蒼天の悪魔
いよいよ第1章のラスボス戦です。
「思った以上に険しい。トルネードホースで進むのは無理そうだ」
「やむを得んな。トルネードホースは一旦送還するとしよう」
樹海に入って間もなく。
ラーズグロム一行は見通しの悪い樹海に手を焼き、自力で歩くことを強いられた。
樹木が乱立してる上に夜ともなれば、トルネードホースで突っ切るのは危険過ぎる。
「ちょっとラーグ、後ろからついて来ないで前を歩きなさいよ、怖がりな奴ね……」
いつの間にか後ろにいたラーズグロムを、前へと押しやろうとするジュリア。
彼の名誉のために言うと、決して怖がりなわけではない。
「あのね……後ろから傭兵団が来てるんだから、僕かライザが後ろにつく必要があるんだよ。別に怖がってるわけじゃ――」
「ホントにぃ? テキトーなこと言って、実は怖いんじゃないのぉ? この静けさが不気味に感じてたりして……」
「…………」
ジュリアに言われて、走りながらも神経を研ぎ澄ましてみる。
するとどうだろう。彼女の言った通り、動物はおろか魔物一匹現れる気配はない。
「言われてみればおかしい。生き物の気配がまるで感じられない……」
「ちょ、ちょっと、静けさが不気味ってところは真に受けないでよ。テキトーに言っただけなんだからさ」
ラーズグロムの険しい表情を見て、ジュリアも顔を強張らせる。
レシルに背中を擦られて何とか落ち着いてたが、それに追い打ちをかけるようにフールもまた同様の発言をした。
「これは奇っ怪な。動物どころか虫一匹感じとれんとは……」
「……マジで?」
嘘から出た真――と言えばいいのか、フールにも生命体の反応が感じられないようだ。
「まさか元から生き物がいなかったとは考えられん。やはり何かがあると考えるのが――む? 複数の生命体を感じる」
頻りに周囲を探ってたフールが生命体を感知する。
それは人間と獣人の合わせて6つの反応であり、互いに一定の距離を保ったままこちらに接近しつつあった。
「あ、前にも嗅いだことがある嫌な匂い……」
レシルの台詞で敵であることが判明し、その場に立ち止まるとライザとラーズグロムが戦闘体勢に入る。
すると間もなく、再会したくはなかった相手が木陰から現れた。
「やぁーーーっと見つけましたぜ、ラーズグロムさんよぅ!」
「お前達は!」
聞き覚えのある声がしたため、ランプで前方を照らしてみる。
そこにいたのは闇ギルド【貴人の密会】のザルムスで、彼の周囲にも構成員の姿が確認できた。
「今更自己紹介は無しにしましょうや。いい加減ケリをつけたいんでねぇ……」
「くっ……」
彼らの実力はよく知っている。
少なくとも素通りできる相手ではないことを……。
「今度こそお命頂戴致しますぜ!」
ザルムスが得物を抜くと他の構成員も同様に続き、いざ襲いかからんとしたその時!
「そいつぁ困るんだよなぁ!」
ラーズグロム達の後ろから、ハルバードを担いだ獣人が現れる。
後ろに続く男達もラーズグロムと同じレザーアーマーを身に付けており、以前蹴散らしたヴァリトラ傭兵団であるのは明らかだ。
「ほほぅ? ……誰ですかねぇ、他人の獲物を横取りしようとする愚か者は」
「愚か者だと? ハン、んなこたぁ鏡見て言いな! 俺達ぁ天下無敵のヴァリトラ傭兵団。そして俺こそ目的のためなら手段を選ばねぇガルミオ様よぉ。邪魔するってんなら消えてもらうぜ?」
「なるほど……よう御座んすよ? 夜のオジサン達に戦いを挑む愚を、特別に教えてあげましょうかねぇ!」
二つの組織に挟まれた一行は、ライザが貴人の密会に向けて構えると、ラーズグロムがヴァリトラ傭兵団に向き直る。
そしてガルミオとザルムスも睨み合い、フールが魔物を召喚しようとしたころ、予想だにしない事が起こった!
