06 余分は意地悪される
06 余分は意地悪される。
僕は、ただ神子の後ろをついて歩いていた。
神子の訓練は、今日も順調なのだろうか?
魔法士の声が響く。
「素晴らしいです、神子様。そのまま的に投げつけて下さい!」
その言葉とは裏腹に水の塊は、地面に落ちた。
周囲から小さなどよめきが起きた。
「あぁ、少しお疲れのようですね」
魔法士がそう言うと、王子がすぐに反応した。
「そうだ、神子は頑張りすぎだ」
王子はミツルギの手を取る。
まるで壊れ物を扱うみたいに、やさしく、慎重に。
そのままテントへ連れていく。
僕は、その後ろを黙ってついていった。
テントの中で、ミツルギはお茶を飲みはじめた。
王子が思い出したように口を開く。
「そうだ。今日は神子のために菓子を焼くよう手配していたのだ。オオヤナギ、急いで取ってきてくれ」
「かしこまりました」
返事をして、僕はすぐに外へ出た。
足取りは軽くない。むしろ重かった。
背中に視線を感じる。
振り返らなくてもわかる。
「……ほんと、使えないなぁ」
小さな声だった。
王子には聞こえない。だけど、僕にははっきり届いた。
その直後、ミツルギは声色を変える。
「レオナード、僕のためにわざわざありがとうございます」
「菓子でそんな可愛い顔をしてくれるなら、いくらでも用意しよう」
「ありがとうございます」
そのやり取りを聞きながら、僕は歩いた。
振り返らない。振り返る必要もない。
あいつの顔は、見なくてもわかる。
前に菓子を取りに行ったときのことを思い出す。
あのときと、同じになるだろう。だが、他にやりようもない。
先ず、厨房に行った。
神子の居室に届けたと言われて、そこへ行く。
すると今度は、庭のあずまやだと言われる。
あずまやから訓練場に戻った。
やっと辿り着いた頃には、二人はすでにお茶を楽しんでいた。
そして王子に叱られる。
「ぐずぐずするな」
そのとき、ミツルギは僕を見た。
ほんの一瞬だけ。
王子には見えない角度で、笑っていた。
あぁ、わざとだ。
そう確信したのを、覚えている。
ふいに、背中に小石が当たった。
「ねぇ君って、神子様と一緒に来た余分なんだって?」
振り返ると、僕とお揃いの格好。神官見習いが立っていた。
「あぁ、そうだけど」
「神子様の優しさにつけこんで、そばをうろちょろしてるんだってね。僕だったら恥ずかしくてここにいられないけど」
言いたいことだけ言って、そいつは去っていった。
――そういう噂になっているのか。
驚きはなかった。
あいつのやり方だ。
優しさを使う。
自分を守るためにも、他人を追い詰めるためにも。
訓練場から神殿へ戻る途中、神官見習いが数人現れた。
「神子様を散々いじめたそうじゃないか」
その言葉のあと、いきなり殴られた。
避ける間もなかった。
そのまま引きずられて、植え込みの裏へ。
拳と足が降り注ぐ。
何発食らったのか、わからない。
途中で、意識が途切れた。
雨の冷たさで目が覚めた。
――生きてた。
最初に思ったのは、それだった。
それから、ぼんやり考える。
この体でも、ちゃんと痛いんだなって。
治癒は、自分にも使えるのか。
試しに、手を脇腹に当てる。
魔力を流す。
「あっ」
痛みが消えた。
足首も、膝も。
順番に治していく。
なんとか立てるようになって、僕は部屋に戻った。
傷を洗い流して、そのままベッドに倒れ込む。
そのまま、意識が沈んだ。
翌日。
ノックの音で目が覚めた。
けど、体が動かない。
ドアが開いて、ブラウン神官が入ってきた。
「その顔は……」
僕は何も言わなかった。
言えるわけがない。
神子の差金です、なんて。
ブラウン神官は頬に手を当てて、魔力を流した。
「これでいいでしょう。今日と明日は休んでいいです。それと……オオヤナギ、あなた給金はもらっていますか? 休みは?」
僕は首を振った。
「それは失礼しました。いくら余分でも働いているのですから、給金は出ます。二週間に一度支給されます。今までの分も渡すよう手配しましょう。休みは五日働いたら一日。申請すれば外出もできます。……つい忘れていて。では、食事はわたしが持ってきましょう」
そう言って、ブラウン神官は出ていった。
扉が閉まる。
静かになった部屋で、少しだけ息をつく。
その直後、扉がわずかに開いた。
ミツルギだった。
「……大丈夫?」
甘い声だった。
けど、僕が返事をする前に、あいつは中に入ってきた。
そして笑う。
王子には絶対に見せない顔で。
「ねぇ、ライト。どうしてそんなに殴られてるの?」
息が詰まる。
あいつはベッドの端に腰を下ろした。
「僕、何もしてないよ? ただかわいそうだなって言っただけ。みんな勝手に動くんだよね」
その声は、やさしい。
でも、冷たい。
刃みたいに。
「ねぇ、ライト。君ってさ……」
顔を覗き込まれる。
「どうしてそんなに、誰からも嫌われるんだろうね?」
心臓が、凍りついた。
「僕の顔を使ってるのに、君は本当に……みっともない」
あいつは立ち上がる。
扉に向かって歩きながら、振り返った。
「でも安心して。君がどれだけ惨めでも、僕は優しい神子様だからね」
にっこり笑う。
「君のこと、ちゃんと心配してるふりしてあげるよ」
扉が閉まった。
僕は、声も出せずに震えていた。
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