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誘われし貴族 僕は再び返り咲く!  作者: 北のシロクマ
第1章:偽装冒険者
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再び……

 街道から離れ岩影で夜を明かしたラーズグロム一行は、日ノ出と共に岩山に沿って西へ進んでいた。

 東にあるクライムの街へは直線距離だと遠退いてしまうが、強引に絶壁を登ることはできないため仕方ない――仕方ないが、どうしても()()()()()()()()もあるわけで……


「フフフフ、また会ったわね」


 前回と同じように真っ白いローブで全身を覆った宣教師フルストが、岩の上からこちらを見下ろしていた。


「ゲッ! コイツ、確か勇者に匹敵するくらい強い奴じゃない!」

「またですか……」


 ジュリアもライザも揃ってウンザリした表情を見せ、レシルはラーズグロムの背中に顔を隠す。

 レシルの頭を軽く撫でたラーズグロムが、剣に手をかけフルストに注意を注いだ。


「あ~らら、あんまし好意的な感じじゃないわねぇ? 朝が苦手なのかしら?」

「……そんなことはどうでもいい。何しに来たんだ?」


 目的は分かっているが、一応は聞いてみる姿勢をとる。

 せめて頭上のフールがよい策を思いつくように時間を稼ぐためだ。


「この前言った通りよ。貴方には我が教団のシンボルとなってもらうわ」


 案の定な台詞に、ラーズグロムはよりいっそう剣に力を込める。

 トルネードホースと並走できるフルストに対しては逃げ切れる自信はなく、かといってここで倒すにも現状だとどちらに軍配が上がるかはまったく予想できないため、取りたくはない選択だ。

