国王との謁見
「待たせたな、ラーズグロム殿。儂がチョワイツ王国国王ラーゼフォルドだ」
「お初にお目にかかります、ラーズグロム・プリムラです。以後お見知り置きを」
互いに軽く名乗り、さっそく本題に入る。
「ドミニク子爵から経緯は聞いておる。なんでも皇帝暗殺の濡れ衣を着せられておるとの事だが、嘘偽りはないと断言できるかの?」
「はい、勿論で御座います。わたくしが皇帝暗殺の黒幕だとするならば、いったいどのような得があるというのでしょう?」
国王からの問いかけを当然とばかりに肯定し、逆に訴えかけるように話を進める。
「次期皇帝はバドラーゼがもっとも有力であり、次点でニースレイでございます。更にはザファークまでもが控えているのでは、わたくしが皇帝の座につくには些か無理があるというものです」
「……ふむ」
「ですのでこう考えます。バドラーゼ、ニースレイ、ザファークのいずれかがわたくしを罠にかけ、次期皇帝の座を狙っているのだと」
付け加えてプラーガ帝国から刺客が送り込まれ、日々命を狙われているのだと訴える。
常に危険と隣り合わせだという印象を強く国王に与え、同情を引き出すのが狙いだ。
「うむうむ。まるでラーズグロム殿の苦労が目に浮かんでくるかのようだ」
「勿体ないお言葉です」
更に話は続き、バドラーゼやニースレイは野心家だが人望が薄い事などを伝えた頃には、すっかりバドラーゼとの対決姿勢を鮮明にし始めていた。
「貴殿の思いはしかと受け取った。改めて協議するゆえ、それまでの間は城で休まれるがよい」
「ありがとう御座います、ラーゼフォルド様」
もともとバドラーゼに良い感情がなかったのか、国王はだいぶラーズグロムへと感情の肩入れが見える。
まずまずの成果を上げたことで一応は満足し、謁見の間を後にするのであった。
「お疲れ様、ラーズグロム殿。明るい表情を見るに、謁見は成功と見てよいのかな?」
「うん、顔に出てるね。僕は何も出来なかったけれど、上手くいって良かったよ」
「ありがとう御座います。お二人の助力のお陰ですよ」
控え室へと戻ってくると、ドミニク子爵とダンマスのナレックに出迎えられた。
自然と綻んだ表情になっていたらしく、照れ臭そうに成果を伝える。
まだ決まったわけではないが、国王の様子からして悪い方には向かないだろう。
「ところでナレック殿、カズヨ達はどこに行っ――「呼んだ?」――うぉ!?」
カズヨ達がどこに行ったのか尋ねようとすると、天井から本人が降ってきた。
ドミニク子爵とナレックは既に慣れているのか平然としているが、ラーズグロムは尻餅をついてしまいカズヨに助け起こされる事に。
「あ、ゴメンゴメン、ラーグは慣れてないもんね」
「イタタタ……。こんなの普通は慣れたりしないよ……。それに初めてダンスパーティをやった時より動きに――ムグッ!」
「ちょ、それは言っちゃダメ!」
ラーズグロムが過去の話を持ち出そうとすると、カズヨが全力で阻止してきた。
「え、なになに? カズヨさんって公式の場でダンスした事あるの?」
「それはまた意外な一面だね」
「はい。あの時はぎこちない動きで何度か足を踏まれましてね」
「もぅ、言っちゃダメって言ったのに……」
驚かされたので、細やかな仕返しとして昔話を暴露するラーズグロム。
続きを促してくる二人に観念して、カズヨは当時を振り返る。
「公式っていうか……ラーグの誕生日パーティーが催された時があって、練習も兼ねて無理矢理参加されられたのよ、当時の皇帝にね」
戦うだけが勇者ではないとムンゾヴァイスは豪語し、戦闘訓練以外の事も叩き込もうとしたのだ。
そのため勇者として召喚されたカズヨは色々な事を学ばされる事になり、その内の一つにダンスも含まれていたのだという。
「でも私と違って紀子が上手かったのは正直イラッとしたわ。しかも私とラーグに見せつけるようにターンして――ごきげんよう――とか言うんだもん、本当~にムカついたわ!」
カズヨの過去を聞いた二人が興味深そうに頷く。
カズヨはカズヨで当時を思いだし顔を真っ赤にしているが。
ちなみに紀子とは、満持紀子というカズヨ共にプラーガ帝国に召喚された少女である。
但し、本人はカズヨを含む当時の仲間を裏切ってアレクシス王国に亡命したため、激怒したカズヨによって殺されている。
「わ、分かったからそろそろ落ち着いて――」
「何よ、元はと言えばラーグが――」
ゴゴゴゴ……ドゴォォォォォォン!
