閑話:プラーガ帝国の皇族
主人公以外の裏側の動きです。
知りたくない人は読み飛ばしてください。
ラーズグロム達がプラーガ帝国を脱出した頃、帝都デルフォンにある宮廷の一室で、彼の兄達が互いに罵りつつ腹の内を探り合っていた。
「ああもぅ、なんたる失態! 門番は何をやっていたのかしら!」
皇位継承権ニ位の長女ニースレイが袖を掴んで悔しがる。
彼女の言う門番とは、ラーズグロムが帝都に入る際殺した男のことだ。
「フン、所詮は門番。雑魚には荷が重かった……それだけだろ? 逃げたところでいずれ捕まる、あせることはない」
苛立つニースレイとは反対に、皇位継承権一位のバドラーゼは気にした様子はない。
寧ろ既に捕まえた気でいるようだ。
「バドラーゼ! そもそも貴方が余計な手を回すから指揮が乱れたのよ!? それさえなければとっくに捕まえられてるというのに!」
「な、余計だと!? 俺はただ、逃げ込んだ先の森を徹底的に捜索しろと命じただけだ! それが余計だというなら貴様はなんだ? 捜索の手を緩め、敢えて待ち構えるような守勢をとるから、まんまと逃げられたのではないか!」
「それが余計なのよ! そんなだから戦馬鹿って影で言われるんじゃない!」
「き、貴様ぁぁ!」
ついには口論へと発展し、正面から睨み合う二人。
一触即発な雰囲気に、彼らの護衛も気が気じゃない。
「まぁまぁ落ち着いて二人とも」
そこへ、待ったをかける者が一人。
皇位継承権三位の次男――ザファークである。
「逃げられたのなら仕方ない。それよりも各自でやれる事をやったほうがいいと思うんだ」
「「やれる事?」」
ザファークの台詞に揃って首を傾げる。
一旦は口論が収まったのを見たザファークは、そのまま持論を展開していく。
「うん。父上が亡くなった今、他国の動向には特に注意が必要だ。南東のサクサロッテ共和国は元々の国力を考えればこれまで通りで大丈夫だろうけど、南西のグロスエレム教国は国の方針をガラリと変えたらしく、経済が活性化してる」
グロスエレム教国とは、元々亜人を家畜のように扱う風習が蔓延しており、人間至上主義を上げてた国だった。
しかし数ヵ月ほど前、教祖がまるで別人になってしまったかのように国の在り方を変えていき、現在では人間以外にも亜人が多く入国してるらしい。
「それに北西のミリオネック商業連合国も、西のアレクシス王国との国交が強化されつつある。この二国に楔を打ち込む必要もありそうだよ」
プラーガ帝国の西には魔女の森という大規模な森が広がっており、そこの領有を主張してるのが、グロスエレム、ミリオネック、アレクシス、そしてプラーガの4国なのだ。
この内の2国が関係を強化するのは、プラーガ帝国にとってマイナスになりかねない。
「魔女の森の西と北――この二つが組むなら、我が帝国はグロスエレムとの強化を進めればいいだけじゃない。――ザファーク、貴方も少々詰め込みすぎよ?」
周辺国への指摘にもっともらしい方針を打ち出したニースレイ。
しかし当のザファークは、静かに首を左右に振る。
「それがそうでもないんだよ」
「どういうこと?」
「何故かグロスエレム教国も、アレクシス王国との関係強化を進めてる節が見受けられるらしいんだ。ニュアンス的にはアレクシス王国が中心となって魔女の森を開拓してるとか……」
密偵の報告に基づくと、アレクシス王国を中心にその周辺国が連携を強めているらしく、長年摩擦の元となっていた魔女の森を開拓しつつあるらしい。
つまり、プラーガ帝国だけが完全に梯子を外された状態だ。
「待て、それはおかしいだろう? アレクシス王国に放った密偵からは何の報告も受けてない。もし本当に魔女の森を開拓してるのなら、既に報告が上がってるはずではないか?」
バドラーゼは半信半疑で聞いており、こちらに情報が伝わってこないのはおかしいと言う。
確かにその通りだが、それは密偵が無事であればという条件がつくもので、その前提が崩れてれば意味を成さない。
「そんな兄上に残念なお知らせだよ。どうやらアレクシス王国に放った密偵は、既に捕まってると思っていい」
「「なんだと(なんですって)!?」」
これにはバドラーゼだけでなくニースレイも驚く。
「最初に報告を受けてたのが父上だったから今まで気付かなかったんだけど、書斎にあった報告書を調べたら、既に定期連絡が途絶えてたようだ。更にアレクシス王国に亡命した勇者を始末するため刺客を放ってたらしいが、こちらも音信不通。状況としてはマズイかもね」
