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「神子の余分」と言われましたが、中身は最強の神子でした ~入れ替わり召喚で捨てられた僕が、木の実と石で世界を浄化するまで~  作者: 朝山 みどり
第四章

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67 マーシャルの暴走

 

  67 マーシャルの暴走



 ルークの一言で、こだわりは消えた。


「瘴気に国境はありませんから」


 その言葉を聞いた瞬間、それまで続いていた細かな議論が、嘘みたいに終わった。


 準備は早かった。


 騎士団では剣の確認と馬の準備が進む。


 冒険者ギルドでも、志願者たちが慌ただしく出入りしていた。


 その最中だった。


 ギルドの扉が勢いよく開く。


「報告!」


 息を切らした伝令が飛び込んで来た。


「国境近くの支部からです! 瘴気が確認されました!」


 ざわめきが止まり、フェルナンドの目が細くなる。


「場所は」


「街道沿いの森です。魔獣の強化も確認されたとのこと!」


 マーシャルがすぐに立ち上がった。


「準備済みの部隊と共に出る」


 迷いがない。


「先行する。時間が惜しい」


 フェルナンドが口を開くより早かった。


「待て」とフェルナンドが声をかける。


 だがマーシャルは止まらない。


「遅くなれば被害が増える。準備済みの騎士だけでも先に向かう」


 そして、ルークを見る。


「ルーク、お前は後から来い。まだ付与が終わってないだろ」


「明日一杯、明後日には出発できます」


「瘴気だまりを残すだけにしておく」


「それならフェルナンドさんも一緒に」


「必要ない」


 マーシャルにそう言われてルークはフェルナンドを見た。


 マーシャルは言い切った。


「先に足場を整える」


 フェルナンドの眉がわずかに寄る。


 止めようとして、ためらった。


 フェルナンドは功をあせるマーシャルの気持ちを理解する故に止められない。


 そのようにみて取ったルークは自分が言わなくては思った。


 だから、敢えてもう一言告げた。


「冒険者はスリングショットにまだ慣れていませんし、せめて一日練習してはどうですか? 石の効果は必要です」


「大丈夫だ。騎士団は充分に経験がある。冒険者は案内と荷物を頼みたい」


 ルークは、もう一度言おうと息を吸い込んだ。


 だが、「分かった」とフェルナンドが短く言った。



 マーシャルはすぐに騎士たちへ命令を飛ばした。


「出るぞ!」




 ほどなくして、騎士団は出発した。


 残ったものは、不安を隠せない。


 その時、騎士団長がフェルナンドへ向き直った。


「急いで準備して追いかけましょう」


 冷静な声だった。


「残りの準備が終わり次第、こちらも全員で向かいましょう」


「だが、マーシャルが」


 フェルナンドが言いかけるが、騎士団長は首を横に振った。


「もちろん、大丈夫と思います。我々の戦力は不要かと……ルーク殿を皆で護衛してお連れするという形で」


「お願いします。皆が一緒だと心強い」ルークはフェルナンドより先に答えて、


「マーシャル殿下は、少し焦っておいでです」と付け加えた。


 短い沈黙。フェルナンドがルークを見た。


「そうしよう、ルーク」


「はい」


 クリフたちを含む冒険者数人が同行を申し出た。


「荷運びくらいなら役に立つ」


「現場を知ってるやつも必要だろ」


 フェルナンドは短くうなずいた。


「頼む」


 すぐに、全員が動き出した。




 マーシャルたちは、森へ入っていた。


 空気が重く、体も重い。


 だが、マーシャルは足を止めない。


 後ろを歩く冒険者たちは、顔を見合わせていた。


 この町のギルドの冒険者たちだ。


「案内を頼む」と言われて同行しただけだった。


「殿下、石を使うように言われてますが……」


「必要ない」


 マーシャルは鋭く答えた。


 そして、全員に向かって


「魔獣ごときに負けるな」と叫んだ。


 冒険者は騎士団員の荷物を持たされている。


 荷物を押しつけられながら、冒険者たちは気配の異様さに顔をこわばらせていた。


 そして、それは、すぐに現実になった。


 低い唸り声。


 茂みが揺れる。


 飛び出して来た魔獣は、一目で異常だとわかった。


 赤黒く膨れ上がった筋肉に、濁った目。


「あれ、やばいぞ!」


 誰かが叫ぶ。


「前進!」とマーシャルの声。


 騎士たちが剣を抜き、突撃する。


「待て! 石が先じゃないのか?」


 冒険者が叫ぶが騎士団は止まらない。


 魔獣に切りかかって行く。硬くて、速い。そして重い。


 一頭が騎士を吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


 次の瞬間、別の騎士が噛みつかれる。


 隊列が崩れた。



 騎士たちは散り散りに逃げ始める。


 混乱と悲鳴と怒号。


 その中で、冒険者たちは顔を見合わせた。


「くそっ!」


 ひとりが袋を開いて、石をつかんだ。


「撃て!」


 慣れないスリングショットではもたつく。


 だから、投げつけた。


 魔獣の足が止まる。


「効いてるぞ!」石が飛ぶ。


 矢が刺さる。ようやく動きが鈍る。


 その隙に後退した。


「戻るぞ!」


「騎士も回収してやれ!」


「死ぬぞ馬鹿!」


 怒鳴りながら、冒険者たちは壊滅寸前の騎士団を引きずるように撤退した。



 マーシャルたちは逃げ帰ってきた。


 ギルドマスターが詰め寄った。


「どういうことだ!」怒声だった。


「討伐の経験があるのだろう!冒険者に何も説明しなかっただと!?」


 マーシャルもイライラと言い返した。


「騎士団なら、いきなり切りかかっても大丈夫だと思った!」


「大丈夫!? 先に逃げ出しただろう!」


 マーシャルはふてくされて返事をしない。



 その時、扉が開いた。


「どうなった?」続いて、冒険者が数人入って来る。


 全員が振り向く。


 そこにいたのは、フェルナンドだった。


 後ろには、ルークと冒険者たち。


 マーシャルとギルドマスターを見て事態を把握したようだった。


 ルークはすぐに怪我人に治療を始めた。



 事情を聞き終えたフェルナンドは、静かにマーシャルを見た。


 そして、「なんてことをしたんだ。初めてじゃないだろう。基本を守らないとは」


 空気が震えた。


「瘴気を舐めたのか」マーシャルが顔をしかめる。


「大丈夫だと思ったのだ」


「黙れ!」


 治療に集中していたルークでさえ、振り向いた。


 フェルナンドが、あそこまで声を荒げるのを初めて聞いた。



「時間がないが、大急ぎでスリングショットの練習をする」


「はい、覚えます。石を投げて逃げて来ました。あれは頼りになります」


「そうだな」


 フェルナンドと一緒に来た冒険者と騎士団が動き出した。


 それだけで、不思議と空気が落ち着いていく。


 空回りしていたやる気が落ち着いて来た。



 現場がようやく戦う形になった。


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