アロマ山に巣くう者
それでは第2章のラスボス戦です。
「ね、ねぇ、なんだか無性に暑くない? レシルは大丈夫?」
「ううぅ、暑い……。ジュリアちゃんは平気なの?」
「平気じゃないわ! しかもドンドン暑くなってるし」
「うむ。それには俺も同意する。上に進むにつれ、熱風が強くなってくるようだな」
アロマ山を登り始めて数時間が経過したが、まだ頂上は先というのもあり、途中で野宿を挟んで再び歩き出すと、一足先に朝日が頂上を拝んでいた。
そして照りつける朝日がまた暑さを強く体感させようとギラついており、正直言って迷惑迷惑際りない。
「アロマ山は火山でしゅ。上に行くほど暑くなるのは当然でしゅよ」
「マジ~!? もぅ最悪……。早く目的のブツを採って帰ったら水浴びしなきゃ!」
汗だくな一行が熱風に耐え頂上を目指して登って行く。
普段は涼しげな顔をしているライザもさすがに堪えるらしく、時おり犬のように舌を出していた。
それを見たリオンに挑発され口先の闘いを繰り広げていたところへ、頂上付近までやって来たとメッツに告げられる。
後は岩に張り付いている苔を採取すれば、さっさと下山できるのだが……
「む、またしても生命反応だ。しかもこの反応は――」
いつの間にか近くに現れていた反応。
あまりにも弱々しい反応だったため気付くのが遅れたが、フールには覚えのある反応であった。
しかしフールがその名を告げる前に、耳を貫通するかのような大音量の雄叫びが辺りに響き渡った。
グオォォォォォォッ!!
「――やはりバニッシュか!」
「ヒィ!」
「ちょ! この声……」
「くっ、不味いでしゅ! 身体が……」
すぐさまレシル達に異変が起こった。
離れた所からでも響くバニッシュの雄叫びを受け、獣人である彼女達の動きが鈍る。
「落ち着きなさい。この程度なら対処は可能」
同じく苦痛の表情を浮かべるライザを横目に、リオンが詠唱を開始する。
間もなく発動させた治癒魔法により、全員の異常が解除された。
これにより落ち着きを取り戻した一行は、程なくして現れたバニッシュと対峙する。
「よぉ、まだ生きてやがったか」
「それはこちらの台詞です。すでに満身創痍に見えるのは、わたくしの錯覚でしょうか?」
「いんや、錯覚じゃねぇと思うぜ? 何せ死にかけたからなぁ、ガッハッハッハッ!」
冷めた表情で見つめるライザを前にして、愉快そうに笑っているバニッシュ。
しかし彼の衣服はすでにボロボロで、多数の傷痕が痛々しく存在感を主張していた。
ポーションにより回復してはいるのだろうが、全快までは程遠いように感じる。
「まさかとは思いますが、その状態でわたくし達に挑むおつもりで?」
「おぅよ。俺達カタコンベは敵と決めた相手にゃ死ぬまで挑み続けるのさ」
「それは貴方達が死ぬまで――という意味で受け取ってよろしいでしょうか?」
「ああ、構わねぇぜ? どちらか片方が全滅するまで終わらねぇ。それが闘いってもんだろうがよ――」
ピュイ!
ライザとの会話を終えたバニッシュが口笛で合図すると、木々や岩陰から獣人達が姿を現す。
しかし僅か5人という少数であり、コルネオスの言った通り構成員が激減したのだろうと伺える。
「いくぜ野郎共ぉ!」
バニッシュがライザに向かって突撃する。
強者ではあるものの、負傷しているバニッシュに負けるほどライザは弱くない。
「フッ、遅いですわね」
ガキィン! ドスッ!
