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誘われし貴族 僕は再び返り咲く!  作者: 北のシロクマ
第1章:偽装冒険者
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戦勝パレード

 胸糞の悪い村を出てから三日。

 ラーズグロム一行はヤデランという大きな街にたどり着いた。

 そろそろ本格的に食料が足りないため、街中で物資調達を行ってたのだが……

 

「バンザーイ! チョワイツ王国バンザーイ!」

「見たかアルカナウ王国め! この国の兵士は無敵だぁ!」

「ほんと凄いよね、向こうは見たこともない兵器を使ってきたのに、追い払っちゃうんだもの!」


 アルカナウ王国の軍が撤退したという情報がこの街にも流れてきたようで、不安から解消された平民達がそこらの通路を占拠すると、真っ昼間からお祭り騒ぎだ。

 お陰で道を歩くのも一苦労で、レシルやジュリアもグッタリとしている。


「僕らも他人事ではなかったし、このまま戦争が終結すれば良いけどね」

「何を呑気な事を。終結すれば貴方が不利になるというのに……」

「え……ライザ? それってどういう――」

「宿屋に戻ったら話します」


 現状のアルカナウ王国は、プラーガ帝国から脱走した勇者達に乗っ取られている。

 ラーズグロムにとっては皇族に反感を持ってるであろう彼らが撤退してくれたのはありがたい事なのだが、

 ライザは違う見方をしてるようだ。



 買い出しを終え、飲めや歌えやのパレードを掻い潜り何とか宿屋へと戻ってきた。

 途中すれ違う酔っ払いから強引に酒をすすめられ、余計な時間をとられたが。


「ふぅ~~~、やっと戻ってこれた~~~」

「(スンスン)串焼き良い匂い」

「あコラ、レシル! ジュリアにもよこしなさ~~~い!」


 荷物を放り出して買ってきた串焼きの奪い合いを始めるレシルとジュリア。

 彼女達を横目に肩を竦ませたラーズグロムが、ライザに先程の続きを促す。


「――で、さっきのはどういう意味なんだ?」

「それは俺から話してやろう」

「フール?」


 予測される範囲でフールは語る。

 まず、ダンジョンマスターであるグーチェスから仕入れた情報だと、撤退したアルカナウ王国軍の指揮官クラス――要するに勇者達なのだが、彼らの多くが戦没者となったとある。

 こうなるとアルカナウ王国は戦争どころではなくなり、残りの勇者も国内に閉じ籠るだろう。


 チョワイツ王国からしてみれば危機は去った事になり、次に対処するのは無断で越境してきたプラーガ帝国軍になるのではと予想できるのだ。

 つまり、アルカナウ王国へと向いていた矛先が、プラーガ帝国になる可能性が出てきたのである。

 そんな状態で王国軍や領主にバレてしまったら、間違いなく捕縛されるだろう。


「そういうことか……。このままだと僕自身がチョワイツ王国からも狙われかねないと」

「その通り。楽観視するのはまだ早い。今は偽装してるのもあり一応は大丈夫かもしれんが、いつ鑑定スキルでバレるか分かったもんじゃない。全員がジュリアみたいに騙されるとは限らないのだからな」