 仕方なしにフールが魔物で迎撃を試みようと思ったが、その考えは杞憂に終わる。


「……お前の相手は俺がしよう」

「チッ、またアンタなの!」


 先ほどまでの余裕が消え、突如ラーズグロム達の前に現れた全身黒ずくめの男に殺気を向ける。

 この黒ずくめ、ジュリアの鑑定ではクロカゲという名前くらいしか分からないが、涼しい表情でフルストを見上げてるところを見れば、大した脅威とは考えてないのだろう。


「フン、上等よ。今度こそ決着つけてやるからついてきなさい!」

「…………」


 先ほどまでいた岩山からフルストが消え去ると、続いてクロカゲも背景に溶け込む。

 よく分からないが、命拾いしたのは間違いない。


「まったく、厄介な奴に目を付けられたもんだ。あの女といいクロカゲとかいう男といい、気を抜くと簡単にあの世行きだぞ?」

「分かってるさ。いざとなったら覚悟を決めるから、その時はフール、君にレシルとジュリアを頼むことにするよ」

「……極力そうならないよう願いたいがな」


 また他人を優先するのかとフールは内心で呆れたが、そこがラーズグロムの良いところでもあり肩入れしてる理由でもあるので、もしもの時は二人のことを引き受けるつもりだ。


「……ラーグ兄ちゃん、いなくなっちゃうの?」


 後ろで聴いてたレシルが不安そうに見つめてくる。

 ラーズグロムは思わず言葉に詰まるが、透かさずフールがフォローした。


「心配はいらん。俺がいる限り、万が一の事態も許すつもりはない。――そんなことより、できるだけ距離を稼いだ方が良さそうだぞ?」

「分かった」


 フールに従いトルネードホースに股がると、街道から山道へと変わった足場の悪い道を走り続ける。

 傾いた太陽が一行の視界に入り込んだ頃、右手に見える絶壁が徐々に緩やかになっていき、それが途切れたところで北上できるルートに差し掛かった。


「あ、麓んとこに村発見! あそこで休もうよぉ~」


 ここから北の山道を下りたところをジュリアが指した。

 そこには小さな村が存在するようで、そこから先の北から西にかけて草原が広がっており、村から東に延びた道は樹海へと続いているようだ。


「そうだな。昼過ぎだし、あの村で一休みしていこうか」


 クライムの街へ向かうには樹海を通る必要があり、一見するとかなりの範囲で広がってるのが分かる。

 そこを抜けるまで長丁場になるであろうと考え、村で休んでから進むことにした。



 一行が近付くと、入口付近で農作業を行ってた老婆が顔を上げる。

 つい最近も似たような展開から文字通り村を()()()()()に至ったのは記憶に新しく、ラーズグロムは顔を強張らせてしまう。

 しかし、耳元で大丈夫だよとレシルが(ささや)いたことで、自然と緊張が解けていった。


「おお、アンタら冒険者やね!? ちょうど依頼さしたかったところさぁ!」

「依頼……ですか?」

「んだ!」


 突然の依頼に、一行は顔を見合わせる。

 一休みするために立ち寄っただけで依頼を受けるつもりはなかったが、話だけでも聞いてみるかとトルネードホースを近くに繋ぐと、老婆の話に耳を傾けてみた。


「それで依頼とは?」

「そんなんだけどなぁ――」


 やたらと声のデカイ老婆が言うには、ここから北西に進んだ辺りにキラーアントが出現するようになったらしく、数が徐々に増えつつあるのだという。

 以前にも別の冒険者に依頼して討伐してもらったらしいのだが、再び現れるようになったらしい。


「村の中央に冒険者ギルドさあるから、そこで依頼ば受けてくれんね! 頼んだだよ!」


 豪快に手を振った老婆が農作業に戻る。

 いつの間にか引き受ける前提の話になってたらしく、渋々ながら冒険者ギルドへと向かう羽目になった。



「まさかキラーアントまで被さるとはね……」

「まったくだな。あんな胸糞悪い目に合うのは二度とゴメンだと言いたいところだ」


 閑散とした冒険者ギルドで依頼を受けると、ジュリアとレシルを村で休ませ草原を北西に進んでいく。

 キラーアントで逆襲した事を思い出したがため、それを忘れるためにも蟻の巣を潰してやろうと意気込む。


「反応が近いぞ、周囲に気を付けろ」


 フールがキラーアントの反応を感じたらしく、膝まで生い茂る草を切り伏せ捜索を続ける。


 ガサササ!


「ギ、ギギ?」


 草むらに潜んでいた一匹が(あらわ)になる。

 突然光が差したため、状況を理解してないようだ。


「もらったぁ!」


 ズシャ!


「ギギギィ!?」


 無警戒だった巨大蟻を袈裟斬(けさぎ)りにし、左半分が崩れ落ちる。

 ここでようやく接敵したことに気付いたようだが、時既に遅し。


 ドスッ!


「ギシャァ……」


 トドメの一撃で顔に突き刺すと、やがて動かなくなるのだった。


「よし!」

「安心するのはまだ早い。まだまだ周囲に潜んでるぞ」


 一匹を仕留めたラーズグロムを頭上のフールが戒め、警戒を怠らないよう促す。

 フールが感知した限りではまだ30匹はいると思われるからだ。


「ギギギ!」

「そこ!」


 ザシュザシュドシュッ!


「ギギギィ……」


 後ろから奇襲したはずの巨大蟻が、ライザの振り向き様による爪の斬撃で切り刻まれる。

 さすがに2ランクも格下の魔物は単体で襲ってきても即座に返り討ちだ。


 しかし、このように散発的に襲っては来るものの、残りの巨大蟻は中々発見に至らない。

 これまでに倒した数はたったの5匹でしかなく、反応が残ったまま時間だけがいたずらに経過していく。


「フール様、おかしいです。他のキラーアントが見当たりません」

「むぅ……だが間違いなくこの辺りにいるはずだ。今もラーズグロムのすぐそばに……」

「ええっ!?」


 ラーズグロムが驚いてキョロキョロと見渡すが、やはり巨大蟻は見つからない。


「脅かさないでくれフール……」

「いや、脅かしてるわけでは――む?」


 さすがにおかしいと思ったフールが何かに気付く。


「そうか、奴らは地中だ! 近くにある巣穴を探せ!」


 キラーアントは浅い地中に巣をつくる習性を持っており、周囲の反応はいずれも地中からであると気付いたのだ。

 フールに言われて二人が捜索にあたる。

 すると一ヶ所だけ土が盛り上がってるところをライザが発見した。


「フール様、ここに穴があります!」

「うむ、でかしたぞライザ」


 巣穴の側にやって来ると、何やらフールが詠唱を開始する。

 ラーズグロムが首を傾げてる中、ライザの全身が光に包まれた!


「フール、いったい何を!?」

「なぁに、少々魔法を使う必要があったのでな、いい機会だと思いライザを昇格させることにしたのだ」

「昇……格?」


 何のことか分からないラーズグロムを置き去りに、ライザを包んでいた光が収まる。

 だがそこに居たのは、多少髪が長くなっただけのいつものライザであった。


「えっと……髪を伸ばした――とか?」

「たわけ。そんな事のためにわざわざ魔力を使うか。俺が行ったのはランクアップによるクラスチェンジだ。今のライザはBランクのプラチナウルフとなっているぞ」


 プラチナウルフ……Bランクの狼型の魔物で、物理防御も高めながら素早さもあり、更には水系統の魔法をも使用する驚異的な存在だ。


「ありがとう御座いますフール様。これまでよりも、より一層の働きをお見せ致します」

「うむ。さっそくだが、キラーアントの巣穴を潰してくれ」

「畏まりました」


 フールに代わり、今度はライザが詠唱を開始する。


「フール、どうやって巣を潰すつもりだい?」

「フッなぁに、見てれば分かる」


 不適に笑ったフールを横目にライザに注目していると、手を巣穴に向けて何かを撃ち出そうとしていた。


「押し流せ――アクアコースター!」


 ズドドドドドドーーーッ!


