弱肉強食
「グォッ! 壁から矢が!」
「うわぁぁ! 落とし穴の中に剣山が!」
「前方と後方よりゴブリンが接近、挟まれましたぁ!」
ラーズグロム達を追ってダンジョンへと突入したジルコルフ隊長の部隊。
意気揚々と入り込んだまではよかったが、そこは罠罠罠のオンパレードで、今もなお負傷者が続出している。
(クソッ! こうも罠が多いとラーズグロムを追ってるどころじゃなくなる)
現状を前にし、手柄に囚われてたジルコルフが少しずつ冷静さを取り戻す。
このままではダンジョンに手を出した挙げ句、無駄に犠牲者を増やしつつ撤退する羽目になるのでは……。
そんことになれば降格処分は免れず、下手をすれば投獄されかねない。
加えて独断で行動をとっていたジルコルフの未来は決して明るくはないだろう。
切り抜けるには、愚行をひっくり返すくらいの手柄が必要だ。
(ええぃ、迷ってはいられん。こうなれば玉砕覚悟で進むしかない!)
撤退はあり得ない――そう心に決め、現状打破のために動き出した。
「落ち着け、まずは後方の安全を確保する。前列に居るものは前から来るゴブリンの足止め。それ以外は後方のゴブリンを蹴散らせ!」
「「「ハッ!」」」
気を取り直し、迫るゴブリンを迎え撃つ。
ゴブリンそのものはFランクという低級の魔物で、数にものを言わすくらいしか強みがない。
結果部隊の危機を脅かされることなく、撃滅に成功するのであった。
「敵影なし。魔物は全て撃滅しました!」
「よし、先を急ぐぞ。軽傷の者は俺に続け。負傷者はダンジョンの外で待機だ」
間もなく動き出したジルコルフの部隊。
罠が多いため、もしラーズグロムが死んでしまえばダンジョンに吸収されてしまう。
となれば、少しでも早く追いつく必要があるのだ。
「「うわぁぁぁぁぁぁっ!」」
「何っ!?」
出口に向かった負傷者の叫び声に、ジルコルフが振り返る。
驚いたことに、解除したはずの罠が再び発動したのだ。
「た、隊長! 数名が落とし穴へと落下しました!」
「バカな! 落とし穴は解除したはずだろうが!」
「で、ですが、同じ罠が発動したのは間違いありません!」
意図的に行わなければ、このようなことは起こらない。
ならば誰が意図して行ったのか――それは、彼らプラーガ帝国が把握しきれてない存在――フールによるものであった。
「「「ギャァァァ!」」」
「くっ、こっちもか!」
先に進んだ兵士達にも同じ現象が起こり、解除したはずの罠が再び牙を剥く。
「隊長、いかがいたしましょう?」
「いかがも何もあるか! ここまで来て手ぶらで帰れるわけがないだろう! こうなったら回避を優先し、罠の少ないルートを進めぇ!」
後がないジルコルフは、強引に突破することを選択したため、プラーガ兵は瞬く間に数を減らして行くのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(む……追っ手が動き出したか)
プラーガ帝国の追っ手がゴブリンを撃破したころ、ラーズグロム一行はいまだにセーフティエリアで休息をとっていた。
しかもフール以外は夢心地という何とも緊張感に欠けた有り様だが、やはりフールがダンジョンとシンクロできるというのが大きい。
(こちらの逃げ場が少なくなるのは看過できんな。どれ、ちょいと数を減らしてやるとしよう)
なんとか罠を解除したプラーガ兵に、更なる追撃がなされる。
フールがダンジョンとシンクロし、勝手に罠を設置したのだ。
これにより、プラーガ兵は再びパニックに陥ることとなる。
但しフールの魔力を消耗するので効率よく仕掛ける必要があり、あまり多用はできないが。
(フン、所詮は烏合の衆か。ならばこのまま一気に――な、コイツらは!?)
入口から嫌な反応が入ってきた。
数は全部で8つ。
彼ら――特にザルムスのせいで、レシルが死にかけたのを忘れてはいない。
(闇ギルド――貴人の密会。まさかここまで追ってくるとはな……)
このままでは危険だ。そう考え、フールは皆を起こして回る。
現に貴人の密会は確実に罠を避け、プラーガ兵とは遭遇しないルートで進んでいた。
いずれここまでやってくるだろう。
「おい、起きろ! 追っ手が迫ってるぞ!」
「ん……フール?」
ガバッ!