「「「「!?」」」」
突然激しい揺れが発生したかと思うと、直後に何かが破壊されたような音が響いた。
パラパラと天井から塵が降ってくる中、透かさずカズヨがインカムで呼び掛ける。
「こちらカズヨ。アンノウン発生により増援を求む。繰り返す、アンノウン発生により増援を求む――以上」
「カ、カズヨ?」
「ラーグ、私の側から離れないで。ドミニク子爵とナレックも」
このような事態に慣れているのか、カズヨが素早く指示を出す。
「カズヨ殿、いったい何が……」
「落ち着いて下さい――と言うのも無理があると思いますが、まずは聞いて下さい」
動揺するドミニク子爵を宥め、ラーズグロムとナレックにも一目くれた後、現状分かっている事とすべき事を簡単に話し始める。
「地面が揺れた後に発生した音から察するに、発生源は地下だと推測されます」
「「「地下?」」」
「はい。この城には強力な結界が張ってあるようなので、爆発魔法などを放ったところで威力の9割はカットされます。したがって、結界が届かないギリギリの範囲で何かが爆発――もしくは暴れていると思うのです」
王族の生活スペースを中心に、結界を張られている範囲では魔法の威力を縮小することで暗殺を防いでいるのだ。
当然召喚魔法も発動せず、城内に魔物がスポーンする事もない。
そうすると何者かが結界の範囲外から何かを仕掛けているという可能性だが……。
「少なくとも何者かが意図的に動いていると考えていいでしょう。私の予想だと、このタイミングで発生したということは……」
カズヨの視線がラーズグロムへと移り、他の二人も同じく固定される。
「僕が標的か……」
恐らくそうなのだろうとラーズグロムが俯く。
もしも城ごと破壊されるような事があれば……と不安にかられるが、それは考えないことにする。
何よりカズヨがいるし、フール達も異常を感知して駆けつけてくれるだろう。
「とにかく今はここから動かないで。下手に動いて曲者とバッタリ――なんてこともあるし、留まっていれば、こちらに近付いてきてるかどうかも分かるから」
カズヨの指示に従うと決め、三人は互いに顔を会わせて強く頷く。
そこへドタドタと慌ただしい足音が外で響き、息を切らした兵士が入り込んできた。
バタン!
「し、失礼します! ラーズグロム様、ここは危険です! 安全な場所へご案内致しますので、私めについてきてください!」
「わ、分かりました!」
条件反射的に答えたラーズグロムが兵士に従い立ち上がる。
それにつられてドミニク子爵とナレックも移動しようかと考えたところへ、素早くカズヨが割って入る。
「待って!」
「なんですか!? この非常時に部外者が余計な事を――」
「部外者は貴方の方よ、不審者さん」
「「「っ!」」」
不審者というフレーズを聞き、三人は兵士から距離を取った。
元闇ギルドの構成員であるカズヨが言うのだ、何かしらの確証があるのだろう。
「何を言い出すかと思えば……。いったい何を根拠に私を不審者だと?」
「根拠ならあるわよ?」
不適に笑うカズヨが指折り指摘する。
「一つ目。入室する前にノックするのは基本よ? 非常時だからといってお伺いを立てないのは不敬とみなされる」
「し、しかし非常時では――」
「二つ目。ラーズグロム様はいいとして、ドミニク子爵を無視していい事にはならないわ。当然これも不敬ね」
「……うっ」
「三つ目。なぜここが危険だと分かるの? まさかあの音から10分足らずで原因を特定できたとでも言うわけ?」
「くっ……」
「そして四つ目。これは実演した方が早いわね!」
シュシュシュ!
実演と称して兵士に向けてダガーを飛ばす。
そのまま兵士に突き刺さる――と思われたが!
パキィィィン!
なんと、兵士に突き刺さるは事なく、ダガーは床へと落ちてしまう。
「どうして末端の兵士がマジックアイテムで武装してるの? 確かこの国は近衛兵とかの役職以外は禁止されてるはずよね?」
「…………」
上手く国に馴染めるようにと、カズヨ達は事前に情報を仕入れていたのだ。
それによると、少しでも暗殺の危険性を減らすため、一般兵は通常装備以外でマジックウェポンを身に付けてはならないという規約が盛り込まれており、この兵士は堂々と違反していることになる。
「クッククク……」
言い逃れ出来なくなった兵士が不意に笑いだすと共に、偽装を解いて本来の姿を現す。
真っ白なローブに茶髪をオールバックにした怪しげな中年男がそこにいた。
「いやいやいや、実に見事なお手前で。せっかくお代官様を焚き付けたのに、まさかの偽装が無駄でしたってかい?」
「ええ、私の前では無駄でしたね。おとなしく降参するか死になさい!」
パキン! ギギギギ……
透かさずダガーを振るうが、マジックアイテムのせいか透明な何かに阻まれてしまった。
「怖怖怖っ! 死になさい――ってそれ命令ですやん! まだ名乗ってもいないのに酷過ぎちゃうん!?」
「だったら早く名乗りなさい」
「ホイホイホイっと、オイラは聖プリムラ教の宣教師――ハイドラーですぜ。今日はお日柄悪くて退散でんがなまんがな――ほなまた……」
悔しそうなそうでもないような微妙な表情を見せて、ハイドラーは消え去った。
「チッ、逃がしたか!」
転移石により逃げられるが、カズヨは追いかけない。
今はラーズグロム達を護るのが優先だ。
カズヨは増援が来るのを待ち、傍らのラーズグロムはフール達を待つのであった。




