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救出作戦始動!?

 ラーズグロム一行が地下牢にて捕らわれている頃、上の階の応接室ではソファーに腰を下ろしたガーミング伯爵が神妙な面持ちで正面を向いていた。

 伯爵の視線の先には、薄ら笑いを浮かべた中年男とローブで表情が伺えない魔法士の男女が寛いでおり、とても敬意を払っているようには見えない。


 そこへ大剣を担いだ若い男と盗賊風の女が入室してくると、全員揃ったなと前置きした上で、伯爵に視線を合わせた中年男が口を開いた。


「ここまでは順調だな、伯爵様の協力が実を結んだってやつだぜ」

「ホ~ントホント、順調すぎて逆に怖いくらいだわ。これであたしら【ニューペガサス】もかなり名が知れることになるわね」


 中年男に続いて、魔法士の女が被っていたローブを外して同調する。

 特に魔法士の女はパーティの知名度が跳ね上がるのを想像して上機嫌だ。

 他の面子も頷く中、やはり伯爵だけは浮かない表情をしており力無く俯いた。


「だが油断するんじゃねぇぞ? 金を貰うまでは終わりじゃねぇ、喜ぶのはズタ袋を満杯にした時だ」


 他のメンバーを戒めるように発言したのは魔法士の男だ。

 単純明快、彼らの目的は金を得ることである。


「……で、この後はどうすんだ? さっさとブッ殺しちゃダメなのか?」

「ちょ、ダメに決まってんじゃん! 死体なら報酬は半分まで減額だよ? せっかく生け捕りにしたんだから、生きたまま連れてかないでどうすんのさ?」

「ちぇ、面倒くせぇ……」


 若い男の戦士の軽率な発言に、女盗賊が慌てて否定する。

 ラーズグロムの身柄は生きたままなら金貨一万枚という破格の報酬であり、死体なら減額されて五千枚となるのだ。

 それでも大金だと言えるが、どうせ手にするなら一万枚を望むのは当然の流れだろう。


「まぁ落ち着けよ。要はあの小僧を無事に送り届けてやりゃ一万枚が手に入るんだ。今は()()()からの連絡を待とうぜ」

「――だな。もうすぐ返答がくるだろうし、()()()()()()も大人しくしてりゃいいんだが。なぁ、どう思うよ伯爵様よぉ?」


 中年男の場を収める発言の後、魔法士の男が挑発気味に伯爵へと水を向ける。

 すると、今まで黙って聞いていた伯爵が(おもむろ)に顔を上げ……




 ダンッ!


「いい加減にしないか! 儂は貴様らに協力した、もう充分だろう? さっさと息子を返すんだ!」


 両手をテーブルに叩きつけ、声を荒らげた。

 そう、伯爵が怒りを表す理由は、息子を人質に取られているからである。

 彼ら【ニューペガサス】という冒険者パーティは、伯爵の息子を誘拐してラーズグロム捕縛を強制したのだ。


「おいおい、あんま頭に血を上らせるなよ? あんたの息子はこっちの手にあるんだ、分かるよな?」

「グググ……」


 足を組んだままニヤケ顔の魔法士がおどけた様に片手をヒラヒラとさせると、伯爵は悔しそうに歯を食い縛りつつ押し黙った。

 それを見た魔法士の男は話を続ける。


「言わば息子が生きてんのは俺達の慈悲のお陰だ。今の世の中じゃたかが末端の兵士二人だけの護衛なんぞ危険極まりない――そこで、危機を感じ取った俺達が颯爽(さっそう)と駆けつけて保護した。……けどなぁ?」


 男はズイッと顔を近付けると、伯爵の目の前に掌を向け……


「俺達だって気が長いわけじゃねぇ。フとした瞬間に気が変わって――」


 掌をギュッと握って見せた。

 まるで何かを握り潰すように。


「――なんて事もあり得るんだぜ?」

「……っ!」


 その動作に伯爵はゴクリと喉を鳴らし、再び力無く俯くのであった。



 コンコン!


「あっ、やっと来たぁ、ジットの伝書鳩!」


 女盗賊が窓を突っつく伝書鳩に気付くと室内へと招き入れ、足に結ばれてた伝書をリーダー格と思われる魔法士の男に手渡した。


「……ほぅ、よかったな伯爵様。息子は大人しくしていたらしいぞ?」


 伝書を読み上げた魔法士の男は、ジットという仲間から送られた情報により人質に変化がない事を知る。

 話を聞いた伯爵はというと、ひとまず安堵した様子だ。


「このままラーズグロムを連れて行けば息子は要無しになる。なんだったら付いてきてもいいぜ?」

「ほ、本当か!?」

「ああ。但し、あんた一人でな」

「な!?」


 伯爵一人で――となると、当然護衛も無しにという事になる。

 どこまで行くのか分からない上、無事に帰って来れる保証もない。


「嫌ならいいんだよ? あたし達にしたら来られても面倒なだけだしさ?」

「だなぁ。街から出なきゃならねぇし、自分の身は自分で護ってもらわなきゃな」


 魔法士の女と中年男も追い打ちをかける。

 メロデロイスの中ならまだしも、街の外となると解放された後に賊や魔物に殺される可能性もあるのだ。

 それを考えれば、ついていく以外の選択肢は伯爵にはなかった。


「……分かった。儂一人がついて行こう」

「フッ、決まりだな。もうすぐ日が暮れるし、さっさと移動するぜ」


 魔法士の男が立ち上がると、他の面子も移動を開始する。

 やがて誰もいなくなった室内には、一部始終を見ていた一匹のクロコゲ虫だけが残されるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 既に日が落ち、真っ暗な林道を西に向かって進む1台の荷馬車。

