オールドパートナー
レシル達を庇うよう前に出るライザとリオン。
二人が注視する先では、新手であるリオンの力量を見極めんとしているフルストが様子を窺っていた。
「ただのダークエルフ――にしては魔力の量が多いわね? それこそ宮廷魔術師なんかじゃ相手にならないくらいに。いったいどこから沸いて出たのかしら?」
「それを知る必要は貴様にはない。真に貴様が知るべきは、己の愚かさだと知るがいい」
「……へぇ、愚かさねぇ……」
意外にもリオンの挑発がフルストを抉ったようで、先ほどまでは無かった殺気がフルストから滲み出てきた。
「邪魔されてムカついてたのもあるし、少し憂さ晴らしでもさせてもらおうかしらね!」
直後とてつもない魔力がフルストから溢れ出し、真っ白なローブを真っ黒なオーラが包み込んでいく。
これが戦闘開始の合図となり、リオンが即座に詠唱を展開すると、ライザもフルスト目掛けて駆け出した。
そんな彼女達の後ろでは、フールがラーズグロムの状態異常に気付きペチペチと頬を打つ。
「おい、しっかりしろ、何があった?」
「フールちゃん、ラーグ兄ちゃんはあの人に何かされたんだよ。しばらく動けなくしたって言ってたから、何かの魔法だと思うんだけれど……」
依然としてまともに喋る事もできず、外壁を背にしたまま動こうともしない。
最悪は担いで行くしかないかと考えたその時、突然ジュリアが大声を上げた。
「ちょ、このままだとマズイよ! 早く治さないと手後れになる!」
「何だと!?」
鑑定スキルをかけたジュリアがアタフタと慌て出す。
現在ラーズグロムの体内をアロマギプスという神経毒が駆け巡っており、放置しとくと二度と自力では動けなくなってしまう事が分かったのだ。
「毒が完全に回るのは丸一日はかかるみたいだから、猶予はあるけど……」
「魔法で治療することはできないのか?」
「それはジュリアにも分かんない。それにアロマギプスなんて毒は聞いたこともないし」
「くっ、厄介な事をしてくれたな……」
表情を歪めたフールが、戦闘中であるフルストを睨み付ける。
依然として激しい戦いが続いており、2対1であるにも拘わらずライザ達が押され気味であった。
「ア、アロマギプスなら――」
思い出したようにメッツが口を開いた。
「知っているのか?」
「うん、ここから東に進んでいくとアロマ山という高い山があるんでしゅが、その山の頂上付近に生えている苔が解毒剤になるんでしゅ」
「ふむ、アロマ山か」
メッツの情報により治療する方法は分かった。
そうなるとフルストに構ってる隙はなく、すぐにでも向かいたいところなのだが、残念ながら見逃してくれそうにもない。
「フール、何とか援護できないの? あのリオンって人が加わっても押されてるじゃない」
「無茶を言うな。そんな事をすれば、あの女に俺の秘密がバレてしまう。ラーズグロムが動けない今、誰が魔物を召喚するというのだ?」
「そ、そこはほら、ラーグが奇跡の力に目覚めてとか――」
「却下だ。これ以上余計な情報を与えるべきではない。何より雑魚が雑ざってはかえって足を引っ張りかねん。いざという時は考えるが、今は様子を見るしかない」
フールが険しい表情で前方を見上げ、ジュリアも釣られて視線を移す。
レシルとメッツも固唾を飲んで見守る先では、建物から建物へと場所を移しながらも激戦が繰り広げられていた。
ドゴォォォン!
「チィ、外したか! 奴はどこに……」
リオンが放った炎の砲弾がフルストが立っていた屋根に直撃し、ガラガラと音を立てて崩れた家屋が無人となっていた中身を晒す。
着弾するすんでのところで逃れたらしく、リオンは舌打ちしつつ周囲を探った。
「落ち着きなさいリオン、奴はあそこです」
隣に立ったライザが煙突の上へと逃れたフルストを指す。
まだ余裕が有りそうに口元を緩めたフルストが、苛立ちを見せる二人を見下ろしていた。
「貴女は動きを封じる事に専念なさい。その間にわたくしが仕留めます」
「新参者が……私に指図するな!」
各々で思うままに戦うという何とも微妙なコンビネーションでフルストへと挑む。
リオンがファイヤーボールを連発すると、フルストからの注意が外れたライザが水魔法の詠唱に入る。
全ての火の球を避けきったフルストが地上に降り、上空で浮遊しているリオンを見上げたのを見たライザは、ここに勝機を見出だした。
(今です!)
