第八話 狂気
裕樹君の処刑が終わった後から凪君の様子がおかしかった。大丈夫、だなんて言って私に笑顔を向けてきたけど、とてもそうは見えなかった。
亮太『まぁ、そのなんや。あいつは"人殺し"なんて凪君に言うとったけども気にすることはないで』
凪『あぁ…それなら大丈夫だよ。別に気にしてないから』
小さく、暗い声で凪君はそう答えた。やはりどこか雰囲気が変わったような気がする。
悠馬『あのよぉ。凪がこんな状態で言うのはなんだけどよぉ、あいつらは"内通者じゃない"っぽいぞ』
悠馬君がそう言った時私はハッとした。このゲームは内通者を殺せばゲームが終了するはず。なのに終了の合図が鳴らず、タイマーは時間が減っていく一方だ。
亮太『ほ、ほなあいつらは犯人ちごたっちゅうことか⁈』
崇人『終わらねぇってことはそういうことだろうな』
私はその話を聞いてすぐ凪君の顔色を確認した。でも私の想像とは裏腹に凪君は顔色を変えず腕を組み考え事をしていた。
このゲームで本気で内通者を探し出すつもりなんだ。
ゲームは残り5分を切っていた。犯人探しを続行するか、時間が過ぎるのを待って次のゲームに向かうか。私はもうどうするのが正解なのか分からなくなっていた。
崇人『どうする。このまま時間が過ぎるのを待つのか?』
崇人君がプレイヤーに聞いた。
翔『内通者を見つけれなかったら茜の、裕樹の死はどうなる‼︎』
再び沈黙の時間が続く。ただ時間だけが過ぎていく。タイマーだけが無情に時を刻んでいた。
その時だった。
ーーお前らの身元を思い出したーー
会場を包む静寂を破るように、凪君は言った。
凪『お前らは元々少年院にいたんだよ』
突如放たれたその一言は私たちを深い困惑の海へと沈めた。私たちの反応などお構いなしに、凪君は話を続けた。
凪『思い出して。お前らにはゲームに参加する前の記憶があるはずだ。』
少年院、プレイヤーのみんな。だめだ。やっぱり記憶にモヤのようなものがかかってうまく思い出せない。
悠馬『凪。お前記憶が戻ったんか?なら黒幕とか内通者についてなんか思い出せねーか?』
悠馬君が凪君に問いかける。確かに記憶が戻ったのであればこのゲームを終わらせることができる。しかしその希望はあまりにも呆気なく打ち砕かれた。
凪『ごめん。それは記憶にないや』
記憶が戻ったといっても完璧に戻ったわけではないのかな。凪君はどこまでの記憶が戻ったのか。私はそれを確認せずにはいられなかった。
舞『凪君はなんの記憶を思い出したの?』
私の問いかけに凪君は少し物憂げな顔をして答えた。
凪『う〜ん難しいな…強いて言うならこのゲームの"最適解"かな』
そう言うと凪君はc君に指を差し発言した。
凪『お前の本名は弥。宮迫弥だ。そしてお前は同じクラスの同級生31名を殺害している。動機は"興味本位"。快楽殺人鬼だ。』
唐突にc君、いや、宮迫君の過去を暴露した。そしてそのまま凪君はトドメを刺すように発言する。
凪『内通者なんかより記憶を取り戻した快楽殺人鬼のほうがよっぽど危険だよ。今ここで消しておくべきだ。』
まるで別人だった。
私の知る凪君は、誰一人見捨てず全員で生き残ろうとしていた。
なのに今の彼は違う。
不安の種を"排除"するかのような人になっている。
宮迫『は?俺はそんなことしねーよ。てかお前の記憶が完璧に合ってるって言い切れんのかよ!』
それを聞いた凪君は悲しみと微笑みの混じった顔をしていた。
凪『うん。俺の記憶で茜や裕樹を殺したんだから』
そう言い終わると凪君はボタンを押した。
ピコン!