「グフォ!」
振り下ろされた戦斧を横へ避けつつ弾き飛ばし、腹部に蹴りを受けたバニッシュは悔しそうに膝を着く。
他の構成員もリオンの障壁を破ること敵わず、1人が焼け死に他3人が様子を窺っている。
もう1人はメッツが仕留めたため、血を流して横たわっていた。
「チッ、やっぱ強ぇなお前らはよ」
「ならば降参しますか? しても生かしては置きませんが」
「へッ、俺らカタコンベに降参という二文字は存在しねぇ。有るのは生か死かだ!」
再びバニッシュが戦斧を手に取り、その場から飛び退く。
何をする気かと身構えるライザだが、バニッシュの狙いはライザではなく、視線の先はメッツの背負うラーズグロムに移されていた。
「くっ、まさかラーズグロムを!」
「どうせ死ぬならコイツも道連れに――」
しまった! とライザが動き出すが、既にバニッシュは戦斧を投げる動きに入っている。
だがここで予想外のことが起こった。
「Gyaoooooo!」
「「「!?」」」
バニッシュの雄叫びよりも遥かに強力な咆哮が各々の耳を直撃する。
何事かとライザは声のした上空を見上げ、バニッシュも動きを止めて視線を空へと移す。
フール達も見上げれば、上空から巨大な何かが舞い降りてくるところであった。
「くっ、俺としたことが……。すまぬ、カタコンベに気を取られ過ぎて、コヤツの反応を見過ごしていた!」
「ななな、何なのアレ!? あんなのが出るなんて聞いてないんだけど!?」
ジュリアが驚愕して見上げているものは、真っ赤な巨体に翼を生やした竜――ファイアドレイクであった。
ファイアドレイクとは火山の火口付近に生息しているAランクの魔物で、炎のブレスは並の生命体なら一撃で焼き殺すだろう。
「そ、そういえばカズヨって人が忠告してきたのを忘れてたでしゅ! この辺りには危険な魔物がいるから近付かないほうがいいって!」
今更だがメッツが思い出した。
これはレシルとジュリアも記憶にあり、今の今まで忘れてた事に後悔する。
「くそっ、コイツぁさすがに荷が重い。引き上げるぞ!」
バニッシュが生き残った構成員を連れて離脱を図ろうとする。
しかし目敏く動いたのが災いしたのか、ファイアドレイクはバニッシュ達を追い越した。
ズズーーーン!
「くそが、逃がさねぇってか!」
意外にも動きが速く、あっさりと回り込まれ退路を断たれてしまった。
だが彼らの悲劇はそれだけではない。
ファイアドレイクが開いた口の中に、燃え盛る炎が見えていたのだ。
「ヤベェ!」
ゴオオオオオオーーーーーーォォォ!
一直線に放たれたファイヤーブレスが岩と木を焼き尽くしていく。
回避が間に合わなかったバニッシュ達は、哀れにも炎に焼かれて消し炭へと変えられた。
「リオン、フール様を頼みます! この相手は危険ですので」
「言われなくともお護りする!」
さすがの二人もAランクが相手では、いつものようにじゃれる余裕はない。
「こっちです、デカブツ――ヴァーチカルショット!」
ドシューーーッ!
「Gyaaa!?」
今まさにフール達へと振り向いたファイアドレイクの足に、岩をも貫く水弾が命中する。
竜の鱗は硬いためダメージとしてはそれほどでもないが、フール達から注意を逸らすことには成功した。
「こちらです。そう、そのまま――」
「Gyaoooooo!」
水弾を放ったライザ目掛けてファイアドレイクが突進してくる。
巨体だが動きは速く、気を抜くと即座に踏み潰されてしまいそうだ。
「この辺でいいでしょう。さぁ、かかってきなさい!」
「Gyagyagyaaa!」
指でクイクイっと挑発するライザに対し、意図を理解したのかファイアドレイクの動きが荒々しくなる。
足だけでなく、尻尾を振り回したり直接食い付こうとしたりと多様な攻撃を仕掛けてくるようになり、中々攻勢に転じることが出来ないでいた。
勿論ライザとしても挑発したのには訳があり、ファイアドレイクを過剰に動き回らせ疲れさせるというのが狙いなのだが。
「これは少々骨が折れます――ね!」
ゴオオオオオオーーーーーーォォォ!
