07 知り合いができた
07 知り合いが出来た
神官見習いからの直接の暴力で、僕はついに神殿から逃げ出す決心を固めた。
前から逃げることは考えていたが、無一文では踏み出す勇気がなかった。
だが給金が出るようになった今、状況は違う。
お金を安全に隠す場所――そう考えて、空間収納を試すことにした。
治癒が使えるようになった以上、収納もできるはずだ。
僕はイメージを固めていく。
召喚のときのマンホール。
あれが魔法陣だったと今では知っているが、そのホールを腰の横に思い浮かべた。
庭で拾ってきた石を、そのホールに吸い込ませようとする。
何度やっても吸い込まないが、根気よく続けた。
合間に柔軟をする。
ピアノを弾くように指を動かす。
ギクシャクする体を使いこなすためだ。
寝るときも魔力の塊を動かしながら、石を吸い込ませようとした。
羊の代わりに石を数えながら眠ろうとしたとき――
ふっと石が吸い込まれた。
はっと目が覚める。
ホールの前に手を置くと、石があるのがわかった。
取り出すと、確かにそこにあった。
もう一度吸い込ませる。
取り出す。
何度か繰り返し、最後に吸い込ませてから眠りについた。
翌朝。
ホールに手をやると、石は入っていた。魔力が減った感じもしない。
石を取り出し、正面にホールがあるつもりで持っていくと吸い込まれた。
床にあるつもりで落としても吸い込まれた。
想像していたより、空間収納は使いやすい。
これで給金を常に持ち歩ける。
神殿を出る日は確実に近づいた。
その日も歩かされていると、声が聞こえた。
「しっかりしろ、ビル。冷やすと楽になる。すぐ水が来るからな」
僕はそちらへ向かった。
王宮の雑用係たちが仲間を囲んでいる。
「どうしましたか?」と僕が声をかける。
「足を痛めて」と一人が答えた。
「見せて」
僕は場所を変わり、足首を見る。
腫れ上がっていた。
「内緒ですよ」
軽く触れ、魔力を流す。
「まだこの程度しかできませんが、痛みは取れたと思います。無理しないで」と僕が言う。
そして人差し指を唇に当てて、
「内緒」と微笑んだ。
僕が去ったあと、背後で声が上がるのが聞こえた。
「誰?」
「多分、噂の人。確かに色男だな。でも……助かったよな」
「うん。あんなふうに治してくれるなんて、神殿の人でも珍しいよ」
「優しいやつだな。あの背の高い神官見習い、悪い噂ばっか聞いてたけど……全然違うじゃん」
ビルが立ち上がりながら言う。
「……あいつ、なんか一人で抱えてる感じしたな」
その日の訓練場。
ミツルギは水を出しては落とし、王子に甘えた声を出していた。
僕は魔力を動かしながら、その様子を遠くから見ていた。
「お前がいると神子が集中できない。下がれ!」とレオナード王子が怒鳴る。
「かしこまりました」と僕は答える。
「今から神殿の広間の掃除でもしてろ」
王子の言葉を受け、僕はブラウン神官を見る。
「仰せのごとくに」と僕が言うと、ブラウン神官は顎で神殿の方を指した。
僕は黙って頭を下げ、歩き出した。
そのとき――
「レオナード……僕が……怖がりで……」
ミツルギが王子に抱きつき、震える声で訴えていた。
その姿を見ても、もう何も感じなかった。
自分の媚びた笑顔にも、慣れてしまった。
神殿へ向かう途中、前に助けた雑用係たちが通りかかった。
「あっ、あの!」と声をかけられる。
「ああ、あれからどうでした?」と僕が返す。
「治りました! 全然大丈夫!」
「ほんと助かったんだ。ありがとう」
三人は真剣な顔で頭を下げた。
僕は慌てて手を振る。
「内緒だから」
「でもさ……内緒のお礼、したいんだよ」
「外に出たりする?」
「休みの日、いつも何してるの?」
三人が口々に言うので、僕は少し考えてから言った。
「そしたら、町を案内してもらっていい? 行ったことがなくて」
三人は顔を見合わせ、うなずき合う。
「いいよ、お安いご用だ!」
「俺ら、町のことならなんでも知ってるしな!」
「休みはいつだ?」
「合わせるよ」と僕が答える。
「明後日だ。九時に門の外にいる。隠れてるから、外に出たら動かずじっとしてて」
「わかった。よろしく」
僕はにっこり笑った。
三人は一度振り返り、笑って手を振って去っていった。
その背中を見送りながら、僕は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
この世界で、初めて味方ができた。
その事実が、逃げ出す勇気をさらに強くしてくれた。
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