ドシュッ!
「ゲボォ!?」
「「「!?」」」
樹海に響く男の声。
声の主に視線を移せば、胸から手を生やした闇ギルド構成員が、前のめりに倒れるところであった。
「な、なんだコイツ! どっから現れやがった!?」
別の構成員が即座に距離をとると、蠢く何かがニヤリと笑った気がした。
ザルムス達も距離をとると、人形で蠢くソレは手から滴らせた血を舐めとりつつ気味の悪い声で笑い出す。
「ケケケケケッ♪」
場違いに笑い出したソレに思わずゾクリと背筋を凍らせる一同。
しかし、それよりも脅威的な特徴が判明する。
「やべぇぜザルムス! コイツ――気配が一切感じねぇ!」
まったく気配が感じなかった暗闇からの奇襲により貴人の密会は動揺を隠せない。
「ケケケケッ――ケーーーッ♪」
ズバッ!
「――っと危ねぇ。粗相はいけませんぜぇ? こちとら仕事中――何!?」
ザルムスに伸ばされた腕を斬り飛ばしたまではよかったが、驚いたことに即腕が再生されていくではないか!
これにはザルムスだけではなく、その場の全員が驚愕した。
「ちょ、コイツやばいよ! マジで半端ない奴じゃない!」
後退りつつジュリアが叫ぶ。
彼女の鑑定結果により、驚くべき魔物の正体が明らかになる!
名前:真壁佐緒里
性別:女
種族:ロードアンデッド
職種:プラーガ帝国の元勇者
レベル:116
【スキル】 体術Lv5 短剣Lv2 剣Lv5
【魔法】 光魔法Lv5
【ギフト】 殺生無効
「コイツ、戦没者の勇者よ!」
「何だって!?」
ジュリアの鑑定結果にラーズグロムは冷や汗を流す。
レベルが100を越えてる時点で既に人間離れしてる上、更に魔法とギフトまで所持してるというのだ。
ちなみにこの殺生無効というギフトは勇者として召喚された時から与えられたもので、自身に対して殺意が有って尚且つ致命傷になり得る現象を無効にするという恐るべきギフトである。
つまり、このギフトが有る限り無敵とも言える相手であり……
「こ、こんな奴……相手にしてられん!」
「おい!」
構成員の一人がザルムスの制止を振り切り、戦線離脱を図ろうとする。
が、元勇者は獲物を逃す気はないらしく、素早く背後に迫ると……
ドジュッ!
「ゴブァァァ!」
また一人、構成員の体に腕が貫通し元勇者の餌食となった。
仲間の亡骸に内心で舌打ちしたザルムスが、懐から何かを取り出す。
「今日はお日柄が悪いってやつだ、ここは出直すとしやしょうか。命拾いしやしたねぇ、ラーズグロム様よぉ!」
最初にザルムスが消え去り、残りの構成員も同じくその場から消え去る。
そうなると、残されたラーズグロム達と傭兵団が次のターゲットになるわけで、元勇者はす早くラーズグロムへと迫った!
ガシッ!
「させません!」
元勇者が伸ばした腕を、ライザはしっかりと掴んでいた。
「ライザ!」
バキィン!
「なっ!? 見えない壁に阻まれた?」
ライザが掴んだ元勇者に斬りかかったが、その斬撃はあっさりと弾かれる。
やはりアンデッドになってもギフトは発動してるらしい。
「多分ギフトのせいよ! 名前から察すると、致命傷は無効になるとかだと思う!」
「くそっ!」
的を得ていたジュリアの発言に、ラーズグロムが唇を噛む。
その隙に元勇者は全身を捩りだした。
「ケケッ♪」
バシッ!
