欲望を糧に
ではでは、第3章のラスボス戦開始です。
ギギギギギ……
謁見の間へと繋がる大きな扉を開ける。
最初に目に止まったのは血溜まりに沈む複数の兵士で、酷い者だと上と下がネジ切れているのもいるようだ。
あまりの惨状に顔をしかめつつも視線を先に移すと、背中から黒い翼を生やしたゴツい体格の魔物が視界に入り込み、剣を構えた近衛兵と対峙してるように見える。
更に奥には国王を含めた数人の貴族と思える者達がおり、近衛兵に護られる形で険しい表情で身構えていた。
「ラーゼフォルド様、ご無事ですか!?」
「そ、そなたはドミニク子爵か? それにラーズグロム殿も!」
「ラーズグロムだと?」
国王がラーズグロムの名を出した途端、ゴツい魔物がピクリと反応する。
身体を反転させ腕を組んでラーズグロムに目を止めると、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「ほぉ~、確かにラーズグロムだな。まさかそっちから来るとは思わなかったが」
「お、お前は……レモードルツなのか?」
「フッ、いかにもレモードルツだが? なんだ、この姿がそんなにおかしいか?」
見違える姿に思わず二歩三歩と後ずさる。
こうして言葉を交わすのは初めてだが、ラーズグロムはレモードルツが連行されている姿をハッキリと見ており、その時と比べたらまるで別人だ。
それはドミニク子爵も同様であり……
「レモードルツ、まさか悪魔に魂を売り渡したというのか?」
「売り渡す? ――フン、売り渡したりはせんよ。儂は生まれ変わったのだ、この力があればプラーガ帝国も恐れるにたらず。いずれチョワイツ王国を超大国へと導く光となろう」
レモードルツは完全に酔っていた。
もはや力を見せつけることに執着し、自身が覇王となって猛威を振るう事しか頭にない。
「おいおいオッサン。妄想はその辺にして、さっさと退場してくれないかい? 周りを見てみなよ、アンタの小汚ない姿を見て皆呆れてるじゃん?」
「小汚ない……だと?」
意外にもデールの安っぽい挑発に乗ったらしく、レモードルツは掌に力を集中し出す。
「……よかろう。何者かは知らぬが、まずは貴様を血祭りにあげてくれるわ!」
「へっ、上等!」
刹那、デールが駆け出す。
ラーズグロム達から離れる事で彼らを巻き込まないようにするためだ。
レモードルツの方もデールしか眼中にはなく、照準を合わせるようにデールへと掌を向けた。
「死ね――虫けらがぁぁぁ!」
「嫌なこった!」
打ち出された黒い球体を軽々と飛び越え、心臓目掛けてダガーを突き立てんと急降下する。
ガキン!
「おっと、中々やるようだが詰めが甘いぞ?」
「へっ、それはどうかな?」
「何ぃ?」
空いていた片腕によりデールのダガーが阻まれる。
しかし、この場に居るのはデールだけではない。
密かに忍び寄っていたカズヨが死角から切りつけた――が!
パキン!
「そ、そんな!?」
なんと、心臓目掛けて突き立てたダガーが音を立てて折れてしまったのだ。
「クックックッ、残念だったなぁ? 儂の身体は甲殻のように硬いのだ、チャチな刃物では傷一つ付けることはできん、諦めろ!」
ドスッ!
「くっ!」
「カズヨ! ……このバケモノめ!」
デールのダガーが掴まれたまま、カズヨが腕で薙ぎ払われる。
その光景を見たラーズグロムがレモードルツへと斬りかかった。
ガキン!
「バカめ、見て分からんのか? 学習能力のないやつめ――フン!」
が、結果はデールと同じで、二人揃って遠くへ放り投げられ壁に叩きつけられた。
「グフッ! くそぉ……」
「アイタタタ……こりゃしんどいね…」
力は相当らしく、デールはともかくラーズグロムは早くもふフラつき始めた。
「どうした、もう終わりか? だったらトドメを――」
「終わりじゃないでしゅ!」
「――ん? 貴様らは……」
掌を二人に向けたレモードルツが、声のする方へ振り返る。
「メッツか? それにレシルも!」
「ラーグ兄ちゃん、フールちゃん達は結界で近付けないの。だからあたし達が加勢するよ!」
「でしゅ!」
城に張られてる結界は魔物に対してのデバフ効果が大きいため、フール達にとっては有害となるようだ。
「フン、雑魚が増えたところで無駄な足掻きだ――消え失せろ!」
真っ黒な球体をレシル達に向けて放つ。
が、身軽な彼女達は左右に飛んでバラけ、レシルはその場に留まり弓を構えると、メッツはレモードルツに突っ込んでいく。
「しゃーない、俺らも合わせるとしようか?」
「勿論だ!」
デールがラーズグロムの意思を確認し、共に走り出す。
そこへカズヨも加わり、三方向からレモードルツへと迫る。
「えい!」
「無駄だ!」
バシッ!
最初に到達したのはレシルの弓矢だが、それはレモードルツにより叩き落とされた。
しかしそれは想定内で、メッツ、デール、カズヨ、ラーズグロムの順に時間差で斬りかかる。
ガキン!