「受けよ――ヴァーチカルショット!」
狙いを定めたライザがヴァーチカルショットという直進系の水弾を放つ。
その性質ゆえに速度と威力はかなり高く、受ければフルストも無事にはすまないはず。
加えてライザから注意を逸らしている今、不意を突くことには成功したと言えよう。
「ぐふぅ!?」
ライザを眼中から外したがために水弾の回避が間に合わず、フルストは脇腹に穴を開け、ローブを血で染めていく。
初めてまともに通ったダメージにリオンは鼻を鳴らし、ライザは無表情ながらも口元を緩めた。
「く……高々ダークエルフと獣人の分際で、私に傷を負わせるとはいい度胸じゃない……」
怒気を含んだフルストの台詞は負け惜しみのように二人には聞こえた。
しかし直後、負け惜しみではないという事を目の当たりにすることとなる。
「そ、そんな……傷が塞がっていく?」
「チッ、コイツは化け物か!?」
脇腹がみるみる塞がっていき、更にはローブまで新調したように真っ白になった。
これで振り出しに戻ったかに思えたが、辛うじて見える口元は苦痛に耐えるかのように食い縛っており、ダメージを帳消しには出来ないようだ。
「貴様らーーっ、そこで何をしている!」
「邪魔よ、失せなさい!」
ゴォォォォォォッ!
「「「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」」」
騒ぎに気付いた衛兵が駆けつけるも、苛立ちを募らせたフルストにより燃やされただけに終わる。
すると次は貴様らだと言わんばかりに振り向き、掌を二人に向けた。
「いい加減目障りよ、さっさと消えてちょうだい――マットイグニスノヴァ!」
ライザとリオンを含む広範囲に渡って、真っ赤な魔法陣が地面に浮かび上がる。
無詠唱で唱えられたそれは瞬時に炎へと形を変え、二人を包み込んだ。
「これは!?」
「なに間の抜けた顔をしている、さっさと入れ!」
ゴゴゴゴゴ……ドォォォォォォン!
たじろぐライザをリオンの張る障壁の中へと引き込んだ直後、周囲の建物を巻き込んだ大爆発が起こった。
石造りの建物が粉々に砕けつつ瓦礫として舞い上がり、木造の家屋はパチパチと音を立てて燃え上がる。
さながら一帯は戦争跡地かと思われるほどの惨状と化し、ここウェスタンシティの一部は一夜にして廃墟へと様変わりした。
やがて舞い上がった砂ぼこりやらが収まり徐々に視界が戻ってくると、爆発の中心にいる二人が写し出される。
「助かりましたリオン」
「フン、手間をかけさせるな。――にしてもあの女、なんという魔力を……」
大爆発を受けながらも二人は生きていた。
本来なら障壁を貫通してもおかしくはない威力だったのだが、リオンは保有魔力の大部分を消耗することで凌いだのだ。
もしもライザを障壁で護られなければ、今頃は生きていたかどうかも怪しい。
「……クッ」
「リオン、貴女!」
「問題ない。私はまだやれる」
倒れそうになったリオンを慌ててライザが支える。
魔力残量が少なくなったことで意識が朦朧としてきたのだ。
そんな二人を見たフルストが、感心したように口を開く。
「……へぇ、まだ生きてるなんてね。かなり本気で放ったはずだけれど?」
感心したような口調でありながらも眉を潜めたのは、今ので二人を始末したと思っていたからだ。
「フフ、でもその様子だと、次は耐えられないんじゃない?」
「「…………」」
その通りであった。
あんなものを連発されれば、とてもじゃないが凌げない。
それを理解しているからこそ、二人は何も言わずにただフルストを見ているだけなのだ。
付け加えるとフルストも察しており……
「じゃあ今度こそ終わりね――マットイグニスノヴァ!」
再び無詠唱で同じ魔法を放ってくる。
これをまともに食らえば生きているのは難しい。
無駄な抵抗になるかと諦めつつも、障壁の内側で二人が身構える。
が、いつまで経っても爆発は起こらず二人は首を傾げると、その疑問に答えたのはフルスト本人であった。
「チッ、いつもいつもいいところで邪魔をしてくれるわね――」
苛立ちを募らせた声が、全身を黒い衣装で統一された青年へと向けられる。
「クロカゲ!」
フルストの工作を突発したクロカゲが上空に現れ、発動せんとした魔法を吸収していく。
これにより二人は難を逃れ、フルストから距離を取った。
「残念だけれど今日のところは見逃してあげるわ。精々次に会う時まで生き延びる事ね」
クロカゲ相手では分が悪いと判断し、フルストはそそくさと退散していく。
その後を追うようにクロカゲも暗闇へと消えて行き、一行はようやく緊張を解いた。
「よくやった二人とも。衛兵やカタコンベが来る前に、さっさとこの街を離れるぞ」
「「畏まりました」」
フールが駆け寄り二人を労い、一行は素早く街を脱出した。
しかし安心はできない。
ラーズグロムの身体を神経毒が蝕んでおり、これを解毒するにはアロマ山を登らなければならないのだ。
街を出たところで改めてラーズグロムの容態を見る。
目の焦点が合っていなく口も上手く動かせていない状態で、一刻も早い治療が必要となるだろう。
「メッツよ、アロマ山とやらへのルートは分かるか?」
「うん。この地図があれば大丈夫でしゅ」
フールに言われラーズグロムの腰にぶら下げられた道具袋をまさぐると、カズヨから手渡された地図を取り出した。
これを見ればアロマ山のどの辺りかが分かるようで、上手く目的の物が生息する場所まで移動できるだろう。
「ちょうどこの赤い印がついてるところが目的地になるでしゅよ」
「よし、ならば急ごう。夜通しの移動になるが、あの街で一泊するよりはマシだろうしな」