密偵に続いて刺客も捕まった――或いは殺された可能性が高い。
梯子を外されたことをふまえれば、暗にプラーガ帝国へと仕返ししてるとも取れる。
「チッ、アレクシス王国め、味な真似をしてくれる……」
「もぅ! こうなったのも元はと言えば――」
「お待ちください姉上。ここは各自で役割を分担しましょう」
再び険悪な雰囲気になりそうなところを止めたザファークが、新たな案を出してきた。
「周辺国へは僕が対処しますので、姉上は国内をまとめてください。兄上は軍及び特殊部隊と連携し、ラーズグロムを見つけましょう」
「なるほど、知識のある者が国を統括する――いい考えだわ」
「ふむ、軍と特殊部隊の掌握か……悪くない。寧ろ望むところだ」
ザファークの誘導により雰囲気は改善され、バドラーゼとニースレイは生き生きと目を輝かせていた。
「してザファークよ。我が国から逃亡した勇者共がアルカナウ王国に入ったそうじゃないか。こちらの対処はどうするのだ?」
「噂ではすでに国を乗っ取ったとも言われてるね。チョワイツ王国に侵攻する動きもあるらしいから、援軍と証して一方的に軍を差し向けるのも悪くない」
「軍を差し向ける? なぜ連中を助けるような真似をする?」
戦争をするなら勝手にやらせとけばいいと、対岸の火事のようにバドラーゼは語る。
しかし、ザファークはこれに異を唱え……
「いや、チョワイツ王国が占領されたら、次はプラーガ帝国だからさ。恐らく勇者達は、小国であるチョワイツ王国を落として箔をつけたいんだと思う」
「チッ、勇者共が……。召喚された身でありながら楯突く気か!」
「平民が勇者に取り立てられるだけでも名誉なことなのに、恩を仇で返すなんて!」
バドラーゼとニースレイは憤りを強くする。
だが勇者達も好きで召喚されたわけではないので、別に恩義を感じてはいなかった。
「よし、すぐに兵を送ろう。そして我らを裏切ったことを後悔させてやる!」
「まったくだわ。アレクシス王国も気に入らないし、もっと密偵や刺客を送り込んでやろうかしら!」
二人が退室すると、その場にはザファーク一人が残され――いや、正確にはもう一人、気配を消して潜んでた者がおり……
「フン、ようやく行ったか……」
「待たせて悪いね、黒影」
全身黒ずくめの男がザファークの側に出現するが、本人は驚いた様子もなく会話する。
咄嗟に現れるのはいつものことなのだろう。
「じゃあ報告を聞こうか」
「……まず逃げ出した勇者共だが、アルカナウ王国を完全に乗っ取ったようだな。奴らチョワイツ王国に向けて進軍中だ」
プラーガ帝国に召喚された勇者がアルカナウ王国を乗っ取った――これは紛れもない脅威であり、帝国にとってはすぐにでも対処したいところだ。
「ヤレヤレ……。なら兄上には精々がんばってもらわなくちゃね。――他には?」
「西にある魔女の森なんだが、中心部にいるダンジョンマスターがアレクシス王国と良好な関係を築いてるようだ。ミリオネックとグロスエレムもそれに乗っかった状態だな」
「…………」
初耳だった。
この事実はザファークはおろかバドラーゼやニースレイも知らないことだが、同時にアレクシス王国が魔女の森の開拓を進めてる理由がハッキリした形だ。
「そういうことか……。それならこちらも使者を送ろう。これ以上差をつけられるのは見過ごせない」
これで一通り他国への対処は決まった。
残るは国内の事案だが……
「最後にムンゾヴァイスを暗殺した犯人だが、いまだ不明のままだ。少なくとも黒幕がラーズグロムではなさそうだが……」
「……だろうね。兄上か姉上のどちらかとしか考えられないんだけど、困ったことに中々尻尾を出してくれない。可哀想だがラーズグロムにはもうしばらく逃亡生活を送ってもらおう」
ザファークはラーズグロムが犯人でなはない事を薄々気付いていた。
しかし自分に疑惑を向けられたくないという思いから、やむを得ずラーズグロムが犯人であるという主張に賛同したのである。
「それで、肝心のラーズグロムはどうしてるんだい?」
「帝国を脱出し、チョワイツ王国に入ったようだ。国内にいるよりは安全だろう」
恐ろしいことに黒影という人物によって、ラーズグロムの行動は逐一把握されていた。
「それはよかった。ラーズグロムには死なれては困るんだ――」
「――少なくとも今はね……」
読めない動きをするザファーク。
彼の目的はいったい……。




