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誘われし貴族 僕は再び返り咲く!  作者: 北のシロクマ
第2章:ベストパートナー
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激闘、ファイアドレイク!

「Gyaaaaaa!」

「チッ、デカイくせに中々素早い動きを!」


 ライザに代わって囮となったリオン。

 彼女はライザほどの素早い動きは出来ないため、動きの鈍ったファイアドレイクとはさほど変わらない速さで回避に専念する。


『詠唱はまだか!?』

『詠唱そのものは完了してますが、奴が口を開かなければ無意味です。何とかブレスを吐かせてください』

『フン、涼しい顔して無茶な要求を……』


 念話で催促するリオンにライザが無茶ぶりで返してくる。

 不満げにぼやくリオンだが本人も理解はしていた。

 竜の鱗は簡単に貫くことはできないので、軍隊が討伐する場合は複数の魔術師により拘束させた状態で頭部を集中的に狙うのがセオリーだ。

 しかし二人しかいない現状では同じようにはいかない。


『やむを得ません。――リオン、わたくしの前で障壁を張ってください』

『何をするつもりだ?』

『奴がファイヤーブレスを吐いたところで正面から水弾をブチ込みます。貴女にはブレスを防いでほしいのです』

『貴様正気か!?』


 いくら障壁を張ったからといっても、全てを防げるわけではない。

 威力が大きすぎれば障壁を貫通してくるので、ぶっつけ本番でブレスを受けてみようと考える者は皆無だろう。


『少なくとも貴女はわたくしと同等――言い換えれば、Bランクの魔物と同程度の強さを有してるはずです。ならばブレスの一撃くらいは防げるでしょう? 全力を出しきれば――ね』


 無謀である。

 ファイアドレイクはAランクとして指定されているものの、攻撃力だけを見ればSランクの魔物に匹敵するほど強力なのだ。

 それを真正面から受けるとなれば、生身では危険過ぎる。


「フッ」


 しかしリオンは不適に笑うと、ライザの正面へと誘導し始めた。

 彼女に触発されたのかは不明だが、ファイヤーブレスを受ける気になったようだ。

 やがてライザの後ろで足を止めると、脇目も触れずに追ってくるファイアドレイクを静かに見上げた。


「くるぞ!」

「分かっています!」


 直線上に二つの獲物が重なって見えたファイアドレイクには、絶好のチャンスと思えたのだろう。

 しかも二人が動きを止めているとなれば外す事もないのだ。


 ゴオオオオオオーーーーーーォォォ!


 誘導されてるとは知らないファイアドレイクは、鬱憤(うっぷん)を晴らすかの如く炎のブレスを吐き出した。

 何度も見てる光景だが、正面から見据えるのは二人にとっては始めての事だ。

 そして出来ることなら二度と見たくないであろう光景が二人へと迫る!


「食らいなさい――ヴァーチカルショット!」


 二人が炎に包まれる一方で、ファイヤーブレスのど真ん中を水弾が突き抜けていく。

 狙いは口内。

 ブレスを吐いている最中なら奴の顔も動くことはなく、狙いが正確なら口を通じて脳天へと直撃するはず!


 ドジュッ!