「チッ、鬱陶しい連中め!」
メッツのダガーは防がれたが、他の三人の刃がレモードルツを切りつける。
それでもやはりダメージが通ってる感じはしない。
「とんだ頑固オヤジでしゅ。これじゃ埒があかないでしゅよ」
「だけど他に方法はないのよ。この城の結界は魔法の威力を9割も下げちゃうから、地道に傷を負わせるしか……」
魔法が使えるデールならもっと楽に戦えるのだが、皮肉なことに結界がそれを阻んでしまっていた。
ちなみに頑固オヤジとは、防御力が硬くダメージが通らない相手に対しての蔑称である。
「デール、君達ならもっと強力な武器を持っているんじゃ……」
「ああ、あれはボスからの支給品だからね、権力者の前ではなるべく使いたくないのさ。いざって時には使うけど、できれば使わない方向で頼むよ」
「そうか……」
国王をチラ見しつつデールが答える。
彼らの中でも色々と制約があるのだと考え、無理強いはしないことにした。
「奴が手で防いでくるのは僅かにでもダメージが通ってる証拠だ。とにかく心臓を狙ってダメージを蓄積させよう」
「ああ、それしかないね」
尚も挑み続けるラーズグロム達。
ヒットアンドアウェイを重ねていくがビクともせず、いたずらに時間と体力を消耗していく。
メッツやレシルにも疲れが見え始め、ラーズグロム自身も動きが鈍りつつあった。
「そぉらどうした? せっかく相手をしてやってるのだ、もっと楽しませるくらいの芸を見せてみろ!」
ドゴッ!
「グフッ!」
「「メッツ(ちゃん)!」」
避けきれなかったメッツの身体に拳がめり込み、くの字に曲げて壁へと叩きつけられた。
透かさずカズヨがフォローに入り、ポーションを飲ませている。
「くっ……。デール、他に増援は来ないのか? このままだと持たないかもしれない」
「間の悪いことにボルチェとノアーミーは帰還した直後だからね、こっちに戻るのにはもう少し時間がかかると思うよ。ボスが別の手を回してくれるって言ってたから、それまで持ちこたえれば……」
結局のところ、現状は耐えるしかなさそうだ。
が、ラーズグロムは一つだけ思い付いた策があった。
「心臓は無理そうだけど首ならどうだろう?」
「首?」
「うん。いっそのこと首を凍らせて、ロングソードでブッた斬ればいけるんじゃないかなって」
「……そうか、それなら確かに……」
レモードルツに注意しながら思考する。
心臓は突けなくても首を叩っ斬るなら倒せるかもしれない。
魔法の威力が弱まってるといっても、連発すればそれなりに効果はある。
「分かった。――カズヨ、ラーズグロム殿と一緒にレモードルツを引き付けてくれ。俺ッチはフリーズで奴の首を凍らせる」
「了解」
「あ、レシルちゃんも牽制よろしくね?」
「分かった!」
デールの言葉にレシルが力強く頷き、他二人も無言で頷いた。
「ハッ、いくら首を捻ったところで結果は変わらん!」
「やってみなくちゃ分からないけどね!」
負傷したメッツをドミニク子爵に預け、カズヨは至近距離で注意を引き付ける。
カズヨだけに負担はかけまいとラーズグロムも牽制に加わり、本命のデールが水魔法のフリーズを連発していく。
「フリーズ!」
フィキキキ!
「ぐおぉ……おのれ小癪なぁぁぁ!」
何度か命中したフリーズにより、首が動かなくなったレモードルツが暴れだす。
「遊びは終わりだ! 貴様ら全員まとめて消し飛ばしてくれる!」
さすがにこのままでは危険だと思ったのか、再び掌に球体を出現させる。
今までよりも更に大きくに膨れ上がっていき、尚も膨張し続けているそれは今度こそ本気なのだと感じさせるには充分なインパクトがあった。
「不味いわ――ラーグ!」
「ラーグ兄ちゃん!」
「分かってる!」
ラーズグロムが勢いよく飛び上がる。
レモードルツも球体を放つモーションをとり始めており、チャンスは一度きりしかない。
「これで終わりだ! 二天一流――武閃斬!」
ガッ!
「……ダ、ダメか!?」
1センチほど食い込んだところで剣が止まり、無情にも叩き斬るまではいたらない。
作戦は失敗――
――かと思われたその時!
ピシ……ピシピシ……ピシピシピシ……
首に食い込んだロングソードの衝撃で、全体に亀裂が広がっていき、ついに!
バッキィィィィィィン!
「グォォォォォォッ!? く、首がぁぁぁぁぁぁ!」
首だけが床に転がった状態で、レモードルツの胴体が仰向けに倒れた。
放とうとした球体もすっかり萎んでしまい、危機は去ったと言えよう。
「や……やったか?」
国王が身を乗り出して様子を窺い、国王を手で制した近衛兵が慎重に近付こうとした次の瞬間!
「フン、まさか首を落とされるとは思わなかったぞ。貴様らを少々甘く見すぎたようだ」
「「「!?」」」
その場の全員が我が目を疑った。
なんとレモードルツは落とされた首を拾い上げ、まるでデュラハンのように立ち上がったではないか!
「コ、コイツは不死身なのか?」
「いや、それはないと思うよ? 不死身ならこちらの攻撃を無視するはずだし。この場合考えられるのは――」
「心臓だけが弱点なのよ」
デールの言葉を引き継いだカズヨの推測が正解で、心臓が無事なら死ぬことはないのだ。
「さぁ虫けら共め、儂の本気を見るがいい!」
再び球体を作り出したレモードルツは、今度こそ邪魔されないようにと天井間際まで浮遊する。
「クソッ! このままでは……」
「…………」
悔しがるラーズグロムの隣で、もはや打つ手なしかとデールが何かを取り出す。
それはボスであるアイリから支給された別世界の兵器で、恐ろしいほどの殺傷能力があるスナイパーライフルと呼ばれる武器であった。
「こんな状況じゃしかたないしね。少々後が面倒だけど、使わせて――」
「その必要はありませんよ」
「――え?」
突如聴こえてきた透き通るような少女の声。
彼女の正体は……。