「フール様、敵はどこですか!?」
ラーズグロムが目を擦りながら起き上がり、ライザが主の声に飛び起きる。
「落ち着けライザ、まだ離れてる。だがあの連中ならすぐにやってくるだろう」
「ふぁ~ぁ。おはようフールちゃん」
「んん……っと、あの連中って何?」
「進みながら説明してやる」
続いてレシルとジュリアも目を覚ます。
しかし長居は無用とばかりに、即移動を開始した。
「――え? 闇ギルドに追われてるの!?」
「そうだ。かなりの大金が掛けられててな、生きていれば一万枚、死んでても五千枚の金貨らしいぞ」
「はいーーーっ!?」
破格の枚数に、ジュリアは全身の毛を逆立たせて仰天する。
金貨ですら滅多に手にすることがない彼女からすれば、想像を絶する金額であろう。
「い、い、一万枚でしょ!? 宿に泊まるのに精々銀貨一枚だし、お高い武器や防具でようやく金貨一枚届くかどうかじゃん! ジュリアが手にするのは殆ど銅貨だかりだってのに!」
ここで通貨の価値を簡単に説明しよう。
露店や雑貨でやり取りするのは、殆どが銅貨という金銭価値の一番低い通貨だ。
つまり、大抵の庶民は銅貨を使用することが圧倒的に多く、稀に銀貨が混ざる程度だ。
ちなみに金銭価値は以下の通りになる。
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貨1枚
白金貨に関しては貴族の間でしか流通してないため、滅多に目にすることはない。
それどころか存在そのものを知らない平民もいたりする。
バドラーゼやニースレイは、ラーズグロム捕縛を平民にも煽るため、敢えて金貨で提示したものと思われる。
「そんな大金掛けられてるって、アンタいったい何者なのよ!?」
「隠してもしょうがないし、今から説明するよ」
これまでの経緯をジュリアに話した。
今の今までラーグという初心者冒険者だと思った若者が、亡き皇帝の三男――ラーズグロムであることを知り、顔面蒼白になっていく。
改めて自分が踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまったと理解したのだ。
「え~と……ラーズグロム様とお呼びしましょうか?」
「いや、今まで通り呼び捨てで構わないよ。寧ろアンタかラーグで頼む」
「え……いえいえ、しかしですね……」
「僕がラーズグロムだとバレるのは得策じゃない。――と言っても、一部にはバレてるみたいだけれども」
一部にはバレているが、それでも末端の兵士までが顔を知ってるわけではない。
だがラーズグロムという名は庶民でも耳にしたことがあるくらいなので、人前で呼べば振り返る者が出てくるだろう。
「それにジュリアに様付けで呼ばれると違和感が凄いし、急に猫撫で声を出されるのも……ね?」
「は?」
「いやほら、なんか裏がありそうで……」
どうやらラーズグロムには、取り繕ったジュリアが不自然に見えたらしい。
元が盗人だけに、そう見えるのは間違いではないだろう。
「どういう意味!? アンタ、ジュリアの話し方に文句でもあんの!?」
「ハハッ、ゴメンゴメン。でも今のジュリアの方が僕としては話しやすいかな」
苦笑いで誤魔化すが、元々フランクなラーズグロムからすれば、素のジュリアの方が接しやすいことは確かだ。
「納得いかない。気を使って損した!」
「喧嘩はダメだよジュリアちゃん」
「わ、分かったわよ……」
口を尖らせてジト目を向けてくるジュリアだが、年下のレシルに宥められ、一応はこれまで通りに接すると決めたようだ。
「ところでさ、もう目と鼻の先にデカイ扉が見えるんだけど、アレは何なの?」
通路の先に見えるのはボス部屋の扉だった。
ダンジョンでは次の階層へ行くための試練のようなものがあり、この階層のボスを倒すことで次の階層へと渡ることが出来るのである。
「ボス部屋だが、今は出現しないように設定してある。気にせず進め」
ここでもフールの活躍により、戦わずして進むことができるようだ。
見るとボス部屋には誰も居らず、奥には下り階段が出現していた。
「あの階段を下りれば次の階層だ。ひとまず次のセーフティエリアまでいくぞ」
「分かった。ところでフール、貴人の密会はどう?」
「かなり近くまで……とだけ言っておこう」
「近い……か」
現にフールが対処してるのだが、これが中々上手くいかない。
幾度となく罠を強制起動させたり、魔物を押し付けたりしてるが、いずれも上手く切り抜けられていた。
「フールちゃん、大丈夫?」
「心配はいらんぞレシル。いざとなれば奥の手を使うからな」
貴人の密会も侮れないが、フールも魔力の消耗を抑えつつここまで来たので、新たに強力な魔物を召喚することくらいは可能だ。
「だがその前に、少々細工をしたボスが相手をしてくれることだろう」
自分達は戦わなかったが、ボスを貴人の密会にあてる策に出たフール。
果たして上手くいくのだろうか……。




