69 ハイタック王国へ
69 ハイタック王国へ
国境の町の浄化は、無事に終わった。
皆が躊躇なく瘴気へ斬りかかるたびに、ルークは内心でひやひやしていた。
怖い。本当に怖い。
だが、騎士たちも冒険者たちも平然としている。
むしろ、
「よし!」
「消えたぞ!」
と楽しそうですらある。
ルークは本当に理解できない。
理解できないが、結果として瘴気は浄化された。
ルークは気にしないと自分に言い聞かせる。
ギルドへ戻ると、待っていたのは明るい報告だった。
「海辺の町だ! あの瘴気だまりに撃ち込んだ木の実から芽が出たそうだ!」
ギルドの中がざわついた。
「本当か!」
別の冒険者も興奮した様子で続ける。
「浄化した場所で木の芽が出始めてる!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
ルークの肩から力が抜けた。
「あぁ……」
小さく息を吐く。
そして、「やっぱり……よかった」
ぽつりと呟いた。
隣にいたフェルナンドが聞き逃さなかった。
「何だ?」
自然な動作で肩を組んだ。
「予想していたのか?」
ルークは少し考えてからうなずいた。
「うん。なんとなく」
「なんとなく?」
「だから木の実を使ったんだ」
ルークは照れたように笑う。
「木の実はわざわざ使わなくても、石だけで良かったんだけど」
「そうか」
「あれが育つといいなって思ってたんだ」
フェルナンドはしばらくルークを見た。
それから、「なんか、お前すごいな」
と素直に言った。
ルークは困ったように首を振る。
「根拠もないから、すごくないですよ」
「結果が出ている」
「たまたまです」
「たまたまで芽が出るか」
「出たんだから、たまたまです」
フェルナンドは小さく笑った。
本当に自覚がない。
その後、浄化をやった地域では浄化した場所をこまめに巡回するように、通達を出した。
やがて一行はハイタック王国へ到着した。マーシャルと騎士団は騎馬で入城した。
彼らはそこに滞在する。
フェルナンドとルークは冒険者として、城ではなく、宿に入った。
翌日、アガペーナ騎士団とハイタックの騎士団が迎えるなか、冒険者が入城した。
神官長、ブラウン神官、マイル神官も並んでいた。
自由な服装の冒険者たちが、珍しそうにあたりを見ながら歩いて来る。
その中できりっとした軍服の二人もやって来る。
アガペーナの騎士団が礼を持って迎えた。
国王の名代としてこの場にいた侍従も、神官長も、神子――正式ではないか――がいないのに戸惑っている。
侍従は緊張した顔で周囲を見回している。
神子を探しているのだろう。アガペーナの騎士団長は助け舟を出さない。
映画の軍人モードのルークも正面を見て、視線を動かさない。
神官長も、二人の神官もおろおろと視線をさまよわせる。
当然だ。清らかな神官服を着た神子がいないのだ。
マイル神官は軍服を着た青年の髪がオオヤナギの髪色に似ているなとは思った。
「え……」思わず声が漏れる。
軍服姿の青年――背筋を伸ばして、前を見て動かない。どう見ても軍人だ。
だが、オオヤナギの面影が……顔は似ているが、印象は別人だ。
「ま、まさか……」マイル神官は呆然と呟く。
ルークが会釈した。
「こんにちは。おひさしぶりです」
「神子様……ですか?」
「違います。オオヤナギです。今はルークと名乗っております」
「オオヤナ……ルーク殿。お久しぶりです」
そこへ、気を取り直した侍従が割り込んだ。
「神子様。国王陛下がお待ちでございます。こんなに待たせて、すぐに謁見の間へ」
ルークの手を取って、走ろうとした。
フェルナンドが、その手をぴしゃりと叩く。
「勝手にさわるな。謁見などと冒険者をなんと思っておる」
(あれ? 僕はお宅の王に会ったけど)とルークは思ったが、黙ってフェルナンドを見ている。
「瘴気が民にも害を与えていると聞いてやって来た。王室は関係ない。すぐにでも貴国の騎士団と打ち合わせをして出発したいのだが」
フェルナンドがそう言うと、アガペーナの騎士団長が進み出た。
「既に、話し合いは進んでおります。詳しいことは、会議室で。すぐにご案内いたします。国王陛下とはマ―シャル王子殿下が、親しく話をしておられますので、おまかせしてよろしいかと」
更に、アガペーナの騎士団長は
「フェルナンド殿と瘴気の探索に長けた冒険者を加えて更なる話し合いを」
ここで、ハイタックの騎士団長が口を挟んだ。
「部屋にご案内いたしましょう。時間を無駄にできません」
ここで、冒険者は解散となった。
すぐにブラウン神官とマイル神官がルークのそばにやって来た。
「あの、オオヤ……ルーク殿。お願いが」ルークは二人にうなずいて、フェルナンドを見た。
すぐに赤毛のアンディがやって来て、「一緒に行くよ」と言った。
二人は打ち合わせていたのだと、ルークは悟ってフェルナンドに笑いかけると
「こちらのアンディと一緒でよろしければ」
「もちろんです」
こうしてルークは神殿で療養しているミツルギのもとへ向かった。




