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誘われし貴族 僕は再び返り咲く!  作者: 北のシロクマ
第1章:偽装冒険者
23/105

ラーズグロムVS元勇者

 ザッザッザッザッ!


 シーンと静まり返った樹海に4人の足音だけが響く。

 ライザが先頭に立ってレシルの手を引き、レシルはジュリアの手をしっかりと握りしめており、その後をラーズグロムが後ろを気にしながら走っていた。


「ね、ねぇ、あの元勇者……傭兵団が倒してる――なんて事はないかな?」

「それは有り得ません。実際に対峙して分かりましたが、あの輩を倒すのはほぼ不可能でしょう。可能だとするならば、高レベルのターンアンデッドで消滅させるくらいかと」


 ジュリアの希望的憶測をライザがバッサリと切り捨てる。

 腐っても勇者なだけあって寄せ集めの傭兵団が敵う相手ではなく、責めて優秀な魔法士が束になって光魔法――ターンアンデッドを当てなければ倒せないだろう。

 しかもその胆となる光魔法を元勇者が持ってるというのは何とも皮肉な話だが。

 

「ででで、でもさでもさ、100人以上の傭兵を相手にしたら、さすがにちょっとは消耗するよね? ね!?」

「残念ですが、アンデッドである以上疲労は感じませんし痛みも感じません。そもそも()()と戦おうこと自体推奨しませんので、今は無駄口を叩かずに逃げることに専念してください」


 2度目の憶測をもライザは否定する。

 倒す手段がない以上、今の一行がとれる最善の行動は、元勇者から逃げる事――ただそれだけだ。


「正直()()から逃げ切れる気がしないんだけど……」

「でもジュリアちゃん、近くに魔物はいないみたいだし、頑張って走ろう?」

「そういやそうね。なんで魔物がいないんだろ? うちらにとっては有り難いけれども」


 そういえばとジュリアが疑問を口にする。

 元勇者に遭遇する前フールが述べた、()()()()()()()()()()()()()と言ってたのを思い出したのだ。

 そしてこの疑問に答えたのは、やはりフールであった。


「それなんだがな、恐らくはあの元勇者が食らったのではないかと思うのだ」

「くらった……って、食べたって事!?」

「そうだ。もしも魔物が一斉に逃げ出したのなら、スタンピードが起こったと近隣で騒ぎになるはずだ。それがどうだ? あの村に寄った時にはスタンピードのスの字も出なかったではないか。ならば考えられるのはただ一つ!」

「元勇者が全て食い尽くした……か」


 話の最後をラーズグロムが締める。

 食わずに殺しただけの可能性もあるが、いずれにしろ結末は変わらない。

 もしそれが事実だったとしても現状打破に繋がらないのでは考えるだけ無駄であり、一行は再び口を閉ざして走り続けた。


「気を付けろ、あのガルミオという獣人の反応が消えてから、次々と傭兵達も後を追っている」

「ちょ、それって――」


 不意にフールが(つぶや)き、ジュリアが顔を強張らせた。

 ガルミオとは傭兵団の団長であり、そのガルミオが死んだことで統率を失い、残党狩りが行われてる最中なのだと推測できる。

 では残党がいなくなった場合、元勇者はどのような行動に出るのか……つまり!


「もうすぐ()が来る!」


 ゴクッ……


 皆が息を飲む。

 できることなら来ないでほしいと。

 しかし樹海の実体を考えれば、生き物は例外なく捕食されてると考えるのが妥当――ならば、いずれは来るに違いない。

 

「ん? あの光りは……」


 ラーズグロムが振り返ったタイミングで、後方に光の塊が見えた。

 だがここに来るまで光源となるものが周囲には無かったはず……。

 と、ここで彼は直感する!