『投票が開始されます。裏切り者だと思う人間を指差してください。最も選ばれた人間は処刑されます。また投票をしなかったプレイヤー、自らを投票したプレイヤーも処刑されます。』
再びアナウンスが部屋中に鳴り響く。
宮迫『おいおいまてよ!ほんとにその記憶だけで俺を殺す気かよ!』
宮迫君の目に映る凪君はきっと正気を失った狂気的殺人鬼に見えただろう。
凪『俺の記憶に狂いはない。さっきの投票で証明したろ。それに俺の言葉で自分の身元や周りの関係を思い出した人間は何人かいるはずだよ。だからこの投票俺は死なない』
投票が始まった。周りのみんなもどうすればいいのか分からないようだった。
もちろん私もだ。急に記憶が戻ったと言い出す凪君。もし本当なら、ここで選んでしまうと自分を思い出す手掛かりが消えてしまう。かといって犯したか分からない罪で宮迫君を選ぶわけにもいかない。でも凪君の言う通りなら……って。
はぁ…なんで選ばないといけないんだろう。見てるだけがいい。私は物事が運命に従い進む様を見ているだけで満足なのに…運命に干渉したくない。観測者でいるのが私なのに…ってそんなこと考えてる暇なかった。利益だけで考えるなら凪君を残すべきだ。
そうだ。選ぶなら徳のある方だ。
そうして私は宮迫君に投票した。
宮迫『凪、お前だろ。お前が内通者なんだろ‼︎だから適当な理由で俺を』
宮迫君の言葉を遮るように凪君は話し出す。
凪『あのさ、多分だけど内通者なんていないよ。』
衝撃の一言だった。その発言はこのゲームの根本を覆すものだった。
亮太『へ?なんやそれ。内通者がおらんってどういう意味や!』
凪『ルール説明の時だよ。あいつは言ってた。"ゲームの裏を知る者"だって。俺らは記憶がないだけで本当はみんなゲームの裏、デスゲームの目的を知ってるんじゃないかな。あいつは一度でも運営側の人間なんて言った?』
そういえば運営側の人間がいるなんて言ってなかった。茜ちゃんゲームのことについて何か聞いてたっぽかったし。そう考えるとこのゲームは、この先のゲームの不安の種を消しておけって目的のゲームなのかもしれない。
舞『凪君はこのデスゲームの目的についてなにか思い出したの?』
凪『うん』
まさかと思って聞いてみたが、やっぱりある程度記憶が戻ってそうだった。凪君の返答を聞いたみんなは凪君に問い詰めた。一体何が目的なのか、なぜこのゲームに参加させられているのか。凪君は答える。
凪『この投票ゲームが終われば教えるよ』
記憶を戻した人はまず凪君を残すだろう。記憶が戻っていなくとも真相を知るため凪君を残す。たったいまこの発言で凪君はこのゲームでは誰よりも安全な立場に立った。宮迫君はまだ抵抗しようとしていた。
宮迫『ふざけんな!嘘かもしれないだろ‼︎』
その時アナウンスが鳴った。
『投票を終了します。宮迫弥9票。天宮凪4票。最も選ばれた宮迫弥の処刑が確定しました。』
凪君を疑う者はいた。でも、凪君の言葉で記憶を取り戻した人が多かったのか。それとも真実を知るために選んだのか。理由は定かではないが、無情にも宮迫君の処刑が確定した。
ガコンッ!ガコンッ!ガコンッ!
ピピッ!キューーーンッ!
宮迫君はどこか満足そうな顔をしていた。
ピシュン!
そのままレーザーに貫かれ死んだ。
時間は残り1分。このままゲームが終わるのを待とうとしていた時、またもや凪君は場を困惑させる言葉を放った。その言葉に私たちは恐怖すら覚えた。
凪『試したいことがあるんだ。だからもう一度投票しようか』
そう言い終わると、彼はまた躊躇なくボタンを押した。
見てくださりありがとうございます。今回は舞視点でした!




