ハーレム男の決断
「……い、今……何と?」
「ですから、このようなところで何をなさっておいでですかラーズグロム様? ――と申したのです」
「う……」
少年達と別れ、すっかり暗くなった夜道を進み冒険者ギルドへと赴く――事はなく、まっすぐ宿屋へと帰ってきた一行。
ギルドにはポータルキャニオンの一人が赴いており、それ以外のメンバーはラーズグロム達の部屋へと押しかけていた。
そして先のウィリーによる台詞。
これによりラーズグロムが窓の外へと視線を逸らし、脂汗を流す羽目に……。
(参ったなぁ、まさかバレてるとは……)
押しかけてきた理由は勿論、ラーグという偽名を見破りラーズグロムだと看破したためである。
「無駄な問答はしたくありませんので事前に言いますが、僕のメンバーの中には鑑定スキルを使用できる者がいます」
「…………」
「彼女――シュリアーデにより、貴方が皇位継承権第4位のラーズグロム様であることは明白となっております」
偽名を見破られた時点で、ラーズグロムが否定することはできない。
この期に及んで、偽名を名乗ってたラーズグロムという名の同姓同名ですと言っても信じてもらえないだろう。
もはや否定すればするほど泥沼である。
「はぁ……君の言う通り、僕はラーズグロムさ。兄達により皇帝暗殺という濡れ衣を着せられた――ね……」
「…………」
ラーズグロムはため息をつき、対面のベッドに腰を下ろしたウィリーは顎に手を添えて神妙な面持ちとなる。
彼以外のメンバーはリーダーに一任してるためかライザと同じく無表情で佇ずんでおり、
それとは真逆に、レシルとジュリアはオロオロとしていた。
やがてしばしの沈黙の後に顔を上げたウィリーが口を開く。
「納得しました」
「「「え?」」」
意外な言葉だった。
先ほどまでの重苦しい空気が鳴りを潜め、爽やかな笑顔を向けてウンウンと頷いてるではないか。
その様子にラーズグロム一行が首を傾げると、ウィリーが納得した理由を告げてくる。
「これでも僕は、人を見る目はあるつもりです。そのお陰で彼女達に出会えたのでね」
彼女達――ルーニーとブレンダは視線を向けられ赤面する。
ルーニーという魔法士は低身な身体を更に縮め込ませ、ブレンダという赤髪の戦士は髪の色に負けないくらい赤く火照らせた。
その様子にラーズグロムが苦笑いをし、何故かジュリアは【リア充死ね】という感情が顔に出ていたが。
「目を見れば分かりますよ。貴方は嘘をついてはいない。いずれ母国に戻り、身の潔白を証明しなければならないでしょう。――ラーズグロム様、もし僕らにも出来る事があれば手伝わせてください!」
「あ、ありがとう御座います……」
このウィリーという人物、正義感が強いせいか身を乗り出してラーズグロムの手を握りしめ熱く語り出す。
金髪少年と金髪青年の構図に、一部の女性陣からはホットな視線を浴びそうだが。
「ラーズグロム!」
「うぉっ!?」
背後からの叫び声に身体をビクつかせて振り向くと、ライザが窓の外を指していた。
「この街の兵士が怪しい動きをしています」
全員が窓の外を眺めると、5、6人で建物を回ってるのが見える。
複数ヶ所で同様の動きが見られ、何かを探してるのは明らかだ。
バタン!