「光魔法だ! 横に避けろ!」

「くっ!」

「えっ!?」

「うわっぷ!」


 ラーズグロムが右に転がると、ライザが左へとステップした。

 手を引かれたレシルとジュリアは、つんのめるように左の茂みへと引き寄せられる。


 ジューーーーーーゥゥゥ……


 皆が横へと逸れた後、一行が走っていたところをオーガに匹敵するほど大きい光の玉が、物騒な音を立てて通過する。

 地面を(えぐ)るように通過したソレは草木を根こそぎ消し去っていき、一行の目の前には綺麗な一本道が出来上がっていた。


「……ふぅ、危ないところだった」


 僅ながらも自身に運があったのだと、ラーズグロムは立ち上がる。

 偶然ではあるが、後ろを振り向かなければ気付かずに消されていただろう。


「ちょちょ、こんなのくらったらマジでしゃれにならないじゃん! ――ほら、レシルも早く立って!」

「う、うん……」


 倒れてたレシルを無理矢理起こし、ジュリアは先を急ごうとする。

 が、出来上がった一本道の先から()()()が聴こえてきたため、二人は恐怖で竦み上がってしまった。


「ケケケケケ♪」

「「ひぃっ!?」」


 猛スピードで迫ってきた真っ黒なシルエットが二人の頭上に飛び上がり、そのまま両腕を伸ばして二人を貫こうとする。

 竦んだ二人は避けることも出来ず、ただ迫ってくる腕を見てるだけだ。


 ガシィィィ!


「殺らせません!」


 間一髪ライザが腕を掴む。

 その隙にラーズグロムが二人の手を引き元勇者から距離をとった。

 レシルとジュリアが逃れたのを見て、ライザが手に力を込めていく。


 ギチギチギチ……


「これで……どうです!」


 ブチブチッ!


 ついに左右の手首を握り潰し、先端がボトボトと地面に落ちる。

 ライザはBランクのプラチナウルフであるが故に筋力が以前よりも増しており、力だけなら勇者にも匹敵するのだ。


「ケ~ケケ♪」


 しかし、それを嘲笑うかのように、再び手が生えてきた。

 これも光魔法の一種――ルーンリメイクという名の魔法によるもので、欠損した部位を再生することができる優れものだ。


「くっ、やはりダメですか……」

「下がれライザ!」


 唇を噛むライザがフールの命により勇者から距離をとる。


「「「グルルルル!」」」


 それと入れ代わりにグリーンウルフとグレーウルフの群が前へと躍り出た。


「殺れ――ウルフ達よ!」

「「「ウォン!」」」


 フールの命令で一斉に襲いかかるウルフ達。

 ライザが時間を稼いでる間、フールは夜目が効くウルフの大群を召喚し終えてたのだ。


「ケケケ♪」

「ギャイン!?」

「ケケケケ♪」

「ギャン!」


 しかし、束になってもFランクとEランクが合わさっただけでは時間稼ぎにしかならず、次々と仕留められていく。


「今はこれしか方法がない。走るぞ!」


 フールが叫び、再び一行は走り出す。

 彼らの後ろではウルフ達の悲鳴と不気味な声が雑ざりあっており、直視したくない光景が広がってるのだと予想がつく。


「このままじゃ(らち)があかないよ、何とかならないの!?」

「光魔法の使える魔物を召喚できれば可能だが、生憎と召喚リストにはない……」


 法則は不明だが、全ての魔物を召喚できるわけではないらしい。


「じゃあもっと高ランクの魔物を召喚するとかは!?」

「出来なくはないが、闇雲に召喚すればすぐに魔力が尽きてしまう。計画性皆無な現状だ、何かしらの作戦を立てられればいいのだが……」


 フールの返答によりジュリアが頭をフル回転させる。

 しかしアンデッドに有効な光魔法が使えないのでは、どうあっても無理なのを前提にした作戦した立てられないのが現状だ。

 これはラーズグロムやライザも同様であり、勇者を倒すのが並大抵のことではないのだと再認識する。


「ケケケケケ♪」

「ま、また来たぁ!」


 恐怖をそそるあの声が背後から迫る。

 100体以上のウルフを召喚したが、早くも全滅させられたようだ。


「ケケーーッ♪」


 元勇者の手から光の玉が出現し、瞬く間に大きくなっていく。


「ま、まずい! またあの魔法だ!」


 ラーズグロムの予想通り、それは先ほど一本道を作った光の玉と同等のサイズまで巨大化し、元勇者の手から放たれる!


「こっち!」

「「ひぃっ!」」


 標的にされたのはレシルとジュリアで、ライザが二人を引っ張ることで何とか避けることが出来た。

 だが危機が去ったわけではない。

 光魔法を回避したタイミングで、元勇者がライザ達に向かってきたのだ。


「ケケ♪」

「私が相手です!」

「「「ウォン!」」」


 飛び掛かってきた元勇者をライザが迎え撃つ。

 同時に新手として召喚されたグレーウルフも加勢し、ライザの動きに余裕が出てきた。


「ケケケケ♪」


 ザスッ! ドシュ! ズシャ!