「Gyaugyaugyaooo!?」


 二度目となる口内での破裂に、ファイアドレイクがのたうち回ってもがき苦しむ。

 かなりのダメージを与えることには成功したが、それでも奴は生きていた。

 狙いが僅かに逸れ、水弾が脳へと達しなかったのが原因と思われる。


 そして二人の方も生きていた――いや、()()()()()()()()()と言ったほうが正しいかもしれない。

 リオンは持てる魔力を全力で開放したため魔力が尽きかけており、失いそうな意識をなんとか保っていた。

 ライザの方も障壁で護られたとはいえ正面からのブレスには相当堪えたようで、膝をついて息を切らしている。


 双方危険な状態だが、トドメを刺さねば安心はできない。

 そこでライザは先手を打つため、最後の作戦をリオンに伝えた。


「今から至近距離で、奴の頭部を狙います」

「……また無茶な真似を。もう障壁を張る余裕はないぞ? 岩石一つ飛ばすのが精々だ」

「大丈夫です、それが出来れば充分。時間が無いので手短に言いますが――」


 ライザが伝えた作戦はこうだ。

 可能な限り奴へと接近し、口を開かせる。

 直接食いつける位置まで移動すれば、恐らくは補食しようとするだろう。

 そこへ今まで同様水弾を放ち、口内から頭部を抉るという流れだ。


 だがそうなるとライザが食われる可能性もあり、食いつかれる直前にリオンの岩石によりライザを飛ばすという作戦で、食われるよりはマシだがかなり危険な作戦でもある。

 

「……お前の作戦でいこう。但し、チャンスは1度だけだ」

「……やってみせましょう。それしか方法はありません」


 二人が一斉にファイアドレイクへと駆け出す。

 奴は依然としてゴロゴロとのたうち回っており、本来であれば近付くのは下策。

 ライザは詠唱を終え、危険を承知の上で敢えて接近する。


「能無しのデカブツ、悔しかったらかかってきなさい」

「Gyaogyao!」


 挑発を理解したのか、はたまた空きっ腹に響いたのか、痛みを忘れたかのようにライザに食い付こうと巨体を起こす。

 チラリと左を見れば詠唱を終えたリオンが待機しており、後はタイミングを合わせるのみとなった。


「さぁ、きなさい!」

「Gyagaaa!」


 丸飲みにできるほどの大口が迫る中、ライザは慎重にタイミングを見計らう。


 5メートル……4メートル……3メートル……


 すぐそこまで迫っているが、ライザはまだ動かない。

 いよいよ2メートルを切り、手を伸ばせば届きそうな1メートルに達したその時!



「貫け――ヴァーチカルショット!」


 ついにライザが動いた!

 ちょうど下から覗き込む角度で、口内に撃ち込まれた水弾が頭部を目指す。

 しかし大口の勢いは止まらず、そのままライザを飲み込まんとしていたが……


「ゴフッ!」


 リオンの放った岩石がライザを横へと弾き出すと、代わりに大口へと吸い込まれていった。


「Gyaugyaogiyaaa!」


 岩石はもとより、水弾が脳へと達したファイアドレイクは激しくのたうち回ると、離れた場所からライザが注視する。

 これでダメならリオンを背負って逃げるしかない。


 だがそんな心配は杞憂に終わる。

 ファイアドレイクの動きが急速に弱まっていったのだ。

 バタつかせてた足が上がらなくなり、翼もピクピクと小刻みに振るわすだけ。

 目と鼻と口からは血を垂れ流しており、顔が重力に従ってお辞儀を開始。

 犬が伏せたようなポーズをとると、二度と動くことはなかった。


「……か、勝ったの……ですね……」


 バタッ!


 全力を出し切ったライザが大の字で倒れた。

 離れた場所ではリオンも気を失って倒れており、二人ともしばらくは動けそうにない。




 ザッ……


 不意に草を踏む音が聴こえた。

 レシルやジュリアが来たのだろうかと意識を集中すると、そこにいたのは……



「いやいやいや、実にお見事でしたよお姉さん!」

「……お、前は……」

「貴女の爪で、とても深ぁ~い傷を負わされたコルネオスですよ。まさか忘れたとは言いませんよねぇ?」


 忘れてはいない。

 だが今は遭遇したくはなかった。

 そう思い顔を歪ませたライザが、髪を強引に引っ張りあげられ……


 ゴスッ!


「ガフッ!」


 コルネオスに殴り飛ばされ、力なく転がった。

 反撃したくとも、もはや自力で立ち上がる事もできない。


「惨めですねぇ。張り切って戦った結果これでは、貴女も報われない。ええ、ええ、分かりますともその気持ち。ですがねぇ――」


 グッ!