 ライザの手から放たれた大量の水が、巣穴へと流れ込んでいく。

 数分で水が溢れてくると、ようやくライザは中断した。


「なるほど。巣穴の中で押し潰したってわけか!」

「正確には窒息死だろうがな。ま、いずれにしろ直に反応は消えるだろう」


 キラーアントの反応が消えるまでさほど時間は掛からず、夕方前には村に戻ることができた。



 冒険者ギルドで巣穴を潰したことを報告し、キラーアントの死骸を証拠として提出するとレシル達の待つ酒場でしばしの休息をとる。

 すると農作業を終えたのか、先ほどの老婆を含む数人のご老人が中に入ってくるなり、ラーズグロム達に話しかけてきた。


「おお、アンタらさっきの! 依頼達成の話は聞いてるでぇ、ほんま助かるさぁ!」

「ははは……」


 相変わらずデカイ声だと思いつつ、ラーズグロムは苦笑いをする。


「僕らは東の樹海を通らなければならないので、Eランクの魔物には苦戦してられませんよ」



 何気なく言った言葉に酒場がシーンと静まり返る。

 何故? ――と思ってるのも束の間で、透かさず老婆が口を開いた。


「まさかアンタら、あの樹海さ行くつもりだか!? 悪い事は言わん、そりゃ止めといた方がええて!」


 老婆の台詞に他の老人達もウンウンと頷く。

 だがラーズグロムとて行かなければならない事情があり、はいそうですかと諦める事はできない。


「お婆ちゃん、樹海に何かいるの?」

「んだ! あそこには悪魔がいるだ!」


 気になったレシルが尋ねると、鬼気迫る表情で老婆は語り出す。


「もう一週間以上も前になっけど、アルカナウ王国が攻めてきたって時に、見たこともねぇ不気味なドラゴンが空さ飛んでただ! その内の一匹が炎に包まれて樹海に舞い降りただよ! ありゃきっと悪魔だや! うちら村のもんは蒼天の悪魔だっつって、だ~れも樹海さ近付かん!」



 老婆の話を聞き終え、酒場を後にした頃にはすっかり日が落ちていた。


「――そんな話らしいけど、あれは多分セントウキと呼ばれる異世界の兵器だろうね」


 ダンマスのグーチェスから聞かされた話の中に、勇者達が異世界の兵器を産み出したという内容があったのを覚えている。

 王都に迫ってた戦闘機を知人のダンマスが撃墜した話も含まれており、老婆が語った内容はそれに類似していた。


「な~んだ。なら樹海を通っても大丈夫じゃない」

「いや、そうでもないぞ? 蒼天の悪魔はいなくとも、樹海に生息する魔物はいるはずだ。注意するに越したことはない」


 村から樹海を眺めつつ、楽観視するジュリアをフールが戒める。

 先を急ぎたいところだが、夜の樹海は危険が伴うだろう。


「じゃあどうするのさ? 朝まで待つの?」

「う~~~ん……」


 ラーズグロムを先頭に立ち、このまま進むか朝まで待つかを決めかねていると、村の外から馬が地を蹴る音が聴こえてきた。


「! この匂い――いつかの傭兵団の匂い!」

「もう捕捉されたのか!」


 レシルが嗅いだのはヴァリトラ傭兵団のものであり、彼らは契約主のフルストの指示により村にやって来たのだ。


「このまま樹海に入ろう。時間がない、急ぐんだ!」



 ラーズグロム一行が樹海に踏み込んだ直後、村にやって来たヴァリトラ傭兵団の団長――ガルミオが、冒険者ギルドにやって来た。


「おい、ちょいと聞きたいんだが、ラーズグロムって野郎を見なかったか?」


 ガルミオの質問に、受付にいた中年男は首を左右に振る。


「いんや、そんな名前の男は来てないねぇ。ラーグって名前の少年なら来たけれど」

「……ラーグだと?」


 その名前にガルミオは引っ掛かりを覚える。

 ラーズグロムは逃走中であるため、バカ正直に本名を名乗ることはないと考え直し、自身の身に付けたレザーアーマーを受付の男に見せつけた。


「そのラーグって奴ぁ、こんな鎧を着てなかったか?」

「んん? ――ああ、それそれ! 胸部に羽のシンボルがついてたよ! 確か樹海に向かうって言ってたけど、キミらの仲間かい?」

「まぁそんなところだ」


 口の端を吊り上げて冒険者ギルドを出たガルミオ。

 彼の前には総勢150近くにの傭兵が待機していた。

 何故ここまで数が膨れ上がったのかというと、解散した他の傭兵団のメンバーがヴァリトラ傭兵団に加わったためだ。


「よしお前ら、樹海に行くぜぇ!」

「「「おぅ!」」」


 こうして彼らも、悪魔が潜んでるかもしれない樹海へと足を踏み入れるのであった。


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