 それでも相手は元勇者。

 ライザを片手間で相手にしつつ、まるで集るハエを叩き落とすかのようにグレーウルフは仕留められていく。


「ならばこれでどうだ!」


 ここで勝負をかけるつもりで、再びフールが召喚を行う。

 魔法陣から現れたのはBランクのブラッティクーガーで、ライザの足を引っ張る事はないだろう。


「グガァァァ!」

「ケケケケ♪」


 それから一進一退の攻防を繰り広げ、何とか元勇者に食らいついていく。

 固唾を飲んで見守るレシルとジュリア。

 ラーズグロムも加勢に加わりいよいよ勝機が見えてくるかと思われたが、ここでライザに疲労の色が見え始める。


「ハァ……ハァ……」


 明らかに肩で息をするようになり、動きが鈍くなってきたのだ。


「大丈夫かライザ?」

「……大丈夫です。……私よりも……ご自分の身を案じてください」


 ラーズグロムが呼び掛けるも、やはりライザは辛そうに見える。


「ケケケケケ♪」


 ザシュ!


 自身に迫った腕を反射的に切り落とすライザ……しかし!


「くっ!?」


 ここで彼女に不運が襲う。

 足元に岩が飛び出ており、それに足を取られたのだ。

 体勢を立て直す前にもう片方の腕がライザへと伸ばされ……



 ドジュッ!


「ゴフッ!?」

「ケーーケケケ♪」


 ライザの腹部を元勇者の腕が貫く。

 辛うじて急所からは外れてるもののとても戦える状態ではない。

 それを見てか元勇者は、ついに仕留めたと言わんばかりに声を張り上げる。


「ライザぁ!」

「グルルル……」


 倒れそうになったライザをラーズグロムが支えると、ブラッティクーガーが透かさず牽制に入った。


「待ってろ! 今ポーションを振りかける!」


 ラーズグロムが取り出したハイポーションによりライザの傷は直ぐに塞がっていく。

 しかし連携が崩れた今、ブラッティクーガー1体では荷が重く、徐々にダメージを蓄積していき、ついに元勇者の腕で薙ぎ払われてしまうのであった。


「グルゥゥゥ……」

「くそ、ブラッティクーガーまでもが!」


 フールが慌てて召喚に入るも、今からでは間に合わない。

 ライザはとても戦える状態にあらず、けしかけたグレーウルフも全滅し、もはや戦えるのはラーズグロムただ一人!


「ケケケケ♪」

「くそっ、こんなところでぇ!」


 ガチン! ガチガチン!


 1対1なら善戦できるとはいえ、相手のレベルはラーズグロムよりも遥かに上。

 ロングソードによる斬撃を腕で簡単に防がれてしまう。


「ケケケケ♪」

「うわっ!」


 ドスッ! 


 ついに剣を弾かれ手離すと同時にラーズグロムが尻餅をつくと、腰に下げていたランプが弾みで転がり足元で横倒しになる。


「ケケケケケ♪」

「「ラーグ(兄ちゃん)!」」


 レシルとジュリアが叫ぶ中、元勇者の腕がラーズグロムの心臓目掛けて迫りくる!


「ここまでか……だが!」


 もはや勝機はない。

 ならば責めて一太刀でも足掻こうと、拳を握りしめ元勇者の腕に殴りかかる!




「ケ! ケケ! ケケケ!?」


 ――が、不思議な事が起こる。

 元勇者が何かに怯え、急に腕を引っ込めたのだ。

 その隙に召喚されたグレーウルフが、ラーズグロムの前に壁のように並ぶ。


「い、いったい何が……ん?」


 そしてラーズグロムは気付く。

 足元で転がっていたランプから草に燃え移った炎に。


(まさか……)