先ほどの攻撃をバカにするかのように笑い飛ばした元勇者は、ライザの腕から脱け出すなりラーズグロム達を飛び越え、逃げ腰になっていた傭兵団へと迫った。
「今のうちに逃げよう!」
ラーズグロムの呼び掛けで仲間が一斉に走り出す。
遠ざかる一行の背中を見たガルミオが軽く舌打ちすると、逃がした怒りを乱入者にぶつけるよう睨み付けた。
「チッ……まぁいい、コイツを畳んで追えばいいだけだ。相手は一人、囲んで切り刻んじまえ!」
「「「おぅ!」」」
ガルミオの呼び掛けに士気が上がったようで、数で押し込もうと元勇者を取り囲む。
「ケーーッ♪」
しかしそれを見越してか、元勇者は周囲に魔法陣を展開させると、直後地面から光の柱が立ち上がった!
シュィィィィィィン!
「こ、この魔法は!?」
「気を付けろ! コイツが発動させた魔法だ! むやみに触れ――『ジュッ!』――ギャァァァァァァ!」
光に当てられた一人が右半身を失った。
そう、光包まれた部分がそっくり消滅してしまったのだ。
「ひぃぃぃギャァァァァァァ!」
「くく、くるなぁぁぁギュゴォ……」
光の柱は円を描くように広がり、樹木もろとも傭兵達を消し去っていく。
気付けば手足だけ残された者も居り、今のだけでも30人近くの犠牲者が出た。
「う、嘘だろおい!」
「コココ、コイツ、とんでもねぇ魔法を!」
今まさに斬りかかろうとしたところで、傭兵達は及び腰になる。
だが彼らは腐っても傭兵団であり、このような事態への対処法は心得ていた。
「落ち着け野郎共! 魔法士殺しのアレをお見舞いしてやれ!」
「「「おぅ!」」」
ガルミオの指示により、腰にぶら下げた道具袋から魔封筒というアイテムを取り出すと、それらを周囲にばらまいていく。
魔封筒……それは、魔法の力を弱めることのできるアイテムであり、竹筒のように見えるそれを投げ込むことで、周辺で発動した魔法を抑え込む効果を得られる。
「おっしゃ、これならいけるぜ!」
「おぅよ、銭亀傭兵団が解散しちまって困ってたんだ。さっさと片付けて賞金首を追うぜぇ!」
「俺もだ。獄炎傭兵団がなくなってからロクなことがねぇ。ここらでドカンと稼がねぇとなぁ!」
彼らの脳裏が金一色に染まり、既に倒した後の事を考え始めていた。
こうなると、我先にと獲物目掛けて殺到するのは当然の流れと言えるだろう。
「くたばれぇぇぇ――オグッ!?」
「これでぇ――ガハッ!」
「死ねやぁぁぁ――ア"ァァァァァァ!」
しかし、魔法を封じられたとはいえ相手は勇者。
圧倒的な力の差により首を跳ねられ、心臓を突かれ、全身を左右に分断されたりと、徐々に傭兵達の死体が積み上がっていく。
「チッ、使えねぇ連中め……。そこをどけ! 俺が相手してやる!」
中々仕留められないことに業を煮やしたガルミオが、元勇者の前に躍り出る。
「こう見えてもプラーガ帝国の元騎士団長だ。その俺様が直々に相手してやるんだ、光栄に思いながら成仏しな!」
「ケケケケケッ♪」
自身の倍はある長さのハルバードを背負ったガルミオが、元勇者に突っ込んでいく。
対する元勇者も素早く駆け出すと、振り下ろされたハルバードを横に避け、ガラ空き同然の左側面から腕を突き出す。
「ケケーーーッ♪」
今の体勢ではハルバードによるガードは間に合わない!
早くもガルミオはここまでか――
「フッ――甘ぇんだよ!」
――と思われたが、地面に刺さった矛先を軸にグンッと体を持ち上げると、伸ばされた腕を回避して宙を舞った。
「俺を他の雑魚と一緒にすんなよ? 元騎士団長の肩書きは伊達じゃねぇぜ!」
空中で器用にハルバードを引き抜くと、元勇者目掛けて横に振り抜く!
ブゥン!
が、今度は元勇者が宙を舞って回避すると、そのままガルミオ目掛けて急降下する。
「ケケケケケッ♪」
ドズゥン!
