涙と怒りの再会
「ラーズグロムよ、どうやらお出ましのようだぞ?」
「……きたか」
深夜、静寂の訪れたファミートの街を無数の赤装束が取り囲む。
それを察知したフールは即座に皆を呼び起こした。
「数にして100は居るな」
「100人も!?」
「ああ、身なりからして聖プリムラ教徒ではないな。恐らくは【極上鮮血】だろう」
「奴らか……」
聖プリムラ教徒は真っ白なローブに身を包んでいるのが特徴で、それ以外で思い当たるのは極上鮮血しかいない。
「ど、どうするの? このままここに居ても大丈夫なわけ?」
「慌てるなジュリアよ。まずは――チッ、こやつら!」
突如フールが声を荒らげる。
何事かと視線が集まる中、偵察を行わせていたチャージクロウからの光景をそのまま告げだした。
「街に火を放ってきたぞ!」
「なんだって!?」
チャージクロウの視点からは次々と火矢を射ち込んでいる赤装束が映っていた。
既に門番も殺られた後であり、このままだと明日の朝には廃墟と化してしまうだろう。
「アンジェラ、火をつけて回ってる奴らを片っ端から仕留めてくれ。その間に僕らは外に出る」
「よいのか? それだとお主が危険な気がするが……」
「そうだぞ、あのザルムスが言っていた事を忘れたわけではあるまい?」
二人に言われて【極上鮮血】について語ったザルムスの台詞を思い出す。
普通の闇ギルドとは違い、血を求めて闇ギルドを結成した首領のエンダーロックは、何よりも殺しに重点を置いている――と。
『そうだ、連中の目的は他者の血を見ることにあるのだ』
『ち、父上!?』
父であるムンゾヴァイスの幻覚が語りかけてくる。
『ならば街を囮にし、脱出すればよいではないか。ついでにお前を偽装した焼死体を残せば連中を撹乱できる』
『バカな、それが国を治める皇帝の言葉か!』
『フン、つくづく甘いやつよ。周りの者を上手く利用できる者こそが上に立つ資格があるのだ。言わば街の住民は名誉の死だ』
『くっ……』
しかし、その案をよしとせず、ラーズグロムは思考を振り払う。
『僕は貴方とは違う。僕は誰も犠牲にはしない!』
『バカめ、敵がいる限りどうあがいても犠牲は出る。それが分からんとは愚かなやつめ』
『ええ、分かりません、分かるつもりもありません。僕は僕で貴方ではないんだ!』
父親の影が脳裏にチラつき、街の一つなど放っておけと囁いてくる――が、それを真っ向から否定して頭を振り、ムンゾヴァイスの影を片隅に追いやった。
「彼女達がいれば大丈夫。これまでもそうやって切り抜けてきたんだ」
そう述べて周りを見渡すとライザとリオンは照れ隠しからか顔を背け、レシルとメッツはコクりと頷く。
なぜかジュリアだけはサムズアップをしているが。
「それに皇帝として自国の街が火の海になるのは見過ごせない!」
語気を強めたラーズグロムの言葉で全員の視線が集中する。
しかし本人の視線は揺らぐことはなく、真っ直ぐにアンジェラを捉えていた。
「まぁよい。お主がそう言うなら希望通りにしよう。散らばってるゆえ少々面倒じゃがの」
「ありがとう!」
アンジェラは頷き窓から飛び出すと、残された一行も宿屋をあとにし街の外へと走り出す。
目指すは北門。帝都がある方向で、そこから脱出すれば街を放置して全力で追ってくるだろう。
「待てぃ! 俺達から逃げようったってそうはいかねぇぜ!?」
「テメェらはここで血しぶきを上げるのさぁぁぁ!」
北門に着くと、すでに門番は倒され赤装束の連中が封鎖してる状態であった。
脱出を図る住民を逃さないようにするためなのだろう、外壁の上にも弓を構えた赤装束がズラリと待機しているのが目に止まる。
「リオンとレシルは外壁の方を!」
「任せな」
「うん、分かった!」
「メッツとジュリアは門を開けてくれ!」
「「了解」」
ドゴォン!
「グワァッ! き、気を付けろ、魔法士が紛れてやがるぞ!」
「落ち着け! 先に魔法士から――ギャッ!」
「こ、こんな遠距離から――ガハッ!」
リオンの火球が外壁に直撃し煙を上げると、続いてレシルの早射ちによる矢が次々と赤装束に命中していく。
「邪魔でしゅ!」
ザクッ!
