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反逆の狼煙

 突如地下から現れた、黒い翼を生やした初老の男。

 床に大穴を開けて飛び出してきた男は、いまだ理解が追い付いていない兵達に向けて大胆な発言を行った。


「儂をコケにする不届き者共よ、今よりこの城は儂が貰い受ける。おとなしく(ひざまず)けぇぇぇい!」

「なななな何だ! 何なんだお前は!?」

「何でこんな奴が下から!」


 男が現れたのはダンスホールとして使用されるている場所で、巡回していた兵士数名が第一発見者となった形だ。

 当然兵達は狼狽(うろた)え、剣に手をかける。

 そこへある事に気付いた一人の兵が、男を指してこう叫んだ。


「レ、レモードルツだ、こいつぁ独房にいたレモードルツだ!」

「「な!?」」


 真っ黒に変色した顔は、よく見れば見覚えのある顔であった。

 体格も3倍くらいになり衣類も一部はち切れてはいるが、以前の面影が微かに残っている。


「いかにも儂はレモードルツ――いや、レモードルツという名の愚かな存在だった。――だが今は違うぞ?」


 掌に魔力を集中させると禍々(まがまが)しい真っ黒な球体が現れる。

 それを兵達に見せつけるように頭上へと掲げると……


「見るがいい、この見違える力を――前人未到(ぜんじんみとう)な崇高なる領域を! 今貴様らは己の限界を超越した存在と相見えているのだぁぁぁ!」

「不味い――逃げろぉぉぉ!」


 グゴゴゴゴォォォォォォ!


 球体が床に投げつけられた瞬間、波紋状に闇が広がっていき、床であった部分を削り取っていく。


「「「うわぁぁぁ!」」」


 当然足場を失っては立っていることすら出来ず、兵達はなす(すべ)なく地下へと落ちていく。

 それを満足げに見下ろしたレモードルツは、空中浮遊を行ったまま天井を見上げた。


「さて……まずはラーゼフォルドに顔見せしてやるとしよう。そして奴の目の前で王族を皆殺しにしてやるのだ。――クックックッ、ガァーーーッハッハッハッ! 想像したら愉快でたまらんわい!」


 嬉しさ極まってか高笑いしつつ、先ほどと同じく真っ黒な球体を生み出し天井に向ける。

 今度は天井を破壊するのか――と思いきや、なぜか球体は萎んでいき、完全に消滅してしまった。


「……巻き添えで死んでしまってはつまらん。ジワジワとなぶり殺しにせねば、儂の怒りを静めること叶わんだろうな」


 むやみに破壊するのを止め、翼を広げて通路へと出る。


「ヒィッ! な、何だコイツは!?」

「落ち着け! さっきの震動はコイツが原因に違いない!」

「魔物だ、魔物が城内に侵入したぞぉぉぉ!」


 出たところで別の兵達と鉢合わせした。

 震動の原因を探っていた彼らは、変貌したレモードルツを魔物と断定し剣を突きつける。


「フン、儂に刃向かうつもりか? 貴様ら雑魚が束になったところで儂を超えるのは不可能な事だ、諦めて跪くのだな」

「ほざけ魔物め、討ち取ってくれる!」


 挑発に乗ったのか、兵の一人が斬りかかる。


 ピタッ!


「な、なん……だと?」

「フッ……」


 なんと、レモードルツは素手で受け止め、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「どうだ? 力の差を理解したか?」

「くっ……」

「クックックッ。いくら顔で凄んでも、手足が震えていては威嚇にはならんぞぉ?」


 パキン!


「な!?」


 剣をへし折られ、兵士は無意識に後ずさる。


「ラーゼフォルドに伝えろ、今から会いにいってやるから盛大にもてなせとな。期待してるぞ? ガァーーッハッハッハッ!」

「「「ヒィィィッ!」」」


 兵達は一目散に駆け出していき、すぐに静けさを取り戻す。

 レモードルツは高笑いをやめ地に足をつけると、通路の先に見える階段へと顔を向けた。


「終演へのカウントダウンだ。儂がラーゼフォルドの元へたどり着いた時、この国は終わりを迎える。そして儂が支配する新たな時代が始まるのだぁぁぁぁぁぁ!」


 元からの正確ゆえか、レモードルツはチョワイツ王国を乗っ取ってやろうと動き始め、自信に満ちた彼の雄叫びが城内に響き渡った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「――ぁぁぁ!」

「「「!」」」


 遠くから聴こえる雄叫びに、控え室にいたラーズグロム達が耳を突かれる。

 思わず動こうとしたナレックをカズヨが手で制した。


「カズヨさん?」

「まだ動いちゃダメ。特にナレック君だと直接の戦闘には向かないんだから、前に出るような真似は自殺行為よ」

「ゴ、ゴメン、カズヨさん……」


 再び息を飲み様子を(うかが)う四人。

 だがこちらに近付いている様子はなく、一応は肩の力を抜いて冷や汗を拭う。

 と、そこへカズヨのインカムに反応が……


『こちらデール。木の上からそちらの部屋を見下ろしている。周囲は問題ないかい?』

『こちらカズヨ。周囲に異常はないわ』

『了解っと』


 ズザッ!