 実は鑑定スキルにも個人差があり、偽装して名乗ってる名前を鑑定してしまう者もいれば、本名を看破する者もいるのだ。

 これには主に知力が関わっていると噂されているが、いまだ因果関係はハッキリとしていない。


「……ねぇ、()気無(げな)くジュリアをディスらなかった?」

「気のせいだ、深く考えるな。それより今後のことを――む? 下が騒がしいな?」

「本当だ。何かあったんだろうか?」


 話の途中で、下の階が騒がしいことに気付く。

 ラーズグロムに絡んでるとも限らないので、階段を下りてそっと覗いてみる。

 すると、ロビーで複数の少年が何かを訴えているところであった。


「どうやら僕絡みじゃなさそうだ。けれど少々気になるし、近くで聴いてみよう」

「うむ」


 フールがレシルに抱えられたまま頷くのを確認し、ロビーへと出る。


「ねぇ頼むよ、誰か引き受けてくれ!」

「本当に大変なんだ! このままだとアイツが死んじゃう!」


 少年達は必死に周囲の大人達へと頼み込んでいるようだが、手でシッシッと払われていた。

 皆片手にグラスを持っており、せっかくの戦勝ムードに水を差されたくないのだろう。


「危険な依頼なら冒険者ギルドに頼むのが常識だろうが」

「もう頼んだよ。だけど、すぐに引き受けてくれる人がいないんだ。今は一刻を争うってのに!」

「だが立ち入っちゃ危険だと言われてる森に入ったのはテメーらだろう? だったら自業自得だ、諦めな」

「そ、それはそうだけど……。けど、アイツは……レシルは反対してたんだ! それを俺達が大丈夫だって言って強引に連れ出したから……」

「「「えっ?」」」


 ラーズグロム達の視線がレシルに集中するが、当のレシルは首をブンブンと横に振り、少年の話を否定した。


「私は知らないよ? だって知らない男の子達だし」

「……だろうね」


 最初は驚いたが、レシルという同名の人物が少年の仲間に居るだろう。

 しかし、それとは別に依頼を受ける大人は居らず、ションボリと肩を落とした少年達がゾロゾロと出口へ向かった。


「ラーグ兄ちゃん……」

「ああ、分かってるよ」


 レシルは同名の相手が気掛かりのようだ。

 ラーズグロムとしても見過ごすのは後味が悪いとあって、宿屋を出たところで彼らを呼び止めた。


「キミ達。依頼の話、聞かせてくれないか?」

「「え!?」」




 少年達――ピートとライアンから事情を聞くと、Dランクの魔物が出るために一般人の立入が禁止されている森があり、そこに入って遊んでたのだとか。

 魔物のDランクというと、一般人では絶対に勝てない相手だと思っていいほどの危険な魔物だ。

 一般人が相手にできるのは、精々Fランクのゴブリン程度だろう。


 つまり、彼らは遭遇してしまったのだ。

 Dランクの魔物に……。


「トルネードホースっていう暴れ馬が出たんだ。俺とピートとチック、それからレシルの4人で遊んでたら奴が茂みから現れて、俺達3人は咄嗟(とっさ)に逃げたけど、レシルはタイミング悪く木に登ってたから逃げれなくて……」


 トルネードホース……Dランクの魔物で、気性の荒い暴れ馬である。

 雑食であり、動植物関係なく襲いかかっては補食している。

 魔物も食らうらしく、Dランク以下の魔物はターゲットにされる事も多い。


 とまあ、普段股がっているトルネードホースとは似ても似つかない野性の暴れ馬だ。


「チックはどこに行ったんだい?」

「アイツは冒険者ギルドだよ。依頼を受けた冒険者をすぐに案内するためさ」

「なるほど。じゃあ早くレシルを助けて安心させてあげないとね」

「うん、ありがとうラーグさん!」


 少年達の案内で森に足を踏み入れる。


 ガサッガササッ


「「「!」」」


 直後、右側の茂みがガサゴソと動き出し、ライザとラーズグロムが戦闘体勢に入った。


『ライザよ、ダートヘッジホッグだ』

『分かりました』


 フールが正体を看破して念話で伝えると、素早くライザが突っ込んでいく。


「ハッ!」


 ザシュ!


「ギュゥゥゥ……」


 茂みから顔を覗かせたところへ、ライザの爪が深々と喉元を抉る。

 完全に不意を突かれた針ネズミは、無抵抗のまま動かなくなった。


「す、すっげ~! 今のやつってEランクの魔物だろ? それを一撃で仕留めるなんて!」

「当然です。これから討伐に向かうのはDランクの魔物なのですから、これくらいは出来なければ相手にならないでしょう」


 無表情なライザが淡々と述べると、無造作に針ネズミを投げ棄てる。

 事実彼女のいう通り、Eランク程度で苦戦していては助ける事は出来ないだろう。


「アレだ! あの木の下で彷徨いてるトルネードホースのせいで下りれないんだ!」


 見ると一本の木の根元で、トルネードホースがグルグルと回ってるのが視界に映り込む。

 上に居るレシルが降りてくるのを待ってるのだろう。


「いきます!」


 シュシュシュシュ


「ゲヒィッ!?」


 こちらに気付く前にライザが爪を飛ばし、先制攻撃に移る。

 上手く目に命中したため、視界を潰された暴れ馬がデタラメに暴れだす。


「ブルルルル!」

「あ、危ない!」


 少年の一人が声をあげる。

 ちょうど突進した先にライザがいたのだ。


「心配無用です――ハッ!」


 ポスッ!


「ブルル!?」


 突っ込んできた暴れ馬をヒラリと避け、見事背に股がる。

 当然暴れ馬は振り落とそうとするが、首に爪が食い込むのがそれよりも速かった。


 ザシュ!


「グッヒィィィ……」


 軍配はライザに上がり、暴れ馬は力なく地面に横たわる。

 こうなる事を予想してたジュリアが手早く獲物から剥ぎ取りを開始すると、後ろでレシルが興味深そうに眺め、木陰で身を隠してた少年達も駆け寄ると、手放しで称賛した。


「ライザさんすげーや! さすが冒険者だぜ!」


 相変わらず無表情なライザが木を蹴り登っていくと、枝にしがみつき震えていた人間の女の子を発見。そっと抱き寄せると、そのまま飛び降りた。


「うぅぅ……凄く怖かった……」

「「レシル!」」


 地に足が着いてもいまだ震えが収まらない少女に、少年達が駆け寄る。


「ごめんレシル! 僕達が誘ったから危険な目に合わせちゃって」

「すまねぇレシル!」

「もう……本当に怖かったんだからね?」


 ライザに泣きついていた女の子が振り替えってジロリと睨む。

 だが少年二人が揃って頭を下げたのを見て、一応は許すことにしたようだ。


「さ、早いとこ引き上げよう。長居してると魔物が寄ってくるかもしれない」


 無事救出が完了したところで、出口に向けて歩きだす。

 ラーズグロムが先頭に立って数歩進んだその時!