「グホッ!」
「よっしゃ、今のうち!」
レシルに気をとられてたらしく、開閉装置の前にいた赤装束はアッサリと倒れた。
その隙にジュリアが門を開けていく。
「クソッ、このままじゃ門を開けられちまうじゃねぇか!」
「何やってやがる、早く門を――」
「わたくしを前によそ見とはいい度胸です」
ザシュザシュザシュ!
「ゲハッ!」
「――っくしょう……」
更に正面に構えてた赤装束をライザが始末し、付近には赤装束の姿が見当たらなくなる。
「よし、このままファミートから出て連中を街から遠ざけよう!」
門を抜けた一行は、東は平原――西は森となっている街道を走っていく。
すると一人二人と、一行を追ってくる人影が月明かりに照らされているのが見え、思いきって東に広がる平原へと躍り出る。
当然のように人影も追ってくると、素早く一行を取り囲むように展開してきた。
「貴殿がラーズグロム殿とお見受けする」
10人程度のリーダー格とおぼしき男が言葉を発する。
顔がラーズグロムを向いている事からすでにバレているのだと捉え、嘘偽りなく頷いてみせた。
「エンダーロックの命により、貴殿のお命――ちょうだいいたす!」
「やはり極上鮮血か!」
刹那、ダガーを手にした赤装束が一斉にラーズグロムへと迫る!
「させません!」
「我々を無視するとはいい度胸だ」
背後左右の敵はリオンのファイヤーストームで牽制し、その間に正面からの敵をライザが中心となって迎え撃つ。
だが相手もさるもの。無理には踏み込まずに距離をとり、先ほどの男が口を開いた。
「……良い動きだ。我々の手にあまる相手ではあるだろうな」
「だったら諦めてくれないかい? 話が通じる相手を殺めたくはないんだ」
「フッ、笑止。我らは鮮血の掟に縛られし存在。血を求め血を啜りし、忌まわしき異端者なのだ。いまさら日向の道を歩くことなどできぬ」
分かりきっていたことだが赤装束達の説得は失敗に終わる――いや、ラーズグロムによる時間稼ぎは成功だと言っていい。
「ファイヤーストーム!」
「「「っ!」」」
言葉を交わすことでリオンの詠唱時間を稼いだのだ。
結果ファイヤーストームを再発動させ、その隙にライザが突撃する。
「ハァァッ!」
「ムン!」
――が、リーダーの男は空高く飛び上がり、ライザの爪は空を切る。
ライザを飛び越えた今、男の直線上には障害となる者はいない。
「もらったぞ!」
好機と見るや、ダガーをラーズグロムに定めて投げ放ってきた。
しかし――
キィィィン!
「甘いでしゅ!」
「チッ! しくじったか……」
素早く反応したメッツが上手く叩き落とし、ラーズグロムへと到達することはなかった。
だが一転、今度は男に危機が迫る。
シャッ!
「何!? ――グワァッ!」
レシルが男の着地に合わせて矢を放っていたのだ。
さすがに空中で避けることはできず、男は右足に矢を受けるのであった。
「今だ、二天一流――天地斬りぃ!」
バズッ!
「ガハッ!?」
頭上から振り下ろされた剣により男の赤装束が真っ二つに裂かれ、中からは犬獣人の男の顔が見えていた。
「「「族長!」」」
(族長? どこかの種族の長だというのか?)
赤装束達が叫んだ台詞を疑問に思うも、勝負あったとばかりにラーズグロムは切っ先を突きつけ、リーダーの男を見下ろした。
「他の面子に武器を捨てるよう命じてもらおう」
「……いいだろう」
敵わないと理解したのかリーダーが片手で合図を送ると、他の面子は武器を手離した。
「もう一度聞こう。降参するつもりはないのか?」
「無駄だ。我らは鮮血の掟により縛られし異端者。死ぬまで血を啜り続けるが己の定め。さっさとこの首を跳ねるがいい」
「…………」
できることなら避けたいが、何かの契約があるのか男は降参することはないと言う。
ならばやむを得ないと、ラーズグロムは剣を振り上げようとするが――
「待って!」
「――レシル?」
突如レシルが止めに入ったのだ。
困惑するラーズグロムだが、男から目を離さないよう注意しつつレシルの言葉を待つ。
すると、とんでもない事実を言い放った。
「どうしてお父さんがここにいるの?」
「な!?」
「ちょ、それって――」
「どういうことでしゅか!?」
夜の平原にて、レシルが父親との思わぬ対面を果たすのであった。