「た、大変です! さっき冒険者ギルドに領主の私兵がやって来て、ラーズグロムを見つけ出せという依頼を出してました!」
「なっ!?」
扉を開けて入って来たシュリアーデという女性神官が叫ぶ。
どうやらこの街での長居は出来そうにない。
「ちょ、ヤバイよ、この宿にも兵士が来た!」
窓際から身を引いたジュリアも叫ぶ。
最早とれる手段は多くない。
何とかして追っ手を振り切り、より遠くへ逃れるしかないだろう。
「これはマズイ、――ラーズグロム様、僕らが時間を稼ぎますので、その隙に脱出を!」
「し、しかしそれでは――」
「大丈夫です、彼らの妨害はしません。これでもAランクの冒険者パーティですので、こちらの話をまともに聞いてくれると思います。その隙に皆さんは脱出してください」
ウィリーの発案により、彼らを別の空き部屋へと誘導し、その隙に宿屋を脱出するというシンプルな作戦を決行した。
コンコン
「手配あらためだ。中に入るぞ?」
「どうぞ」
ウィリーの返答があった直後に荒々しく扉が開かれ、複数の兵士がドカドカと入ってくる。
手配あらためとはお尋ね者を捜してるという意味を持っており、部屋を見渡し目的の人物がいないと分かると、一枚のビラをウィリーに見せてきた。
「さっきも言ったが手配あらためだ。この人物に見覚えはないか?」
「……どれどれ」
ウィリーはわざと時間をかけ、ビラを舐めるように見る。
そこには予想通りラーズグロムそっくりな似顔絵(当たり前だが)が描かれていた。
後ろに控えてた女性メンバー達も一緒に覗き込むと、皆一斉に首を捻り考え込むフリをする。
「う~~~ん、どこかで見たような……」
「確かに。でもどこだったかしら?」
「教会じゃない? 祈りを捧げてるのを見た記憶が……」
「違うよ、カジノだよ。スロット回しながら、うぉアッチィ! これアッチィ! って言ってたよ」
「いや、今日の早朝に街を出なかったかな?」
「確かに。でもどこへ向かったのかしら?」
「採取依頼じゃない? 四つ葉のグリーングラブを見つけて祈りを捧げてるのを見た記憶が……」
「違うよ、鹿を狩って肉を捌いてたんだよ。手打ちの味が自慢です――って言いながら」
「待て待て待て待て」
矢継ぎ早に繰り出されるトークに、兵士は慌ててメモを取り出す。
もっとも、ウィリー達の証言はデタラメで、メモしたところで何の意味もないが。
一方、ウィリー達の会話に聞き耳を立てていたラーズグロム達は、彼らの部屋を通りすぎコッソリと宿屋を抜け出していた。
「助かった……。再会することがあれば、是非とも礼を言わないと」
「それは構わんが、今は街を出ることを優先しろ。ここで捕まったら、奴らがした事は無駄になる」
フールの台詞に無言で頷き正面を見る。
領主が捜してる以上一刻も早くこの街から脱出しなければならない。
「しかし本当にコレで大丈夫かな?」
「何よ、ジュリアのメイクに不満でもあるっての?」
「いや、そうじゃないけど……」
ラーズグロムが自分の顔を指して意見を求める。
それというのも今の彼は女性貴族が行うメイク(厚化粧)を施しており、門番が見たならそっちの趣味を持った奴と認識されるに違いない……というか、正直なところ直視するのが躊躇われるレベルだ。
「止まれ! 今この街で手配あらためを行っている。一人一人顔を確認させてもらおう」
案の定門番にも通達されてるらしく、身分証と顔の確認を求められた。
ライザ、レシル、ジュリアと続き、ラーズグロムが門を潜ると……
「うっ……」
「!?」
「な、何でもない、早く行け」
見たくもない顔を見た門番の心境は計り知れないが、無事脱出することができたようだ。
「……バレなくてよかった」
「まったくだ。バレてたら社会的に死ぬところだったぞ」
冗談ではない。
皇帝暗殺に上乗せして女装趣味というレッテルまで貼られては、フールの言う通り社会的に死ぬ――というか物理的に死にたくなる。
「まぁ、メイクしたジュリアが言うのもなんだけど、よかったわね」
「ああ。あの門番の関わりたく無さそうな視線は、しばらく忘れられそうにない」
手拭いで顔をゴシゴシと拭きながらぼやく。
そんな懸念は払拭されたが、別の問題が出てきたのも事実である。
「マズったなぁ……クライムの街は東にあるというのに、慌ててたあまり北に出てしまった」
ラーズグロムが東側を見上げてランプを照らす。
そこは絶壁の岩山が列なっており、物理的に登るのは無理そうだ。
クライムの街に向かうルートは、一旦南に出た後に東に向かって進むのがセオリーとされており、北に出てしまうと西から大きく迂回する必要がある。
「ヤデランの街には戻れんぞ?」
「分かってる。このまま迂回して行こう」
こうしてやむ無くヤデランの街を脱出したラーズグロム一行は、大きく迂回してからクライムの街へと向かうことにした。




