあるぜ?」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。こう見えても裏稼業のエキスパートってやつだ。情報収集は任せな!」
ドンと胸を叩いたペドロが豪語する。
彼ら【アスラン】は、ラーズグロムが戻ってきた時に備えて日々情報を集めていたのだ。
その中には当然、武術大会に関することも含まれていた。
「なんでもよ、ダンジョンの機能を応用したとかで、瀕死に陥ると強制的に離脱できる特殊なフィールドを作り上げたんだとよ」
「ダンジョンの機能を?」
「ああ。つっても俺達もダンジョンに詳しいわけじゃねぇし、何がどうなってと聞かれても答えようがないがな」
ペドロが言うには、ザファーク主導の元で闘技場が大規模な改良を施されたのだという。
そのため観戦者に対しては大々的に安全性をアピールし、集客による経済効果も期待してるのだとか。
「でもさ、それだと暴動が発生した時の対策にはならなくない? 前の暴動は鎮圧に手間取ったから被害が大きくなったんでしょ?」
「あ、そう言われてみれば……」
確かにジュリアの言う通りで、怪我人の手当ては出来ても暴動を起こした参加者を鎮圧できなければ意味がない。
納得しかけたラーズグロムもペドロに顔を向けて答えを待つ。
するとペドロはすかしたように笑い……
「フッ、甘いぜお嬢ちゃん。負傷者を強制離脱させれるんなら、参加者全員を地下牢なんかに強制転送できると思わねぇか?」
「……ああ、そういうこと!」
納得したジュリアが掌をポンと叩く。
特殊なフィールドと言うくらいなのだ、参加者が闘う舞台上に転移系の罠を設置して、主導者側が一方的に発動させれるよう仕込んでいる可能性は充分考えられる。
「さて、もうすぐアジトに着くが、その前に悪いニュースを伝えなきゃならねぇ」
全員の視線がペドロに集まる。
悪いと言うなら既にラーズグロムの置かれてる状況は良いとは言えず、今さら悪い情報の一つや二つは許容範囲だ――と、ペドロから語られるまでは思っていたが……。
「奴は……エンダーロックは生きている」
「「「な!?」」」
過去最大級に、彼ら一行は動揺した。




