天と地
ドゴォォォ!
「ぐっ!」
西園寺の拳がライザの頬を捉えた。
10数メートル飛ばされつつも何とか体勢を整えると、追撃を仕掛けてきた西園寺が目の前に迫る。
「こんなもんじゃないぞぉぉぉ!」
表情を歪ませサディスティックに笑う西園寺の後方では詠唱を終えたリオンが見え、動きを封じるために正面から拳を受けとめる。
ガシィィィ!
「ぐぅぅ! さすがに強いですね……」
「お前も獣人のくせにやるじゃないか。けどま、相手が悪かったと思って諦めなよ!」
拳にいっそうの力が込められ、徐々にライザが押されていく。
が、この場にいるのはライザだけではない。
「フレイムキャノン!」
「チッ!」
動きは封じてたものの西園寺は透かさず飛び退き、炎の砲弾は遥か彼方へと飛んでいく。
「俺様に不意打ちとは生意気だよお前!」
「フン、隙を見せる方が悪いのだ。勇者という肩書きが聞いて呆れる」
「チッ、口の減らない!」
リオンの挑発に乗り、あっさりと標的を変えてきた。
怒りを表すかのような赤いオーラを全身に纏い、リオンの方へと突っ込んで来る。
ガンッ!
「グフッ!」
恐るべきことに展開した障壁を物ともせず、そのままリオンを殴り飛ばす。
何とか体勢を立て直したリオンだが、障壁が無ければ危うかったかもしれない。
「へっ、お前みたいなダークエルフが俺様に楯突くなんて10年早――グァッ!」
嫌味ったらしくリオンを見下ろしていたところ、後ろからライザが爪を飛ばした。
無警戒だった西園寺の背中に穴が空き、白地の貴族服に血が染み渡る。
「くそぉぉぉ! ちょこまかとウザいんだよ、雑魚のくせにぃぃぃ!」
ダメージは微量のようで、目を血走らせた西園寺がライザへと振り向く。
だが視界に写ったのはライザではなく……
「「「グルルル!」」」
「な! グレーウルフ!?」
「奴は油断している、一気にかかれ!」
ラーズグロムが狼の群を率いて西園寺へと迫った。
周囲の兵士が西園寺に注意を払ってる隙に、コッソリとフールに召喚させたのである。
「ちっきしょう! 邪魔なんだよ、クソ狼がぁぁぁ!」
駄々っ子のように両腕を振り回し、噛みつかんとするグレーウルフを必死に払いのけていく。
しかし多勢に無勢という感じにグレーウルフがまとわりつき、とうとう姿が見えなくなってしまった。
「むぅぅ、さすがはラーズグロム殿。見事なお手前であった」
もはや勝負あったと言わんばかりにエボルガントが駆け寄ろうとする――が、ラーズグロムが手で待ったをかける。
「まだです! 奴はまだ生きています!」
「何と!?」
ドバァァァン!
エボルガントが立ち止まった直後、盛り上がったグレーウルフの群が吹き飛ぶ。
すると下半身を狼にまとわりつかれた西園寺が露となり、怒りを滲ませ残りを振り払った。
「お前ぇ……よくも汚ならしい狼を群がらせてくれたなぁぁぁ!? お前は絶対に生かしておかないからなぁぁぁ!」
頭に血が上った西園寺が纏わせたオーラを一気に解放した!
ズザァーーーーーーッ!
「くっ……なんという波動だ、まともに立ってられないとは!」
「ぬぉっ!」
髪を逆立たせた西園寺の波動が周囲を圧倒する。
地に剣を刺したラーズグロムは体勢を維持するのがやっとの様子で、エボルガントは歯を食い縛るが後方へと転がっていく。
『ライザ、リオン、奴を止められるか!?』
『……厳しいです。さすがは勇者と言うべき相手と言うべきか……』
『せめて奴を消耗させ続ければ……』
たまらずフールも念話で呼び掛けるが、期待できる返答は得られない。
「死にやがれぇぇぇ!」
「くっ――」
ガッ――ギギギギ……バキィィィン!
「ぐぁっ!」
振り抜かれた拳を剣で受け止めるも、防ぎ切れず後方に飛ばされる。
剣も折れてしまい、まともには戦えない。
「トドメだぁ!」
好機と見て西園寺が迫る。
ラーズグロムはいまだ起き上がれず、避けれる可能性は皆無。
そこへ猛然とライザが迫り、西園寺の背後へと肉薄する!
「はん、見え見えなんだよ!」
ドズッ!
「ガハッ!」
ライザの動きは察知されれおり、カウンター気味に裏拳をかまされてしまう。
しかし、ライザが殴り飛ばされるのと入れ代わるように、リオンの放ったフレイムキャノンが西園寺に迫った!