「ガ……ア……」


 再びライザへと近付いたコルネオスが顔を踏みつける。

 苦痛でうめくライザを実に愉快そうに見下ろし、徐々に力を加えつつ語りだした。


「惨めな思いをしたのは僕の方なのですよ。今まで負け知らずだった僕が……常に策謀を巡らせて挑む僕が、あっさりと敗北していいはずがないんですからねぇ!」

「ゴ……フ……グァ……」


 更にグリグリと踏みつけがエスカレートしていき、尚もコルネオスは語り続ける。


「痛いですか? 苦しいですか? ええ、ええ、そうでしょうとも、僕は貴女に苦しめられた――これは紛れもない事実。あの時受けた心の傷は、永遠に癒すことはできないのです!」


 ガスッ!


「…………」


 一通り語り尽くしたのか、最後にライザの頭部を思いっきり蹴りあげた。

 蹴られた本人ざ激痛により気絶してたのが幸いかもしれない。

 だが尚もコルネオスはライザへと近付き、(おもむろ)に掴み上げようとし……


 キィィィン!


 突如飛んできたダガーを、障壁により弾く。

 飛んできた方に視線を向ければ、そこにいたのはダガーを構えたメッツであった。


「こ、ここからはあちゃしが相手になる!」

「ほぅ……お前がか?」


 ラーズグロムをジュリアに預けたメッツが、急ぎ駆けつけたのだ。

 しかし相手はカタコンベ三本柱の一人。

 メッツが勝てる可能性は限りなくゼロだ。


「止めなさいメッツ」

「あ、貴方は!」


 コルネオスの隣にタキシードを来た初老の山羊獣人が現れ、それを見たメッツが激しく動揺する。

 しかしそんなメッツを気にも止めず、タキシードの男は前へと出た。

 同時に10人ほどの構成員もメッツを包囲するように現れる。


「一応自己紹介を致しましょう。私はカタコンベ総統――カージナル。そこで隠れている方々も、よろしく御願いしますね」

「ちょ、この、離しなさいよ!」

「…………」


 茂みに隠れていたレシル達が見つかってしまい、構成員によって引きずり出される。

 フールだけは茂みに隠れたままだが、魔力を使い果たしてしまい何もできない。


「さて、メッツよ。お前には汚名返上の機会を与えます」

「汚名……返上?」

「そうです。お前の手でコヤツらを始末しなさい。さすれば此度のことは水に流しましょう」

「…………」


 メッツは考える。


 ――いや、考えるフリをして、レシル取り押さえている構成員に斬りかかった。


 キィン! ググググ……


 しかし予測していたのか、その構成員は難なく防ぐとメッツを押し返す。


「あ、あちゃしはもう戻らない! カタコンベなんて無くなってしまえばいい!」


 ザスッ!


「ウグッ!」


 腕を斬りつけられたメッツはダガーを手離す。

 これで一行の中で戦える者はいなくなってしまった。


「フッ、状況が理解できない――それでは長生きはできませんよ? お前のことは少しは評価していたのですが、とても残念です」


 残念――というわりには含み笑いを見せるカージナル。

 彼にとっては手駒の一つでしかないため、使えなくなったら消すだけだ。


「コルネオス」

「承知しております」


 自身に視線を移したカージナルの意図を理解し、コルネオスが詠唱を開始する。


(クソ、まだ回復はしないか。何とか時間を稼げれば……)


 フールは隙を(うかが)ってはいるが、魔物を召喚できる魔力もなく成り行きを見ている事しかできない。


「まずは裏切り者の貴様からだ!」


 詠唱終えたコルネオスが掌をメッツへと向ける。

 観念したメッツは目を瞑って最後の時を待った。


「切り刻め――ウィンド――「待ちなぁ!」――フグググッ!?」


 ドスの効いた聞き覚えのない声が、コルネオスのすぐ近くで響く。

 驚いたメッツが顔を上げれば、角刈りでチンピラ風の男がコルネオスの腕を捻り上げているところだった。

 レシルとジュリアも突然の乱入者に目を丸くし、フールは別の意味で驚愕(きょうがく)する。


(な、何なんだこの男は! まったく気配を感じなかったぞ!?)


