後始末
傍らから少女の声が聴こえたため咄嗟に振り向けば、いつの間にか青髪の少女がデールの横に並んでいた。
こんな場所に一般人が紛れ込むことは考えにくく、恐らくはカズヨ達の仲間であると見当はつくが。
「サブボス、いつの間に?」
「その呼び名は好きではないのですが……まぁいいでしょう」
「サブボス? キミはいったい……」
「その質問は後ほど。今はこの小汚ないゴミを片付けるのが先です」
サブボスと呼ばれた青髪の少女はレモードルツに掌を向ける。
すると放とうとした球体が吸収されるように萎んでいき、ついには完全に消滅させたのである。
直後チラリとラーズグロムを見た表情は、どことなくドヤ顔をしているようにも見えた。
「バ、バカな!? いったいどうなってるというのだ! それに貴様はなんなのだ!」
「貴方が知る必要はありません。おとなしくご退場願います」
会話に付き合うつもりがないのか、青髪の少女はそのまま詠唱を行う。
「くそっ、ならばもう一度だ!」
慌ててレモードルツも球体を生み出し、少女に掌を向けようとする――が、それより先に少女の詠唱が完了し、予想外の大魔法が放たれることに!
「残念、わたくしの方が先でしたね――ゴッドツンドランサー」
水魔法の最上位とも言われる巨大な氷柱が放たれ、真っ直ぐにレモードルツへと向かっていく。
ズジャッ!
「ゴァァァァァァッ!」
強靭なはずの胴体に突き刺さり、見事心臓を突き破った!
レモードルツは真っ黒な血を吐き出し重力に従って落下する。
さすがに心臓が潰れれば生きてるはずもなく、ピクピクと痙攣してたのがやがて完全に動かなくなった。
(なんて威力だ! この結界内では魔法の威力は9割減となるはず。なのにこのサブボスという少女は……。いや、それよりも)
青髪の少女はひとまず置いとくとして、レモードルツの亡骸を確認すべく駆け寄ろうとする。
だが先にカズヨが亡骸を調べており……
「……うん、脈はなし。レモードルツの死亡を確認したわ」
「そ、そうか……」
カズヨが確認してくれたことでラーズグロムは一気に緊張を解くと、ヨロヨロとその場にへたり込む。
「ラーグ兄ちゃん!」
「ラーズグロム殿、大丈夫か!?」
後ろからレシルを始め、ドミニク子爵とナレックも駆け寄ってくる。
メッツもなんとか歩けるようで、デールが肩を支えていた。
「す、すみません子爵。安心したら力が抜けてしまい……」
「いや、貴殿が大丈夫そうで何よりだ」
レモードルツによる危機は去った。
飛び入りで参戦したレシル達の説明はどう説明したらよいのか頭を悩ますところだが、国王の危機を救ったのだ悪く言われることはないだろう。
(ん? そういえばサブボスというあの少女がいないな?)
少女もそうだがカズヨ達の姿も見当たらず、その場にいるのはレシルとメッツ、それにドミニク子爵とナレックの5人だけだ。
離れたところではレモードルツの周囲に集まった近衛兵が、国王の指示のもとウンセウンセと運び出そうとしている。
結局その日は謎の少女については何も分からずに終わり、騒動から一夜明けた次の日がやって来ることに。
「おはようございます」
「……ん、ああ、おはようござ――いい!?」
ガンッ!
「イデッ!」
城の客室で目を覚ましたラーズグロムが、驚きのあまり壁に頭をぶつけてしまう。
「あの……大丈夫ですか?」
「え、ええ、なんとか……」
痛みによりすっかり目を覚まし、頭を擦りつつ声の主へと顔を向ける。
そこには昨日レモードルツを一撃で撃破した青髪の少女が椅子に腰を下ろし、黒い板に見えるマジックアイテムをピコピコと操作していた。
「……キミは確か、サブボス――「違います。そんな無骨な名前ではありません。わたくしにはアイカという大変可愛らしい名前がありますので、サブボスという名はお忘れになってください」――わ、分かった」
昨日現れた青髪の少女――アイカは、一気に捲し立てるように促してきた。
目が真剣だったので、今後はサブボスと言わないよう心掛けることにし、さっそく現状の説明を求めることに。
「それで、なぜキミがここに? 昨日のあの場で話さなかったのは、他人には聴かれたくないって事かい?」
「察しがよくて助かります。ナレック様とドミニク子爵はご存知なのですが、その他の貴族や王族には明かしておりませんので、ご無礼を承知の上でこのような形でお会いする事になりました」
昨日は名前も聞く余裕がなかったため、改めて正体を明かしに来たのだと理解した。
アイカは先ほどまで弄っていた黒い板を懐にしまうと、姿勢を正して真っ直ぐにラーズグロムを見据える。
「これまでに何度かカズヨ達が接触してると思いますが、彼らを部下としてコキ使って――じゃなかった。……コホン、部下として従えている存在がいるのをご存知でしょうか?」
「カズヨ達を従えている存在……あ!」
そういえばと思い返せば、つい先日耳にした名が脳裏に浮かぶ。
「アイリというダンジョンマスターが彼らの上にいるって聞いたよ」
「その通りです。詳しく紹介すると、プラーガ帝国の西にある魔女の森でダンジョンマスターをやっております」
「魔女の森の……」
風の噂で聞いたのを思い出す。
魔女の森の中心にダンジョンがあり、更にダンジョンの中にも街があるという話を。
「よろしければ一度観光にでも訪れてください。百聞は一見に如かずですよ」
アイカ一押しのそのダンジョンでは、見たこともない不思議なアイテムが売られているという内容であったが、なるほどとラーズグロムは頷く。
それならばカズヨ達が未知なる武器を持っているのは寧ろ当然と言えるからだ。
「なるほどね。君達の正体は分かったよ。だけど尚更分からないことがある」
「ほぅ……そのこころは?」
「わざわざ僕に打ち明けた事かな。何も正直に明かす必要はなかったんじゃないかい?」
これはラーズグロムの指摘通りで、隠しておいても問題ない事だ。
逆に言えば明かす必要が出てきたとも言えるのではと思い至ったのである。
「フフッ、中々鋭い指摘ですね。貴方のお考え通り、我々には明かす理由が二つ程ありまして、正体を明かしてフェアに話し合いましょうというのが目的です」
「理由が二つ?」
「はい。その理由――っと、誰か来たみたいですね。見つかると面倒なので、今回はこの辺で失礼します。近日中にまたお会いしましょう――それでは」
素早く転移したらしく、すぐに視界から消え去った。
入れ代わるように扉を叩く音が聴こえ、開けると給士が朝食を運んできたところだった。
(魔女の森のダンジョンマスターか。何事もなければいいんだが……)
新たな騒動の予感を感じ、ラーズグロムは朝食に手を付けるのであった。
お読みいただきありがとう御座います。
これにて第3章は終了です。