体を反らしたライザの横を、炎のブレスが通過していく。
フルストのマットプロミネンスに勝るとも劣らない威力に冷や汗を流しつつ、死角に回り込んでは切りつけるというヒットアンドアウェイを繰り返すが、ダメージを受けているようには見えない。
(さすがに硬い。やはり魔法による攻撃が有効なのでしょうが……)
正直言えば、面と向かっていては詠唱する間もない。
かといってチマチマと切りつけるだけでは倒せるはずもなく、動きを封じてる間に詠唱を行い、且つ弱点とも言えるところへ当てる必要があるだろう。
メキメキメキ……
「くっ、樹木が!」
逃げ回ってるライザの進路を塞ぐように、樹木が倒れかかってきた。
これにより大きく動きを変えることを余儀なくされ、樹木を避けるため飛び上がる。
しかし、この動きがよくなかった。
「Gyagaaaaaa!」
「ガハッ!」
人一人を簡単に覆いつくせるほどの前足で、ライザは叩き落とされる。
10メートル近く転がったところで動きを止めると、ヨロヨロと起き上がりファイアドレイクを見据えた。
かなりのダメージを受けたものの、まだ戦意を失ってはいない。
「Gyaoooooo!」
「チッ、またですか!」
今がチャンスと思ったのか肩で息をしているライザに顔を向け、大きく口を開く。
ブレスの前兆を垣間見て横へと大きく飛び退くと、スレスレのところをブレスが通過していった。
汗を拭いつつ見上げれば、間髪いれずにファイアドレイクが食い付かんと迫り、鬼ごっこのような戦闘を再開する羽目になる。
(現状で隙を突くのは無理ですか。しかし他に方法は……)
『ライザよ、その場から離れろ!』
『フール様!?』
フールによる念話を受け言われるまま駆け出すと、一気に距離をとった。
すると前方からファイアドレイクの進路を妨害するようにホワイトウルフの群れが出現。
木々の隙間を縫うようにライザとすれ違い、水属性のフリーズを一斉に放った。
バシュ、バシュバシュバシュ!
「Gyaaaaaa!」
ドゴォン! ドズン! ズダァァァン!
多少なりともダメージを与えたようだが、奴は怒り狂うように暴れ始める。
よほどフリーズが煩わしかったのかホワイトウルフを徹底的に襲い始めた。
こうなればDランクのホワイトウルフでは持ちこたえる事はできず、瞬く間に数を減らしていく。
30体もの数がものの数分で3体を残すのみとなり、仕上げとばかりにブレスを放ってくる。
「(今です、)ヴァーチカルショット!」
と、ここで詠唱を完了させていたライザが、ファイアドレイクの口内目掛けて水弾を撃ち込む。
竜の鱗は硬いが、口内ならそうはいかないだろうと考えたのだ。
ボゴン!
「Gyogua!?」
「よし!」
思った通りとライザが確信する。
外側とは違い柔い性質を持っているらしく、放った水弾が内部を抉るように破裂し、頬から血を流し始めたのだ。
しかし先ほどのブレスでホワイトウルフが全滅してしまった今、ライザ一人で挑まなければならない。
「Gyaaaaaa!」
「やはりあの程度では致命傷にはならないですか」
多少動きは鈍ったものの向こうの戦意も衰えてはおらず、敵意を剥き出しにしてライザを追い回しにかかる。
ならばもう一度――今度は脳天に届くよう正面から当ててやれば、致命傷になるだろうと考えた。
しかしライザ自身も負傷しているため、思ったように隙を突けそうにはない。
やはり誰かが囮となる必要性があり、どうしたものかと思考する。
「ん? あの岩は?」
上空から岩石が落下してくるのが目に留まった。
岩石はファイアドレイクに狙いを定めたかのように顔面へと迫り……
ドゴン!
「Gyaaa!?」
見事顔面に命中すると、それを行った人物がライザとやや離れたところに降り立った。
「リオン!?」
「囮が必要なら私がやる。それしか方法はないのだろう?」
「よろしいのですか?」
「心配せずともフール様の許可はもらっている。さっさと詠唱に入れ」
「分かりました。囮は任せます!」
役割は決まった。
見ればファイアドレイクの標的は岩石をブチ当てたリオンへと変更され、咆哮を放って突撃してくる。
いま強敵を倒すための最終作戦が展開されようとしていた。