「っと! ――生憎だがテメェの匂いは覚えたからよ、もう不意打ちは通用しねぇぜ?」
だがガルミオも負けてはいない。
他の傭兵であれば今ので間違いなく死んでいるところを、匂いにより感知して回避行動に出たのだ。
これは狼獣人であるガルミオが、生まれつき嗅覚が優れていたのもある。
「ケケケ♪」
そんなガルミオの台詞に興味はないのか、元勇者は背中を向けて地面から腕を引き戻してるところであった。
「チッ、いい加減耳障りだ。二度とその小馬鹿にした笑い声が出せないようにしてやらぁ!」
元勇者がちょうど背を向けていたのをチャンスと捉え、ハルバードを振り回した突撃を開始。
しかしアンデッド故に元勇者は視力に頼ってはおらず、生命反応を背後に感知してグルリと首を180度回転させると、ニヤリと不適に笑ってみせた。
「くそぅ……」
隙がないと判断したガルミオは、突撃を一時中断し、元勇者の注意を逸らす方法を模索する。
「ケッケケーーッ♪」
ガチン!
(チッ、化け物め。何か良い手は――)
ガルミオの思考中にも、元勇者は容赦なく襲ってくる。
何とかいなし続けてはいるが、いつまで持つかは分からない。
(そうだ! これなら――)
何やら思いついたようで、腰に掛けてある短剣を抜き取り、元勇者――とは全然違うところへと投げ放つ。
それは見事に木の枝を切断し、枝のみが地面へと落下した。
カサッ!
音に気付いた元勇者は、音源に吊られて枝の落ちた地面に顔を向ける。
一方のガルミオは既に動き出しており、多段突きを繰り出しながら突っ込んでいた。
「ヘッ! くたばんなぁぁぁ!」
シュタ!
「ケーーッケケケケッ♪」
「んな!?」
完全に不意を突いたはずであったが、やはり生命反応を感知して空高く舞い上がる。
不意打ちが不発に終わり目を見開くガルミオであったが、逆にこれを好機と見なし、口の端を吊り上げてハルバードを構え直した。
「バカめ、空中なら避けれまい――旋風車輪撃!」
片足を軸に大きくハルバードを回転させ、文字通り旋風を巻き起こしたガルミオが、それを身に纏い元勇者へと迫る!
今相手は上昇から下降に移ったところで、浮遊できる魔物でない限り回避するのは不可能な状態だ。
「ハン、そのまま木っ端微塵でおさらばよ!」
勝利を確信したガルミオが、討ち取る瞬間を目に焼き付けようと凝視する。
彼の脳裏に浮かんでるのは、ハルバードにより華々しく四散する真っ黒なシルエット。
所詮勇者と言えど戦没者。
そんな輩に殺られるはずはない!
「死ねぇぇぇぇぇぇ!」
バキィィィィィィン!
「な――グボガァァァァァァ!?」
ほんの一瞬であった。
華々しく四散したのは元勇者に触れたハルバードであり、直後――恐怖に染まったガルミオが、心臓を突かれて落下する。
ドサッ!
誰しもが言葉を失い、ただ黙ってガルミオの亡骸を眺めている。
信じられない光景を目の当たりにしたであろう傭兵達は、時が止まったかのように動かない。
「ケケケケケッ♪」
「「「ヒィッ!?」」」
皮肉にも、不気味なあの笑い声が傭兵達を正気に戻した。
「ガ、ガルミオが殺られたぞ!?」
「こんなの勝てるわけねぇ!」
「にげろぉぉぉぉぉぉ!」
「ケケケケケッ♪」
忽ち傭兵団は大パニックを起こし、右往左往と逃げ惑う。
腰を抜かしてる者や木に激突して悶絶してる者が次々と餌食になり、樹海から脱出できたのは誰もいなかった。
「ケケケケケッ♪」
傭兵団を平らげた元勇者は、残る獲物を求めて樹海の奥へと消えていく……。




