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誘われし貴族 僕は再び返り咲く!  作者: 北のシロクマ
第2章:ベストパートナー
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カタコンベ三本柱

 連れ去られた二人――レシルとジュリアを救出するため、ウェスタンシティへと急ぐ一行。

 途中で追いつくのが理想だったが、フールの感知範囲に二人の反応はなく、日が落ちたところでやむ無く野宿をすることにした。


「もっと急げば追いつけないかな? カタコンベの連中も野宿をしてる可能性はあるし、上手くいけば夜襲をかけられるかも……」

「落ち着けラーズグロム、お前らしくもない」


 気が先走っているラーズグロムをフールが宥める。

 移動中もこのような感じであり、フールがとめなければ多少の危険を省みずに突っ走る可能性すら感じられた。


「早く助けたいのは分かるが、焦ってはダメだ。恐らくカタコンベは我々の移動手段を把握してるはず。それを踏まえれば、足の届く範囲で野宿を行うという愚は犯さないだろう」


 なにより自分達が離れてる僅かな隙を狙ってきたのだ、簡単に取り戻させるような真似はしまい。

 恐らくはスキルやアイテムで転移したのだと判断し、程よい岩陰にテントを張ると、街についてからの手順に思考を移す。


「まずは二人が捕らわれている場所を特定するのが先。そして逃走ルートの確保と、潜入ルートの選択――ってところかな?」

「うむ。だいぶ冷静になったようでなによりだ」


 まず二人の場所を特定するためにはある程度の距離を近付く必要がある。

 フールの感知範囲は今のところ1キロから2キロ未満であり、街中を移動してればすぐに特定できそうだ。

 ちなみにラーズグロムとフールが出会った当初だと10メートル程度だったらしく、その時と比較すると目覚ましいほど広くなっているのが分かる。


「なら逃走ルートはどうしよう――と言っても、現地に行かないと分からないか」

「いや、そんな事はないぞ?」


 逃走ルートに関しては、何やらフールに名案があるらしい。


「覚えているか? 以前お前が【貴人の密会】に連行された時の仕掛けを」

「え~と、アレは確か……」


 腕を組んで首を捻ってると、うっすらと記憶に甦ってくる。

 毒に犯されたレシルを救うため、ラーズグロムが身柄を差し出した時のことだ。


「ああっ、思い出した思い出した! 僕に危害が及ぶと自動的に転送される仕組みになっていたアレのことだね?」

「その通り。あの仕掛けを応用し、二人と合流後すぐに街の外へと脱出するように施せばいい」


 詳しくはフールにしか分からないが、彼が可能だと言ってるのであれば可能なのだろう。


「侵入ルートに関しても、魔物を大量に放てば問題あるまい」

「ハハッ、確かに」


 無関係な庶民にとっては堪ったものではないだろうが、人命救助のため我慢してもらうしかない。


「さ、今日のところは早く寝ろ。早朝には出発するぞ」


 フールに言われて横になった二人は、間もなく寝息を立てはじめる。

 その間フールは油断なく反応を探るが、カタコンベからの夜襲はなく、深夜の荒野に沈黙が続く。

 そしてとうとう地中を潜っていた太陽が東の地平線から覗き込み、微かな光を放ち出したその時だ!


「……来たか!」

 

 索敵範囲外から6つの反応が現れたのを感知した。

 生命体の中身は獣人。

 ホビットの住居を襲撃し、レシルとジュリアを拐った連中と関わってる可能性は高い。


 ゲシッ!


「痛っ!?」

「さっさと起きろ、敵襲だ!」


 ライザには念話で――ラーズグロムは蹴りで叩き起こすと、敵を迎え撃つべくウルフ達を大量に召喚する。


「フール様、捕らえますか?」

「いや、無理に捕らえる必要はない。ウェスタンシティに誘導するくらいだ、そこに二人がいるのは確実だろう。」


 不要ならば手加減はいらないと考えたライザは、爪を拭いて待ち構える事に。

 続いて眠気眼を擦ったラーズグロムの懐に

フールが飛び込む。

 するとやや間を置いて、様々な武器で武装した獣人5人が現れた。


「チッ、もう起きてやがったか。まぁいい、情報通りラーズグロムはテイマーのようだ。各自油断するなよ!」


 一人の獣人が呼び掛けると他の4人が無言で頷き、一斉に距離を詰めてくる。

 夜明けの奇襲に失敗したカタコンベだが、それだけでは退かないようだ。


「グレーウルフの群に怯まないとはね。なら遠慮なく刈り取らせてもらうよ」


 ラーズグロムが襲撃者に切っ先を向けるのと同時に、グレーウルフも飛びかかる。

 さすがにEランクのグレーウルフ程度では荷が重いらしく、襲撃者は油断なく捌いていく。

 だが迎え撃つのはグレーウルフだけにあらず……


「ハァァッ!」

「クッ……」


 キィン! ガキンガキン! バキッ!