「こんなものぉぉぉ!」
――が、両手を突き出してそれを受け止めると……
バシュゥゥゥ……
「な! コイツ、フレイムキャノンを!」
「俺様は勇者だ! お前のチャチな魔法なんざ効くもんか!」
炎の砲弾を敢えて受け、それを消し飛ばしてしまったのだ。
当然こんな芸当をできる存在なんぞ早々いない。
居るとしても同じ勇者くらいだろう。
「どうする、ラーズグロムよ。このままでは不味いぞ?」
「分かっている。けど今更退けないし、向こうも見逃しちゃくれない。何とか致命傷を与える方法は……」
剣を失ったラーズグロムでは、まともに相手できないだろう。
寧ろここぞとばかりになぶり殺しにしようとするに違いない。
「なぁによそ見してんだよぉ!」
ドゴッ!
「ゴフッ!?」
突然目の前に現れた西園寺により強烈なボディブローを受け、成り行きを見守っていた兵士達のところへ突っ込んでしまう。
「……ウグ――ゲホッ!」
「だ、大丈夫か!? ラーズグロム殿!」
立ち上がれずに吐血したラーズグロムを見たエボルガントが、慌てて駆け寄りポーションを振り掛ける。
多少はマシになっただろうが、ダメージは大きく残ったままだ。
「お前もとっとと寝ちまえよぉぉぉ!」
ガガガガガ――ドゴッ!
「ガフッ!」
拳の連打により障壁が容易く突破され、リオンも平地に転がった。
「かかれぇぇぇ! ラーズグロム殿だけに頼ってはならぬぞぉぉぉ!」
「「「おおっ!」」」
再びエボルガントが挑む。
拮抗して見えるためか兵達の士気も高く、西園寺を取り囲むと一気に斬りかかった。
「面倒な雑魚共が! 何度やっても同じだぁぁぁ!」
ドバァァァン!
しかし、勇者にとっては群れる虫のごとき存在にしか感じとれず、簡単に手で薙ぎ払われてしまった。
「ハ、ハハハ、やっぱり雑魚じゃないか、俺様が本気を出せばこんなものさ!」
「ぐぬぅ……なんという怒髪天のごとき化け物よ、これが勇者の真髄か……」
地に伏せたエボルガントが悔しげに顔を上げる。
彼の視線の先ではゆっくりと地を踏みしめていく西園寺が写っており、向かう先にはいまだラーズグロムが俯せに倒れていた。
「お前も所詮はこんなもの――ってか? ラーズグロムさんよぉ!?」
「グッ……ガァァァ!」
ラーズグロムの背中に足を乗せ、徐々に力を込めていく。
たまらず血を吐き出すが、それでも西園寺は止めようとはしない。
寧ろ楽しそうに見下ろしていた。
「あ~あ、つまんねぇの。これも強すぎる故の悩みってやつだよ。まぁお前ら雑魚には一生涯分からないだろうけどさ?」
いまだに足を掛けつつ肩を竦めた。
逆立った髪はいつの間にか戻っており、だいぶ怒りは収まったかのようにも見える。
多少は隙が出来つつあるが、戦える者がいなければ意味はない。
『この状況では召喚を行っても無駄に終わる。何か打てる手は……』
密かにラーズグロムから離れたフールが策を練るが、有効は手立ては思い付かない。
「フン、まぁいいや。飽きちゃったし、さっさとトドメを刺しちゃえ」
そう言って手先にオーラを纏わせる西園寺。
マズイ! とフールは思うが、打つ手なしとなれば見届ける事しかできない。
今、拳が振り下ろされようとした刹那!
「そこまでだ西園寺」
「……何?」
その腕をガッチリと掴む者が現れる。
不機嫌そうに西園寺が振り向くと、中肉中背の中年男が無表情で佇んでいた。
「なんだよ本城、邪魔すんなよな」
中年男の正体は本城。
彼は唐突に現れた全身黒ずくめの青年――クロカゲの相手をするべく、西園寺から離れていたのだが……
「……由良川が負傷した、一度引き上げるぞ」
「はぁ!? 何やってんだよ、あのバカ女!」
「知らん。知りたければ本人に聞け」
「チッ!」
別行動をとっていた由良川という女勇者が何者かにより負傷したらしく、西園寺は舌打ちしてラーズグロムから足を退けた。
「命拾いしたな、ラーズグロムさんよぉ? けど今度会ったらキッチリとトドメを刺してやるからな!」
そのまま二人は消えるように走り去った。
一応は助かったと認識し、エボルガントはすぐさま被害状況の確認へと移る。
その陰でフールはラーズグロムへと駆け寄った。
『一応は助かったが、再び西園寺と遭遇すれば今度こそ助からん。何か方法を考えねばならんな。しかし……』
既に遠く離れた勇者二人の背中を眺め、後から現れた本城について思考を始める。
『あの男、どこかで会ったような……』
以前に見た記憶があるがどうにも思い出せず一旦は思考を中断し、ライザとリオンの手当てを始めるのであった。




