65 理解した フェルナンド目線
65 理解した フェルナンド目線
ルークの背中に、追いついた。
さっきまで、あれだけ人に囲まれていたのに。
今は静かで落ち着いている。
廊下に響く靴音だけが、やけに耳につく。
なんて話しかければいい。
そんなことで迷うとは思わなかった。
戦場なら迷わない。
命令を出して、斬って、守ればいい。
だが、ルーク相手だと、どうにも調子が狂う。
守りたい。
そう思って囲い込んだ。
逃がさないように、手を伸ばした。
なのに、逃げられた。
何が足りなかった。
そう考えて、わずかに眉を寄せた、その時だった。
ルークが、くるりと振り返る。
少しだけ肩をすくめた。
軍服姿のせいか、その仕草だけで妙に目を引く。
「どうだった? 敬礼、やり過ぎだった?」
その顔は明るかった。
さっきまで、不機嫌そうに立っていた男と、同じとは思えない。
その瞬間、妙に腑に落ちた。
あぁ、そうか。
正解は、これか。
守るとか、囲うとか。
閉じ込めるとか。
そんなものじゃない。
普通に笑えばいい。
隣にいればいい。
たったそれだけで、こいつはちゃんと近づいてくる。
気づけば、俺は笑っていた。
「うん。なかなか格好良かった」
「本当?」
「本当だ。あれは真似する奴が出るぞ」
「そうかな」
ルークが半信半疑みたいに首をかしげる。
「絶対出る。あの敬礼、騎士団で流行るかもしれないな」
「えぇ……」
露骨に嫌そうな顔をする。
「やめてくださいよ。責任とれません」
「お前が始めたんだろう」
「映画の真似しただけなのに」
ぶつぶつ言いながら歩く姿が、いつものルークで、妙に安心する。
さっきまでの空気が嘘みたいだった。
自分のかっこよさも、美しさも、自覚がない。
王の前でも変わらなかった。誰にも媚びない。
本当に強い。
なのに、本人は自分を弱いと思っている。
不思議な男だ。
「おっと」
ルークが立ち止まり、左右を見回した。
「馬車、どっちだったっけ」
思わず吹き出しそうになる。
「お前な……」
「いや、格好つけて出てきたのはいいけど、迷子になったら最悪だなって」
へらっと笑って続ける。
「目も当てられないよね。フェルナンドがいてくれて良かった」
無防備だ。
こっちは、その笑顔一つで心臓を掴まれているというのに。
「こっちだ」
それだけ言って歩き出す。
ルークが素直についてくる。
「迷子になったら、泣けばいいさ」
わざと軽く言うと、
「ひどいなぁ」
ルークが笑った。
「泣いたら迎えに来てくれます?」
「行く。泣き止むように菓子を持っていく」
ルークが、一瞬だけ目を丸くする。
それから、ふっと笑った。
「馬鹿にされてるような」
「大事にしてるんだよ」
「ありがとう?」
「ありがとうだ」
また、ルークが笑う。
それだけで、胸の奥の力が抜けていく。
俺は、ずっと勘違いしていたのかもしれない。
守らなければと焦って、囲い込んで、逃げ道を塞いだ。
そうしなければ、いなくなると思っていた。
でも違った。
俺が少し力を抜けば、こいつは自分から隣に来る。
寄り添ってくる。
それを知れただけでも、今日は悪くなかった。
俺は隣を歩くルークを見る。
軍服姿で格好良いのに、のんきに周囲を見回している。
その横顔を見ていると、自然と口元が緩んだ。
「どうしました?」
「いや」
短く返す。
「お前、やっぱり軍服似合うな。ずっとそれでいろ」
「いやですよ」
「そうか。では時々な」
「なに決めてるんですか」
口では文句を言いながら、ルークは楽しそうだった。
だったら、今はそれでいい。
隣で笑っていてくれるなら。
俺を見ていてくれるなら、それで十分だ。