「しまっ――グァッ!」

「まずは一人」


 襲撃者の一人と打ち合っていたライザが相手のダガーをへし折ると、透かさず心臓を爪で貫く。

 向こうも手慣れではあったが、Bランクのプラチナウルフであるライザには歯が立たかった形だ。


「クソッ、一人殺られた!」


 早くも一人が血溜まりに沈み、襲撃者の注意がライザへと向く。

 だがグレーウルフを無視してはそれもままならず、次々と負傷していくと瞬く間に数を減らしていく。


「クッ……せめて貴様だけでも――」


 ついに一人を残すのみとなり、捨て身で襲い掛かってくる。


「こんなところで死ぬつもりはない!」


 フラつきながらも投擲されたダガーを避けると、一気に懐まで接近し、喉仏を薙ぎ払った。

 

 ザシュ!


「ゴッ……」


 最後の一人であった襲撃者の首が宙を舞い、地面にポトリと落ちるのと同時に、3メートル近くはある熊獣人が岩陰から姿を現す。


「お前は……」

「ガッハッハッハッ! 手慣れの5人がこうも容易く仕留められるとはなぁ。噂のテイマーラーズグロムは実力者だったってか?」


 仲間が死んだというのに、動揺するどころか不適に笑い飛ばしている。

 その言動にラーズグロムは僅かに眉を潜め、注意深く様子を(うかが)う。

 こういう類いは戦闘狂である事が多く、血が見たいだとか相手を痛めつけたいだとかが多くいるためだ。


「まぁここまでは前座ってやつだ。久々に全力を出せる相手に出会えたんだ、簡単にはくたばるんじゃねぇぞ?」


 御託を並べ終わり、大きく息を吸い込む熊獣人。

 何をする気かと注視してると、天に向かって顔を上げ、力の限り雄叫びをあげた。


「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」


 そして間もなく、雄叫びの効果が発揮されようとしていた。


「!? グ、グレーウルフが!?」


 なんと、半数のグレーウルフがラーズグロムに敵意を向けたのだ!


「驚いたか? これがカタコンベ三本柱の1柱――バニッシュ様の特殊スキルさ!」


 先程の雄叫びには獣類の動物や魔物を洗脳する音波が含まれており、それに影響されたグレーウルフがフールの支配下から解き放たれてしまったのである。


「思った以上に厄介ですね、早く仕留めないと危険です!」


 シュシュシュシュ!


 バニッシュを放置するのは危険と判断し、爪を飛ばして応戦する。

 しかし、奴の雄叫びはライザにも多少の影響を残しており……


「ハッ! ぬるいぬるい!」


 キキキキィィィン!


 動きの鈍った状態では通じるはずもなく、戦斧を回転して弾かれてしまった。


「クッ、ならば!」


 ガキン!


「おっと、俺に太刀打ちできるたぁやるじゃねぇか。思った以上に上出来――だぜ!」


 ドスッ!


「チィッ!」


 直接バニッシュに爪を振るうも全力は出せずに斧で防がれ、お返しとばかりに蹴りで飛ばされる。

 周囲ではグレーウルフ対グレーウルフによる骨肉の争いが起こっており、ラーズグロムは制御下から外れたウルフを1体ずつ仕留めていく。

 それでも30以上は残っており、全てを始末するまでは時間が必要だ。


 チラリと状況を確認したライザは、即座にバニッシュへと飛びかかる。


「一気にケリを着けます――ハァァッ!」

「ムゥッ!」


 ガキッ! ガキン! ガキガキン! ギギギギギ……


「ハハッ、素晴らしいぞその力。俺様とここまでやり合える奴は初めてだ!」


 数度打ち合った後に爪と戦斧による鍔迫(つばぜ)()いで、バニッシュの口から本音が漏れる。

 雄叫びにより能力値が落ちているとはいえ、プラチナウルフのライザはBランクの魔物。

 本来ならばベテランの冒険者達が徒党を組んで挑むべき存在だ。

 もっともバニッシュにしてみれば、ライザは腕の立つ獣人にしか見えないが。

 

「フン、貴方に言われても嬉しくはありませんね」

「そうかい? だったらカタコンベに来るか? お前さんなら大幹部として歓迎してやるがな」

「ご冗談を。わたくしが忠誠を誓う存在は一人だけ。戯言は土の中でほざきなさい」


 忠誠を誓う存在と聞いて、バニッシュは一瞬ラーズグロムへと視線を移す。

 ライザの意中とは異なるが、わざわざ教えてやる義理はないので訂正はしない。


「そろそろトドメです――」

「ぬぉっ!? まだスピードが上昇するだとぉ!?」


 少しずつ爪の繰り出されるスピードが上がっていき、バニッシュは目を見開く。

 しかしこれはライザが全力を出したからではなく、抑制された状態に慣れてきたためだ。


 ザシュ!


「グゥッ! コイツぁ想像以上だ、この俺様がここまで抑え込まれるとはなぁ……」


 腕に負った三本線より血を滴らせつつ、油断なくライザを睨み付けるバニッシュ。

 洗脳したグレーウルフも殲滅され、残るはバニッシュ一人のみ。


「今日のところは退いてやる。だがいずれお前さんとは再戦してもらうぜ?」

「逃がしません――」

「フッ――あ~ばよ!」


 懐で何かを砕いたバニッシュが、一行の前から消え去った。

 恐らく転移石を使用したのだろう。

 直後にライザの飛ばした爪が地面に突き刺さる。


「申し訳ありませんフール様、後少しだったのですが……」

「構わん。今は二人の救出を優先できればそれでいい」


 改めてウェスタンシティに向かうため、既に朝日により明るくなった荒野をトルネードホースで駆けて行った。


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