 ラーズグロムは思い出す。

 かつて剣術を習ったベテラン冒険者に教わった事を。




『イタッ! ――酷いじゃないですか師匠。(すね)に受けた打撲、まだ治ってないんですよ?』

『バカが。だから狙ったんだよ』


 脛を擦りつつラーズグロムが立ち上がる。

 今目の前にいるのは、彼に剣術を教えるために雇われたタケゾウという名の中年男。

 彼こそラーズグロムが師と仰ぐAランクの冒険者であった。


『いいかラーズグロム? 敵を倒すなら、弱点を突くのは当然の戦法だ。卑怯だの何だのという言い訳は戦場では通用せんぞ?』

『そ、それはそうかもしれませんが、ここは戦場ではありませんし、そもそも僕が戦場に立つ事なんて……』


 尚も納得のいってないラーズグロムがブツブツと抗議する。

 しかしタケゾウはそれを一蹴し、ラーズグロムを無理矢理立たせた。


『世の中に絶対なんてものはない。俺とて肉親に裏切られるとは思ってなか――いや、俺の話はいいか。――コホン、とにかくだ。お前が戦場に立つことはないなどと思い込むのは止めとくんだな』


 タケゾウの言うことはもっともであり、ラーズグロムは渋々納得するのだった。


『ですが師匠。もし自分が戦場に立ったとして、勇者が出てきたらどうするのです?』

『ああ、勇者なぁ。このプラーガ帝国って国は異世界から勇者を召喚してるんだっけか?』


 これまでの歴史上、プラーガ帝国が異世界から勇者を召喚してるというのは有名な話であり、当然冒険者であるタケゾウも知ってる事だ。


『桁外れに強いって聴くが……言ったろ? 世の中には絶対なんてものはないってな』

『では師匠ならどうやって戦うんですか?』

()()()()だ』

『トラウマ?』


 タケゾウが無精髭をなでながら言い放った言葉――それはトラウマという一言であった。


『よく聞けラーズグロム。どんなに強い奴でもトラウマの一つや二つはあるもんだ。聴いた話じゃ勇者には弱点らしい弱点が無いヤツも多いんだってな? だったらトラウマを抉ってやるのが一番効果的よ』

『しかしそう簡単にはでき――』

『できるかどうかじゃねぇ、やるんだよ。世の中には転生者っていう生前の記憶を持つヤツもいるらしいが、そんなヤツは大抵()()()()()()()になってるだろうぜ。だからもし勇者と剣を交えるってんなら、トラウマを突け!』




(そうか、分かったぞ! セントウキが炎に包まれてこの樹海に落ちた。つまりコイツは炎に包まれて死んだのがトラウマになっている。だから炎を見て怯んでるんだ!)


 ついにラーズグロムは希望を掴んだ。

 彼の推測はほぼ正解であり、ミサイルによる迎撃を受けた元勇者は、機体を炎上させながらも自身のギフトにより爆発炎上でのダメージを無効化することに成功していた。

 しかし、機内に蔓延する二酸化炭素までは無効化することは叶わず、肉体を損傷しないまま窒息死を迎えてしまう。

 その後元勇者はアンデッドとして漂う羽目になったのである。


「炎だフール! 炎で樹海を燃やせぇ!」

「承知した!」


 ラーズグロムが勝機を見出だしたと気付き、フールはレッドウルフを召喚する。

 この狼はDランクの魔物で、火魔法を放てるのが特徴だ。


「レッドウルフよ、周囲を焼き尽くせ!」

「「「ウォン!」」」


 ボゥ……ドン! ドドドン!


「ケケ! ケケケケ!?」


 怯んでる元勇者をよそに周囲が炎に包まれていき、まるで森林火災のような光景に元勇者の動揺は激しくなる。

 襲い掛かるグレーウルフは蹴散らしてるものの、動きは明らかに鈍い。


(トドメを刺すなら今しかない! だが致命傷はギフトで弾かれる……なら!)


 意を決したラーズグロムが大きく剣を振りかぶる。


「これでトドメだ――二天一流(にてんいちりゅう)飛炎斬(ひえんざん)!」


 燃え上がる木を両断し、炎を(まと)わせた斬撃が元勇者目掛けて飛んでいく!


 ザシュゥゥゥ!


「ゲケケッ!?」


 元勇者に直撃すると、そのまま炎が包み込む。

 樹木で威力を軽減したため致命傷には至らず、ギフトは発動しなかったようだ。


「ゲーーッゲゲーーーッ! ゲゲゲ!」


 堪らず元勇者は転げ回るが、周囲も炎上してるため炎を消すことは叶わない。


「ゲ……ゲゲ……」


 ついに真っ黒なシルエットは完全に燃え尽き、元勇者は完全に消滅したのであった。


お読みいただきありがとう御座います。

これにて第1章は完結です。

次は登場人物紹介を挟んで、第2章に入ります。

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