『ライザ、後ろからデカイのが来る!』

「っ!?」


 フールの念話を受けて振り向けば、真っ黒な毛に覆われた何かが物凄い勢いで突進してくるのが見えた!


「「グゴォォォ!」」

「クラッシュベアですか!」


 真っ黒な毛玉の正体はクラッシュベアというEランクのデカイ熊だ。

 しかも計4体もいるので、ライザが1体を仕留めてるうちに少年達が襲われる可能性が高い。


「まずい、皆走れぇぇぇ!」


 ラーズグロムが声を荒らげ、少年達が一斉に駆け出す。

 レシル(二人)もそれに続くと剥ぎ取りを中断したジュリアも猛ダッシュを開始した。


「あ、あの――ライザさんは!」

「彼女なら心配ない。クラッシュベアにやられるほど弱くはないさ。それより僕らが逃げ切る方が重要だ!」


 ピート少年がチラチラと後ろを見ながらライザを気にかけるが、ラーズグロムの言う通り、自分達の置かれた状況の方がよほど危険だ。


(チッ! 召喚さえできれば、こんな雑魚に追われずにすむというのに!)


 皮肉にも少年達の前で召喚を行えるはずはなく、フールが心の中で舌打ちする。


「ハァハァ――キャッ!」


 ズザッ!


「「レシル!?」」


 レシル(人間の方)が足を取られて転倒すると、少年達も立ち止まる。

 一方のクラッシュベアは止まるはずはなく、狙いをレシルへと定めて突っ込んできた。

 

「くっ――させるか!」


 ライザの援護が間に合わないのなら、自分がやるしかない!

 覚悟を決めたラーズグロムが、尚も突進中のクラッシュベアに向け横に大きく薙ぎ払った衝撃を飛ばす。


 ザスッ!


「グォアッ!?」


 先頭のクラッシュベアの顔面に命中し、1体を怯ませる事に成功――が、後ろからもう1体が続いてるのを確認すると、そちらに向けて振り下ろす。


 ガキン!


「チッ! 爪で防がれたか」


 1体が攻撃を受けたのを見て警戒してたのだろう、もう1体は頭上に両手を掲げ、斬撃をしっかりと受け止めていた。

 だが悔しがってる隙はない。先ほど怯んだ1体の爪が、ラーズグロムへと迫ってたのだ。


「グォグォォォ!」


 ブンッ!


「――っと!」


 ブンブン!


「――くぅぅ」


 初撃は上手く避けてたが、2対1では難しいのかすぐに防戦一方になり、少しずつ後ろに後退する羽目に。

 3体目と4体目が来ないのは幸いで、ライザが相手をしてるのだろう。


「グオォォォォォォ!」


 ドスッ!


「グフッ! くそぉぉ……」


 ついに避けきれず一撃を受けてしまう。

 一旦距離をとったが、このままではジリ貧なのは確実。

 遠くではライザが2体同時に相手をし、ちょうど1体を仕留めたところで、援護にはもう少し時間がかかりそうだ。


(このままでは厳しいか!?)


 チラリと脇を見ると、助け起こされたレシルが足を引いてる様子が映り込み、足を(くじ)いたのがハッキリと分かる。

 つまり、ここで逃げれば間違いなくレシルが犠牲になるのだ。


 やむを得ずラーズグロムは、地を踏みしめクラッシュベアを見据える。


(今は少しでも時間を稼いで――!?)


 その時、すぐ側を何かが駆け抜けいくのに気が付く。

 同時にそれは、ラーズグロムを安堵させる言葉を投げ掛けた。


「大丈夫ですか!? 援護します!」


 駆け抜けた何かは男の冒険者であり、更に後ろからも彼の仲間と思われる女性達が次々と現れた。


「ブレンダはもう1体を! ルーニーはリーダーを援護して!」

「「了解!」」


 先ほどの男がリーダーなのだろう。

 ルーニーと呼ばれた魔法士の女性が魔法で牽制し、リーダーの男が上手く斬りつけていく。


「ほら、貴方もしっかり」

「あ、ああ、すまない」


 呆気に取られてたラーズグロムが神官風の女性の言葉で我に返り、ブレンダという女戦士の横から加勢する。

 さすがに多人数で連携すればなんて事はなく、1分も経たないうちにクラッシュベアを殲滅したのであった。


「間に合ってよかった。僕はウィリーという者で、【ポータルキャニオン】という冒険者パーティのリーダーをやっております」

「冒険者パーティ――という事は、依頼を受けてここへ?」

「はい。そこのチックという少年の依頼を受けて駆けつけたのですよ」


 振り向くと、ピートとライアンが親しげに話してる少年がいた。

 彼がチックなのだろう。


「そうでしたか。加勢していただきありがとう御座います」

「いえいえ。それよりも早くここからでましょう。最近高ランクの魔物が多くでるらしいですしね」


 ひとまず最悪の事態は避けられ、ウィリー達に感謝すると街へと戻っていくのであった。


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