 ランプを手にした女盗賊と大剣を担いだ若い男の戦士が先頭に立ち、荷馬車の後ろを魔法士の二人とガーミング伯爵がついていく。

 御者をしているのは、例の如く中年男だ。


「ブルーノ、ラーズグロムの様子はどうだ?」

「おぅ、今んとこ大人しくしてるぜ。もっと暴れるかと思ったんだが、ちと拍子抜けだな」


 魔法士の男に言われ、御者のブルーノが荷台を覗き込む。

 そこにはロープで縛られたラーズグロム一人だけが転がされており、微動だにしない様子は寧ろ気味が悪いくらいだ。

 ちなみに彼以外の仲間は、連れ出すのが面倒だという理由から地下牢に放置したままにされている。


「おい、確か……ノッティと言ったか? いったいどこまで行くつもりだ? 息子はどこにいるのだ!?」


 メロデロイスを発ってから既に5時間は経過している。

 当然伯爵には行き先を伝えていないため、伯爵本人の不安は増すばかり。

 ついにいてもたっても居られず、伯爵は声を荒らげて魔法士の男に詰め寄る。


「……ったくしゃーねぇな。ヤデランだよヤデラン。そこであんたの息子はちゃ~んと保護されてるぜ?」

「ま、まさかヤデランにまで連れ出されていたとは……」


 ノッティはヤレヤレと(かぶり)を振り人質のいる場所を告げた。

 ヤデランとはメロデロイスから西にある街で、徒歩だと1日歩けば着く距離にある。

 メロデロイスで監禁すればすぐに救出されると考えた彼らは、拐った直後に隣街にあたるヤデランへと連れ出したのだ。


「ヤデランって言えば、領主はワドムンド侯爵だったよな? よく堂々と連れ込む事が出来たもんだ」

「なぁに簡単だ。ワドムンド侯爵は抜け目ないが、代官は別なのさ」

「ああ、なるほど」


 若い男の戦士が何気無く問いかけると、ノッティが得意気に語る。

 ワドムンド侯爵とはガーミング伯爵のように平和主義者ではないが、他者に厳しく自身にも厳しい正確をしているので、街を警備している兵士の規律も整っていることで有名だ。


 しかし代官に変わってからは規律が乱れているらしく、警備もザルになりつつあったため、簡単に偽装して街へと連れ込めたのである。

 

「そんな事よりリーダー、邪魔者のお出ましだよ」


 魔物の気配を感じ取った女盗賊が注意を呼び掛けると、彼ら【ニューペガサス】に緊張が走る。

 すると茂みからノソリと現れたグリーンウルフが彼らを睨み唸り声をあげた。


「慌てるな。グリーンウルフは雑魚だ、1体ずつ確実に仕留めろ」


 気付けば5体のグリーンウルフがジワジワと距離を詰めてきており、震える手を押さえつけた伯爵も剣を抜いた。


「オルァ!」


 ドグシャッ!


 飛びかかってきたタイミングに合わせて男戦士が大剣を振り下ろすと、回避が間に合わなかったグリーンウルフの頭部を叩き割った。


「そんじゃこっちも!」


 潰れたグリーンウルフを横目に女盗賊がナイフを投げる。

 結果3体が動きを止めて女盗賊へと注意が向いたが、そこへファイヤーボールが次々と命中し、3体のグリーンウルフ燃え尽きた。


「フン、どんなもんよ?」


 ファイヤーボールを飛ばした魔法士の女は自慢気に胸を張るが、彼女の死角からも別のグリーンウルフが飛びかかってくる。

 が――。


「油断するな、ニーナ」


 ノッティが飛ばしたウィンドカッターが、グリーンウルフを切り裂く。

 魔物の気配は完全に消滅し、各々は警戒を解いた。


「サンキュー、ノッティ!」

「ったく、気を付けろよ……。んで、伯爵様よ、もう魔物はいねぇってのにいつまで力んでんだ?」


 魔物は始末したものの、伯爵は剣を抜いたまま暗闇から視線を外さない。

 ろくに戦闘経験がないのだと思ったノッティは若干呆れつつ肩を小突くが、それでも伯爵は動かなかった――



 ――いや、違う、彼は偶然にも暗闇に潜む者と目が合ってしまい、硬直していたのだ。

 まるで背景に溶け込むかのようにして、こちらを観察している何者かと。

 震えた手を持ち上げ暗闇を指すことで、ようやく他の面子にも異変が伝わった。


「だ、誰だ、そこにいやがんのは!?」


 ノッティが叫んだことで、再び各々へ緊張が走る。

 女盗賊とブルーノがランプを向けると、暗闇から何かが飛び出してきた。


「へぇ……まさかオジサンが素人に見つかっちまうとはねぇ」


 一人の黒装束が現れると、次々と同じ服装の者達が姿を現す。

 最初の一人を合わせると、計4人の黒装束達が彼らの前でダガーを構えたのだった。


「テメェらはいったい……」

「見ての通り、オジサン達は怖~い闇ギルドの構成員さ。【貴人の密会】って組織なんだけど、それなりに有名なはずだよ」

「や、闇ギルドだと!?」


 相手が闇ギルドだと知り、ノッティを始め【ニューペガサス】の面々は嫌な汗を流し始める。

 武器を手にしたという事は、()()()()()()()()に違いない。

 そしてその()()には心当たりが有りすぎた。


「テメェらまさか!」

「うぃ。多分そちらさんの想像通りでござんすよ。荷台の獲物――ちょうだいしやすぜ?」


 またもや乱入してき【貴人の密会】。

 彼らの介入が事態をますます混迷させていく。


ちょっとした小ネタですが、今回登場した【ニューペガサス】とは、前作の第61話に出てきた【ペガサス】というパーティの二人が離脱して、新しく立ち上げたパーティという設定になっています。

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