 インカムの通話を終えた瞬間、窓の外に何かが降ってくる。

 よく見れば黒装束のチャラ男ことデールであり、心強い面子の登場でラーズグロム達に安堵の色が浮かんでいた。


「さぁさっそく脱出を――と言いたいところだけど、実は王様の方が危ないみたいなんだよねぇ」

「ま、まさか僕じゃなくて、ラーゼフォルド国王が狙われている!?」

「うん、それっポイね。上で戦闘が発生してたから、多分そうじゃないかと思うよ。――ほら、王族って大抵上の方にいるでしょ?」


 近くで戦闘が行われていた場合には、それを感知できる闘気感知というスキルをデールは持っている。

 そのため戦闘を起こしている存在が上を目指しているのに気付いたのだ。


「どうする? このまま逃げるってのがセオリーだけれど、その間に王族が殺られる可能性もある。俺ッチはどちらでもいいよ?」


 左手は上――右手は城の外へと向けて、好きな方を選べとデールは言う。

 これに対してドミニク子爵は即座に切り返す。


「国王が心配だ。大丈夫だとは思いたいが、もしもという可能性もある。できる限り討伐に助力願えないだろうか?」


 子爵は討伐の加勢を優先したいようで、悲痛な表情を浮かべながらデールに悲願する。


「先ほど現れたハイドラーという男が代官を焚き付けたと言っていたし、恐らく何らかの力を得た代官が反旗を(ひるがえ)したのだろう」

「だけどドミニク、僕らがいたら邪魔になるんじゃ……」

「それなら大丈夫」


 心配そうに袖を引くナレックに対し、腕や肩――首などに身に付けたマジックアイテムの数々を見せつけながら語りだす。


「アイリさん特製のマジックアイテムだよ。彼女からの贈り物があれば、簡単に死んだりしないさ!」

「あ、そういえば僕も――」


 子爵から自信タップリに返されたナレックが掌をポンと叩くと、自身も同じく特製アイテムを貰っていたことを思い出した。


(そうか、だからドミニク子爵は護衛がいなかったのか)


 ラーズグロムは思い出す。

 初めてドミニク子爵に出会った時、護衛もなしに自分と面会したことを。

 よほど体術に自信があるのかと思っていたが、ここにきて謎が解けた形である。


「さすがはボス。ちゃんと護りたい相手に配ってたとはねぇ」

「うん、アイリちゃんのアイテムなら安心だわ。すぐに討伐しにいきま――」

「ちょっと待ってほしい」


 脱出から討伐する流れになってきたところでラーズグロムが割って入る。


「討伐に向かうのはいいんだけれど、そのアイリという人物は何者なんだろう? カズヨ達のボスだというのは分かったんだが、それほど凄い存在なのかい?」

「あ~、そういえば言ってなかったか。――うん、一言でいえば凄い女の子よ」

「女の子……」


 子――というからには未成年なのだとラーズグロムは思った。

 それは正しい推測だが、ある意味間違いを起こしやすい推測でもある。

 なぜならアイリは、()()という枠には収まらないのだから。


「カズヨさん達のボスでもあり、僕の同僚――とでも言えばいいのかな? 同じダンジョンマスターだよ。それもとびっきりの強さを持つ――ね」

「ダンジョンマスター……」


 ダンマスと聞いて真っ先にフールを思い浮かべるのはフールだが、それはかつて邪王だった時の話だ。

 いや、もしかしたらフールにも秘めた力があるのかも――と一瞬考えたが、すぐに(かぶり)を振る。 


「ゴメン、こんな時に聞く事じゃなかったね。すぐに向かおう!」


 代官を放置するのは危険だと考えたラーズグロム達は、デールの闘気感知を頼りに上へと進んでいく。

 途中壁にめり込んだ兵士や気絶している給士――更には壁が壊されて剥き出しになった小部屋などを目撃し、戦闘の激しさを生々しく感じとりながらも先へと急いだ。


「あの先だ。あの扉の先で戦闘が続いているようだね」

「え……あの扉は!」


 デールが指した前方の扉――それはまさに謁見の間へと繋がる扉であり、ラーズグロムの顔が青ざめていく。

 国王にもしもの事があれば、プラーガ帝国云々と言ってられなくなるだろう。


「まだ大丈夫だよ、戦闘は継続中だから国王は無事でしょ」

「そうよラーグ。簡単に諦めちゃダメ」

「そ、そうだね。国王はきっと無事だ」


 二人に言われ、意を決して扉を押し広げた。


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