勇者VS勇者
「クハハハハハ! どうした雑魚共! もっと喚いて命乞いをしろよぉぉぉ!」
ラーズグロム達が到着すると既に多くの兵士が折り重なるように倒れており、その中心で暴れているのは勿論あの勇者だった。
「西園寺!」
「よぉ、やっと来やがったか、クソ生意気なラーズグロムさんよぉ!」
「何とでも言え。今度こそお前を倒す――かかってこい!」
「チッ! そういうところが――」
西園寺に切っ先を向け、指で軽く挑発して見せる。
その仕草がよほど気にくわなかったのか、顔を歪ませた西園寺が……
「ムカつくんだよぉぉぉぉぉぉ!」
狙い通りとも言うべきか、ラーズグロムへと一直線に向かってくる。
挑発に乗っているため、傍らにいるエルシドへは気にも止めない。
「死ねぇぇぇ!」
ガキッ! ギギギギ――
「くっ!」
真っ正面から掛かってきたのもあり防ぐのは難しくはなく、剣を盾代わりに拳を受け止めた。
「ほらほらどうしたぁ? 要望通り掛かってきてやったんだ、ちょっとは楽しませろ。それともまた剣をへし折ってほしいのか? お前の反抗心と一緒によぉぉぉ!」
「チィッ!」
まだ本気を出してる素振りのない西園寺が更に力を込めてくる。
このままでは先ほどと同じ――が、様子を窺っていたエルシドがついに動く。
「ならば貴様の心――俺がへし折ってやろう」
「あん? なんだお前は? 関係ないやつは引っ込んで――ギャァァァ!?」
がら空きだった横から思いっきり袈裟斬りを食らわした。
剣を手にかけてからのエルシドの動きが予想以上だったため、対応できなかったとみられる。
「痛ぇぇぇ! 血がぁ、血がぁぁぁ!」
突然の激痛に西園寺は距離をとって喚き散らす。
彼にとっては初めてとも言える痛みを今体感しているのだ。
やがて痛みが引いてくると、斬られた腕を押さえつつエルシドを睨みつけてきた。
「……やってくれるじゃないか。こんなに痛みを感じたのは久しぶりだよ」
「フッ、それは良かった。確か由良川という女も同じ事を言っていたな」
「!?」
自然と口の端がつり上がったエルシドの発言により、西園寺の顔に若干の動揺が表れる。
本城から聞いた由良川が負傷したという話。
実際に由良川の様子を見たところ、多数の斬り傷を受けていたのを思い出したのだ。
その事実により、由良川を負傷させたのがエルシドなのだと理解した。
「そういう事かよ。――だったら俺様も全力でやってやらぁぁぁ!」
ゴォォォッ!
髪を逆立たせて纏ったオーラを一気に解放し、威圧におされた兵士達は更に遠くへ転がっていき、ライザはリオンの展開した障壁の後ろで耐え忍ぶ。
ラーズグロムも剣を突き刺し飛ばされないよう耐える中、エルシドだけは平然とその場に立っており、彼が異質なのが一目で分かるというものだ。
「……なるほど。さすがは勇者、これほどの威圧を放てる者はそう多くはないだろう」
「おいおい、まさかビビってんのか? 言っとくけど、今さら土下座したところで許してやらないからなぁ?」
エルシドが気押されしてると勘違いした西園寺が、余裕の笑みを浮かべて見下す。
しかしエルシドはというと、まったく別の事を考えていた。
(この程度の威圧、師匠の足元にも及ばない。昔の俺なら気押されしてただろうが、今は違う!)
雑念を振り払うように頭を振ると、真っ直ぐに西園寺を見据える。
「ゆくぞ――西園寺とやら。本物の勇者という存在を思い知るがいい!」
「ケッ! お前もたいがいイカれた事を言うやつだな? そういう臭い台詞はマジでムカつくんだよぉぉぉ!」
国を跨いだ平原のど真ん中で、エルシドと剣と西園寺の拳が激突する!
パシィィィ!