 フールとしては近くに魔物でも居ようものなら何らかの形で利用してやろうと集中していたので、ファイアドレイクに気付かなかった時とは訳が違う。

 しかしこの男はそれを掻い潜ってここへ現れた。


「カズヨに頼まれて来てみりゃ、こんな様にさってるとはなぁ」


 どうやらこの男、カズヨ達の事を知っているらしい。


「ふむ、何者かは知りませんが、邪魔立てするなら致し方ありませんな――コルネオス」


 一方でカージナルは理解していなかった。

 コルネオスが男に気付いて慌てて詠唱を中断したと思っているのだ。

 しかし現状は異なり、コルネオスも腕を掴まれるまでは気付かなかったのが正解である。

 ところがカージナルは視線でさっさと始末しろと命じたのだが、それができればコルネオスも苦痛に顔を歪めることはなかっただろう。


「クソッ、離せ! さっさと離――ブゲッ!」


 離せと言われて手を離したのと同時に、コルネオスの足を引っ掛けて転倒させた。

 口に入った砂を吐き出し、角刈り男を睨み付けたコルネオスが吠える。


「こ、このぉ……随分と舐めた真似を……。僕を怒らせた事を後悔させてやる! 貴様に真の恐怖というものを教えてやろう!」

「恐怖……だと?」


 恐怖というフレーズを聞き、厳つい角刈り男の目付きが鋭さを増す。

 どうやら角刈り男の琴線に触れてしまったようだ。


「上等だ。テメェにも味わわせてやろうじゃねぇか!」


 すると角刈り男が人化を解き、一体の狼へと姿を変えた。

 いや、狼にしてはかなり大型であり、全身が迷彩柄の珍しい狼だと言えよう。

 しかし、当然ながらただの狼にはあらず、知っている者からすれば恐怖の対象とも言える魔物である。


「ま、まま、まさか貴様は――」


 先ほどまでの余裕がなくなったコルネオスが、尻餅を着いて後ずさる。

 カージナルも目をゴシゴシと擦り、メッツは目を見開いた。

 ライザも朦朧(もうろう)とする意識の中、その狼を見上げると、その名を告げる。


「「「デルタファング!」」」


 全員の声が重なり辺りに響く。

 デルタファングとはSランクの魔物で、敵対すれば死は免れないと言われている。

 過去に(さかのぼ)れば何人もの勇者が()()により落命しているという恐るべき魔物。

 故についた二つ名は――勇者殺し!


「あ、が、が……」


 コルネオスが指をさして硬直している。

 今彼は人生で最大の恐怖を味わっているのだ。

 そんな彼の恐怖もすぐに終わりを迎えることとなる。


 ボトッ!


「ヒィィィィィィィィィィィィ!」


 首を噛み切られたコルネオスの首が落ちる。

 それを見たカージナルが失禁しつつ構成員に命じた。


「ななな、何をしている! はやくコヤツを始末しないか!」


 しかし構成員は動かない――否、そもそも構成員は()()()

 彼らはデルタファングが現れた時、既に命を刈り取られていたのだから。


「後はテメェだけだ。――安心しろ、ちゃんと火葬はしてやる。()()()()()()()()が近くにあるからよぉ」

「ややや、やめ、やめてくれぇぇぇ!」


 泣きわめくカージナルの襟を噛むと、その場で大きく飛び上がる。

 木から木へと飛び移り目的の場所が見えてきたところで、思いっきりカージナルをブン投げた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴を上げつつ火口へと落ちていくカージナル。

 これにて、勢力を拡大中であったカタコンベは完全に消滅することとなった。


「ケッ、汚ぇ小便ジジィだぜ」


 カージナルの最後を見届けたデルタファングは、ラーズグロム達の元へと引き返して行く。


もう一話続きます。

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