王国軍を背にしたエルシドが剣を振るえば、夕日を背にした西園寺が白羽取りでそれを防ぐ。
「ほぅ? 斬りつけられながらもまだ力が残っていたのか」
「るっせぃ! このくらい、ちょうどいいハンデだ!」
「ならばそのハンデを生かし、雌雄を決してくれよう!」
「くっ……」
手負いではあるもののあの西園寺を徐々に押していくという信じられない光景に、ラーズグロム達は驚きを隠さない。
そして今こそが西園寺を倒す最大のチャンスであった。
「いくでしゅ!」
ラーズグロムの背後からレシルとジュリアを担いだメッツが駆け寄ってくると、空高く二人を飛ばした。
「そりゃ!」
レシルを担いだジュリアが更に高くレシルを飛ばし、上空から西園寺を見下ろしたレシルが弓を構える。
「そこ!」
シュッ!
射られた矢は一直線に地へと伸び、向かう先にはいまだ押し合っている西園寺だ。
幸運にもエルシドに集中してるためか迫る矢には気付かず……
ザスッ!
「ガァッ! っくしょう、足がぁっ!」
見事に西園寺の右足へと命中し、地面にぬいつけることに成功した。
「いまです!」
「今度は対処できまい!」
好機と見たライザが爪を飛ばし、同じくリオンは詠唱を終えていたフレイムキャノンを発動させ、共に西園寺の背中を抉る。
ドッ――ガガガガガッ!
「グァァァッ、クソクソォ! やりやがったなクソガァァァ!」
「よし――今だ!」
怯んだ西園寺を仕留めるべく、エルシドが一気に押し込んだ!
グッ――
「――何!?」
しかし、途中で手応えがなくなったのを感じエルシドは手を止める。
気付けば西園寺が半透明になり、存在がボヤけているではないか。
「こ、これはいったい!?」
『ヘッ、驚いたか? これが俺様のギフト――緊急離脱さ。身の危険を感じた場合に任意の場所へ移動できるのさ』
「クソッ!」
せっかくの好機だったがまんまと逃げられてしまい、ラーズグロムは唇を噛む。
『お前ら相手に使うことになるとは思わなかったが、どうせ使うのはこれっきりだ。次に会った時がお前らの最後になるんだ、せいぜい震えとけよぉぉぉ!』
捨て台詞を吐き、西園寺は完全に消滅した。
やや遅れてから勇者相手に善戦できたという実感が沸き上がり、ラーズグロムらは確かな手応えを感じることに。
「ありがとう、ラーズグロム殿を始めその仲間達。惜しくも西園寺は逃したが、次こそは仕留めてやろうじゃないか」
「はい、勿論です! エルシド殿のお陰で勝機が見えてきました!」
改めて握手を交わすラーズグロムとエルシドの両名。
これなら戦えると一行は納得し、待望のエルシドの師匠が合流してきた――のだが……
「おほん、妾がエルシドの師匠ということになっておるアンジェラと申す。以後よろしく頼むぞよ」
「「「…………」」」
どう見てもその辺の姉ちゃんにしか見えない美人様が現れた。
紫の髪を短めに揃えた露出の多い格好で、見た目だけなら普通の人間にしか見えず、貴族の令嬢と言われた方が納得できるほどだ。
「……ねぇ、アンジェラさんって何歳?」
「んん? 妾の歳か? う~む、そういえば長いこと数えてなかったのぅ。なもんで、すっかり忘れてしもうたわぃ」
「そ、そうですか……」
興味本意でジュリアが尋ねたが予想以上の返しにどうでもよくなり、最後はテキトーに流すことにした。
「ほれ、何を呆けておる。プラーガ領に入り込むのであろう? 早く行かねば日が暮れてしまうぞ?」
「そ、そうだった。早くしないと……」
アンジェラのことはさておき、チョワイツ王国軍には国境間際で待機してもらい、ラーズグロム一行はこっそりとプラーガ帝国へ潜入することになったのだ。
そうしなければ帝国領に控えているヴァレリー辺境伯と戦闘になってしまうので、ラーズグロム本人が直接事情を説明しに向かわなければならない。
「ではエルシドよ、こちらはお主に任せたぞ?」
「お任せください! 例え勇者が現れても俺が撃退してみせます!」
アンジェラに頭を垂れるエルシドという微妙に納得できない光景を目に焼き付け、一行はプラーガ帝国領――ヴァレリー辺境伯の住まう街へと向かうのであった。




